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原作開始前:強化編
48:面接って双方緊張するよね
しおりを挟む「こそーっと待合室? みたいの見て来たけど、滅茶苦茶人いなかったセルザっち? 今日来てくれたの4組で、代表者だけ来てくださいねっていう話じゃなかったの?」
「ギルド長と呼んでくださいね、ティアラちゃん。人の眼もありますから。……おそらくですが普通に書類が読めなかったんだと思いますよ。『今日この場所に、何時までに来てください』という文字列だけを強く意識してしまって、その後ろに書いてある『代表者だけ』という文字が見えなかったのかと。」
あー。そういう。
じゃあティアラちゃん悪く言えないな、普通に似たような間違いしたことあるし……。
今日のセルザっちは受付嬢モードならぬ、ギルド長モード。彼女の素である荒々しい物言いは鳴りを潜め、物腰柔らかい丁寧な口調になっている。普段からその話し方してたら、切り替えた時相手が怯みやすいからギルド長になった後もそうしてるんだって。
(にしても……。みんな緊張してたり、やる気満々だったりでテンション高めだったよな。……まぁ傭兵だし、そんなもんか。)
この世界に於いて、傭兵というものは冒険者と同じレベルで扱いが悪い。戦争続きだし、どこもかしこも治安は終わってる。だからこそ需要が有って野垂れ死なない程度にはお金が稼げるみたいなんだけど……。彼らには身分を証明できるものがないのだ。
街や村以外の場所や、その人の居住区を結ぶ道の治安が終わっているこの世界は、輸送が全く発達していない。道らしきものがないわけではないんだけど、基本整備されていないものばっか、つまりこれは『商人の様な物資の輸送』をするような職業じゃないと、わざわざ村から出ることはない、ってことを意味してる。
(一生生まれた町や、生まれた村で過ごす。これが普通なのよね。)
傭兵という職は、常に戦いという食い扶持を求めて移動しなければならない。故に定住する場所を持たないが故に、どこに行っても彼らは『よそ者』。閉じた社会になってしまっている行く先々で、『よそ者』の扱いはかなり悪い。信用は基本されないし、腫物扱いだ。
(そうなることを理解しているからこそ、人々は『やむを得ない理由』などがない限り、傭兵などにはならない。冒険者と同じ、トップ層以外は『落伍者』の職業なんだよね。)
だからこそ、どっかの集団に属して“ホーム”を得る、ってのをあの人たちは欲している。もちろんお金だけのために来た人もいるだろうけど、セルザさんを通して傭兵さんたちをお呼び出しする時に、『お給金は大体これぐらいで、あとホームは迷宮都市。あと相性良かったら永年契約もしますよ』と言っている。
つまり傭兵さんからすれば、『お金貰える上に住む場所用意してくれるし、就職もできるってこと~ッ!?』って感じだ。
まぁ住む場所と言っても宿代くらいしか出せないし、永年契約するには“改宗”してもらうのが最低条件になってくるだろうけど……、嘘は言ってない。
「ま、ティアラちゃんのとこに来るなら幸せにしてあげるんだけどね!」
「なんの話ですか?」
「んー? 雇い主の覚悟的な?」
幸い、金はある。
伯爵から奪った金はまだ結構残ってるし、連日のボス討伐のおかげで収支はかなりの黒字だ。ギルド長にして魔物素材の流通を担っているセルザさんとちょっとお話しなきゃならないだろうけど……、毎日ボス狩りして、その素材を適正価格で買い取ってもらい続ければ、100人くらい雇ってもギリ黒字って感じ?
(30階層でそれだ、もっと下に行けば素材の稀少性は跳ね上がり、市場流通量は少なく、買取価格も高い。私が強く成ればなるほど、傭兵の子たちに上げられる給金は増える。)
それに、傭兵たちにも仕事を割り振らないといけない。おそらく最初のころはレベリングを兼ねたダンジョン攻略になるだろうし、そこで出た収益もこちらで回収して再分配することになるだろう。それも考えれば、赤字になることは……、まぁないんじゃないかな?
