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第三章 来訪、襲来、ガルムドゲルン
#01 調査依頼
しおりを挟む「…っかしーなぁ……こっちでいいはずなんだけどなぁ……あーもーなんだよこれっ………」
「…う~ん……今ぁ私たちがぁいるのってぇ…この辺りぃでしょぉ~…?」
「…あー、ほら、さっきのここ、もしかしてこっちやったんやない…?」
「………」
アーネが持って広げた地図を覗き込みながら、マールとシータがあーだこーだ言ってる。
俺もそんな皆の後ろから隙間を見つけて地図を覗き込もうとした…まぁ、俺はマップ見ろって話なんだけど、この地図も一応確かめとかないとな、と思って。
今俺達がいるのは、ガルムドゲルンから南西に歩いて2日くらいの所にある山中の洞窟の中。
何でも『慟哭の洞窟』って呼ばれてる場所らしく、山の麓付近の村では時折呻き声のようなものが聴こえてくる…ってのが由来だとか。
で、なんで俺達が今現在こんな所にいて、こんなことをしてるのかっていうと…時は酒場で宴を開いた次の日に遡る───
―・―・―・―・―・―・―・―
「さてとっ。どれにすっかなーっ」
「ランクアップしたからクエストの幅が広うなってなんや嬉しいなっ」
「そうだねぇ~。失敗もぉ気にしなくてぇ良くなったしぃ~、気分的にもぉ楽にぃなったぁよねぇ~」
朝から冒険者ギルドにやって来てギルドボードの前で今日受けるクエストを探してる姫達3人…気持ちウキウキしてる感じに見える。
そう見えるのはギルドの中が彩り鮮やかに、華やかさが増してることも少し影響してるかな……昨日俺達が摘んできた花が至る所に飾ってあるし。
昨晩はギルド酒場での祝宴で大いに飲んで食べて騒いで…結構な時間、酒場を閉める直前くらいまでいた。
その後皆と別れて俺と姫達はメルさんの宿屋へ。
帰り際に──
「ナオトさぁん!」
「おう、ラナ。今日はありがとな。また今度一緒に飲もうな」
「はいっ、もちろんですぅ!あ。明日もギルドに来てくれますかぁ?」
「(結構酔いが回ってるなぁ、ラナ…)あぁ、そのつもりだよ。明日からもよろしくな」
「はぁい!お任せくださぁい!えへへー」
「…(すんごい尻尾フリフリしてるんですけど…めっちゃ可愛い)」
ポンポンっ
「えへへっ、ナオトさぁん…(ギュー」
「(あ…頭撫でたら抱き着いてきた…ホント可愛い生き物だなこれ)」
「「「「「あああぁぁぁああっ!!」」」」」
「テメェナオトっ!何してやがるんだっ!!」
「それは許されねぇぞっ!!」
「「「そうだそうだっ!!」」」
ゴンッ、ガンッ、ガツッ、バシッ、ビシッ!
「「「「「いってぇっ!!」」」」」
「ウルセェぞオマエ等!とっとと帰って明日のために休みやがれっ!」
「「「「「……は、はい………」」」」」
「じゃあなナオト、今日は楽しかったぜ。また飲もうや」
──なんてこともあったけど。
そうそう、帰り際といえばラナとリズに買ってきてたお礼のお菓子もちゃんと渡した。
なんかお土産みたいになった感があるけど、まぁそこは気にしないでおいた。
そのまま宿屋に戻ってゆっくり休んで、今朝は姫達と一緒に朝食を取り、ギルドまでやって来て今に至る、と。
「どう?なんかいいクエストあった?」
「んー…そうやなぁ……あ、これなんかどうや?『調査依頼(ウェラーメ村)』やって。ゴールドランクやからナオトはんにはちょっとあれやけど」
「調査依頼か…そんなものもあるんだな。あぁ、ランクは別に気にしなくていいよ」
「…どれどれ……んっと「村の近くの山中にある『慟哭の洞窟』の調査をお願いしたい。詳細は村長のモラットまで」だってよ。ちょっとしたダンジョン探索ってところか?」
「洞窟のぉ探索ぅ…大丈夫ぅかなぁ~…?」
シータが選んだ調査依頼…洞窟の調査らしいけど詳しい内容はその村に行ってみないと分からないっぽい。
こういうアバウトな依頼内容のものもあるんだな…簡単なのか難しいのか話を聞いてみないと判断つかないし、結構博打っぽい気がするんだけど。
「その、ウェラーメ村ってのはここから近いのか?」
「んー…どうやろ?ウチは聞いた事あらへんからなんとも…」
「アタイも知らねぇなぁ。ラナに聞きゃ教えてくれるんじゃねぇか?」
「じゃぁ~受けるかぁどうかはぁ~、場所を~聞いてからにぃするぅ~?」
「それでもいいか。じゃあそれ持ってラナのとこ行くか」
受けるか受けないかは一旦置いといて、村の場所だけでも聞いてみようってことで依頼書を持ってみんなでラナがいる受付カウンターへ。
今日は真ん中の窓口だった…そしてやっぱり一番長い待ち列になってた。
急いでるわけでもないし、最後尾についてのんびり待つこと数分…俺達の番に回ってきた。
「おはようラナ」
「あっ、ナオトさんっ、おはようございますっ!」
「おっす、ラナ」
「おはよぉ~ラーちゃん~」
「おはよ、ラナ」
「うんっ、みんなおはようっ」
元気一杯朝の挨拶を返してくれるラナ…朝からこの笑顔、ファンの皆が一日の活力にしてる意味が分かる気がするわ…。
