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第二章 冒険者稼業の始まり
#21 またねっ
しおりを挟む外壁門に着いたところで、行きとは違い大所帯になって列へと並んだんだけど、そういえばここって貴族専用の通用門とか無いんだなって事に気が付いた…いや、行きの時点で俺達の前に貴族が居たんだから気が付けよって話だけど、あの時は皆のステータス見てわきゃわきゃやってたからなぁ…と。
そんなに待つこと無く順番が来たから門番の所まで進んでいったら、行きと同じでエドさんとバドルがいた。
「次…って……何やってんだ?ナオト…」
結局、街に着くまでティシャとひぃは抱きっぱなしだった…いや、だってひぃもティシャも居心地がいいのか降りたいって素振りすら全く見せなかったし、あとこの身体がスゴい、全然疲れなかった…身体っていうか、ステータスのせいなのかな?んー、あの表示じゃよく分かんないんだよなぁ…確か筋力はまあまあだったんじゃなかったっけか?これがまあまあなのか…うん、やっぱ分からん、けど疲れないならいいわ。
「あ、エドさんお疲れ様です」
「お、おう、お疲れ…いや、そうじゃなくてよ…」
「あれっ、ナオトじゃないすか…って、ちょっ、なんすかっ!その羨まけしからん状態はっ!!おっ、お嬢ちゃん、どっちか1人俺んとこ来ないっすか!?」
…お前何言ってんの?
バゴッ!
「落ち着けこのバカ!そんなこと言って来るわけないだろうがっ!」
「ぁ痛ってぇ!ちょっ、何で俺を殴るんすかっ!殴るんならこんな羨まけしからん状態のナオトの方じゃないっすかぁ!!」
コイツ真正かっ!これは早々にこの場を離れないと、ティシャとひぃの教育上よろしくないっ。
後は姫達に任せてとっとと街に入ろう。
「あー、エドさん、はいこれギルドカード、じゃあもう行きますね」
抱っこしながら指だけ動かして無限収納から手品みたいにギルドカードを出した…それをサッとエドさんに見せてこの場からすぐ退散っと。
「あ、おう」
「あっ、ナオトどこ行くんすかっ!行くならお嬢ちゃんをどっちか…」
何かほざいてる奴はほっといて、俺はとっとと門を潜る…二人を奴の近くに居させるとか、事案臭しかしないっつーの。
「いいか、ティシャ、ひぃ。ああいう人には絶対近付いちゃダメだからな?」
「そーなの?どうして?」
「それはな…こうやってイタズラされちゃうからだっ」
軽く冗談のつもりで顔をひぃのお腹に押し付けてグリグリしてやった…あれ?これ俺が事案起こしてるように見える…?いやいや、どこからどう見てもじゃれあってるとしか見えないはず…。
「キャハハハッ!ナーくんくすぐったいよぉっ!」
「…ナオトお兄さま……」
「ティシャも…こうなっちゃうから気を付けるんだぞっ」
「きゃっ!あっ、くふっ、くふふふふっ!」
ティシャにも同じようにやったら、一生懸命笑いを堪えるような感じになっててちょっと苦しそうだった…お嬢様はそんなはしたない声では笑いませんって?子供がそんなこと気にするなよ、笑いたきゃ好きなように笑えばいいんだって。
って、調子に乗って二人にグリグリしてたら、後ろから結構な勢いで、ばんっ!って背中を叩かれた…いい音はしたけどそれほど痛くはなかったから別にいいんだけど、多分ツッコミだよな?ツッコミって闇護膜の対象外なのかよ…普通に貫通してきたぞ。
そういや二人を助けた時も普通にブチ切れてたし、邪兎眼も見た目で普通に恐怖してたし…そこは精神的異常とか負荷に含まれない…のか?言っちゃえばドキドキするのもそうだよな……どういう判断基準なのかよく分からなくなってきたけど、まぁ、単純に感情の昂りとか本人に不都合ない程度の異常や負荷なら、ある程度は貫通してくるってところなのか?
「街の往来で何してんだっ、この変態っ!」
「んなっ!?待てっ、どこが変態なんだよっ!」
「あぁ?子供の身体に顔押し付けといて、どこが変態だもくそもないだろっ!」
「これはじゃれあってるだけだっての!そうだよな!?二人とも!」
「…ナーくんがーイジワルするのぉ…」
「わたくし…もうお嫁にいけません……」
ってウッソ!えっ!そこまでっ!?いやさっき笑ってただろ二人ともっ!待って待って!これ完全に事案にされてるじゃねぇかっ!!
「ナァオォちゃぁ~ん……なぁにぃしてるのかなぁぁ~?」
「…ナオトはん……パーティー、追放するで?」
ちょっと待てって!確かに調子に乗ったのは認めるっ、そこは認めるけど本当にじゃれてるつもりしか無かったからっ!決してやましい気なんか起こしてませんって!だから今日組んで今日追放とか洒落にならん事言わないでっ!あと邪兎眼もっ!!
「分かったっごめんっ!俺が悪かった謝るからっ!」
「ぷっ、あははははっ!ナーくんおもしろーいっ!」
「くふっ、くふふふっ…わ、わたくし、もうこれ以上は…耐えられません……うふっ、ふふっははっ」
あっ!くっそ二人とも俺をからかってからに…おかげで姫達に変なレッテル貼られたじゃんか!…まぁ、全部俺のせいなんですけどねっ!!