「にしても、セルザギルド長っち。私たちに場所貸してくれて良かったの? ギルドの会議室みたいの無償で貸し出してくれたけど……。職権乱用?」
「なんですかその呼び方。……一応、乱用にはなりません。絶えずボスの素材を他よりも多く納めてくれているのが貴女たちです。入手難度が高く、敵体力の多さから冒険者にとって“美味しくない”ボスの素材は、常に供給不足です。それを多く納めてくれるということは、それ相応にギルドからの評価も高い。」
ギルド側からの、冒険者へのお礼。いわゆる接待費みたいなのを使うような感じで、セルザさんは会議室とか待合室を押さえてくれたみたい。……なんか権力者というか、『パワー』を持ってる人と仲がいいと、色んな恩恵を受けられるって本当だったんだね。権力最高! ティアラちゃん王様になるー!
【王権神授説に則ればいけるけど……、やってあげよっか?】
(あ、冗談なので大丈夫ですアユティナ様……。)
あの、ほんと冗談というか口の弾みみたいなものなんでお気になさらず……。だからなんかよくわかんない“力”みたいなのくれようとしないで? ね? 神様。愛してますから。だから視線をこっちにチラチラ向けながら『ほんとに要らない?』みたいな念話送ってこないで~!
「? どうかしましたか、ティアラちゃん。」
「ア、イエ。ナンデモナイデス。」
セルザさんに色々と誤魔化しながら、面接会場でもあるギルドの会議室を目指す。
と、とりあえずスカウト頑張るぞ!
……あ、そうだ。アユティナ様から伊達メガネ貰ったからこれ付けよ。出来る女風ティアラちゃん!
◇◆◇◆◇
<1組目>
「はい、じゃあお名前と所属をお願いします。」
「(子供の方が進めるのか……)あ、はい。『ウバ村傭兵団』のバーノと言います。今日はよろしくお願いします。」
最初にお呼びしたのは、『ウバ村傭兵団』のバーノさん、ちゃんと書類は読んで来たらしく、お一人での登場だ。30代くらいの若めのあんちゃん。短めに揃えた頭髪に、服装も質素ではあるけれど、身綺麗な方。髭もちゃんと剃ってきてるし、そのあたりは好印象、って感じかな。
「こちらでも調査の方させて頂いておりますが、ぜひバーノ団長……。でよろしいですね。貴殿から傭兵団についてお聞きできればな、と考えております。大まかな人数と、得意なこと、また結成に至ったエピソードなど教えて頂ければ幸いです。」
彼の口から語られる情報を、セルザさんの諜報員たちが集めてくれた資料と見比べながら、聞いていく。
構成員は大体30名ほどで、全員が男性。自分たちの村である『ウバ村』を守るために結成された傭兵団であり、周囲に出現した盗賊や魔物たちとの交戦経験があるようだ。たぶんだけど、『自警団』から『傭兵団』に変わったような感じの人たちかな?
そこまで強そうではないから、職業としては最下級職の『村人』か、下級職のどれか、という感じだろう。もしウチに来てもらうならば、急ピッチでレベリングをさせないといけないね。
「……というわけで、故郷の村のためにも資金を稼ぎたいと思い、参りました。」
「ありがとうございます、とても丁寧で解り易かったです。」
……うん、話してる感じも人の好さが出てるし、メンバーの話もちょろっと聞いたけどこの世界には珍しい、いい人ばっかりの集団っぽいな。いやほんと珍しい。
集めてもらった資料にも悪い所はないし、業績自体はあまり輝かしいものではないけど、自分たちの村の周辺で堅実な仕事をし続けている、という形。より多くの外貨を稼ぐためにこっちに来て、その最初の仕事としてウチの応募を見てくれたみたいだね。
「一点、質問があるのですが……。こちらで採用させていただく場合、基本的に迷宮都市に勤めていただくことになります。その期間中、故郷のウバ村に帰還するのは難しいと考えておりますが……。そのあたりは大丈夫でしょうか。」
「はい。ただ家族が村にいる者もいますので、時たま帰るお時間を頂ければな、と思っておりました。」
「なるほど、でしたら採用が決まった際はそのあたりを他メンバー様と詰めていく、という形にいたしましょう。」
そんな感じで採用後の話も振りながら、面接を進めていく。
所でオリアナさん? さっきから何もしゃべってないけどいいの? ある意味同僚みたいなもんになるかもしれんよ?
(……だってお前こいつ採る気ないだろ?)
