160 / 214
第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#31 攻盾と護剣
しおりを挟む客間まで案内を受けてゆったりとした大きなソファーに俺達黒惹華と、向かいに訓練していた勇者達が座り、使用人がお茶を運んできてくれて話す準備が出来た。
黙って付いてきたランとイアはというと、俺の両隣に座ってるラナとリオの膝上にいたりする…リオメインの話になるだろうから、イアは俺の上でいいだろって言ったら、イアは無言でリオの上がいいって訴えるし、リオも「……大丈、夫………平気……」とか言うからこうなった。
まぁ喋らないし黙って座ってるだけだろうから、いいっちゃいいんだけど。
「ようこそ鼠人族領へ。私がここの領主、ジェリルラートミィよ。この娘の母でもあるわ。旦那は外出中でいないのよ、ごめんなさいね」
まずはここ鼠人族の領主であるジェリルさんが名乗ってくれた。
そっか、鼠人族は女性が領主なのか…姫達の所は皆男性が領主だったから、ここもそうなんじゃないかと勝手に思い込んでしまった…。
「ちゅ?今、母ちゃまが領主で珍しいとか思ったっちゅね?」
あ…いかんいかん、顔に出ちゃってたか、俺…。
「すみません、昨日会った領主は全員男性だったので…ちょっと思っちゃいました」
「そうね、珍しい方だと思うわよ。私と、あとは猫人族の領主…シャーミィくらいだし」
「にゃーのマミーも領主なのにゃっ」
「私達鼠人族とシャーミィ達の猫人族は大婆さま、ラビィとアーメルが居たからね。勇者パーティーの一員として魔統王を討伐した功績を讃えられて領主になったのよ」
「…っ!……ラビィ、と…アーメル…は、今………」
「……二人共天寿を全うして逝ったわ…この娘達の顔を見た後に、ね。最期まであなたの事を気に掛けていたわよ……」
「……………」
そうか…二人はもう亡くなってたのか…。
獣人も俺達人種に比べればそれなりに長寿なんだろうけど、竜人ほど寿命は長くないらしい。
それじゃ、リオのかつての仲間はもしかしてもう…。
「あなたが閉じ籠った後も何度か訪ねてたみたいよ。早く誰かに見つけてほしいって、地図まで作っていたらしいわ」
「地図…って、もしかしてあれじゃねーの?」
「あっ!ニル婆に貰ったやつかいなっ。確かまだ魔法袋に入れっぱなし…お、あったっ、これやなっ!」
アーネの一言で思い出したシータが、腰に着けている魔法袋を漁り、そこからニル婆に貰った地図を引っ張り出して目の前のテーブルに広げた。
「…うん、大婆さまの字ね。役に立ったみたいで良かったわ。大婆さま達も喜んでくれてるんじゃないかしら」
「お二人が作ったものだったんですか…。これ、俺達からしたら今となってはもう宝の地図ですからね」
「うんうん~。リーちゃんっていうぅ~素敵なぁ宝物を~見つけぇられたしぃねぇ~」
「……宝、物…………」
「そう、宝物…だよっ。でもそっか、あの時の依頼でこれも手に入れてたんだ…」
「あぁ。ニル婆がな、持ってけって言うから貰っといたんだよ」
たまたまニル婆が思い出してくれて、譲ってくれたんだよな…ただ、地図としては大体あってたけど罠の位置とかの記載は無かったから、その点はちょっと役に立ってなかった。
「確か兄さんがそれなりの罠を仕掛けてきたって…あの程度の罠を抜けられないようなやつにリーオルは任せられないとか言って」
「あー、そういやそんなこと言ってたねぇ、攻にぃが」
やっぱりそういう意図があったんだ…あの封印の文言からして何となくそうじゃないかと思ったのは的外れってほどでもなかったか。
それなら罠の位置まで書かれてなかったのは納得出来る。
まぁ、あの時はアコのおかげで何とかなったしな…余計なことはしてたけど。
[対象者:遊佐 尚斗に対する親密度を一覧
それのことだよっ!思い出させるなっての!
あとは姫達が発動させてたよな、お前のこと…いや、今考えるとホント余計なことしかしてないなお前はっ。
[対象者:遊佐 尚斗に対する好感度を一覧
やかましいっ!最近構ってなかったからここぞとばかりにってバレバレだわっ!
[本当に見なくてもよろしいのですか?後悔しますよ?]
何がだよっ、そんなもの見て順位付けなんてされても嬉しくないわっ!
[メンバーほぼ同列なため、順位付けするには小数点以下5桁表示しなければなりません]
細かいなっ!?え、なに、そこまでしないと差が出ないほどなのっ!?
[堂々の一位はなんとまさかの
いらんわっ!!そんな情報は求めてないっ!!
序列なんて付いた日にゃどうしたらいいか分からなくなるだろーがっ!!
……気っ、気になんてならないからなっ!?
っていうかちょっと黙ってて、今はこっちの話が先なんだよっ!
「あー、うん、あの洞窟にあった文章見て、そうなんじゃないかなって思ったよ…」
「えーっと、おにーさんがリーオルを連れ出した、でいいんだよね?」
「そうなる…かな。正確に言うとここにいる仲間のうちの三人と一緒にだけど。っと、そうか、ごめん。俺は遊佐 尚斗、多分君達と同じ日本から来た転生者だよ」
「あ、やっぱりそうだったんだー。ボクは楯 攻瑠美、護の勇者だった堅護の妹だよっ。ボクは攻盾の勇者なんだってっ」
「私は攻の勇者、攻輝の妹で御剣 護璃です。私は護剣の勇者ってことになってるみたい」
攻盾と護剣…だからあんな戦闘スタイルだったのか。
どういう基準でそうなったのか…あれか、名前から取ったとかそういう感じ?
