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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#36 そして精霊王国へ
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弘史達を連れて鼠人族領…勇者達が訓練してた領主邸の前庭に転移して、そこから屋敷の中へ入ると、待っていた皆が迎えてくれた。
「おかえりぃ~なさいぃ~」
「おー、意外と早かったな」
「……おか、え…り………」
「「…………」」
「おかえり。全員来たってことは一緒で構へんってことやな」
「ただいま。うん、一緒に行くってさ」
「悪ぃね、また一緒させてもらうわ。んで、こっちが………あぁ~」
見知った顔以外の方をサラッと見回しただけで何かを察したらしい弘史。
言いたい事は大体分かる、ほぼ女性しかいないからな。
だがしかし、だからといってお前が察したようなことにはなってないから、そこは断固否定させてもらうっ。
「勘違いするなよ、俺だって勇者が女の娘だとは思ってなかったんだからなっ」
「…今までの尚斗見ててそー思わねぇ方がムリじゃね?」
「うるさいっ!違うって言ったら違うんだよっ」
「あ、そ。まぁ俺には関係無「あれ?もしかして…弘史さんでは?」……は?」
「んんー…?ああっ!ホントだっ、弘にぃじゃん!なんでこんなトコいるのっ!?って、そっか、向こうでああなっちゃったからコッチに来たのかー」
「………あぁ?よく見りゃ攻と堅の妹じゃねーかっ。なに?もしかして…お前らが勇者ってやつなの?」
「ええ、そうですよ。私達が今代の勇者みたいです」
「……んん?ってことはまさか…リオちゃんがコウキだのケンゴだの言ってた勇者ってのは……アイツらのことだったのかよっ!」
「うんっ、おにぃ達のことだねーっ」
何やら弘史と護璃ちゃん、攻瑠美ちゃんは面識有りみたいだ。
関係無いどころかありありじゃないか、しかも堅護、攻輝とまで。
どうやら気付いてなかった、というか気にしてなかったっぽいな。
自分にはこれっぽっちも関係無いとか思ってスルーしてたのか?
「なんだよ、思いっきり関係あるんじゃないか。で?どういう関係なんだ?」
「あー…コイツらのアニキ達とちょっとした縁があるだけだよ…。同じ大学でな」
「あぁ、友達だったのか。んじゃあれか、俺なんかより弘史に見てもらった方がいいのか」
「ちょっ、待てよっ!お前が言い出したんならお前がちゃんと最後まで責任持ってやれやっ。……まぁ、コイツら相手ってんならしゃーねぇから俺も付き合ってやるけどよ…」
「えっ?弘にぃも手伝ってくれるの?」
「知らねぇ仲じゃねぇしな…面倒くれぇみてやるわ」
「それは…助かりますね。ありがとうございます」
どうやら顔見知りってことで弘史も付き合ってくれる方向で話が纏まったみたいだ。
知り合いならもう弘史に全部任せようとしたけど、言い出しっぺってことで突っ撥ねられた…そりゃ確かに無責任過ぎるか。
けどまぁ、見知った人がいるってだけで少しは気楽というかやりやすくなるかな?いや、やることは対人訓練とかなんだからやりやすいとかあっちゃ駄目か。
「そっちのパーティーには同族がいるのね。私の事は知ってるかしら?」
「ええ、シルファ様の事は存じ上げております。お会いするのは初めてですが。私はフラムネシェラータ・アースジアスです、以後お見知りおきを」
「フラム、ね。うん、よろしく。あなたは地霊姓なのね」
「はい。ただ、国を離れてからは名乗っていませんが」
「そうなのね。でもそれでいいんじゃないかしら。外の国にまでしきたりを持ち出すこともないし」
シルファが同じエルフのフラムを見て話し掛けてる。
何やら同族でしか分からないような内容だけど…地霊姓?って何ぞや。
エルフ族にしか分からない何かなんだろうけど、しきたりとかシルファが言ってたし。
「あー、なんだ。俺らエルフ族はな、持って生まれた精霊との契約みたいなもんがあるんだよ。んで、その精霊の種類ごとに名字が決まってんだ。例えばお嬢のウィンディアっつー名字、これは風の精霊と契約してるって意味がある。俺のウォルターナは水の精霊、そっちのフラムって嬢ちゃんのアースジアスは地の精霊ってこったな」