(あ~、うん。まぁね。)
話を聞いている感じ……、ちょっとウチが求めてる人材じゃないかな、ってのはある。
まず彼らにとって守るべき故郷があるってことが不味い。この人たちをスカウトして軍の中核に置いたとき、明確な弱点になってしまう。人柄もよく、多分すごくいい人たちである事は解るんだけどね? 私たちが今後戦う相手は帝国、もしくは王国の貴族とかだ。そういう権力者相手に勝負する時、弱点を突かれた瞬間使い物にならなくなってしまう存在は、あまり好ましくない。
(彼らの故郷が人質に取られて、裏切られるとか一番いやなルートだ。)
その時までに彼らの天秤がこちらに傾くように出来れば裏切られる可能性は減るだろうけど……、それでももし私の方を選んだせいで故郷を失えば、この人の心が壊れてしまうという可能性もある。私のためにも、この人たちのためにも、採用しない方がお互い幸せかもしれない。
誰も。クソ女神どもの力によって、化け物に改造された家族とか見たくないでしょ?
もし彼らが村から出たがっていたり、外の世界で大成しようとしていたり、故郷から迫害されて出ようとしているのであれば採っても良かったんだろうけど……。書類から見ても、この人の顔から見ても、そんなことは一切なさそうだ。いい人だし、仲良くはなれたんだろうけどね~、ちょっと残念。
「……はい、一応これで面接の方はおしまいですね。お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。」
「いえいえ。それで、結果の方は後ほどこちらで精査した後にお伝えする予定ではあるのですが……。現状、少々難しいかな、と感じております。」
「……そうですか。」
ちょっと残念そうにするバーノ団長。
「ですが貴方や『ウバ村傭兵団』様が悪かったわけではなく、こちらの求める人材と少々違っていたが故の決定となります。それと、ギルドの受付の方に今回来ていただいたことに対する謝礼をご用意させて頂いています。どうぞそれを受け取ってからお帰りください。」
「解りました。本日はお時間いただき、ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。気を付けてお帰りください。」
ギルドの受付、セルザさんの後任として入ったらしい受付嬢さんには、金一封を渡している。30人くらいだったら……、ぱーっと3日ぐらいは遊べるくらいのお金かな? 一応交通費的なノリで用意しておいた。『すっごくいい人材だったけど、ウチには合わないからごめんなさい。今日来てくれてありがと!』という感じ。あ、クソみたいな人達だったらそのまま帰れ、してたから謝礼はナシよ?
それに、ニュー受付嬢さんには、それを渡す際は『ギルドに勧誘してあげて』とも伝えている。いわば他の就職先の斡旋だ。
バーノ団長さんの話的に、村の外でお金を稼いで、村に還元したいみたいな感じだったし……。それなら冒険者でも十分出来るはずだ。今度ギルドとかダンジョンの中で会ったら、ちょっと助けてあげなきゃね。
「はい、では次の方~!」
<2組目>
「はい、じゃあお名前と所属をお願いします。」
「俺たち!」
「ムテキ!」
「サイキョウ!」
「永劫不滅!」
「「「爆騎隊!!!!!」」」
50人近いむさ苦しい男たち、しかも“筋肉ムキムキ”、かなりの強面。
“全員モヒカン”の集団が、一斉に声を出す。
世はまさに、世紀末!
「うん、キャラが強くて好き。採用。」
「「「やったーッ!」」」
「……お前ら?」
つい反射で採用を言い渡してしまう私。
その結果に、喜びを全身で表すモヒカンたち。
それにキレ、とんでもなくドスの効いた声を出すオリアナさん。
黙り込む私たち。
あ、えっと~。じゃあ面接始めて行きますので、代表者の方はその椅子に。それ以外の方はちょっと椅子の用意がないので、申し訳ありませんが地面に座ってください。あ、別に座り方は自由で良いですからね。オリアナさんにビビって正座とかはしなくていいですから、はい。
たった一喝でこの世紀末集団を支配下に置いたオリアナさん。モヒカンたちもさっきまでの元気はどこに行ったのか、しゅんとしている。まぁ面接はしやすくなったし、いいのかな?
