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第六章 激震、マーリレンス大陸
#06 回想録⑥ 魔物討伐開始
しおりを挟むと、いうわけで、勇者パーティーのレベルアップを目的とした魔物討伐のためにやって来たのはここ。
「ナナっ、ナオトさんっ!?こ、ここってもしかして……っ!?」
さっき訓練場にいた全員、俺の転移で連れてきました、割と問答無用で。
で、今まさに全員がご対面している魔物…コイツを知っているのは恐らくこの中ではラナしかいないはず…シータ達は解体後しか見たことが無いし、他の皆はまず来られない。
何故ならここは外から入ると二度と出られないと言われている場所だから。
そしてそのご対面している魔物というのは──
【ステータス(簡易)】
《識別》
個体名:スパルティス
種族 :鋏殻種
属性 :地
闇
LV :13
体力 :1416/1416
魔力 :983/983
状態 :正常(興奮)
《技能》
物理 :鋏切術(10)
操糸術(7)
操毒術(6)
──こんなヤツだったりする。
そうです、俺がこの世界に来て初めて遭遇し討伐した魔物…カマキリクモサソリのスパルティスでございます。
つまりここは俺がこの世界に来て目覚めた、というかエクリィに放り出された場所…『空崩の森』というわけでして。
「なんだコイツっ…こんなヤツ見たことねーぞっ!」
解体後のヤツなら見た事あるんだけどね、アーネは。
けど原型なんか留めてなかったから分かるわけないよな。
「はいはいっ、すぐ襲ってくるから戦闘準備!護璃っ、来るぞっ!」
「は、はいっ!」
あの時と同じ様に鳴き声だか叫び声だか分からない奇声を上げながら、結構な速度で寄って来てその手の鋏を横薙ぎに振って攻撃してきた。
前に出た護璃がそれを剣盾で受け止めようとするが…
ギャィィン!
「きゃあぁっ!」
…その一撃で剣盾ごと弾き飛ばされる。
「ちょっ、護璃っ!こんのぉーっ!なにするのさぁーっ!」
吹っ飛ばされた護璃を見て憤慨し、攻瑠美がスパルティスに単身突っ込んでいく。
魔物相手だからか、両盾をパイルバンカーに変型させて胴体側部を撃ち抜こうとするが…
ガキィッ!
「くぅ……硬ぁぁーっ!」
…その攻撃は堅い甲殻に弾かれて通らない。
スパルティスは攻瑠美の攻撃を何も感じなかったかのように無視して、塊になっている俺達の方に狙いを定めて向かってきた。
勇者二人は相手にされてないらしい…というか、パーティーなんだからもう少しこう、連携を取ってやらないと修行にならないよね?ペル達やブリッズ達とさ。
他の皆もぼーっと突っ立ってるのはどうかと思う。
こっちに向かって来たものはもうどうしようもないから、俺が倒しちゃおうとしたら…
ドカッ!バキッ!ザシュ!…………ドスンッ
「「………」」
…ランとイアがあっさり殴り倒してしまった…人化したままで。
正確には部分的に獣化…ランは腕だけ、イアは脚だけ獣化させて、その爪でスパルティスの甲殻をあっさり斬り裂いてました…うん、やっぱり君らも強かったね。
倒し終わった二人がテトテトと俺の足元に寄って来て、じぃーっと見上げてきた…けど、その顔はドヤってるよな……まったくしょうがないな。
「はいはい、よくやった二人とも」
「「…………」」
そう言って二人の頭を多少ぞんざいに撫でてやったら、それでも嬉しそうにニパッっと笑ってた…くっそ可愛いなコイツらっ。
「……その娘達も強いのね……」
「うん、まぁ、俺の力に近い存在だしね…」
「んなのんびり話してんなよ…こんなトコで修行すんのか?見た感じあいつ等にゃキツいんじゃねーの?っていうかそもそもここドコだよっ?」
「か…『空崩の森』、ですよね…?ナオトさん……」
「うん、正解」
「「「「「かっ、『空崩の森』ぃ!?」」」」」
その名を知ってる冒険者組が驚いてる…そりゃまあ入ったら二度と出られないとか言われてる所だからな、そんな場所に自分達がいるって知ったら当然の反応かと。
「ちょっ、おまっ、ナオトぉっ!なんてトコに連れてくんだよっ!!」
「そっ、そうよっ!何してくれちゃってるのよアンタはぁっ!?」
「まさか…『空崩の森』とはな……」
「も、もしかして…ウチらもうここから出られへんってこと…?」
「いやいや無い無い。俺の転移で直接来たんだから。この森の結界を外から通っちゃうと、中から出られなくなる仕組みなんだと思う。じゃないと俺がここから出られなくなってるはずだし」
「そ、そっかぁ~…。ならぁ~、私たちぃもぉ~ちゃんとぉ出られるってぇ~ことぉ~…?」
「そういうこと。だからそこは安心していいって。ということで、護璃達はここで魔物討伐な。今度はちゃんと皆で連携取ってやりなよ。じゃないと意味無いんだし」
「は、はい…分かりました……」
レベルアップが一番の目的だけど、パーティーとしての連携とかもちゃんとやらないと…この先ずっと皆でやっていくんだろうし。
全員で協力して当たれば決して倒せない相手ではない…と、俺は思ってるんだけど、さっきの見るとちょっと厳しいかなぁ…。
いや、あれだ、スパルティスはここにいる魔物の中では強い方のはずだから、最初の相手としてはちょっと悪かったってだけで、翼イヌのウグルフォルクかネズミウサギのマビットゥラース辺りならそれなりにイケるはず…。
イノシシクマのボアードベアがここで俺が会った魔物の中では一番強そうだったな、確か。
「ねぇねぇ、私達もやっちゃっていいのかな?かなー?うふふっ」
「え…いや、俺達は勇者達のサポートを……って、別に全員じゃなくてもいいか…。とりあえず最初は一対一でやってく感じの方がいいだろうから、複数来たら他の皆で間引いていこうか」
「オッケ、んじゃ俺達もやるかぁっ。ちっとは歯応えありそうだからなぁ…気合い入れていくぜっ!」
「やったぁっ!ウフッ…カノンちゃんとまだまだ一緒だね……ふふっ…ウフフフフフ…………」
「……しょ、しょうがないわね…。ちょっと場所が気に食わないけど」
「まぁナオトが帰れると言っているんだ、大丈夫なんだろう。いつも通りでいくさ」
訓練場からずっと銃形態のカノンちゃんをギュッと抱き締めたままの知美ちゃん…相変わらずその変貌ぶりにちょっと引き気味になる…。
弘史達ならここの魔物でも十分対処出来そうだから、勇者パーティーが一対一で戦闘出来るような状況を作るのに協力してもらおう、姫達やリオ、それにランとイアもその方向で。
シルファ達は…俺と一緒に勇者パーティーのサポートかな、俺ももう戦闘に参加してもいいような気がしてきたから、まぁそこは臨機応変にやっていこう…弘史もやるって言ってるし。
経験値は…もうここまでになっちゃったんだから考えるのはやめにしよう、皆俺のなんだから俺が強くしたっていいってことにするっ、もう開き直って!
「姫達とリオもそんな感じでよろしく。ランとイアもな」
「ったく、いきなりこんなトコ連れてきやがって…前もって言っとけよなっ」
「いや、言ったら来なかっただろ?」
「ったりめーだっ!こんなトコで終わるなんてぜってーヤダかんなっ!」
「終わるって……。俺そんなに信用無いの?」
「あ、いや、そーゆうワケじゃねぇ…けど、よ……」
「まぁアレや、ナオもウチらに一言相談くらいしてくれてもええんかったんちゃうの?ってことや」
「いきなりはびっくりしますよ、ここは誰だって…」
「ナオちゃんにぃ~付いてはぁ行くけどぉ~、ちょっとはぁ私たちのぉ事もぉ~、考えてぇくれるとぉ嬉しいぃかなぁ~ってぇ………」
「あ…そうか……。そうだよな、ここってそういう場所なんだよな…冒険者にとっては。ちょっと軽く考え過ぎてたよ……ごめんっ、みんな」
俺は行ったことがある所なら何処でも行ける転移があるから何も心配はしてなかったけど、冒険者にとっては不吉…怖い場所だって認識なんだもんな……二度と帰れないんだし。
ヤバい、これはやってしまった…皆の事考えないで勝手に事を起こして不安にさせちゃって…これじゃ前と何も変わらない……。
「ええて、そんな謝るようなことでもないよ。アーネだってちょっとびっくりしただけやし、なっ?」
「お、おう。その、だからアレだよ、ナオトのこと信用してねーってわけじゃねーからなっ」
「あぁ、ごめん…。ありがとな、アーネ……」
「わ、分かりゃいーんだよっ!んで、アタイらもやりゃーいいってことだろっ!」
「うん、みんな頼むよ」
「分かりました、頑張りますっ!」
