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第六章 激震、マーリレンス大陸
#15 追跡(SIDE:シルファ)
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───一月程前、パペンダ大陸(魔名:サースレインガー大陸)某所
ピクッ……
「…?どうかなさいましたか?ケージ様」
「……へぇ……そんな所にいたのか………」
「?どったのー?なにがいたってー?」
「何でもない、こっちの話」
「そうですか…」
「で、状況はどう?」
「はい、現在サースレインガーの約5分の4は制圧を完了しています。残りはスレイヴィニット隷王国のみです」
「……(とすると、あと二、三週間もあれば制圧完了出来るか。その後準備やら何やらで一週間…まぁ、別にそこまで急ぐ必要も無いかな、居るのが分かっただけで十分だし。しかしマグリティアとはね…記憶にある前大戦の時と同じ場所とは芸が無いな。創造神とやらも案外間抜けらしい。あそこは確か僕と同じ転生者の魔王が担当だったよな…オーガとか言ったか。魔統王には非協力的っぽかったから大陸制圧も殆ど進んでないんだろうな、きっと。なら丁度いいし、僕が手伝ってやるとするか…)」
「んー?なーんか面白そうなことかんがえてなーいー?ケージぃ」
「面白い…そうだね、今の僕にとっては面白いのかも。さて、それじゃまた搾取しますか…負の感情とやらを」
「「了解しました、ケージ様」「あーっいっ、ケージぃ」」
―・―・―・―・―・―・―・―
───港湾都市キャトローシャニア放棄後、皇都グラウデリア城会議室
「んで、キャトローシャニアの領民は全員無事退去出来たんだろーなっ」
「はっ、報告によれば近隣都市…キャトローシャニアより南西側のドラッツェアルト、サンクトルベルニア、少し距離はありますがフュントベーン、これらの都市に分散して退避したとのことです」
「そうか…皇都寄りの都市に退避しなかったのは上出来だな。魔物の方はどうなってる」
「そちらは現在斥候からの連絡待ちですが…恐らくキャトローシャニアへ上陸している頃合いかと思われます」
「ギリギリ間に合ったってとこか…。んじゃ数もまだ分かんねーんだな」
「はい、一報目のキャトローシャニアからの、海を黒く染める程の大群としか…」
「入るぞ、陛下!」
「おう、エルか。どうした」
「たった今斥候から連絡が来た。キャトローシャニアが落ちたぞ」
「マジ、ギリだったじゃねーか…。んで?数は?」
「………正確には分からん、斥候が言うには5万以上は確実だそうだ。それがこちらに向かっていると」
「おいおいおいっ…そりゃなんの冗談だっ!」
「私が知るかっ。で、どうする?出るか?」
「………エルムットジスタ・テラ・フォアレメナント総騎士団長に命じるっ、四騎士団全軍を以ってこれに対処せよっ!烈華絢蘭の同行も認める!」
「はっ!緑風騎士団、赤炎騎士団、黄土騎士団、青水騎士団、以上四騎士団全軍出撃します!烈華絢蘭はこのエルムットジスタ・テラ・フォアレメナント預かりとし指揮を取ります!」
「…悪ぃが頼んだぜ。それと各都市の冒険者ギルドにも話は通しとく。他の街もそうだが、ぜってーここにも近付けんなよっ!」
「分かっているさ。じゃあ行ってくる」
「おう、任せた。さて、と……おい、そこの奴、オー「そノ必要はナいぞ」…っと、丁度いいところに来たな。今呼びに行かせようとしてたとこだ」
「勝手に上がラセてもらっタ。話はモう聞いてイるのか?」
「あぁ。今さっき軍も動かしたところだ」
「なルホど、それで先程エルムとすレ違ったのカ」
「そういうことだ。で、何か話あるんだろ?」
「…ガルムドゲルンへ連絡は取れルか?ナオトとヒロシを呼ビタい」
「……理由はなんだ?」
「アの二人は多分勇者と会っテイる。そシて恐らク今回のこれニは…勇者ノ力が必要だかラだ」
「……ってことはなにか?こいつは魔王絡みってことかっ!」
「確証は無イがナ……。サースレインガー、こチラだとパペンダだっタか、ソこの魔王ガ来ていテもおかシくはないだロウと」
「それであの大群か…。そういうことならすぐ連絡してやる。それでお前はどうするんだ?」
「我ハ…ナオト達が来ルまで動かヌ。こコで待たセテもらウがいいカ?」
「分かった、魔王絡みってんならお前の好きに動いてくれ」
「すマぬな」
「気にすんなよ、俺とお前の仲じゃねぇか。よし、おいっお前!遠距離通信用の魔導具準備しろっ、通信先はガルムドゲルン…ゲシュトんとこだっ、急げよっ!」
「はっ!承知しました!」
―・―・―・―・―・―・―・―
壊滅状態だったキャトローシャニアにナオトとリーオルを残して、ナオトのパーティー、黒惹華の残りのメンバーとナオトの従者であるランちゃんとイアちゃん、ヒロシ達雷銃の皆、クルミ、マモリの現勇者パーティー、そして私…シルファとその付き人であるカインとアベルは、この大陸に侵攻して来た魔物達を探す為、風の精霊達の力を借りて走っている…今のところ精霊達の機嫌は損ねていない。
この人数だからちょっとは無理させてるはずなんだけど、私の、というか今の状況─大陸の危機─を感じ取ってるみたいで、頑張ってくれている…いつもありがとうね、私の可愛い精霊達。
今は当たりをつけて皇都方面、キャトローシャニアから東へ向かっている…ヒロシが言うには、オーガっていう人が皇都にいるから、そっちに向かっているかもしれないっていう話。
オーガっていうのが誰だかは詳しく教えてくれなかったけど、私の予想では多分この大陸の魔王じゃないかと思ってる…前大戦時と名前は違ってるけど。
確か前大戦時のマーリレンスの魔王は…烈魔王モードヴァリスとかいうやつだったはず。
あのイヤらしい幻術使い…思い出しただけでホントムカムカしてくるわっ、私にコウキを攻撃させるとかホントあり得ないっ!