「私達はこれを『霊姓』って呼んでるわ。これで契約精霊が誰にでも分かるようにしてるってところかしら。昔はどうだったのか知らないけど、今はそれほど『霊姓』は重要視されてないわよ。だからそんなに気にしなくてもいいわ」
俺がはてなエモを浮かべ首を傾げてたのを見て、カインとシルファがわざわざ説明してくれた。
なるほど、契約する精霊によって名字が決まってるんだ…元の世界では家系を区別するのが名字だったけど、こっちの世界、エルフ族では契約してる精霊の種類で付けられるのか。
思えばこっちの世界の人達って、そもそも名字持ってないような…?今まで知り合った人で名字名乗ってたのって貴族の方々しかいなかったし。
まぁ、名前が皆独特だし特に気にすることもないのかな。
名前といえば漂流者以外の皆は愛称呼びなんだよな…誰一人としてフルネームで呼んでない。
貴族の人達でもそうだし、神様でさえ愛称呼びって…気安いにも程があるじゃないだろうか。
ただまぁ、そのせいかかなり親しみやすいんですが、誰とでも。
「うっし、んじゃ揃ったところで早速行くか。お嬢、この人数だけどいけるか?」
「そうね、そんなに急ぐ必要もないから大丈夫なはず…。行きで無茶したけどちゃんと謝ったし…多分」
「精霊達がヘソ曲げてなきゃいいけどな」
「だ、大丈夫よっ。私の精霊達はみんないい子ばっかりなんだからっ」
「へいへい」
「えっと、どうやって行こうとしてます?」
「普通に歩いていくわよ。少し私の精霊達に手伝ってもらうつもりだから、多少は楽なはずよ」
やっぱり歩きで行くつもりだったらしい。
シルファは風の精霊と契約してるみたいだから、その力を借りてってことだろう。
普通に歩くよりは相当楽そうだとは思うけど、この人数で足並み揃えて歩くのは中々大変そうな気が…フラウがいるし。
ここはやはりリオの出番だろうと思ってたら、シータも同じ考えだった。
「?なんやリオに乗せてってもらうんちゃうの?」
「…(コクコクっ……。…みんな……乗せ、て…いく……よ………?……」
「えっ?コウキやケンゴがいないけど…乗せられるの?リーオル」
「……(コクっ…。……今、は……マスター、の…騎竜……だか、ら………大丈夫……」
なるほど、シルファはリオに乗れるとは思ってなかったのか、堅護や攻輝がいないから。
職種が勇者騎竜だったからな…何か契約とかそういうのがあったとしたら、そう思っても仕方ないのか。
けど今は何故か俺の騎竜、闇黒騎竜になってるんだよなぁ…契約とかそれっぽいことしたつもりは全く無いし、そもそも乗せてもらったこともなかったのに。
「あぁ…そういうことね。ならお願いしようかしら。久しぶりにリーオルの背に乗れるのねっ、楽しみだわっ」
「なになに?リーオルに乗れるのー?」
「そうだぁねぇ~、ドラゴンにぃなったぁ~リーちゃんのぉ~背中にぃ乗るんだよぉ~、ふふっ」
「歩きではなく飛んでいくということですか?」
「そーゆーこったな。アタイらもここに来るときゃ飛んできたしよっ」
「それは楽しみっちゅ!」
「わたくしも楽しみですわっ」
「にゃーはちょっとコワいにゃぁ…。大丈夫なのにゃ?落ちたりしないのにゃ?」
「そこは大丈夫、ちゃんとリオがスキルで守ってくれるから、ねっ」
「わ、私でもだだ、大丈夫だった、から…へ、平気です、よ」
「……(コクっ…。……安心…して……乗って……?………」
「…そこまで言うにゃら……」
チュチュやフラウは楽しみにしてそうだけど、ペルはどうやら高所が苦手らしい。
猫って高い所ダメだったっけ?登ったはいいけど降りられなくなったってのは見たことあるけど。
まぁリオのスキル、騎乗保護もあるし、そもそもリオの背中広いから落ちる心配はなさそうなんだけど…アクロバット飛行さえしなければ。
「どうやら話は纏まったみたいね。それじゃシルファ、後はよろしくお願いね」
「ええ、任せてちょうだい。じゃあみんな行きましょうかっ」
ということで俺達黒惹華、弘史達メンバー、勇者一行とエルフ二人の総勢16名は、リオの背に乗り一路エルフの国、スピーレリメント精霊王国を目指して飛び立った。
───すぐそこまで脅威が迫っているとは、この時は誰も思っていなかったはず…。
少し考えれば分かるようなものだったのに、この大陸の国々の風潮、そして本大陸の魔王がアレだったせいで、危機感がかなり希薄になっていたってのは言い訳にならない…。
押し寄せる猛威と相対するまで、あと僅か。
5
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