本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(36)惚れ薬売ってます⑤〜クーポン券から始まる不幸って〜

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「………………は?」

 至近距離の見上げる形で従業員が横に立つ。
 長い前髪が目元を隠しているけれど、近くでみれば分かってしまう顔立ちの良さ。遠くから見ていた時は貧弱そうと思っていたが、骨格が大きく骨太そうなのが制服越しでも分かってしまった。
 男が爽やか笑顔で瓶を1本取る。
「贈り物ですか?」
「は、いや、その」
「意外と人気あるんですよ、これ。この時期良く売れます。昔いらっしゃった神子様のお陰でプレゼント文化が根付きましてね、ご存知かと思いますが」
「………………」
「一時期はプレゼントの金額で愛の大きさを競うなんてのも流行ったらしいですが、やはり気持ちの問題ですよね」
 今すぐこの場から立ち去りたい。
 そんなんじゃない。
「この商品は普段使いにもお奨めですが」
 ブラック企業内社畜様にと言ってる他に?
「夜の生活にもお奨めです。なので……アレ?」

 従業員が鼻高々に説明してる隙にケイトは猛ダッシュでその場を去った。
 いや、否、言いたい事は分かる。一応子供じゃない、子供じゃないんだ、ないんだけどっ。分かるけど時と場所を選ばんかいっ。



 この日ケイトは薬局での買い物をやめた。


******

 何だあの店員はっっ!!!?

 思ってもみない発言内容にケイトは超速攻足早で店舗から出て来てしまった。
 年齢的には恥ずかしいんじゃない。いや、やっぱり恥ずかしいんだと思う。
 ………………笑われるかも知れないけれど、その手の話題に免疫がない。
 ………………いや、免疫は少ないと思う。そうそう、無いんじゃなくて、少ないんだ、少ない方なんだ。……………それだって無いに等しいくらいの免疫力だけど。
 誰に言い訳するでなく、独りで心の中でぐるぐる呟く。呟いて、はっとする。

 まさかあの店員、お客さん全部にああやって勧めているんじゃ……。

「………………」

 何て言うか、もう。

 嘆息して思い付く言葉が見当たらないままに歩いていると上着のポケットから振動が伝わってきた。個人通信機―――スマートフォンと同類の通信機が着信を伝えてきたのだった。着信音が鳴っても気付かない事が多いが、この機能にしても気付かない事が多い方が多い。なので一応細めに角にしているケイトだったが、今の着信はすぐに分かった。

 誰だろ。

 ポケットから取りだし画面を見る。黒い画面に大きな文字で緊急速報とある。発信元は政府であり、首相となっていた。タップして次の画面を促す。
 その内容にケイトは大きく目を見開いた。

 "勇者、魔王討伐完了宣言"
 "国王及び政府はこの報告を速やかに了承し、ここに魔王との戦いを終了した事を全国民、そして大陸中における全ての国々にも発信する旨を報告するものとする"


 通信機を持つ手が震えた。
 街頭が照らす歩道に立ち尽くし、時折寒風がぶつかっては頬をなぶり、髪の毛が滅茶苦茶となって視界を遮っても、見えにくくなった画面からケイトの視線は離れない。

 ただ、立ち尽くしたまま。

 

 その後で。
 我に返った一瞬に、自分が自宅にいた事に少し驚いた。いつもなら、もっと独り騒がしいリアクションを勝手に繰り広げているのに、今は何もかもが億劫だった。

 ふと思ったのは、自宅への帰途の風景を覚えていない事だった。


 ******


 テレビをつけた。
 どのチャンネルも、インターネットに切り替えてみても、どこも同じ話題一色だ。
 自国の国王の記者会見、首相の記者会見や各国の首脳らの記者会見や街の様子、各界の著名人らのインタビューの映像、コメントを紹介したり、今後のスケジュール予想と急遽特別番組が編成されて呼び出されたコメンテーター陣による感想やら何やら。
 知った顔して事の顛末を喋りまくる。
 増え始めた魔獣から魔王が生まれる兆しを数字から説明する者、預言者だの占い師だのにこぞってメディアが食い付いていた。

 時刻はもう深夜となり、だるくて動きたくなかった。スーツも着たままでだった。そうだ、会社名帰りたったのだ。今更だが取り敢えずスーツは脱いで、いつものスウェットの上下に着替えてソファに横になった。

 見もしないし、聞きもしないのにテレビをつけたのは、単に習慣化してるだけと、あと、人の声があると何となく安心するからだった。
 けれども今日は、ただの雑音でしかない。
 なのに消そうとは思わなかった。
 

 深夜だと言うのに首相が記者会見をするというニュースが速報で流れた。ぴくりと意識が向いたのは、王城の城門前にいる現地リポーターが発した一言だった。
 耳に飛び込んできた"勇者"という単語に釣られ、つい視線を向ける。ほどなくして映像が切り替わり、首相官邸となった昔の離宮の一つが映し出された。かつての国王が寵姫の為に建設した建物は、その寵姫の性格が控え目だったのを反映してか、華美ではないものの、気品高い室内装飾がなされている。その離宮の一室が対マスコミ用の記者会見場となっていた。
 ケイトは虚ろな気持ちで映像を見つめる。

 首相が話す。
 ケイトはぼんやりしながらも、自分にとって必要な部分だけは反応していた。
 まとめると、勇者は先刻の討伐完了宣言をもって一般人に戻る事。一般人となっても、まだ力を有するが、決して武力を行使せず、また、どの国にも与しない事。一般人となったのだからプライベートはより一層守られるべき事、戦勝記念と聖剣返還の儀式の為の礼典は行わない事。尚、これに関してはもう一人の影の立役者であろう次席が代理で行ってもらえるように打診中であり、委細は決定次第報告する事、等。

 代理というか、ジョルジオの繰り上がり当選は決定している。
 だって勇者は多分、もうこの時代にはいないのだから。
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