「うんうん~」
「「「………(コクっ…………」」」
これは反省しないとだな…軽率過ぎた。
びっくりさせようってばっかり考えてたからな…皆は許してくれたみたいだけど、これは後でお詫びしないと駄目だな……。
「で?俺らはどうすりゃいいんだよ?」
「私達はクルミやマモリ達のサポートでいいでしょ」
「そうだな、それが妥当なところだろう」
「あぁ、うん、それでいこうかと。いい?」
「ええ、それでいいわよ。それじゃクルミ、マモリ、頑張ってねっ」
「「はいっ」「はーいっ」」
ちょっと失敗したけど、とりあえずこんな感じで修行が始まった。
魔物との遭遇率はかなり高めで、こっちから索敵することなく戦闘になった。
ただ、単体はスパルティス、ボアードベアくらいで、ウグルフォルクとマビットゥラースは複数体で現れることが多かったから、勇者達だけじゃなく皆それなりに出番があったり。
「イヌ三匹かっ、んじゃ一匹やるぜっ!知美っフラムっ、どっちでもいい、叩き落とせっ!」
「トモミ、今回は私に譲って貰うぞ」
「えぇ~…しょうがないなぁ……」
「魔力は温存しておけ。ではいくぞっ!」
背中の翼を羽ばたかせ、空中から襲ってくる三匹のウグルフォルク…その一匹に狙いを定めてフラムが弓でその翼を正確に射貫く。
空中で制御を失い叩き落とされたウグルフォルクに、弘史とモリーが突っ込んでいく。
「うぉらぁっ!」
「シッ!」
落ちて態勢を立て直す暇も与えず、二人で斬り掛かりとどめを刺す…やっぱりウグルフォルク程度なら弘史達でも余裕そうだ。
もう一匹を受け持った俺のメンバー達はというと…
「あー、空はもうシータに任すわ。どうせ一撃だろ?」
「……わたし、が……やって…も……いい、よ…?………」
「私もぉ~いけるけどぉ~、やっぱりぃシーちゃんかなぁ~?」
「そうね、シータでいいんじゃない?」
「了解や。ほないくでぇっ!ナオ直伝!闇黒魔法…〔黒魔閃〕っ!!」
…シータが一人で受け持ち、黒い球体を一つ出現させて、そこから黒いレーザーを発射し撃墜。
って、待て待て待てぇっ!俺直伝て、教えた覚えないわぁっ!そもそも何で闇黒魔法使えるんだよっ!おかしいし恥ずかしいってのっ!ヤメてっ、技名叫ばないでぇっ!!
「シータぁっ!何で闇黒魔法使えるんだよっ!!」
「ふっふーん…ええやろっ。これ、アコに教えてもろたんよっ。まぁコレだけやけどな、しかも1個しか出せへんで?」
「こんの馬鹿スキルがぁぁあっ!余計なコトすんなぁぁああっ!!」
「[予想通りの反応ありがとうございます]」
これは恥ずかしいっ!俺の黒歴史が表立って知られてしまうぅっ!こうなるのが嫌だったからいつも頭の中で叫んでるだけだったのにぃぃーっ!
それもこれもアコを放置してた結果かよ…ホントこれだけは勘弁してほしかった……っ。
「……周りが強過ぎてちょっと凹むんだけどぉ……」
「何言ってるのよ攻瑠美っ、私達もあれくらいにならないと兄さん達に笑われるわっ!」
「ぐぬっ……それだけは、許されない……っ!」
「でしょっ!だから私達もやるわよっ!ブリッズっヴォルドっ!」
「了解だっ!〔氷精矢〕っ!」
「……承知した。〔雷精光貫閃〕」
「二人が落としたところで突っ込んで!ペルとチュチュもっ!」
「おっけーいっ!」
「分かったっちゅ!」
「やるにゃーっ!」
ブリッズの氷の矢とヴォルドの雷の精霊魔法が最後の一匹を狙い撃つが、精度が低く胴体部にしか命中せず叩き落ちるとまではいかなかった。
が、高度は下がったため、そこに攻瑠美とペル、チュチュが特攻する。
ペルの鉤爪が翼を捉え、そのまま引っ掛けるように地面へ叩き付けた。
その隙を逃さず攻瑠美がパイルバンカーで、チュチュがクナイで攻撃して討伐。
一匹相手ならいいコンビネーションじゃないかと…護璃が司令塔の役割になってるけど、これが複数相手ならどうなるか、徐々に慣らしていくしかないな、と。
課題としてはブリッズとヴォルドの命中精度を上げるってところか、狙った部位を撃ち抜けるくらいにはならないとキツいだろうし。
こうして暫くはここ『空崩の森』で魔物討伐に精を出した。
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