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第四章 皇都グラウデリアへ

#33 拠点と人材(どちらも過分)

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 家の場所は、領主城の周りにある貴族街の端、平民街にかなり近い所で、丁度領主城と冒険者ギルドを直線で繋いだ中間辺りだとセヴァルさんが教えてくれた。
 そこまでまた馬車で案内してもらったんだけど、端とはいえ貴族街、何となくもしかして…って予想してたら、予想通り、いや、予想以上だった…。


「「「「デカっ!!」」」」


「ここなのぉ~っ!?」

「ちょっ、これはいくら何でもデカ過ぎやないかっ!?」

「普通の家だと思ってたのに…」

「しかも隣同士なのか…」

「ここ、これはちょっと…お、大き過ぎますよ、ね……」

「………そう、かな……?…………みん、な…一緒、だか…ら……いい、と…思う……よ………?………」

「そうですわ。リオお姉さまのおっしゃるとおり、これくらいでちょうどいいですわよ」

「わたしのおうちとおんなじくらいだねーっ」

「わたくしのいえより少し小さいくらいでしょうか」


 いやいや、貴族のお嬢様方からしたらそうでしょうけど、俺達からしたらデカ過ぎなんだってっ。
 まんま貴族の屋敷、冒険者が住むような所じゃないでしょって話でっ。
 弘史達の屋敷と並んでて、気持ち俺達の屋敷の方が大きい気もするけど、どっちにしても俺と弘史のパーティーで住むにはどう考えても有り余る。
 これ、維持する方が大変だって!


「執事長に聞いた話では、ここは二軒とも伯爵位の方の屋敷だったそうです。ですが同時に皇都へ招致されたらしく、手放す事になったと。そこを旦那様が報酬として押さえたというわけです」


 セヴァルさんが律儀に経緯を説明してくれた…けど、ゲシュト様もゲシュト様で冒険者に貴族の屋敷を報酬として与えるのはどうなのさっ。
 専属なうえ漂流者だからってこと?やっぱり…。
 にしたってこの街の人達への体面とか、その辺は考慮してくれてるのかと…。
 変な噂とか立ちそうだぞ、これ…貴族の屋敷に住む冒険者がいるとかいって。


「中をご覧になっては如何ですか?」

「え、ホントにここで間違い無いんですか…?」

「旦那様から頂いた鍵をお使いになれば、お分かりいただけるかと」

「これか…」

 さっきゲシュト様から貰ったアンティークな鍵を収納から出して見る。
 門から扉まで距離があるから当然ここからじゃ鍵穴なんて見えるわけがない。

「ま、もう貰っちまったしな。入ってみるか」

「それはそうだが…」

「いいじゃないっ、ヒロシの言う通りもう貰っちゃったんだし。ラナ達の家より少し小さいのが気に食わないけどっ」

「たた、大してか、変わらないよ…モ、モリーちゃん……」

 と、弘史達は貰った家に早速入ってみることにしたみたいだ。
 なんか弘史達と一緒にもう一人の執事とメイドさん半分も付いていったけど。
 確かにもう貰っちゃったものだし、今更返すってわけにもいかないし…とりあえず俺達も中に入ってみようかと門を開けて潜ろうとしたら、シータにストップかけられた。

「あ、ナオ。これあれや、メンバー全員で見た方がええと思うわ」

「そーだなぁ。ナオト、ちょっとみんな連れてきてくんね?」

「え…もしかして」

「うん~、これだけぇ大きいならぁ~、皆でぇ一緒にぃ住んでもぉ~大丈夫ぅそうだよぉねぇ~」

「そうよね…わたしもそれがいいんじゃないかと思います」

「………(コクっ…………」

「他のみんなにも見てもろて、それでええっていうならそうしよ、な?」

 え、ホントに…?
 いや、まぁ確かにこんだけ大きけりゃ余裕でしょうけど、皆一緒…?大丈夫なのか、それ……。

「とにかく連れてきてくれって。転移でパパッと」

「わ、分かったよ…」


 と言う訳で皆に言われた通り、まずは冒険者ギルドにいるリズ、クリス女史にちょっとリズ借りるって言ったら普通にいいわよって言ってくれたのが意外だった…どうやら特にお咎めは無かったらしい、良かったな、リズ。
 それから情報開示局にいるファル、こっちは暇そうにしてたから問題なさそうだった、新たな漂流者は来てないみたい。
 そしてノルチェシェピアにいるウェナ、いない間はシャリーがフォローしてくれるってことで3人共あっさり連れて来ることが出来た。