「…なんや二人とも、ほんまにじゃれとっただけなんか……」
「アタイはついにナオトが本性出したのかと思ったぜ…漂流者のなっ」
「二人ともぉ~大丈夫ぅ~?他にぃ何かぁ~されなかったぁ~?」
「ふふふっ…ふぅ……大丈夫です、本当に少しおふざけしてただけなので…」
「ナーくんがねっ、さっきの門番のお兄ちゃんみたいな人についていくと、こんなことされるんだよって教えてくれたのっ」
いや、まぁほぼほぼ冗談のつもりでやっただけなんですけどね…でもああいう奴に付いていっちゃダメなのは本当です、はい。
「あー、うん、それは…間違いないな。あーゆーヤツには近寄るんじゃねぇぞ?二人とも」
「せやな。世の中にはああいうしょーもないやつもそれなりにいるんやから、気ぃ付けや」
「そうだねぇ~…出来るならぁ~視界にもぉ入れない方がぁ~いいよぉ~」
バドルの言われようときたら…まぁ実際暴走しそうだからなぁ、アイツ…近付かないに越したことはない…けど、流石に視界にまで入れないとかは中々無茶じゃないか?マール…。
「危うく変な流れになりそうで焦ったけど…俺達はこれからギルドに行かないといけないから、ここまでだな。後はセバスさんとかミディさんと一緒に帰りな」
いや、ホント訴えられたら終わると思った程焦ったわ…って動揺を隠しつつ、二人を静かに地面へ降ろした。
抱っこしてて温かかった部分がスゥっと冷えていくこの感じ…少し、いや、かなり寂しくなったのは…顔に出さないよう頑張ったよ。
「うん、分かったっ。ナーくん、お姉ちゃんたち、ありがとうねっ!」
「はい、ナオトお兄さま。アーネお姉さま、シータお姉さま、マールお姉さまも…今日は本当にありがとうございました」
「うん、今日はゆっくり休むんだぞ、二人とも。試験勉強はそれから…な」
二人を降ろしたから目線を合わせる為にしゃがんで話し掛けた…頭を撫でながら。
帰り道に二人と話をしてて聞いたんだけど、今日あの場所…ゴブリンに襲撃された場所にいたのは学園の試験内容の一つ、実技試験の訓練のためだったらしい。
カティちゃんも昨日言ってたけど、今は丁度試験前、かつ今日はその試験のための準備休みだそうで、朝から出掛けてたみたい。
馬車に付いてる貴族章に何となく見覚えがあるなーって思ったら、多分行く時に俺達の前で並んでた貴族の集団が、どうやらティシャとひぃ達だったっぽい。
結局あんな事になって、あまり訓練は出来なかったから、今回は実技の方を少し諦めて座学の方に力を入れる方針にするって。
あんな事があったのに前向きに考えてるところを見ると、あぁこの娘たちは強いなって素直に思えた。
この世界ではこういう事が少なからずあるってことで認識はされているんだろうけど、自分達がそういう目に合って怖い思いして、それでも頑張ろうとする姿勢には子供だろうと関係なく尊敬してしまう。
「ティシャ、ヒナリィ、ナオトはんの言う通り、ゆっくり休むんやで。無理したらあかんよ?」
「ティシャちゃんもぉ~ヒナちゃんもぉ~、怖くぅなったらぁいつでもぉ~お姉ちゃん達のぉ所へ~おいでねぇ~」
「あぁ、そうだな。アタイらでいいってんなら、いつでも相手になるぜ」
姫達も姫達なりに二人の事を心配してくれてるみたいだ。
また会ってもいいってさ、良かったな二人とも。
「お姉さま方…ありがとうございます、そう言ってもらえて嬉しいです」
「こんど会う時は、ゆっくりお話して、あそべる?」
「ひぃとティシャがそうしたいって言うなら、俺はそうしてあげるぞ?」
「うんっ!そうしたいっ!やったっ、ありがとっナーくんっ!」
チュッ
「「「「「っ!?」」」」」
ひぃがそう言って俺の左頬にチューしてくれた…やべぇ、めっちゃ嬉しい…っ!何だこれ最高のご褒美じゃないか……っ!!
「ヒ、ヒナリィっ!?そっ、そんなはしたない……っ」
「えへへっ、今日のお礼…だよっ?」
「お礼……そっ、そんなこと…そんな……でも…お礼、なら……」
チュ
「あはっ、ティシャもだぁー」
今度はティシャが右頬に…ホントに一瞬だけ触れる感じのキスをしてくれた…あ、俺今最高に幸せ者だ……昔娘によくしてもらったのを思い出して、また泣きそうになった……。
「…二人とも、ありがとな…。最高のお礼だよ…。もう、これだけで十分だ……」
「うんっ!あ、じゃあもう行くねっ!またねーっ!」
「そ、それではわたくしもこれでっ、し、失礼いたします…っ」
ひぃは元気一杯で、ティシャは恥ずかしかったんだろう、逃げるように馬車の方へ向かって行った…うん、また、会いたいな…。
「…よかったなぁ、ナオトさんよぉー…あんな可愛い娘達にチュッチュしてもらってよぉ~?」
「だけどぉ~、それだけのぉ事を~したんだからぁ~、そのくらいのぉご褒美がぁ~あってもぉいいかもねぇ~」
俺もまさかこんな素敵なご褒美が貰えるとは思ってもみなかったよ…いやぁ、ホント最高に良い気分ですっ!
「…た・だ・し!そのどーしよーもなくしまらない顔がなければやけどなっ!」
「…ごめん、それは無理だ。どうしたってニヤけちまうって、こんなの」
「お前もバドと変わんねーんじゃねぇか?それ」
「………」
あれ…?否定出来ない…だと……?
いやいや、根本的に接し方が違うって!その辺は一目瞭然だろう!
「「「変態(ぃ~)」」」
姫達がヒドいです…あんな奴と一緒にされるなんて……。
結局変な流れに乗ったままで全然逆らえてなかった俺は、肩を落としてギルドへトボトボと歩き出した…後ろからくるねっとりとした重たい視線を引き摺りながら。
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