本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(34)惚れ薬売ってます③〜クーポン券から始まる不幸って〜

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『アレは不幸とは関係なくクーポンはちゃんと使えますから~どうぞ店舗に足を運んで下さいませ。ネット販売では使えませんだそうです。目移りして沢山お金を落として下さいませ~。あと、プライベートブランドで出している普通の物よりタウリン10倍カフェイン20倍の栄養剤を購入すると特典があるとかとか~』

 薬局の回し者なのかな?
 
 やたら詳しく説明してくるわ、セールスしてくるわ。
 先程までのやり取りを思い出し、少しの頭痛を感じながらケイトは冬の空の下、歩道を歩く。
 吐く息は白い。と言ってもケイトはマフラーで口まで覆っての出で立ちなので息が漏れる事はないが。
 季節は冬真っ只中。
 冬だから自転車もお休み。自転車用冬タイヤなる物も存在するらしいが、自分の場合、うっかり何かやらかしそうで怖いので止めておいている。つるーーーっと滑って、どこまでも滑って行きそうだ。止まった先があの世でもおかしくない。それくらい自分がそそっかしい自覚がある。
 運動不足解消も兼ねているんだよと、自分に励まし無心で歩く。

 冬は苦手だ。
 冬が好きだという人の気持ちが分からない。
 かと言って夏。~~~夏?

 この星は1つの太陽の周りを回っており、この星の周りを二つの月が回っている。
 太陽と二つある月とが絶妙な距離感で追いかけ合っている空の上。時の流れを止められるはずもなく、止まらないから季節の歩みはどんどん進む。特に晩秋ともなれば、あっという間に日が暮れて白銀の凍える世界へと一気に加速してしまう気がしてた。

 でも今年の冬は暖冬だと長期天候予想が発表されていた。去年もだった。今にして思えば去年も今年も気候変動のせいではなく、魔王が関係していたらしい。
 今では多岐に渡る発電方法によって電気が生み出され電化製品が普及した為に、魔法に関する事は権勢を失ってしまったが、大陸魔法委員会の発表によると来冬は例年通りに戻るらしい。と、言う事は魔王問題が片付く公算だという事だ。
 ならば勇者ディオルはとうとう過去に行ってしまうのだろう。

 先日会った時に春から大学に復学すると言っていた。そうだ、彼は大学生だったのだ。
 何だかんだでずっと一緒だったし、何か俺よりも落ち着いていると言うかしっかりしてるというかだから、すっかり忘れていた。


 てくてくと雪の結晶一つも見当たらない歩道を歩いていたケイトが目的地の店舗の自動ドアを抜けて入店する。
 暖房の利いた店内の暖かさに頬を緩めた。


 "一服盛った薬局"
 正式名:グリムドラッグ。
 店の名称など気にしない人々から見て正式名にした所で危険な感じは変わらないこの店は、国内はもとより大陸中に数多くあるドラッグストアチェーンでケイトが住む王国に本社がある。本社は超高層ビルで、建物の高さがまるで経済界での権勢の証しかのように、他の企業に競うみたいに立っていた。


 書店員魔族(ケイトは魔族だと知らない)に貰ったクーポン券は店内全ての商品が3割引だった。これに例の怪しいドリンク剤を2本購入すると半額なるという話だ。薬局がどれだけそのドリンク剤に力を入れているかが分かる。
 王国でも化学薬品が浸透しているが、それでも人々は未だに薬草を使用した薬を好んだ。身体に優しく個人の体質に合った量の調合と相談者に寄り添う姿勢の薬剤師がまだまだ絶大な私事を得ているからだ。お気に入りの薬剤師の所へ人々は通う。それに冒険者ギルドから派生した薬草農協も全国津々浦々にあり、雇用も多いく生活に密着している為に切っても切れない関係があった。
 グリムドラッグを所有するグリムリーパー財閥ではもうおよそ百年近くも化学薬品による製剤に力を入れている。高度な治癒魔法を使える人間が大陸中をして一握りの少数となった今、緊急を要する場面などでは化学薬品の有用性こそが重要だと考えていた。
 何はともあれ認知度を上げなくてはならない。薬品売り場をみれば薬草使用の薬と化学薬品使用の薬とでは雲泥の差がある。試してもらって知らしめねばならない。
 クーポン券は施策の一環で、一つの施策が一通り回る頃にまた違う商品でチェーンメールを送る。薬剤師も親切親身な事を知って貰うのだ。
 それにしても誰があの素敵なお得なキャンペーンを不幸のクーポン券と言い始めたのか。今なら超絶お得な2本買うと1本付いてくるし、次回買う時も割引で買えるし、大体初回購入時にその時の買い物カゴの中が全て半額になるという絶賛大出血サービス鼻血セール中だと言うのに!解せん!
 …………と、グリムドラッグの従業員のほぼ全員が首をひねっていた。



 不幸だと言われると早く厄払いしたい。

 ケイトが目的もなく店内を歩く。取り敢えず買い物をして自分の分のクーポン券を使ってしまえばいい。使ってしまえば"使用済み"のスタンプが表示される。このデジタルクーポン券に関しては色んな人達がコメントをしていて、特に多かったのが『送らないと不幸は残るけれど使ってしまえばブロックされる』という消化し辛いものだった。
 
 結局残るのか!誰かに送信は強要か!
 
 送り主に返す事は出来ないらしい。あの書店員に倍返しで返送したい。………無理なんだな。
 残念だが、少数のコメントに『呪いを解く事が出来る薬剤師さんがいるという都市伝説あり』というのを見つけた。

 は!?都市伝説!?

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