「え、なにっ?ここが…ナオトの家っ!?」

「お兄さん…貴族になっちゃったんですかっ?」

「ふわぁ…流石ナオト様ですね……」

「いやいや貴族にはなってないからっ。今回のクエストの報酬で貰っちゃったんだよ…」


 連れてきた3人も屋敷ってことで驚いたり勘違いしたりしてる。
 見紛うことなき貴族の屋敷ですからね。


「今から皆で中に入ろうとしてたとこなんやけど、リズもファルもウェナも一緒に思うてな」

「こーゆーのはみんな一緒じゃねぇとな」

「それは…何故でしょうか?」

「えっとぉ…わたしも、なの?」

「いいもぉ何もぉ~、ファルちゃんもぉウェナちゃんもぉ~私たちとぉ同じぃでしょぉ~?」

「そ、それは……」

「え?あれ…?ウソっ何で分かっちゃったのっ!?」

「あんなことがあったからね、そうじゃないかなって。だからここに居るみんな同じってことね」


 …エクリィとアコ以外の全員がここに…。
 正確に言うとアコは居るけど、実体が無いだけで。


[アコは何時もマスターと共に]


 あーハイハイ分かりましたよ。
 しかしこれ、中見たら確定しちゃう気がする、満場一致で。
 こんだけデカいとまだまだ増えても大丈夫だねーっ、とか言い出しそうなやつもいるしなっ。
 もう増やさねーからなっ!エクリィで最後って俺の中では決めてるんだからっ!


「すみません、ここに居る皆様ということは…そちらにいるお嬢様方も、ということですか?」

「うんっ!そーだよーっ。わたしはヒーナリナリィ・ルナ・リリエンノルン、ヒナリィって呼んでねっ」

「わたくしはティシャルフィータ・ソル・グリュムセリナともうします。ティシャとお呼びください」

「ふぇー…こんなちっちゃ可愛い娘達まで…。お兄さん、やりますねぇー」

 そういやファルとウェナはひぃとティシャには会ったこと無かったっけ。
 いやそれより待てウェナ、その狙ってやりましたみたいな言い方は止めてくれっ。
 俺はただ純粋に可愛がってただけであって、こうするためにしてたわけじゃないんだよっ!

「ふふっ、本当に可愛らしいお嬢様方ですね。私はファルシェナといいます。よろしくお願いしますね」

「わたしはウェナヴェナルーチェ、ウェナでいいよっ、よろしくねっ!」


 初対面の挨拶が終わったところで貰った鍵を使って扉を開け、全員揃って中に入ってみると…本当に西洋の屋敷って感じで、ホールがあって階段は両脇にお洒落な感じで曲線を描く様にあって、その先には広めの通路と幾つもの扉があって…元一般人の漂流者の俺が住む所じゃないとやっぱり思っちゃったり。

「いや、ホントどうするんだこれ…どうやって維持すればいいんだ、こんな屋敷。俺達の手には余るだろう…」

「せやな…ウチらが空けてる間だけでも面倒見てくれる人雇うしかないんちゃうか?ウチらが居る時はウチらでやるけど…」

「ねぇねぇー!部屋全部家具も揃っててすぐ住めそうっ!」

 真っ先に階段を駆け上がってその先の通路に面した扉を次々に開き、中を確認して回るリズ。
 こっちは家のことどうしようかと考えてるのに、ちょっとはしゃぎ過ぎじゃないか…?

「ったく、住む気満々じゃねーか、リズ…」

「ナーくん!お風呂もみんなで入れそうだよーっ」

「またナオトお兄さまのおせなかをおながしできそうです、ふふっ」

 ひぃとティシャは何故か浴場を最初に探して確認したらしい。
 そっか、風呂も全員で入れる広さなのか…って、いや、だからって全員で入ろうなんて思……ああーっ!そうですよっ思い出しちゃいましたよっ!
 忘れられるわけないだろっあんなのっ!
 他所様の家の風呂であれなんだから、持ち家の風呂だったらもっと気軽に突入してきそうだ…。
 ひぃとティシャに背中流してもらうのはアリだと思ってるけど。


「ファルちゃんとぉ~ウェナちゃんはぁ~どうするぅ~?」

「えっと…どうする、とは…?」

「これだけ広いし部屋もあるんだから、一緒に住む?ってことだよ?」

「え?だってここ、お兄さんの家…」

「そうですよ、ナオト様の家、ですよね…?」

 あー、もうリズだけじゃなくて皆一緒に住もうって気満々じゃないですか…。
 ひぃとティシャもか?真っ先に風呂場探しに行くくらいだし…。
 まぁ中見たらほぼそうなるんじゃないかとは思ってたけどさ。

「あー、その、なんだ。二人もみんなと同じってことで、二人がそうしたいんなら何も遠慮はいらないよって…」

「皆様と同じ…。私もナオト様の、ということですか…?」

「あ、わたしもってことっ!?」

「…うん。そうなっちゃってるんだよね…二人にも称号付いてるから」

「そうなのですね……」

「そっかー、シーちゃん達と同じなんだーわたしも……」

 そういうことなんですよ…何故か。
 この欠陥仕様の称号が何でもかんでも吸い込むからこんなことに…。
 これ本人が気を付けてればどうにかなるようなもんじゃない気がするんだよな…ここまでくると。
 いや、うん、ファルは美人だしウェナも面白可愛いって思っちゃったのは事実なんで、多分そこを拾われたんじゃないかと思わなくもないんだけど…。