「資料によると……、今日は皆さん全員でいらっしゃった形ですか?」
「そうっす!」
「了解しました、では軽く貴方たちの“隊”の紹介と、得意なこと。また結成時のエピソードや、やりたいことなどを教えて頂ければ幸いです。」
色々と見た目が世紀末な人たちではあったが、悪い人ではないのだろう。少し敬語が苦手なようで話しにくそうにしていたが、色々と聞き出すことに成功する。
どうやら彼らは馬に乗って大地を走り回り、風を感じることを求める集団のようだ。早い話、暴走族みたいなことがしたいらしい。けれど馬は現代の価値観に合わせると高級車のようなもの、軍馬となればやはり結構な値段だし、荷馬でもやっぱり自動車レベルの値段を要求されてしまう。
(ゆえに、この人たちはまだ一頭も馬を所有していない。)
傭兵として食べていける程度の稼ぎしかないが、みんなで頑張ってお金を貯めれば一頭くらいはいけるかもしれない。そういう思いを胸に傭兵団が結成され、少しずつ人が集まって行ったのが彼ら『爆騎隊』のようだ。……そういえばギルド前で待たせてるタイタンの前で、滅茶苦茶騒いでた人がいたけどお前たちだったのか。
『すげぇ馬体!』
『かっけー!』
『いよ! ペガサス界の大将軍!』
そうそう、こんな感じでみんなタイタンのこと褒めてて、ちょっとタイタンも嬉しそうだった。え、私? そりゃ嬉しいに決まってるでしょ! 自分の愛馬が褒められて嬉しくないご主人なんていないでしょ!?
むふー! でしょー! タイタンカッコいいでしょ! 騒ぐのも解る! さいよ……、あ、オリアナさん冗談だからね? そう安易に採用はしないから、うん。
「なるほど、いい夢ですね。」
「ありがとうございますっす!」
「ちなみに皆さん職業の方は『騎兵』系列だったり……?」
「違い……、ますっす。『剣兵』とか、『闘兵』とか、『槍兵』です。」
「あれ、そうなの?」
少し深堀して聞いてみると……、彼らは単に馬に乗ることに憧れているだけであって、騎兵や騎士のように戦場を走り回ることは別にしたくないのだという。というかせっかく買った馬ちゃんを戦場で死なせちゃったら病む。とのことだ。
あ~、まぁ確かに。気持ちは解る。
銃とか戦車とかのミリタリー好きな人も、『それ使ってサバゲーとかで遊びたい!』ってのはあっても、『これで戦争したい!』とは思ってないもんねぇ。銃とかが、“カッコいい”から好きなのであって、戦いは好きではない。彼らも“馬”という存在が好きで、憧れているのだろう。
「うん、とっても好感が持てる。オリアナさん的にも“歩兵”として動かせるし、いいんじゃないの?」
「まぁ、確かにな。……色々と癖は強いが。」
まぁ確かに。モヒカンなんてリアルで見たの前世含めてこれが初めてだもん。原作がR18ゲーだったからまぁ髪色も髪型も特徴的な人は多いけどさ、モヒカンとか絶対こっちの価値観でもヤバい髪型よ?
しかもちゃんとカラフルな感じに色染めてるし……、それ何? 虹モヒカン? すごいなぁ。でも、何人か確実に悪役顔してるけど、さっき『採用』って言ったとき、子供のように喜んでた。故にまぁ悪い人間ではないのだろう。ただ感性が色々ぶっ飛んでるだけ、っていう。
……さっきのウバ村傭兵団さんみたいな弱点も見受けられないし、ノリがよさそうだからティアラちゃんとの相性も良い。オリアナさんはちょっと苦労するかもだけど……、さっきの一喝で確実に上下関係が成立していた。指揮するのに問題はなさそうかな?
「OK、じゃあ採用ってことで。じゃあ明日からよろしくね! あ、あと頑張ってくれたら私の方で馬ちゃん全員分用意してあげるから、頑張ってね。ほらこれ契約書、口頭だけじゃなくて書面にも残すよ。」
ぱっとその旨が書かれた契約書を作り、自分の母印を押し付ける。細かい所は追々決めていく必要はあるだろうけど、まぁ馬ちゃん買うぐらいならね? 必要経費ってもんだ。
それに、別に『騎兵』にならなくても、練習次第で騎乗による移動、そしてもちろん騎乗戦闘は可能だ。さすがに本職に比べればだいぶ劣るだろうが、行軍の速度が大幅に上昇することを考えれば、自軍の全員に騎馬を揃えるのは必須と言えるだろう。
というわけでよろしくねモヒカンたちー!
「まじ!?」
「うまだ!」
「夢がかなう!」
「「「やったーッ!」」」
うむ、元気でヨシ!