んんっ!それは置いといて、今回の魔物達の大群は海から来たのが分かったから、そうするとこの大陸じゃなくて別大陸の魔王が魔物達を従えて来たということになる…魔王が自分の大陸を出て別の大陸まで出張ってくるなんて、前大戦時では無かったからちょっと信じられなかった…自分の持つ大陸からは出られないって思ってたから。
その魔王、パペンダだから…撃魔王だったかしら、そいつが烈魔王と組んで何かしようとしてもおかしくは無いってことなのかしら…。
でも何故皇都に烈魔王が居るのかさっぱり分からないし、私の思い違いかもしれない…けど今はそんな細かい事を気にしている場合じゃない。
ナオトが言ってたあの魔物の数と侵攻してきた魔物が似たような数だとするなら、スタンピードなんて目じゃないくらいの危機なんだから。
「……ちょっと待って!」
突然マールが叫んだ…この娘は戦闘とかになると本当に別人のように変わるのよね…普段のマールからは想像つかないくらい。
「どうしたのっマール」
「シッ!ちょい静かにしてくれシルファ…」
マールにどうかしたのか聞こうとしたら、アーネに静かにしろと注意された…そっか、何かが聞こえたのかもしれない、マールは兎人族だから耳がいいんだし。
私が注意されたことで皆も一緒になって言われたまま黙ること数十秒…その間マールの耳は小刻みにピクピクと動いていた。
こんな時なのにちょっと可愛いなんて思ってしまった…緊張感が足りてないわね、私。
そしてその耳が一際ピンッとなった後、マールはある一方をその赤眼で見つめた。
「……多分、こっちだと思う。音からするとまだ戦闘にはなってないみたいだから、ちょっと自信が無いけど……」
「マールちゃんが言うんなら無条件に信じるっての。んじゃそっち向かうか」
「ごめんなさいシルファ、止めてしまって……」
「いいのよ、そんなの気にしないで。それじゃまた行くわよ、いい?みんな」
マールがわざわざ止めてしまったことを私に謝ってきた…そんなこと一々気にしなくてもいいのに、って私が言うことじゃないわね、精霊達の台詞だわ…でもその精霊達も大丈夫みたいだから、全員頷いたのを確認してまた力を貸してもらい、マールが示した方角─南東へ向って私達は走り出した。
―・―・―・―・―・―・―・―
───シルファ組進行方面、城塞都市ズィーベルントより南東位置、パレミアナ平原中央部
ドドドドドドッ………ザッザッザッ……
「報告しますっ!総騎士団長!」
「居たか」
「はっ!前方より魔物の大群がこちらへ向って侵攻中ですっ。数はおよそ8万!」
「8万か…こちらの倍とはな。距離は」
「あと半刻程でここに着くかと思われますっ」
「……よし分かった。引き続き監視を頼む」
「はっ!」
「……ここで迎え討つしかない、か…。念の為一番近いズィーベルントには避難してもらうとしよう。誰か、ズィーベルントまで行って避難勧告してきてくれ、皇王陛下の名前でいい」
「はっ!了解しました!」
「それから皇都にも連絡しろ、ここで迎え討つとな。あまり期待はしていないが増援を送るならここにしてくれとも」
「承知しました!」
「あと四騎士団の各団長を呼んできてくれ」
「はっ!」
「…8万か……」
「流石にそれはどうなの?多過ぎないっ?めっちゃ疲れそうなんですけどー」
「……ガルムドゲルンの時の様に想定外の魔物さえいなければ、何とかなるでしょう…華凜の言う通り相当疲れるでしょうけれどね」
「これは…骨が折れそうですね……。僕も魔力が持つかどうか………」
「すまんな4人共。悪いが頼りにさせてもらう」
「まぁ、こういう時のための僕らだからね…やれるだけの事はやるつもりだよ」
「いつも通りやっちゃっていいの?エルっち」
「そうだな…それでいいと言いたいところだが、今回は四騎士団それぞれに付いてほしい」
「各騎士団の強化といったところですか…」
「あぁ、この数ではな」
「それも致し方ありませんね。私達の真価は発揮出来ないかもしれませんが」
「頃合いを見て4人には合流してもらうさ。そこからはいつも通りでいい」
「…分かった、そうするよ」
「頼む」
「エル姉、呼んだか?」
「レディアっ、進軍時はやめろと言っているだろうっ。総騎士団長と呼べっ!」