「で、どないする?二人も一緒に住む?」

「ナオト様や皆様が良ければ、ご一緒したいですね。楽しそうですし、何より…食事に困る事がなさそうです、ふふっ」

「食事?ってなんで食事だけ?ファルさん」

 あれ、ウェナはファルの事知らないのか。
 てっきりあの日の女子会の時に聞いてるもんだと思ってたけど…夢の中の話はしなかったってこと?
 じゃあなんの話をしてたんだろ…気になるなぁ。
 まぁ皆に聞いたところで教えてはもらえないだろうけど。

「ああ、ウェナ様にはお伝えしていませんでしたね。私、サキュバスなんです」

「サキュバスって…夢の中に入って精気を吸うっていう、あの…?」

「はい、そのサキュバスです」

「そうだったんですねー…。でも今は人にしか見えませんよね」

「これはですね、本来の姿を隠すためにスキルで人の姿に見せているのです」

「あ、そういうことですかー。それじゃ一緒に住むようになったら本当の姿って見せてもらえます?」

「ええ、構いませんよ」

「やったっ、ありがとーファルさんっ」

 それは俺も見たい。
 ということは、二人共決まりってことね。
 賑やかになりそうだ…寂しいよりは全然いいけど。
 なんかもう一人にはなりたくないと思うようになっちゃったな…皆が居てくれるからだろうな、きっと。

「ファルお姉ちゃんとウェナお姉ちゃんもいっしょー?」

「はい、ご一緒させてもらいますね、ヒナリィ様、ティシャ様」

「よろしくねーっ、ヒナちゃん、ティシャちゃん」
 
「こちらこそ、よろしくおねがいいたします、ファルお姉さま、ウェナお姉さま」

「ほな決まりやなっ。ウェナは実家やったっけ?」

「うん、そだよー。でもお姉ちゃんと二人部屋だったから早く出たかったんだよねー」

「両親は大丈夫なのか?」

「あ、うん、お兄さん相手なら喜んで送り出してくれるよ。なんてったって漂流者だしねーっ」

 そうですか…いや、でもその辺はちゃんと説明しないとだよな。
 ウェナの両親にも挨拶しておかないと…って、やっぱり激しく違和感が……。
 なんで俺こんなあちこち挨拶しにいくことになってるんだ、さっきもひぃとティシャの両親に言ったばっかりなのに…。
 まぁ、全部エクリィのせいなんだがっ!

「んじゃ部屋割でもすっか。希望あるやつは?」

「えっとぉねぇ~…」

 と、アーネが仕切って皆で部屋の割り振りをし始めた。
 何か俺の部屋だけは決まっちゃってるらしい…一番広くて、何故か特注の巨大ベッドが置いてある部屋。
 ゲシュト様…気回し過ぎです。


「どうやら皆様お気に召されたようで何よりです」

「ですね…。ただこれだけの広さだとやっぱり俺達だけじゃいろいろ大変かなぁって…」

「その件についてナオト様にご提案があるのですが」

「?何かいい案でも?」


 セヴァルさんがワイワイしてる皆を見て微笑みながら俺に話し掛けてきた。
 この屋敷を維持するのに何かいい方法でもあるんだろうか?

「旦那様のお許しがいただければ、私をナオト様の執事として雇っていただけないかと」

「え?セヴァルさんを?」

「はい。それと彼女達も一緒に」

 セヴァルさんの近くにいたメイドさん達4人が俺に向かってお辞儀をする。
 それは願ってもない申し出だけど…ゲシュト様に悪いよな、引き抜いたみたいで…。

「こっちとしてはかなり助かりますけど、流石にそれはゲシュト様に迷惑が掛かるんじゃ…」

「いえ、恐らくナオト様やヒロシ様であれば快くお許しいただけるかと」

「それは…やっぱり俺達が漂流者だからですか?」

「はい。しかも大変優秀となれば尚更です」

「優秀って…そんなことは無いと思いますけど…」

「ご謙遜を。あれ程の魔物の襲撃から私達を守ってくださったのです、あれを優秀と言わずしてなんと言うのでしょうか。ここに居るのは皆様の姿を見て仕えようと決めた者達なのです」

 そんな…だってほら、俺だけ何もしてないから謙遜も何も出来ないんですって。
 正直そこまで言われるような人ではないと思うんですよ…。

「そこまで言ってくれるのは嬉しいんですけど…でも、本当に大丈夫なんですか?」

「お任せを。この人数程度であれば旦那様ならすぐに補充出来るでしょう。たまに行う一人二人の人員募集で数百人は集まるのですから」

「そんなに…さすがゲシュト様だなぁ」

「旦那様の人徳のなせる業かと」

 そっか…あとはこの街の人達の人柄というか…いい領主様ってことなんだろうな。
 だったらいい話には違いないよな、今回の旅でお互いに知った仲だし、見ず知らずの人を雇うよりは。
 皆にも聞いてオッケーって言うならお願いしてみようか。
 俺達冒険者に執事やメイドなんて過分な人材だとは思うんだけど、ね。


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