本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(38)惚れ薬売ってます⑦〜クーポン券から始まる不幸って〜

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 ふよふよ頭上近くに浮遊する魂を戻してケイトに向き直る。
「……で、そのメールはどうするつもりで?」
「え?どうもしないよ」
「……どうもしない、とは」
「不幸はブロックされるんだって聞いたから、それでー」
「それも都市伝説でしょう?」
「単なる噂だよ。昇格させないで」
 なんて呑気なんだ。て言うか伝説とは噂なんだけどなぁ。
 どこまでも脳天気な答えのケイトにジョルジオが頭痛を覚える。
「…………俺が何とかしますから俺に送って下さい」
「だめだよ」
 あっさり拒否された。
「俺の所から次の人の所に行くとブロックしなくなるんだって。ジョルジオ君、まだサポートの仕事あるんだろ?そんな人に不幸メール、送れないよ」

 今より不幸はありません!

 叫びたいのを堪え、ケイトを見つめた。ちょっとジト目になっているかも知れない。
 いや、待て。
 ちょっと考えれば魔王討伐の後始末が終わればケイトが頼ってくれるかも知れないという事だ。 
 が。
 ジョルジオの希望で何とかなるものでもなかった。全てはケイト次第。
 
 神様、俺の為にも早く速く疾く平和な世界になりますように。
 
 普段、信心深くもないくせにジョルジオは神様に祈った。会いに来て直接言えばよかろう!とジョルジオには偉そうな神様の姿が脳裏をよぎる。急に虚しくなって後始末を自分に押し付けてさっさといなくなった恨めしい元当代勇者を思った。あの方、今何よりしてんだろ。

 彼はまだ討伐許可が下りてなかった頃、魔王城に仕方無く日参しては仕方無く魔王の見張りをしていた。見張りなどしなくても良いのに居座った。許可が出次第、サクッと終わらせていなくなる腹積もりだったのだろう事は知っていたが。真実を知らない周りから見れば、あの容貌も相まって、真剣に取り組んでいると映っていただろう。
 しかしジョルジオは知っている。
 建前上見張りと称しているだけなので、つまらな過ぎて勇者が魔王をからかって遊んでいた事を。
 
 魔王は縦軸世界のエネルギーバランスが崩れた時にひょっこり生まれる。名義的に縦と称するが各界同士に上下はなく、前後もない。対立していると言われている天界と魔界そして人間界とを、その更に上の次元である神界が監視調整しており、独自の計算式で予想し算出した結果、過剰となったエネルギーが魔王となる。過剰エネルギーの産出先は主に人間界である。
 例え滅ぼされる宿命の不憫な存在であっても、在位時間が短ろうとも魔王は魔族の主だった。

 そんな不憫な魔王をもっと不憫にさせる、勇者様は酷かった。過去の時間に行けないのは魔王のせいじゃないのに、完全に八つ当たりだ。

 とジョルジオは思っている。絶対言えなかったけれど(言ったら無茶難題不機嫌地獄コースが即座に用意されそうで怖かった)。


「とにかく、じゃあ都市伝説は都市伝説のままにしておいて下さい。検証は駄目です。メールも俺が動ける様になったら送って下さい。それならいいでしょう?」
「いや、よくない…………」
「お願いですから」
 ずずいっとテーブルをはさんで身を乗り出してきたジョルジオにケイトが急に焦る。とっさに彷徨わせた視線の先にこちらをチラチラ伺う女子たちの眼差しがあった。

 あ、ジョルジオ君を見てる。

 不意に悟った。
 この期に及んで分からない程、ケイトは鈍感なつもりはない。そうだった、ジョルジオは普通に美男なのだ。自分にとっては大型犬ぽい弟分みたいで、顔立ちが整っている割には自己主張の激しくない雰囲気をしているから忘れがちであったけれど。

 世の中のお嬢さん達の反応はこれが普通なのだった。そうだ、魔王討伐が無事に終われば何の憂いも無く自分の事を好きだと言ってくれる女の子と過ごせるじゃないか。その前に、もうそろそろ大学に復学するのだろうし、そしたら普通の大学生の生活が戻る訳だから。

 ケイトの脳内には大学生生活を楽しむ人達の様子が流れた。何か皆、楽しそうだった。そりゃそうだろう、憧れの待ちに待ったキャンパスライフが帰ってきたのだ。

「……………ジョルジオ君」
「はい?」
「魔王討伐の残務処理が終わったら好きな人と普通にこういう店に来れるね」
「はいぃぃい??」
 咄嗟に赤面しそうになって慌てたせいでジョルジオの返事は妙な音程が付いた。
「もう我慢しなくても身の危険はなくなるしね」
「我慢て」
「彼女作ったりとか」
「……………………………………………………………………………」
 ケイトの言葉を聞いた瞬間、ジョルジオの思考がピタッと停止する。ついでに背後の風景も聴こえないが、どーんと音を立てて真っ黒になった。
 
 ど。

 ――――――どうして?????

「仕事が終わったら復学するだろう?」
「…………」
「君の事が好きだったんだけど告白しないでしまった女の子が絶対いるはずなんだ。きっとその子が来るよ」
「…………」
「もう遠慮しなくて済むから、俺の所に来なくてもへい…」
「言ってる意味が分からないんですけど」
 ジョルジオがケイトの言葉を途中で遮った。
「言葉通りの意味だよ。休学したのは魔王のせいだけど大学の友達とかには理由がバレたらいけなかったんだろ?俺は会社員だし、そういう理由がバレてても俺が黙っていれば良かったもんね」
「……………」
 
 ずっとそう思ってたんだろうか、もしかして。だから俺に付き合ってたってでも言いたいのだろうか。

 そう思ったらジョルジオは無性にイラッとした。勢いでカフェオレボウルの持ち手を折る所だった。
 危ない。イラッとしたが、顔に出してはいけない。

「………………友達にバレたら駄目なのは本当でしたけど……ケイトさんの所にお邪魔し続けたのは、それのせいじゃなくて」
「もう隠し事が無いから、心置きなく元に戻れるよ。良かったね」

 良かったね。

 ジョルジオがケイトの言葉を反芻する。
 良かったね?何が良かったね?自分のところに無理して来なくても良くなって良かったね?不便さを我慢しなくても良くなって良かったね?ここで線引きされる事が良かったね?もう関係無くなるよねって言われたのが良かったね?

 いつもなら『ああ相手にされてないなぁ、どうやったら意識して貰えるかなぁ』とかトホホな気分になるだけだった。なのに今日の自分にはケイトの言葉が刺さった。
 怒りと同じ質量で心の中が一気に冷える。凍えた何かが渦を巻くのが見えそうな気がした。
 けれど。

「……………そうですね。隠し事はなくなりますからね」

 隠し事なら自分も貴方にしているけれど。
 それとは別に今日はこの苛つく気持ちが収まらない。

「すみません、用事を思い出したので帰って良いですか?」
「え、あ、うん、御免ね」

 何に対して謝っているのか。
 
 ジョルジオは心の中のトゲトゲした気持ちに翻弄される。いつもなら制御出来てるのに今日は変だ。
 でもいきなり大きな声を出したり、ムッとした感情を出さずに済んだはず。あとはこれ以上一緒にいるとボロが出そうたから今日は退く。

「じゃ、また」
「うん、またね」

 手をひらひらさせるケイトに軽く会釈してジョルジオは店を出た。

 出てしまった。こんな別れ方をしたら。

 絶対、後で後悔する。
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