<3組目>
「はい、では次の方どうぞ~!」
「し、失礼します!」
外で待っていた人たちに声をかけると、少し上擦った声が聞こえ、二人の女性が入室して来る。
二人とも髪は青色だけど、少し赤の装飾が入った皮鎧を着用している。顔の形とか似てるし……。姉妹なのかな? そもそも傭兵とか女性少ないのに、珍しいな。
どこかひどく緊張している彼女たちを安心させるように、柔らかい声を意識しながら座る様に指示を出す。
「どうぞ、そちらにお座りください。」
「「は、はい!」」
あ、ハモった。
二人がいそいそと椅子に向かう合間に、ちょっとだけ手元の資料をちらり。あ、やっぱり姉妹か。声の感じとか似てたし、そうなのかと思ってたけど……、あたりだね。
少し背が大きくて髪を後ろ、その下の方で軽くまとめているのが姉のソーレで、背が小さめでおかっぱに近い髪型をしているのが妹のルーナ。年齢としては私よりも年上だけど、どっちかというと女性よりも少女、って呼んだ方がいい年かな。
というかなんか、二人とも視線が……、オリアナさんの方に向いてない? 知り合い? あ、こんな名前の知人いないですか。でもなんか明らかにあっちはオリアナさんのこと知ってるような目付きというか、なんか憧れとかそういうのが混じった目線を感じるけど……、ほんとに知らない?
「あ、あの! オリアナ様……、ですよね!?」
「……“様”付けされるような人間じゃないけどな。」
「じ、実は昔。助けてもらったことが……!」
お姉ちゃんの、ソーレ。彼女が言うには過去に二人はオリアナさんに助けてもらったことがあるという。
何でも彼女たち姉妹は国境線近くの村の出身で、一度帝国からの襲撃を受けたそうな。それで村の大半が殺されちゃったみたいなんだけど……、彼女たちが殺されるギリギリのところで、オリアナさんが救援に駆け付けたようだ。
村の大人たちが殺され、両親も殺された。親が隠してくれた物置の隙間から見えるのは、親しい人たちが何の抵抗もできず殺されていく光景。姉はきつく口を閉じ、妹の口に手を当てる。そして妹は自身の姉を強く抱きしめる。二人とも出来るのは、ただ敵がどこかに行くことを神に願い、震えることのみ。
だが、王国のクソ女神が人の願いなど叶えるわけがない。
すぐに見つかってしまい、敵兵の剣の切っ先が、二人に伸びる。
その鋭く尖った鉄の刃が、二人の肉体に届こうとした時、現れたのが、オリアナさんだった。
(ヒーローしてるなぁ。)
オリアナさんにとっては、何回も繰り返された業務の一つ。村を助け出したことも、子供を保護したことも、時間の経過によって薄れ忘れちゃってたみたいだけど……。二人にとっては鮮明に残った大事な記憶。
何かの形で恩返しするため、姉妹で支え合いながら体を鍛え、レベルを上げて、オリアナさんが住んでいるらしい王都に向かったようだが……。その時には彼女はもういなかった。そして迷宮都市に行ったことを知った彼女たちはオリアナさんの後を追うことになる。
「そ、それで! オリアナ様が傭兵を募集してると聞きまして……! ほんとに、ほんとにもう一度お会いできただけで光栄です!」
「あ、あのときは、ありがとう、ございました。」
「……そうか。まぁそこまで畏まる事でもない。私は仕事だからやったんだ、恩を感じてもらうような人間でもないよ。」
再び会えたことを喜びながら言葉を紡ぐ姉に、たどたどしいがしっかりと感謝の言葉を口にする妹。そんな二人に優しく声をかけてあげるオリアナさん。……う~ん、すっごい。というか子爵領行った時もそうだったけど、オリアナさんの人脈とか人柄に助けられっぱなしだな。どうしよ、ティアラどういう形でお礼したらお返しできる?
【自分の体を大事にすれば、オリアナさんも安心だと思うけど。】
(…………善処します!)
急に飛んできたアユティナ様のアドバイスに返答を返し、意識を現実に戻す。えっと、感動の再開のところ悪いけど……、面接しちゃっても大丈夫? あ、私オリアナさんの“孫兼弟子”みたいな存在の、ティアラちゃんね。もし採用することになったら雇い主私だからそこの所よろしく。
んじゃ経緯とか名前とかはさっきの経緯で聞いたので……、得意なこととか、「職業」とか教えてくれる?
「私も、ルーナも剣なら少し……。それで、その。まだ……『村人』です。私は3回、妹は2回“階位”が上がったので、もうすぐ下級職に成れるとは思います。な、なんでもしますので……! お願いします!」
「お、おねがいします!」
え、今なんでもするって……。あ、ごめんなさい、冗談ですってオリアナさん! 形式美みたいなものだからそんな汚物を見るような眼で見ないで! ティアラちゃん孫ですよ!
……とまぁふざけるのは程々にして。どうしようか。
正直、この二人を雇うメリットはあんまりない。頑張ってはくれるだろうけど、まだ『村人』。モヒカンたちは全員下級職に就いてたから放置して迷宮にでも放り込んで置けば勝手に強く成ってくれそうだけど、二人は違う。最悪一階層で芋虫に殺される可能性もあるし、付きっ切りでレベリングしてあげなければならない。
まだ若いし、ある程度こっちで色々調整してあげられるのはメリットかもしれないけど、そもそも私自身が育成対象みたいなものだからな……。
(自然と、保護者で師匠のオリアナさんの負担が増えるだろう。)
今だけで結構な迷惑をかけているのだ。これ以上負担を増やしてもいいのかな、という気はかなりある。
「どうします、オリアナさん。」
「……まだ一人前には程遠いが、お前もナディのとこで十分鍛えた。こっから先は実戦や私との模擬戦で積み上げていく作業。確かに傍にいてやらねぇと危なっかしいことは確かだが……。まだ余裕はある。」
それに、と続けながら耳元をこちらに近づけるよう手招きする彼女。
(お前の副官候補にどうだ?)
(副官?)
(あぁ、お前の思い浮かべる“軍”ってのがどんなのかは知らんが、人数を集めるならサポート役は必須だ。それに、私がずっとそばにいるわけにもいかないだろうよ。)
何処かのタイミングで確実に“老い”に負けるタイミングが来るだろうしな、と付け加えるオリアナさん。
彼女の言う通り、ナディさんの所である程度用兵の仕方は学んだけど、一人では処理が難しいことも出てくるだろう。それに、今空に対応しているのは私だけだけど、今後『天馬騎士団』みたいに空で戦える人員を補充するかもしれないし、もしかしたらずっと私一人で空を舞い続けるかもしれない。
どっちみち、空にいる私が指示を出しにくい、地上の指揮官が必要になってくる。
(それに、この言い方。オリアナさん私の護衛としてこの子たち採用しようって言ってる?)
……今の私が持つ公的な役職は何もないが、アユティナ様の使徒という役割を頂いている。まだ信徒が数少ないため組織的なことは何もできていないのだが……。まぁ前世の感覚に合わせるならば、カトリックの教皇とかと同じレベルの立ち位置だ。いやむしろもっと上か? 神の声聞いちゃってるし。
つまり、傍に護衛とかいないと普通にヤバい役職でもある。
今はまだ表立って敵対しているわけではないけど、王国の女神や帝国の女神と敵対した場合、暗殺とかも増えてくるだろう。私一人では対処しきれない奴が出てきてもおかしくないし……。
(そう考えれば、ほぼ1から育成できるこの二人を採用するってのはアリ、か。)
二人とも顔はとっても美人さんな感じだけど、別に原作キャラでもなんでもない。おそらく8年後の原作開始後に起きる帝国の侵攻によって命を落とすような存在だったのだろう。……原作への影響もなさそうだし、オリアナさんも頷いてくれている。
「……解りました。お二人とも採用させていただきます。ただ流石にまだ戦闘に耐えられるとは思いませんので、オリアナ。私の祖母の元で戦い方を学ぶことから始めてください。独学では限界がありますので。……よろしくお願いいたします、ね。」
「ま、どこに出しても恥ずかしくないぐらいまでは育ててやるよ。」
「は、はい! ありがとうございます!!!」
「ありがとうございます!」
じゃ、また明日からお願いね、ソーレちゃんにルーナちゃん。
<4組目>
「さて、次が最後か。」
「ですねー。一応今日来てくれた人たちの中じゃ一番の実力派みたいですね。」
そう言いながらオリアナさんと一緒に資料を覗き込む。
本格的な戦闘ではなかったようだが、帝国と王国の小競り合いの時に雇用され、無事生き残ることが出来た傭兵団が来ているようだ。
実戦を経験したことのある存在は有用だし、生き残っているというだけで凄い。子爵領で天馬騎士団の姉ちゃんたちから話を聞いていると、あの戦争というものはそう生易しいものではなかった。小競り合いとはいえ生き残り、その後も団を存続できているというだけで有能だ。
「今は傭兵退治や商隊の護衛とかをしていたみたいですね、それで迷宮都市に寄った際、こちらの応募を発見して面接の場に来る気になってくれたらしいです。」
「だが……、この備考欄に書いてある『見た方が早い』って文言なんだ?」
ほんとだ。これまでの候補者さんの備考欄滅茶苦茶細かく書いてて、正直本人から話聞かなくてもいいかな、って感じだったんだけど……。それがこの一文だけ。なんか逆に興味湧いてきた。
コンコン
「あ、ノックだ。どうぞお入りください~。」
私がそういった瞬間、ドアが。
いや、壁が、ぶち抜かれる。
なだれ込んでくるのは、謎の男衆。
そして彼らが担ぐのは、この世界に見合っていない謎のステージ。
そしてその中心に立つのは……。
どこからどう見てもアイドル然とした、20代後半の女性だった。
「みんなー! 戦場のアイドル☆ ミルちゃんだよー!」
「「「うぉぉぉおおおおお!!!!!」」」
「今日はミルちゃんのライブに来てくれてありがとー! 今日は目いっぱい、楽しんでいってねー!」
「お帰りください。」
脳が急速に冷えていき、ほぼ反射で言葉を発する。
「えー! まだライブは始まったばかりだぞ☆ もっとテンション上げてこー!」
「歳考えたらどうです消費期限切れ。」
「あ?」
さっきまで騒いでた野郎どもが黙る。
そういう肌面積クソ多くて、フリフリして、明るさ卍解な服はね、10代が着るもんです。
歳考えろ? あと世界観も考えろ? 主人公私だぞ?
「……ごめーん☆ ミルちゃんの声でかき消しちゃった。もう一回言ってくれる?」
「帰れって言ってんだよ年増。」
「ふ、ふーん。」
明らかに、目の前のババアの額に怒りでしわが出来る。
「おチビちゃんにはわかんないかもしれないけど、これが今の流行なんだよ? まだちょっとそういうのが早かったかなー? ミルちゃんのライブ見て、勉強して帰ってね☆」
「なんかこの調査報告書に年齢29とか書いてあるんですけど……、語尾に☆つけるとか恥ずかしくないんですかぁ♡ お・と・な、になりましょうよぉ♡」
「……。」
「……。」
「ぶっ殺してやるこのクソガキ! 『ドキュバギュ血みどろズッキュンハート』ォォォ!!!」
「面接受けに来るならTPOわきまえろクソババア! 【オリンディクス】! 『開闢の一撃』ィィィ!!!」
「なにこれ。」
【私にもわからん。……後最近はそういうの別に普通じゃない? どう、オリアナちゃんもあぁいうの着る? 用意するよ。】
「私がか? 勘弁してくれ……。」
4組目! 不採用!
なお会議室が崩壊したため本日の面接は終了! ありがとうございました!
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇今回登場した傭兵(不採用、今後出番無しの可能性アリ)
・ウバ村傭兵隊
故郷の村をより豊かにするために、傭兵を出稼ぎみたいにしている。その後受付嬢の勧めもあり冒険者グループとして再出発。ティアラちゃんが各階層の情報などをフィードバックしてあげたので、結構いい所までいった。原作時空では原作開始前に全滅する。
・ミルちゃんクラブ(ミル傭兵団)
紅一点でアイドルの“ミルちゃん”を中心とした傭兵団。なんかアイドルしてるし、周りの奴らは法被来てる。こいつらだけ世界観が違う。十八番は『ミルから目を離しちゃダメだぞ☆』、現在7thアルバム『ドギュバギュ血みどろズッキュンハート』発売中。歌による全体バフが可能で、地味に強い。なお原作時空でも普通に存在しており(ゲームには未登場)、8年後の原作開始後も普通にアイドルしてる。ティアラとミルちゃんの相性は『1分以上同じ場所にいるとガチの殺し合いを始めてしまうレベル』で最悪だったため、不採用で正解だった。
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辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
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断罪まで、あと10分。
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王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
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※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
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