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第二章 冒険者稼業の始まり
#26 祝宴・始まり
しおりを挟むこの時間帯…大分日が落ちてきて、9つ鐘が鳴る少し前くらいから、ギルド酒場は人が増えてくるみたいで、俺達が祝杯を上げようと来た時にはある程度席が埋まりつつあった。
それでもまだ俺達と、ラナ、リズが座れるくらい席には余裕があったから、空いてる席に迷わず進んだ。
6人掛けの席で良かったんだけど、8人掛けの席しか空いてなくてそこに陣取った…ちょっと悪い気もするけど、後で人が増える予定だし使わせてほしいから、酒場内を動き回ってる店員さんに声を掛けて一応了解貰っておこうか。
「すみませーん」
「はーいっ。ご注文ですかっ?」
酒場とは言えギルドの施設ってことなんだろう、制服が受付嬢とほとんど変わってない…動き易いようにスカートが若干短くなってるくらいかな。
顔はパッと見幼くて酒場にはちょっと似合わないというか、いかにもバイトですって感じ。
で、一番の特徴は…背中の翅。
透き通った4枚翅で、角度によっては虹色に見えたりもしてる…うん、綺麗だね。
「えっと…今は4人なんだけど後で2人来る予定だから、この席使わせてもらっても大丈夫…かな」
「あーっと…うん、大丈夫ですよっ、その席で」
ちょっとキョロキョロしたあと、使っていいって許可を出してくれた…周りを見て確認してくれたんだろう。
オッケーもらえたし、注文もしちゃいますかね。
「ありがとう。じゃあ注文いいかな」
「はいっ、何にしますか?」
「俺はエールで」
「アタイもエール」
「…ウチもエール」
「私はぁ~蜂蜜酒でぇ~」
…シータはエールか、昨日は蜂蜜酒だったと思うんだけどエールもイケるのか…意外と飲めるクチなのかな?
「はーいっ、少々お待ちくださいねっ」
注文取って酒場のカウンターの方へ向かって行った…翅をパタパタさせながら。
いや、もちろん飛んでもないし浮いてもいないから、ただパタパタしてただけ。
飾り…なのかな?あの翅……綺麗だけど。
「とりあえず飲み物しか頼んでないけど、食い物はラナとリズが来てからでいいよな?」
「うん~、いいんじゃないかなぁ~」
「「………」」
二人ともまだ引き摺ってるのか?席座ってからも大人しいままなんだけど…。
「なぁ、二人とも。せっかく祝杯上げようってのにそんなんじゃ楽しくないだろ?気にしすぎだって」
「…ア、アタイは…柄でも無いことしちまって、自己嫌悪中なんだよ……」
「ウチは…思い出してもうて恥ずいんや……」
「柄でも無いって…嬉しかったんだからいいじゃないか、喜び方がちょっと大袈裟だったってだけだろ。シータなんて来た時忘れてたよな?」
「そうだよぉ~二人ともぉ~。やっちゃったことはぁ~もおぉしょうがないよぉ~?」
マールの言う通り時間は元に戻らないんだから…俺もやられた方だけどバッチリ見られてるわけだし。
「あーあ…折角初クエストクリア出来て、ランクアップまでしたのにこれじゃ全然いい気分になれないなぁー」
棒読み風に残念がってみたら、ちょっとだけ復活してきたみたい、二人とも。
「そっか…そうだよな……アタイらランクアップしてゴールドになったんだぜ……」
「そうや…もうクエスト失敗に怯えなくてもええんや……」
「そうだろ?もうこうなったら盛大に祝うしかないんじゃないか?」
「うんうん~、報酬もぉ貰ったしぃ~ぱぁ~っとぉやろうよぉ~!」
「…だよな、ここで騒がないでいつ騒ぐって話だよなっ。よしっ、さっきのは置いとくわっ!まずは飲むぜぇっ!」
お、アーネは完全復活っぽいな、うんうん、それでこそアーネだ。
あとはシータだけど…どうかな?
「ウチも…そうや、さっきまで忘れられてたんや……また忘れたらええっちゅうこっちゃ!」
まぁ、シータがそれでいいならいいけど…また思い出すたび蹲る姿が目に浮かぶわ…。
でもこれでみんな大丈夫そうだな、よしっ!また美味い酒が飲めそうだっ。
「お待たせしましたーっ、エール3つに蜂蜜酒1つお持ちしましたっ」
おっ、ナイスタイミングっ!このまま乾杯までしちまおうかっ。
「よっしゃ、きたきたっ!んじゃ、早速乾杯しようぜっ!」
「だな。じゃあまたシータに音頭取ってもらうか」
「えっ、またウチ?」
「いや、またって…俺がパーティー入ったってリーダーはシータのまま変わってないんだし。パーティー名だってそのままだろ?」
「まぁ、そうやけど…今日一番の活躍はナオトはんやないか。それに初クエストなんはナオトはんだけやし」
「そりゃそうかもしれないけど…え、なに、自分で自分を祝えってこと?」
「それはぁ…私たちもぉ同じぃなんだけどねぇ…」
あー、そりゃ当然だよな、俺達全員の祝い事なんだから、誰がやっても自分を祝う事になるや。
「んな細けぇことはどーでもいいっての!こーゆーのは勢いっつーもんが大事なんだよっ!ほら、やるぜっ!酒持てよっ」
痺れを切らしてアーネが音頭取ってくれるっぽいぞ、始める前にウダウダ言ってるのもなんだしな。
アーネに言われた通りみんな酒を持って音頭を待った…こういう時は頼もしいなアーネはっ。
「よっし、んじゃナオトの初クエスト達成と、パーティー全員のランクアップを祝ってぇっ!」
「「「「乾っ杯(ぃ~)っ!!」」」」
ガツッ!
木製のジョッキをぶつけ合って全員でそれを呷るように口に運んだ…昨日も旨いと思ったけど今日の酒は格段と旨かった…いろいろあったけど概ね上手くいった感じだし、何より皆を…ティシャを、ひぃを助けることが出来た…それが一番酒を旨く感じる要因だと思った。
カッコつけた言い方すると、二人のあの笑顔と、未来を守れたのが俺にとって最大の功績だったよな…。
「っかぁーっ!うめぇ!今日の酒は格別だぜっ!」
「昨日もぉ~美味しかったけどぉ~、今日はぁまたぁ~一段とぉ美味しいねぇ~、ふふっ」
「ふぅ~…エール久しぶりやけど、ほんま旨いわぁ…」
みんなもやっぱり旨いと感じてるみたいだ、そりゃ連続失敗っていう枷も外れたし、ランクアップまでっていうおまけ付だもんな。
これで酒が旨くないわけがないって。
「あーっ…間に合わなかったぁ……」
「もうっ!リズがわたしのところに来て仕事サボってたせいでしょっ!」
お、ラナとリズが来てくれた…ホントにもう少しだったんだな、乾杯には間に合わなかったけど最初の一杯にはまだ間に合ったぞ。
「サボってたわけじゃないよー、ちゃんとナオトの相手してたじゃない」
「それをサボってたっていうんでしょっ、もうっ」
「二人ともお疲れ。来てくれてありがとな」
「みんなのお祝いだもん、来ないわけにはいかないですよっ」
「ワタシは飲めれば何でもいいよーっ、にししっ」
ラナはちゃんと祝ってくれそうだけど、リズは酒さえ飲めればどーでもよさそうだ…そこは建前でも祝おうとする姿勢を見せておけって。
まぁ、祝うなんて強制でやってもらうようなもんじゃないし、この場が賑やかに楽しくなればいいってつもりで誘ったんだからそれでいい…うん、いい…んだけどな、誘っておいてなんだけど、リズの身体で酒?でも年齢的には俺より上だしな…いや、けど、絵面的にどうなんだ?これ…って思ってるのは多分この場で俺だけなんだろうなぁ…。
「二人はぁ~何飲むぅ~?」
「えっと、わたしは蜂蜜酒でいいかな」
「ワタシはエールでっ」
「はぁ~い。すみませぇ~ん!」
マールが率先して二人の飲みたい物を聞いて注文してくれるみたいだ。
マールも気が利くいい娘だな、シータもそうだったし…宿屋の記帳の時とか。
ラナとリズはマールに飲み物伝えながら席に着いた…これで座った並びは端からマール、俺、リズ、対面側がアーネ、シータ、ラナであと2席、ラナとリズ側が空いてる。
注文の声に応えたのは、最初に注文取りに来てくれた時と同じ娘だった…あの綺麗な翅をパタパタさせてまた席まで来てくれた。
「はーいっ」
「注文お願いしますぅ~。えっとぉ~、蜂蜜酒1つとぉ~、エールがぁ…」
「あ、マール俺も」
「マール、アタイもだっ」
乾杯した時一気に飲み干してしまったからおかわり頼んだら、アーネも同じだった。
まぁ、最初の一杯だからな、あとは調子に乗って飲み過ぎないよう気を付けとくか。
「うん~、じゃあぁ~エールを~3つぅお願いしますぅ~」
「蜂蜜酒が1つとエールが3つですねっ、かしこまりましたっ」
「よろしくねぇ~」
また注文を受けて酒場のカウンターに向かって行ったんだけど、やっぱり翅はパタパタしてる…いや、なんか気になっちゃうんだよね、あの翅……綺麗だしついつい目がいっちゃうわ。
「こうやって大勢で飲むのも久しぶりですっ、ふふっ」
「そーだねー、最近飲む時はラナと二人とかが多かったからねー」
「そうなんだ。ギルドの皆でとか無いの?」
「無いことは無いんですけど、そんなに多くはないですね。新人の歓迎の時とか、送別の時くらいかな?」
「そーそー。ここだけの話、うちのギルド意外とケチよ?」
おいおい、まだ酒も入ってないのにいきなり内情ブチかますなよリズ…フィルさんとショーならそんなこと無さそうなんだけど…あ、クリス女史がいるからか。
その辺りキッチリしてそうだもんな、あの人…。
「そ、そっか。まぁ今日は俺達パーティーの諸々の祝いって名目だけど、一緒に楽しんでくれると嬉しいかな」
「わたしはリズと違ってちゃんとみんなをお祝いしますから大丈夫ですよっ」
「ありがとな、ラナ」
「ま、ラナは元パーティーメンバーだしね。メンバーのみんなと飲むのも久しぶりなんじゃない?」
「言われてみるとそうだね…最近はみんな切羽詰まってたからここで飲んでることなんて無かったし……」
アーネ辺りがやけ酒とかしてそうな気もしたんだけど…そうでも無かったっぽいな。
いや、もう後がない状態でやけ酒なんて、そんなことはしないか…いくらアーネでも。
「じゃあ今日は目一杯楽しんで飲んでくれよ。みんなもそうしたいだろうし」
「はいっ、そうさせてもらいますっ!」
そう言って隣のシータに改めてお祝いの言葉を掛けてた…シータも嬉しそうだな、うんうん。
「はいよーっ、蜂蜜酒1つにエール3つお待ちーっ」
ラナとリズの分と俺達のおかわり分が来たぞ…って、あれ、さっきの店員と違う人が持ってきた。
違うんだけど…羽?いや翼って言った方がいいくらいのものが背中に付いてたところは同じだったけど、尻尾まで付いてる…爬虫類っぽい見た目の翼と尻尾だから、もしかして竜人ってやつかな?
さっきの幼いバイトって感じの娘とは違い、こっちは姉御っぽいベテランって感じの娘で、頭にちょっと大き目の角が付いてる。
「きたきたっ、ありがとねー。はいラナ、それとアーネちゃんも」
「お、ワリぃなリズ」
「ありがと、リズ」
「ナオトも、はい」
「ありがとな。あ、そうだ、みんな食い物どうする?」
ラナとリズも来たし、酒もまた揃ったし食えるものもそろそろ頼もうかなってみんなに聞いたら…
「あー、んなもん適当でいいよ適当でっ。食えるもんなら何でもいいぜっ!」
「せや、もう何でもええでーっ」
「私もぉ~、何でもぉいいよぉ~」
…だそうです。しょうがないからそのまま店員さんに注文した。
「じゃあ、悪いんだけど適当に人数分、何でもいいんで食べ物頼める?」
「何でもいいのかい?」
「みたい。だからお任せするよ」
「了解、任されたっ。適当に見繕って持ってくるよっ」
「うん、よろしく」
威勢良く任されてくれた姉御店員が去っていった…あの娘も翼動かしてるけど、さっきの娘みたいにパタパタじゃなくて、伸ばしたり畳んだりする感じで動かしてた。
あれは、客の邪魔にならないようにしてるのか?なんか器用だな…。
その娘の翼を気にしながら見送った後、みんながいる方に顔を戻したら、隣のリズがみんなを見てちょっとだけ感慨深そうに言葉を漏らした。
「みんな嬉しそうだねぇー」
「そりゃそうだろう、ギリギリだったのが解消されただけじゃなくて、逆に余裕まで出来たんだからな」
「そっか。ここ最近のみんなを見てたから余計に嬉しそうって感じるねぇ」
リズもリズなりにみんなの事見て気に掛けてくれてたってことか…ラナが抜けてからいろいろ大変だったんだろうけど、俺にはそこに関しては想像しか出来ないからな…実際見ていたリズには思うところがあるんだろう。
「昨日ぉ~ナオちゃんがぁ~、この世界に来てぇ運が良いってぇ言ってたけどぉ~…私たちもぉそうみたいだよぉ~。ふふっ」
「そうかな…俺の方が断然運いいと思うけど」
「そーだねぇ…こんなキレイどころに囲まれてるんだもんねぇー?」
「ぶっちゃけホントそれな。向こうの世界じゃ絶対あり得なかったから…」
そもそも女性とほとんど接点ない生活送ってたからな…。
俺、妻帯者だったはずなんだけど、それでも接点ない生活って…あ、深く考えるの止めよう…凹むわ……。
「そうなのぉ~?ナオちゃんってぇ、もしかしてぇ…可哀想な人ぉ~…?」
「…ごめんなさい、そこで俺を憐れまないで……」
「そんな凹まなくったっていいでしょ?今こうして囲まれてるのが現実なんだから」
「…リズ……お前いい娘だなぁ……ちっちゃいけど」
「にししっ、でしょう?しかもちっちゃいんだよ?」
「いや、うん、ちっちゃいのは分かってるけど…なんでしかも?」
「え、だってナオトちっちゃい娘がいいんでしょ?」
ぶはっ!こいつやっぱり自分も含めてたよっ!身体じゃないっつーの、今ここで一緒に酒飲んでる時点でお前は大人だろっ!勝手に属性付けるなよ、俺にっ!
「なんでだよっ!子供が可愛いってだけで別にちっちゃい身体がいいってわけじゃないっての!」
「え、でも好きでしょ?」
「ぐっ……い、いやっ、違う!そこは断固否定するっ!」
「ナオちゃん…どうしてぇ~今ぁ詰まったのかなぁ~?」
「う…マールも冷静にツッコまないでくれよ…だって純粋に子供が可愛いんだよ…子供の身体は基本ちっちゃいだろ……」
「そっかぁ、子供が好きなんだ…じゃあワタシも子供っぽくすればいい?ナ・オ・ト・お・兄・ちゃんっ」
ちょ、お前それは反則だろうっ!今のはどっからどう見ても子供にしか見えなかった…と思うだろ?残念だったな、リズ!お前には子供に見えない最大の部分があるんだよっ!
「ふ、ふふふ…リズ、そんなことしても無駄だぞ…。いくら子供っぽい真似したってリズはリズだ、それは変わらない…何故ならその、あー…」
危ねぇっ!これ言ったらセクハラじゃねぇか…リズが絡むと危険過ぎる……。
「何故なら…なに?ん?続きはぁ~?」
こいつ、絶対分かっててやってるな…そういや自分で唯一無二の武器とか言ってたし、最大限利用して全力で俺をからかって遊ぶ気満々だろ、これ……。
「と、ともかくっ!リズは子供じゃないっ!それだけは確定っ!はいっ、この話はこれで終わりっ!」
「あー逃げたなぁー、つまんないぞー」
「リズちゃんったらぁ~、ナオちゃんでぇ遊ばないのぉ~」
「いいじゃない、ちょっとくらい…マールちゃんだっていい武器持ってるんだからナオトで遊んじゃえばいいのにー」
だから、武器から離れてくれって!マールにだってさっきやらかしたばっかりなのに…ちょっとこの席どうにかならないかっ。
「…リズちゃんみたいにぃはぁ~出来ないよぉ……恥ずかしいぃしぃ………」
そう!それが普通の反応じゃないですかねっ、やっぱリズが自分の特徴を前面に出しすぎじゃないかっ、身長とか、あと、その武器とかっ!
「「「………………(じぃぃぃ~」」」
……ん?何か正面が静かだなって思ってたら……ラナ、シータ、アーネがこっちを見てた…全員ジト目で。
「ど、どうした…?」
「べっつにぃー、何でもねぇけどぉー」
「うん、何でもあらへんよぉー」
「…ナオトさんって……やっぱり、その、お、大きい方が……」
「待ったラナっ!その話はもう終わりにしたんだって!これ以上その話題をするとリズが止まらなくなるっ!」
まさかラナが振ってくるとは思わなかった…何だってもうみんなそんなの気にするんだよ、俺の好みとか誰得なんだよっ。
っていうか、ちょっとこの状況俺にはやっぱりハードルが高いわ…嬉しいことは嬉しいんだけど、俺一人で相手にするには荷が重すぎる…。
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