「昨日は楽しかったよ、ありがとな」
「いえっ、こちらこそ!その…また、よければ誘ってもらえると嬉しいです…」
「うん、その時はもちろん誘うよ」
「はいっ、楽しみにしてますねっ。早速今日のクエストを受けに?」
「あー、うん、一応目星は付けてきたんだけど、その前にちょっと聞きたいことがあって」
「クエストに関してですか?なんでしょう?」
「えっとな、これなんだけど…」
クエストボードから剥がして持ってきた依頼書をラナに見せてやって、と思ってシータの方へ振り向いたら、ちゃんと意図を汲み取ってもらえたみたいで依頼書をラナの前に差し出してくれた。
「えっと…ゴールドランクの『調査依頼(ウェラーメ村)』ですね」
「そのな、ウェラーメ村っていうんはどの辺りにあるんか知りたくてな」
「あ、なるほど、村の位置が知りたかったのね。えっと…ちょっと待ってね…地図地図……」
カウンターの中でちょっと屈んでゴソゴソしだしたラナ…多分カウンター下に袖机みたいなのがあるんだろう、そこから地図を探してるっぽい。
「…っと、あった。ちょっと古いかもだけど、これがブラストヘルム皇国の周辺地図ね」
引っ張り出してきた地図をカウンター上に広げて俺達に見せてくれた。
A3サイズくらいの羊皮紙に書かれた地図だった…如何にもファンタジーっぽくていいとは思うんだけど、確か普通に紙も普及してる…よな?この世界に来てすぐの時お世話になった、ファルシェナさんの所でもらったこの街の地図と硬貨の一覧、あれは普通紙だったはずだけど…まぁ、分かればいいから別に気にするほどのことでもないか。
「ここがガルムドゲルンで…ウェラーメは……あ、ここですね」
ラナが最初に俺達が今いるガルムドゲルンを地図上で指差し、その指をスーっと左寄りの下へ動かしていって、ウェラーメ村のある場所で止めた。
地図上だと当然の事ながらそれ程離れてないように見えるけど、実際どれくらいかかるのかな?
「ここから南西に向えばいいのは分かったけど、距離的にはどれくらい?」
「そうですね…こっち方面の街道は途中までしか整備されてなかったと思うので、乗合馬車もあまり無いんですよね…。行くなら徒歩になると思うんですけど、この距離だと…2日くらいですかね」
歩いて2日…元の世界でそんな距離歩いたこと無いけど、今のこの身体なら余裕でいけそうなんだが。
スキルとかだけじゃなく身体能力もチート級とか恵まれ過ぎじゃないか?とは思うけど、かなり助かってるなぁ…ありがたい。
「2日ね…。だそうだけど、どうする?」
姫達の方を向いてこのクエストを受けるかどうか聞いてみた。
俺的には受けてもいいかな、とは思ってる…クエストの具体的な中身は行ってみないと分からないっていうちょっとした賭けみたいな部分はあるけど、初の遠出っていうところがいいなって。
なんかこう、ワクワクするものがある…元の世界じゃ絶対面倒だと思ってたはずだけど、今の状態なら何でも出来るって感じだし、何より…一人じゃないってことが一番の理由かな。
姫達と一緒ならどんな事でも楽しめそうな気がしてる。
「2日ってぇと…野営しないとだな」
「だねぇ…。野営するようなぁクエストなんてぇ~久しぶりぃ過ぎるねぇ…」
「まぁでも今はナオトはんもいるしな…ウチはええんやないかと思う」
「そーだな、いいんじゃねぇか?」
「二人がぁいいならぁ~、私もぉいいよぉ~」
どうやら受ける方向で話がまとまったみたいだ。
野営するとなるといろいろまた準備が必要だよな…この後ニル婆の店に行くのは確定だな。
「ほな決まりやな。ラナ、このクエスト受けるわ」
「うん、わかった。じゃあゴールドランクの『調査依頼(ウェラーメ村)』、受諾するね。調査依頼だから依頼書にサイン貰ってくるの忘れないように。あと、期限はないけど内容の詳細は村に行ってからになるから、一応気を付けて行ってきてよ」
ラナがカウンター上の魔導具を使って依頼書を複製した…控えを作ったってことか。
元の依頼書はシータが受け取って魔法袋にしまい込んだ。
「了解や。戻りは遅うなると思うけど、心配し過ぎんようにな」
「だな。ラナの心配性の方が心配だわ」
「それはっ…もうどうしようもないのっ!とにかくみんな無事に戻って来てねっ!」
「行ってみないことには何とも言えないけど、危なくなったら引き返してくるよ。多分大丈夫だと思ってるけど」
俺がみんなを全力で守ればいいだけだしな。
よっぽどの事が無い限り戻っては来れるはず…チートもあるし。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわっ」
「行ってくるねぇ~、ラーちゃん」
「頑張ってくるわ。お土産は…期待せぇへんでな?」
「みんなが無事戻って来てくれるのが何よりのお土産だってば」
「じゃあそのお土産は俺が責任持ってラナに届けるよ」
「はいっ、よろしくお願いしますねっ!」
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