堅護と攻輝は氏名からそのままってのは分かる。
盾で護る、剣で攻めるって素直にそうなったんだろうな。
それでいくと二人は名前の方に攻めると護るが入ってるのか。
なんだかなぁ…まったくどういう喚び方したんだか、エクリィは。
「チュチュと母ちゃまは、コウキちゃまの血を受け継いでるっちゅよー」
「私達はコウキ様の子孫にあたるのよ。なんでも大婆さまがコウキ様との別れ際に無理矢理子種を強請ったらしくって…」
む、無理矢理…攻輝がラビィに襲われたってこと?
でも確かにそれくらいしないとダメだったのか、居なくなるって分かってるのに、そんな無責任なことは出来ないって思うだろうしな…。
「そんなことはなかったみたいですよ。最後はちゃんとお互い納得してって言ってましたし。ただ妹に妄想で童貞捨てたとか言ってくるのはどうかと思いましたけど」
「あはは…えっと、二人共全部知ってるのかな?」
「大体は聞いてるよー」
「そうですね、大体は。最初に話を聞いた時は頭大丈夫?って思いましたけど」
そりゃまぁそうだよな…異世界行って魔王倒して帰ってきましたーなんて、それ、なんてラノベ?って俺でも思うし。
けど護璃って娘は中々辛辣だな…頭大丈夫とか思いながら黙って聞いてたんだ…。
「よく信じたね…」
「いえ、ほとんど信じてませんでしたよ。けど作り話としてはよく出来てたし、それなりに面白かったから覚えてたってだけです」
「ボクたちがこっちの世界に来て、あー、おにぃ達の言ってたことは本当だったんだなーって」
なるほど、そうゆうことね。
こんな話、そう簡単に信じられるものじゃないだろうしな。
二人でほぼ同じ妄想して…お互い綿密に話し合って創り上げた物語って、向こうの世界に居たらそう考えちゃうよなぁ。
「……ケンゴ、と…コウ、キは……今、どう…してる、の……?…………」
「兄さん達は今、二人で同じ大学に通ってますよ」
「恋人はいないみたいだけどねー、どっちも」
「そっか。じゃあ二人共元気に過ごしてるんだ」
「私たちがこっちに来る直前までだと、そうですね。今は分からないですけど」
「まー、ボクたちがいなくなったのはこっちの世界に喚ばれたからって思ってるかもねー」
二人共こっちの世界を知ってるわけだし、そう思っててもおかしくはないか。
出来れば自分達がまた喚ばれたかったって思ってるかもしれないけど。
「二人共異世界経験者だから、そうかもしれないな」
「……二人、共……元気、なん…だ……。………よかっ、た…………」
それからはリオが、元の世界に戻った後の堅護と攻輝がどうなったのかを妹二人から具体的にいろいろ聞いたり、かつての仲間だったラビィやアーメルのことをジェリルさんから聞いたり、合間にお互いの仲間の紹介をしたりと、結構な時間話してた。
ジェリルさんの娘はチューチュナーデっていう名前で、皆からはチュチュって呼ばれてる。
お母さんとはまた違って、頭には結構大き目な丸耳、世界的に有名な某ネズミ…程ではないかもだけど、それに近い感じの耳で、両頬からピンッとした三本ヒゲが生えてて愛らしい顔付きに似合ってると思う。
身体付きはさっき見た感じだと子柄…もし俺のメンバーになったとしたらミニマム組確定くらい。
いや、もしもの話であって吸い込まないよう十分気を付けますけど。
語尾にちゅっちゅ付けてるところも容姿と相まって愛くるしさが割増しされてるんじゃないかと。
猫娘の方は名前がペルーチカマーシャ、ペルって呼ばれてて、同じネコ科のアーネと良く似た風貌だ。
耳と尻尾は白、黒とグレーのマーブル、目付きは若干ペルの方が柔らかいかな。
少し落ち着きが無さそうなのと、クルックル変わる表情が猫っぽさを感じさせる。
にゃーにゃー言ってるのもテンプレだけど似合ってて可愛い…今度アーネにもにゃーにゃー言ってみてってお願いしてみようかと思うくらいには。
皆の前じゃまずやらないだろうけど、二人っきりの時とかならやってくれそうな気がする。
…照れた顔で「にゃ…にゃー……」とか無理して言ってくれるアーネ…ヤバいな、想像しただけで萌える。
まぁ、意外と開き直って普通ににゃーにゃー言ってくれそうな気もするけど、それはそれでいいな。
ちなみにペルもチュチュも姫達とは会ったことがあるみたいなんだけど、小さい頃だったから覚えてないらしい。
姫達も同じで記憶には残ってないそうだ。
と、いろんな話題を切れ間無く皆で話し込んでる最中に、もの凄い勢いでこの部屋へ突入してきた人が…。
0
あなたにおすすめの小説
絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
想いというのは中々厄介なものであろう。
それは人の手には余るものであり、人ならざる者にとってはさらに融通の利かないもの。
それでも、突き進むだけの感情は誰にも止めようがなく…
これは、そんな重い想いにいつのまにかつながれていたものの物語である。
―――
感想・指摘など可能な限り受け付けます。
小説家になろう様でも掲載しております。
興味があれば、ぜひどうぞ!!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる