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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#34 二人っきり
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「(エマ?ちょっといいかな?)」
勇者達やシルファ達とこれからのことを話し合った結果、エルフの国へ向かうことになったんだけど、話が纏まった頃にはもう日が落ちていて今から出立するのは都合がよろしくないってことで、明日になった。
だったら一旦俺達はガルムドゲルンへ戻って明日また来ようとしたんだけど、ジェリルさんが「晩御飯も用意するから皆で泊まって一緒に出発すればいいんじゃない?」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
ガルムドゲルンに居る皆には、勇者に会って話してくるとしか言ってこなかったから、そんなに間を空けず戻ってくると思われてるかもしれなくて、エルフの国まで行って修行に付き合うとなると、いつ戻れるかまでは明確に分からないし、その事だけは伝えておかないと、と思って晩御飯とお風呂をいただいた後、こうしてエマに念話を飛ばしたってわけだ。
「(………ふぅっ……)」
「(…?エマ?聞こえてる?)」
「(……ん……っ…………はぇ?)」
うわ…なんかスゴい気の抜けた感じの返事が。
あのエマからそんな声が聞けるとは思いもよらなかった…けど、ちょっと意外で和んだ。
「(………っ!?!?)」
[(ドタッ、バタバタッ!ドンガラガッシャーンっ!)]
「(………え、何やってんのアコ)」
[(エマージュノーティスの現在の状況を的確に表現してみました)]
「(状況って…繋がってる相手のこと分かるのか)」
[(アコを通しているので当然です)]
「(あ、そう…)」
それは分かったけど、ドンガラガッシャーンて…いやまぁ分かりやすいけどさ、慌ててる様ってのは。
なんかタイミング悪かったんだろうか?
「(ナナ、ナオト様っ!?あっ!)」
「(ちょ、エマっ大丈夫かっ?)」
「(もも、申し訳ありませんっ!そのっ、突然ナオト様の声が頭に響いてきたので、驚いてしまいましてっ…。これが話に聞いていた念話というものですか……)」
そっか、エマ達メイド組と魅音を除くマニファニのメンバーは使えるようになったばっかりだもんな。
家の事任せてるからって特に気にせずエマに飛ばしてしまった…。
「(驚かせてごめん、タイミング悪かった?)」
「(いえっ、その、と、特に問題はありません…です……)」
「(そ、そう?ならいいけど…。えっと、ちょっとみんなに伝えておいて欲しい事があるんだよ)」
「(あ、はい、承ります)」
「(明日から俺達エルフの国へ行くことになったんだ。ちょっと勇者達の修行に付き合うことになって。だからまたしばらく家戻れないかもしれない)」
「(エルフの国というと…精霊王国ですか。畏まりました、皆様に伝えておきます。こちらの事はご心配なさらずに)」
「(よろしく。何かあったらこうやって念話で連絡くれればいいから)」
「(はい、それも伝えておきます。あ、あのっ)」
「(ん?)」
「(その…なぜ私だったのかと思いまして……)」
「(あぁ、うん。こういう連絡事項とかはエマが適任かな、ってパッと思いついて。ダメだった?)」
「(いえっ、駄目なんてことはありませんっ。その、皆様の中で私に頼ってくださったのが嬉しかっただけで…)」
「(そ、そうなんだ…。多分これからもちょこちょこ頼んじゃうと思うけど)」
「(はいっ、お任せください。では、お気を付けていってらっしゃいませ)」
「(うん、ありがとう)」
よし、と、これで大丈夫かな。
でもこんな事で喜んでくれるとか…連絡係として使っちゃってるだけなのに。
本当に俺が何やってもいいようにしか取られないんだな…どれだけ慕われてるんだ?俺…。
身に余るんだけど。
いや、当然嬉しいんだけどさ。
さて後は…明日エルフの国へ向かうだけか。
あ…そういえば確か弘史達も行くって言ってたよな、フラムの所へ。
どうせなら次いでに連れてってやろうかな…シルファとカインは歩き?精霊頼みっぽいから歩きなのかどうかは分からないけど、それで戻るつもりだったみたいだな。
でも多分リオに乗せてってもらった方が早いと思うし、それに俺がお願いしなくてもリオが乗せたがる気がする…。
明日出発前に猿人族領へ寄ってみるか。
勇者達の修行って言ったら付き合ってくれるかもしれない、というか間違いなく付いてくる人がいるな…ラナがいるんだし。
相手が増えるのは悪くないだろうから、この際弘史達も巻き込んじまうか、オーガの話を聞いて多少事情も知ってるんだからな。
―・―・―・―・―・―・―・―
翌日の朝、皆に一言伝えて犬人族領まで転移して、そこから猿人族領まで向かった。
道案内のためにラナだけ付いてきてもらって。
「ふふっ、ナオトさんと朝から二人っきりなんて…。向かう先が猿人族領じゃなければもっと最高なんですけどね」
「まあそう言わずに。けどみんなといるようになってからは本当に二人っきりとか全然無いよな」
「そうですね。たまにはこうしてくれるとみんな喜びますよ?今のわたしみたいにっ」
「…か、考えとくよ……」
誰かを選ぶと他の皆に悪い事してるって気になるのは、中々抜けないらしい…そういう世界で生きてきたわけだし。
今朝だって皆に弘史達も連れてってやろうかなって話をしたら──
「お、いいんじゃねぇか?それ」
「うんうん~、いいんじゃぁ~ないかなぁ~」
「………また……一緒、だ…ね………」
「せやな。ほなウチらは待っとるからラナと二人で行ってきぃや」
「いや、俺一人「ラナんとこの隣っつっても道案内あった方がいいに決まってんだろ」……まぁ、それはそうだけど……」
「いいの?みんな」
「たまには二人っきりもええやろ?」
「プチデートぉってぇ~ことでぇ~、ねぇ~」
「……いつか、は……わたし、とも……ね…………」
「そーゆーこったな。まぁ、ハメ外し過ぎんのはオススメ出来ねぇけどな」
「羽目外すってなんだよ」
「そりゃ二人っきりなんだ、いくらでもイチャイチャ出来んじゃねーか。けどまぁ外じゃほどほどにしとけってことだよ。魔物もいるんだしな」
「「するかっ!」「しっ、しないわよっ!」」
「そこまで否定せんでもええやんか。誰も文句なんか言わへんて」
「そうだぁよぉ~。せっかくぅ二人っきりにぃ~なれるんだぁしぃ~」
「いくら二人っきりだからってみんなが考えてるようなことはしないからねっ!」
「あー?アタイらが考えてることってなんだよ?言ってみ?ん?」
「そっ、それは…その……(ゴニョゴニョ」
「んん~?聞こえぇないぃんだけどぉ~?ラーちゃんん~?」
「まぁアレや、何事もほどほどにしときっちゅーこっちゃ。ナオもウチらのこと気にせんと、二人っきりってのを楽しんでなっ」
「……楽しめるかどうかは別として…じゃあとりあえずラナと二人で行ってくるよ……」
「みんな…あ、ありがとね……」
「礼なんか言われるようなこっちゃねーよ、こんなの。ラナが適任ってだけだろーが」
「うんうん~、そういうぅことぉ~」
「「………」」
「ん?私達はお留守番って?」
「……そう、だ…ね……。……イア達、は……わたし、達と…お留守、番……だね………」
「まぁ迎えに行くだけだから、待っててくれよ」
「「……(コクっ………」」
──ってな感じで見送られたわけで。
俺が誰か一人を選んでどんな行動しようと皆はなに一つ気にすることなく快諾してくれるっていう点に、未だ違和感と罪悪感を覚えてしまう。
まぁ今回は俺が選んだわけじゃなくて皆が推してきたんだけど、それも全然平気そうだったし。
本当にこの娘達は俺の知ってる人間の女性とは掛け離れた存在だってことだけは何となく分かりますけどね…。
猿人族領までの道を、俺の右腕にぴったり絡み付き、垂れ耳をパタパタと、尻尾をフリフリとさせながらニコニコしてるラナの案内で歩いていく。
腕組みしながらこうして歩くのもまた懐かしいなぁ…妻はあまり引っ付きたがらなかったし。
娘とも腕組みなんてしたことはないから、ラナくらいの年頃の娘とこうしているのが不思議でしょうがない。
今は見た目が若返ってるからいいのかもしれないけど、向こうの世界のままだったらいろいろとマズいんだろうな、きっと。
元の世界でなら犯罪臭漂わせてるんじゃないかと…援交とかで職質されそう。
とか考えつつ、実際こうやって引っ付かれてるのは満更…どころかかなり嬉しかったり。
罪悪感何処行ったって感じだけど、嬉しいものは嬉しいわけで、隣に居るラナも本当に喜んでるっぽいからもうこのままでいいよなって。
こんな森の中でも二人っきりで寄り添いながら歩いてるとか、もし誰かに見られたとしたらイチャイチャしてるようにしか見えないんだろうなぁ、なんてぼんやり思いながら進んでいると、隣に居るラナが何やらキョロキョロと周りを気にしだした。
なんだろ?もしかして魔物とかいたり…?
「……うん、誰もいない…よね………(ボソッ」
「?どうした?ラナ。何かいたか?」
「え?あっ、いえっ、なにもいないですよっ」
「…?ならいいけど…急に落ち着きなさそうにするから何かあったのかと」
「あはは…ちょっと挙動不審でしたね……」
こんな所であちこち気にするなんて、普通に考えたら何か気配とか感じたくらいしか思い付かないんだけど、組んでた腕を外して少し離れたラナからの次の言葉でいろいろ吹っ飛んだ。
「…うん、よしっ。……あのっ、ナオトさんっ」
「ん?なに?」
「えっ、とですね……お、お願いがあるのですがっ」
「お願い?」
「はいっ」
「今?あ、いや、ラナのお願いなら何でも聞いてあげるけど…」
「本当ですかっ!ありがとうございますっナオトさん!」
「で?お願いって?」
「はいっ。あの、こうして二人っきりになれたので…夢の中と同じことを現実でもしたいなぁ…って……」
「え…はいぃっ!?今ここでっ!?流石にそれは無理だろうっ!」
「えっ……ダメ、ですか………?」
「ダメっていうか…みんなが考えてるようなことはしないんじゃなかったっけ…?」
「え?……あっ!?違っ!そ、そこまでとはわたしも考えてませんっ!キス!キスしてほしかったんですっ!」
そ、そういうことね…ビビった。
夢の中ではもうラナともしちゃってるけど、現実で初めてが屋外とか俺にはレベルが高すぎて無理だ…元の世界でも野外でなんてしたこと無いし。
いやまぁそれ以前にこんないつ魔物が出てきてもおかしくはないような所でそういうことは出来ないとは思いますが。
命懸けの行為とか、どんだけスリルを求めるのかと…。
「キス、ね…。ごめん俺もちょっと勘違いしたよ」
「ホントですよっ、わたしだって初めてが外でなんて考えてもみなかったですっ!」
「だよな…ホントごめん」
「いえっ、わ、わたしも言い方がちょっと良くなかったので…。それで、その……キス、してもらえます、か…?」
いや、うん、キスすること自体には何も抵抗は無いんだけど…俺は初めてってわけでもないし、キスは好きな方だし、それにもう現実ではシータやマール、リズともしちゃってるしな。
なんて言うかこう、愛しいってことを確かめるような気持ちで味わうあの柔らかく温かい感触は、何物にも優ると俺は思ってるし。
ラナからのお願いなんだから、叶えてあげようとは思ってるけど、いいんだろうか…こんな所で。
それ言っちゃったら他のみんなもあれだけど。
シータが一番まともだったか?起き抜けのベッドの中でだったから。
他の二人は…楽屋と受付カウンター内って、色気も何も無い場所で、だったんだよな…。
けどまぁ二人っきりになること自体滅多に無いことだから、出来るチャンスがあればってことなんだろうな…皆の前ではやっぱり恥ずかしいのか。
そこがまたよく分からない点ではある…身体全てを見られるのは平気そうなのに、ってところが。
考えてもしょうがないんだろう、きっと。
この娘達はもうそういう娘なんだろうってことしか分からないし。
「ラナがしてほしいって言うなら…。けど、なんで急に?」
「それは…だって二人っきりとかやっぱりそうそう無いですし、それに……」
顔を紅くしてモジモジしだすラナ…この可愛い生き物は何なんだろうかホント。
こんな所じゃなくて、もっと良い感じの場所で二人っきりだったら間違いなく飛び掛かってるな、俺。
「それに?」
「…ナオトさん、現実だと全然そういうことしてこないじゃないですか…。わたし達のこと、嫌いってわけじゃないんですよ、ね…?夢の中ではあんなにスゴく可愛がってくれてるし……」
「それ、は……」
だって夢の中だから我慢とか遠慮する必要は無いって、もう完全に認めちゃってるし…俺自身が。
現実だとまだどうしても認められないというか、もし現実で同じ事をしちゃったら、頭の片隅で蠢いてる黒い何かが暴れ出して、壊してしまうんじゃないか、っていう感覚があるんだよな…。
多分だけどこれ、漂流者特有のやつなんじゃないかって思ってる。
欲望に忠実というか、理性の箍が外れやすいというか…実際目の当たりにしたり、他の漂流者の話とか聞いてもそういう人が多いみたいだし。
俺は闇護膜のおかげで抑えられてるんじゃないのかと。
じゃなかったらとっくに皆の事襲ってるような気がする…あんな風に惜しげも無く目の前で素肌を曝け出されて、黙っていられる人がそうそう居るとは思えない、好意を持たれているのなら尚更。
そこも引っ掛かってる点なんだよな…その好意が称号のせいだってのがどうしても拭えない。
アコはそもそも好意が無ければ称号の影響は受けないって言い張ってたけど、それでもさ、やっぱりおかしいって思ってしまうわけですよ。
元の世界で駄目駄目な人生送ってきた俺が、間違ってこっちの世界に来た途端、こんな風に美女、美少女、美幼女に囲まれるなんて、誰がどう見ても異常だと思うはずで。
……けど、弘史も知美ちゃんも魅音も正典も、別に異常だと思ってはいなかったか…この差は何なんだろう。
やっぱり適応力=若さ、ってことなんだろうか。
って、何だかんだ言い訳がましい感じのことを考えてて手を出してない…まぁ、もちろんそれだけじゃなくてひぃやティシャの手前ってのもあるんだけど、そのせいで何故か不安を感じさせてしまっているらしい…のか?
「…二人っきりの時くらいは、いいじゃないですか…。それとも、もう夢の中だけで満足しちゃってます…?」
「あ、いや、そんなことはない…けど……」
「…じゃあ、はいっ、お願いしますっ」
そう言って両腕を広げ、少し照れた顔をしながら俺が来るのを待ち構えるラナ。
ここまでしてくれて何もしないとか、あり得ないよな…まぁそれ以前に目の前のワン娘が可愛すぎてどうしようもないんですが。
そんなわけで、ラナのお願いを叶えるべく、まずラナを俺の腕の中へ収める。
お互いに腕を背中に回してギュっと抱き締めあい…俺の胸に顔を埋めてグリグリしながら、にへらっとしてるところへ、ふわふわのタレ耳に軽くキスをした。
すると、一瞬ピクっとして、おずおずと顔を胸から離し俺を見上げてきた。
今度はそんなラナの額に、さっきと同じようなキスをする。
ラナもまたさっきと同じく一瞬ピクっとして、その後直ぐに、ぽっ、と頬を染めながら目を閉じる。
お願いされたから、なんて考えはあっという間に何処かへ吹き飛んで、その柔らかそうな唇へ吸い込まれるように…ラナとキスをした。
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