異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜

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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達

#17 深淵の邂逅(SIDE:ラナ・リオ)

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□■□■□





 …突然だった。

 篝火の前にリオと二人で座っていて、正面に居たナオトさんが何かに気付いたのか、後ろへ振り返った瞬間、目の前が真っ暗になり…自分が何処に居るのか瞬時に分からなくなった。

 何も見えず、何も聞こえず、匂いも味もしない。
 何かに触れている感覚も無いから、自分が今座っているのか、寝ているのか、立っているのかすら分からない…つまり、五感の全てが一瞬で奪われた状態に陥ったのだと。

 自分の鼓動すら聞こえないから、生きているのかどうかさえ分からなかった…。

 辛うじて、こうして思考出来ているだけ。

 だけど、不思議と怖くはなかった。
 逆に安心するくらい。
 思考出来ているのもそのせいかもしれない。

 何故なら…自分が今、こうして包まれているであろうモノを、わたしはよく知っているから。



 ───『真闇』───



 確かナオトさんはそう言っていた。
 自分がほぼ常に纏っている、目に見えない闇の膜のことを。

 見えない闇なんて、何の事だかさっぱり分からなかったけど、ナオトさんの隣に居る時や触れた時、何となく感じる何かがあったのは分かった。

 今、自分はその真闇の中にいる。

 身体からの感覚は無くても、微かに出来る思考だけで、それだけは確信出来た…こんな状況になってても怖くもなく、安心してるのが何よりの証拠だって。

 でも、何故今突然こうなったのか、それが分からない。
 ナオトさんは自分以外これを使える人はこの世界には存在しない、とも言ってた。
 そのナオトさんはこうなる直前、わたし達に何かをしたようには見えなかったし…。

 どうにもならない状態で、ただ僅かに残る思考を漂わせていたら…その思考に直接割り込んでくる何かがあった。


「(……グルルルゥゥ……)」


 …唸り声?
 何となくだけど、わたしと同族に近いような…。


「(……あの人は、誰…?……)」


 今度はわたしが理解出来る言葉だった。
 どうやらこれでわたしと意思疎通しようとしてるみたい。


「(…あの人?誰の事を言っているの?)」

「(……なぜ、あなたは、わたしと同じモノを待っているの…?……)」


 言葉は理解出来たけど、内容についてはよく分からなかった。
 あの人…もしかして、ナオトさんのこと…?
 同じモノっていうのは、この真闇のことかな?


「(あの人っていうのは、側にいた男の人のこと?)」

「(……そう……)」

「(同じモノっていうのは、今わたし達を包んでいるモノ?)」

「(……そう……)」


 どうやら何となく思考した通りだったみたい。
 わたしが持ってるわけじゃないけど、いつもナオトさんの近くにいたからなのかな?
 でも、これを知ってるってことは…この子は確実にナオトさん絡みなんだろうなって思う。

 ナオトさん…ここに使える人が存在してますよ?


「(…分かった。それじゃ、わたしと一緒にその人と会いましょう。大丈夫、ちゃんと付いててあげるから)」

「(……一緒、に…?……)」

「(ええ、一緒に。ねっ)」

「(……分かった…。……ありがとう……)」


 その子がそう言って納得した後、サァっと包まれていたものが解けていき…五感全てが戻って来た。





□■□■□





 …篝火を挟んで目の前に居たマスターが、何か気になるものでもあったのか、ふっと後ろへ振り向いた瞬間だった。

 視覚が奪われ篝火の光源が無くなり、今見ていたマスターの姿も失われた。
 篝火の薪がパチパチと燃えている音や、草がそよそよと靡く音、薪の焦げた匂いや草花の香り、夕食にシータが味付けしてくれた肉料理の残り香と味。
 そして、頬を撫でていた風の感触、座っていた地面の感触…それら全てが一瞬で無くなってしまった。

 自分の身体が何処にあるのか…それさえも確かめる術は無く、出来ることと言えばこうしてただぼんやりと思考するだけ。

 どうして急にこんな事になったのかは分からないけど、不思議と不安や恐れは無かった。
 寧ろ慣れ親しんだ何かに包まれているような安心感が思考を駆け巡ってる。

 理由は分かってる。
 これは、マスターの側に居る時や魔力補充で触れてもらった度に感じた何か…マスターが常に纏っているって言ってた、『真闇』というものだからだろう。

 思考の片隅でそれだけは理解出来ていたから、こんなことになっても慌てずにいられるんだ、と。

 理解は出来てもどうすることも出来ないのは変わらないから、この思考の流れのままに任せていたら、その思考に直接干渉してくるものがあった。


「(……あの人、何…?……)」


 いきなりの質問だった…わたしでも分かる言葉で。
 今包まれているんだろうこの真闇の中に、わたし以外の誰かが居るということなのかな…。


「(………あの、人…?……誰、の事……?…………)」

「(……あなたのそれは、わたしと同じモノ…だよね…?……)」


 重ねられた質問に、今の思考が追い付かない。
 あの人とは、マスターのことなのかな?
 同じモノ…それは、この真闇のこと…?


「(……あの人、って……近く、に…いた………男、の人…?…………)」

「(……うん、そうだよ……)」

「(……同じ、モノ……。…それ、は……今、わたし…達を……包んで、いる………これ、の…事…?………)」

「(……うん、そうだよ……)」


 追い付かないながらも何気なく思考した通りで当たっていたらしい。
 同じモノ…ひょっとしたら、マスターがわたしにも与えてくれたのかな…?だったら嬉しいな、マスターと一緒になれたみたいで…。
 だけどマスターは確か、これを使えるのはこの世界でマスターしか居ないって言ってたはず…。
 だとしたらこの子は…マスターに何か関係があるとしか…。

 もしかして…マスター忘れてるのかな?


「(……うん…分かっ、た……。……じゃあ…わたし、と……一緒に…その、人……マスター、の…所へ……行こう………)」

「(……一緒に行ってくれるの…?……)」

「(……うん…。……一緒、に…いて……あげ、る………)」

「(……そう…分かった。ありがとう……)」


 その子がわたしと一緒に行くって了承した後、サァっと包まれていたものが解けていき…身体全ての感覚がわたしの元に戻って来た。


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