「来たか。あぁ、構わんシャナル。いつも通りでいい」
「しかし…」
「今回ばかりはそんな形式張ったことを気にする余裕も無いんだよ。シャナルもいつも通りにしてくれ」
「わ、分かった…エル姉様」
「うむ。アスティとブルネもな」
「「りょーかいっス」「はい~~」」
「で?敵さん見つかったのかい?」
「あぁ。あと半刻程でここまで来るそうだ。数はこちらの倍だな」
「倍…こちらの総数が4万だから……8万か………」
「というわけで、ここで迎え討つことにした。ここなら被害も最小限に抑えられるだろうからな。一番近いズィーベルントには念の為避難勧告は出してある」
「え…冗談っスよね?」
「本気~~ですか~~?エルお姉ちゃん~~」
「……本気だ。ここで必ず喰い止めなければ……皇都が落ちると思え」
「「「「…………」」」」
「……策はあるのか?エル姉様」
「無い。こんな丸見えの平原では策も何も無かろう。アスティの重装騎兵を前面にシャナルとレディアの槍騎兵でブチ当たれ。ブルネは魔導騎兵と弓騎兵を纏めて援護しろ。回復は…各自の判断に任せる」
「……ガチ当たりかよ……エル姉も無茶言ってくれるぜ………」
「無茶振りもいいところっスよっ!けどやるしかないんスよね……」
「そうだ、やるしか無いんだ。あとシャナルとレディアにはレツとランコを、ブルネにはアヤヒサとカリンを付ける。これで何とかするしかない」
「……そうか、それならまだ何とかなる…いや、それで何とかするしかないのか………。よし、覚悟を決めよう。ではランコ、私に付いてくれ」
「ええ、分かったわ、シャナル」
「ならレツはオレだな」
「そうなるな。よろしく、レディア」
「それじゃ~~アヤは~~魔導騎兵側で~~、カリンは~~弓騎兵側に~~入ってくれる~~?」
「アヤって呼ばれるのは好きじゃないんですけどね…了解したよ」
「うんっ、私もオッケー!」
「増援もあるにはあるが…あまり期待しない方がいい、この距離だと間に合わん可能性の方が高いからな。あぁ、勿論私も出るぞ」
「エル姉様も出るのかっ?」
「当然だ。総力戦だからな…お前達にだけやらせるものか」
「それならしょうがないっスねぇ…オイラも気張りますかぁ」
「全員覚悟を決めておけ。以上だ」
「「「「はっ!」」」」
―・―・―・―・―・―・―・―
結構な距離を走って来たら、マールが剣戟音を捉えたらしく、どうやら戦闘が開始されたみたい…あんなに距離があったのに聞き分けるとか、マールって本当に耳がいいのね…修行して位階が上がったからなのもあるんだろうけど、その上がり方がね…ホントズルいと思うのよ。
まぁ本人達はそれに全く甘えてないっぽいんだけど、私くらいになると羨ましいというか何と言うか…早くそこに入れてくれないかしら、ナオト。
って、また余計な事を考えてる私…もうすぐそこまで迫ってるっていうのに。
「……コイツは凄ぇな…半端ねぇ量の気配だわ」
「そうねっ、アタシでもハッキリ分かるわよっ」
「チュチュにも分かるっちゅ!」
「あとよ…ヒロシ、一つだけヤベぇ気配があるわ……」
「クソっ、当たりかよっ!おい護璃っ攻瑠美っ!いきなり出番だっ、気合い入れとけよっ!」
「当たりって…なにが?」
「何がって…魔王に決まってんだろっ!」
「「えっ!?」」
「いや、「えっ!?」じゃねーだろ!こんだけの大群なんだから魔王が来てたって変じゃねーだろーがっ」
「やっぱりそうだったのね…それじゃヒロシが言ってたオーガっていう人も魔王のことなんじゃない?」
「あぁ、そーだよ!けど今はアイツのことなんか無視でいい!とにかく戦場に着くのが先だっ!」
「…これが終わったらゆっくり話聞かせてもらうわよっ!」
「無事終わったらいくらでも話してやるよっ!おらっ、急ぐぜっ!」
やっぱり私の予想は外れてなかったみたい…そしてこの魔物達の中に撃魔王がいるってことも…。
うん、もう気を緩めてなんかいられないわねっ、ここからは私もやってやるわよ!元勇者パーティーメンバーの力、見せ付けてやるんだからっ!
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