僕の白い結婚がグレーな感じになった時

高島静貴( しずたか)

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04. つい先日知ったばかりなんですが…。4

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 これは撤退すべし。

 まだ負っていない傷を思うよりも、シーヴァルトが落とし所を思案し始めた。こっちの方が建設的だ。

「身の振り方って何をするつもりだ」
「うん。まずは別のグループに入ってみようかなーとか、あとはシーヴァルトだけ婚約者が出来て悔しいから僕も婚約者になってくれそうな人を作ろうかなんて」
「待て待て待て。ちょっと待て今すぐ待て、何だ何で一足飛びに婚約者作りになるんだ」
「多分相当出遅れてるからね、募集掛けて先着順で即決するつもりだよ」
「先着一位なら誰でもいいのか、それは」
「完全なるフリーオンリーです」
「仮想敵でもいたら駄目か」
「仮想敵って何」

 とにかく婚約者などいないし、予定もないし家もその事を了承済みだから、お前は余計な気を回すな!と言ってシーヴァルトはノアンにこの話題を切り上げさせた。
 何て言うか、恐ろしい。
 『募集をかける』とは何をしでかすつもりなのか。貴族社会で結婚相手の募集をするとか、そんな事をするのは残念な王子王女や何歳になっても夢見がちな、やっぱり残念な王くらいだろう。と言うか普通いないから!

 頭痛がする。
 シーヴァルトは額を押さえた。
 計画を聞いておいて良かった。



「白い結婚だもんな」
 それなのに、わざわざプロポーズして、プロポーズする為に長年に渡って演技に磨きを掛けてたなんて、健気で泣きたくなる。そんなに尽くしてくれなくても別にいいのに。

「………………喉乾いたな…」
 ノアンが呟くとハッとしてシーヴァルトががばっ!と身を起こした。尚、手は繋がれたままである。
「ノアン!」
「喉乾いたしトイレにも行きたいんだけど…」
「!そうか分った今すぐ…」
 今すぐ繋いでいた手は離れたが、その手はノアンの額に着地した。
「熱は無いな?他に不調は」
 ノアンは首を横に振った。
「待て今すぐ用意してくる!いいか動くなよ!」
 言うが早いかシーヴァルトが学院トップクラスの俊足で部屋から出て行った。普段なら叱られ非難される恥ずべき貴族紳士の振る舞いである。
 ちなみにトップクラスの中にはノアンもいる。ただし条件付きのトップ入りで条件とは逃げ足であった。シーヴァルトと行動を共にしている事の多いノアンだが、それでも何かしら問題を起こしていた。シーヴァルトは捕獲要員で鍛えられたクチであった。
「……………やっぱり逃走防止か……」
 逃走したってお前は僕を必ず捕まえるじゃないか。
 短く嘆息した。
 大体、さっきまで繋いでいた温々の手の平で熱測ったって熱があるかどうかなんて分かりっこないよね、馬鹿だなシーヴァルト。

「…………」
 優しいシーヴァルト。
 肩書きが変わってしまった今の君のその態度は政略婚約者に当てたものなのか、それともまだかろうじて幼馴染みで親友だった人間に当てたものなのか。
 優しいけれど、その優しさはこれからはもう上辺だけのものになるのだろう。
 僕達はもう以前のようにならない。
 いつかのシーヴァルトの発言が思い出されて心の中に白波が立った。

 これからは政略結婚相手という乾いた関係になっていくのだ。

 だったら、公爵家で伯爵家での足りない部分の教育を受ける為に長期滞在させられていたにしても、シーヴァルトとこんなにも仲が良くなりたくなかったな。

 ノアンは切なくなった。

 ―――自領の伯爵家へ戻ったノアンはシーヴァルトに手紙を送った。
 改めて倒れてしまった時の介抱に対するお礼と迷惑を掛けた事への謝罪。でも一番の手紙のメインは『これからは政略結婚の婚約者として振る舞います』という内容だった。
 
 親友友人として振る舞うのはもうやめます。
 ハッキリ言って無いけど、伝わるよね。


「なあノアン」
「何でしょう何かご用でしょうか公子様」
「まずその公子様ってやめないか」
「公子様は公子様です。僕は分を弁えているつもりですが、それが何か。あと、ノアンではなくノアンゼルとちゃんとした名前をお使い下さい、愛称を使う程の親密度は返上したはずです」
「ノアン!」
「でなければ家名でお呼び下さい」
「いつ返上したって!?何でそこまでへりくだる?!」
「ご要件の向きをお聞きします」
 シーヴァルトはつんつんつんつーん仕様のノアンに頭を抱えた。
 すぐに分かった。
 これは以前に懸念したブーメランで返ってきた自分の発言が原因の態度だ。まさかこんな早くに返ってくると思わなかった。泣きたい。
 しかも想定したものと大幅に違っていた。おかしい、『前にそう言ってたよね?』と言われるはずだったのに違ってた。口惜しい。
 
 呼ばれて仕方無く立ち止まり、仕方無く振り向いて、仕方無く挨拶の礼を取る。
 仕方無くの一連の動作であったが、ちゃんと出来ててノアンは僕って天才などと自画自賛していた。テンションが地面に突っ込んでいるので何とか自分を鼓舞してないとやってられない。だが、天才の元は公爵家の教育の賜物であったのだか、そこはちょっと無視しておいた。
 
 シーヴァルトは政略結婚の相手となった自分に変わらない態度を取り続けていた。でもそれは友人としての領分だったはず。肩書きが変わったのなら領分も変わったはずなのだ。ノアンに言わせれば分を弁えていないのはシーヴァルトになる。
 だから変わらない態度が本心の奥底では嬉しいと感じているものの、そこは切り離し、分を実地にて分からせている所であった。

 夏でも冬でも魔術によって空調が効いてる学院内はいつでも快適温度を保っている。
 なのに二人の近くにいる学生達には寒風が吹き荒び、見た事のない真冬の荒れ狂う海の幻覚を感じさせた。かと思えば、一方から真夏の熱風が吹き荒れ、見たはずのない乾燥し切った砂漠が砂塵を巻き上げて移動していく風景が映り、両者がぶつかって稲妻がびしばし発生している。……幻覚に襲われてた。慄く周囲の学生達には避難警報が発令されていた。

「ノアン、いい加減機嫌を直してくれ」
「機嫌を直す?何でしょう、酷い言い掛かりです。僕は普通です」
「それのどこが普通なんだ……」
「細かい事情は知りませんが高度な政治的取り引きでの関係と相成りましたので僕はそれに準じているだけですよ」
「ノアン!頼むから!」
「ただ呼び止めただけでしたら僕にとっては妨害でしかありません」
 そちらがプライベートに関して不干渉を希望するのなら、こちらも同じ措置を取るだけだ。やましい事は一切しないから放置しておいて欲しい。これから人間関係を再構築させねばならないから忙しいのだ。
 公爵家関連は把握済みだから、あとは都度アップデートさせて行けば良いはず。今の所シーヴァルトとは以前みたいには行かないけれど、派閥の人間がやり難くない程度にはしておくつもりだ。

 向かい合う事しばし。
 半眼となっているノアンと少し目を眇めているシーヴァルトと。

 二人の間には大地を切り裂いた溝が深ーく深ーく横たわる。
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