本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(29)大食いしよう!④

 ケイトが耳を手で塞ぐ。塞いでも聴こえる声に頭の中がぐるぐるして目眩がした。固く目を閉じて床にしゃがみこむ。話している内容は分からないけれど二人(主に小柄な方)の騒がしい声が聴こえ続けては心の中や耳の奥で乱反射して細かい傷が出来ている気がした。


「……さん」
 
 知ってる声がした。
 ジョルジオの声が聴こえる。

「……さん!」


 もう放っておいて欲しい。
 
「………………ケイトさん」

 はっきりと。あの二人の声をかき消して、真っ直ぐに耳に届く。

「ケイト!!」
 
 頭の上から降ってくる声と同時に肩に手を置かれた。

「大丈夫ですか!?」

 大丈夫だし大丈夫じゃない。けれどこれは言えない事だからケイトは答えなかった。 

「ああ、あの変なものは消してしまいたいんですけど。いいですよね?」

 変なもの?

 ジョルジオの言葉と同時にパチンと音がした。
 はっとして、ケイトはつい顔を上げてしまった。完全に顔を上げきる前に視界に映ったのは辺り一面の灰色の霧と一緒に消えて行った本物勇者達の姿だった。

「………………………………あ」

 ただの白い空間。ケイトの視線の先ほ始まりも終わりも境界線の無い世界だった。

 呆然と呟いたケイトの肩を掴んでいた手は離れる。それに気付く間もなく背中に手が回っていた。抱きしめらたと即座に分かったが感情の理解が追いつかなくて戸惑った。


「………………ジョルジオ君?」
「………すみませんケイトさん。俺のせいです」
「何が」
「本当にすみません」


「今のは忘れて下さい」
 


「…ケイトさん?」

 ジョルジオに名を呼ばれケイトが我に返る。テーブルの向こうにはジョルジオがちゃんといる。
「何?何かした?」
 ジョルジオの顔から下に目線を下げると空っぽの皿が見えた。
 はっとして戦慄する。 

 ―――――――完食してた!
 いつの間に。一口で食べたとでも言うのか。


「大丈夫ですか?ぼーっとしてましたよ、悪酔いしたんじゃないですか」
「だから酔っているのはジョルジオ君、君」
「お腹いっぱいで眠くなってるんじゃないですか?」
「だ、大丈夫。俺はね、実は完食出来ない悔しさを味わいにも来たんだ」
「…はい?」
「あ、な、何でもない、うん、大丈夫」
「……………」
 ジョルジオがコップに入った水を飲む。
「ケイトさん、俺ちょっと席外しますね」
「あ、うん」
「いいですか、知らない人に声掛けられても返事しちゃ駄目ですよ」
「そんな人いないから」
「(その外見に似合わない)その極盛りメニューだけで目立ちますから(虫除けの俺がいなくなったら)絶対誰か彼かは来るでしょう。心配だなー」
「子供扱いしないでくれないかな。俺大人だし。会社員だよ」
 失礼な!と少しだけむっとしたケイトにジョルジオが何とも言えない表情をした。
 以前、さり気なく調べて判った事だが、ケイトはきちんとしたスーツを着てても社会人と見てもらえない為、内勤業務に回されたのだと言う。

「……じゃ、ちょっとだけ。すぐ戻ります、ホントにすぐ戻りますから、知らない人について行っちゃ駄目ですからね、詐欺ですからね」
「いいから行っといで」
 ああ、と思い出してケイトが席から立ち上がったジョルジオに声を掛けた。

「足元に気を付けてね」
「酔ってませんから」 

 さり気なくケイトの表情を確認してジョルジオはテーブルから離れた。
 離れた時には色んな意味で心配で後ろ髪を引かれっばなしだった。

「………………心配だ」
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