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傘が無い。
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目覚めた瞬間、何処に居るか解らなかった。
無性に喉が乾く。
眼鏡を手探りで見つけ、痺れた脳を無理やり動かして記憶を探る。
ああ、 ここは、漫喫か。
昨晩、20年ぶりに再会した友人と横浜で語り明かしそうだったのを理性で抑えたはずが、
終電を逃して仕方なく漫喫に飛び込んだんだっけ。
しかし、怠い。
酒とタバコのコラボに果てはなく、翌日のダメージと来たらもう、病気レベル。
身の回りの物をチェック。
財布をはじめ、無くなったものは無いようだ。
いくら酒を呑んでも、こういった所に集中力を欠かない辺りが昨日の酔っ払いの俺、ナイス。
スマホの画面で時間を確認。午前8時半。
こりゃぁ、マズイ。
今日は、9時から気乗りしない女とデートだったか。
そもそも9時からデートという時間設定に魅力を感じない。
まぁ、何かしらのメリットがありそうなんで約束したが、怠い。
間に合わないと判ると、じたばたしても仕方ない。
とりあえず電話して遅れることを伝える。
電話の向こうでぎゃぁぎゃぁ騒いでたが、そのまま電話を切る。
タバコを探して、吸いたくも無いのに火を点ける。
不味い。
怠い。
身体が欲して居るのか、脳は拒絶してるのに無駄にタバコに火を点ける自分に疑問符を付けながら、
取り敢えずコーヒーか。
ドリンクバーからコーヒーをピックアップして、部屋に戻る。
このまま横になりたい衝動を抑え、立て続けにタバコに火を点ける。
この怠さは、時間経過でしか解決しないことを経験上、知っている。
時間を決める。9時。そして、9時きっかりに店を出る。
外は、傘をさすべきか迷うほどの雨。
駅までの道のりを、この痺れた脳を冷ますべく、右手に傘を持ったまま歩く。
冷たい雨と風が、火照った顔を冷やすのに丁度いい。
休日の朝。あいにくの天気も手伝ってか、電車内はガラガラだった。
角の席に座ると、もう二度と立ち上がりたくない程、怠さが押し寄せる。
反対側の窓の外に流れる景色を、見ているようで見ていないような、焦点の定まらない目で
右から左へ流れていく景色を、その奥にある建物はなんだっけ?
なんて思いつつも、それがなんなのか分からないまま通り過ぎていく。って、どうでも良いくらい怠い。
流れる景色は次第にゆっくりと、手前のクソ民家の窓越しに、あんなことやこんなことなど
くだらない映像が見えてしまうくらいに…なんてこともどうでもいい。
行くはずもない、なんちゃら外科の看板を意識の片隅に確認しながら、その向こうを
想像して居る自分に、ぷしゅーっと電車のドアの開く音に気付かされた。
あ、駅か。
しかし、一体いつ回復するんだ?俺の身体は…と思いつつ、まだ起床してから一時間も経ってない
から仕方ないかと思いつつ、寧ろ、昨日の俺を恨みつつある。
ナイス俺!とは程遠い。
がくんっ、と左に身体が傾いた瞬間に、電車が走り出す。
ふと、目の前の窓の手前に綺麗なお姉さんが座って居る事に気付く。
まるで鏡越しに自分を見て居るように、左のなんつーの?手摺?
ドア近くに仕方なく立った時にもたれ掛かる、あれ。
そこに、傘がかけられている。そう、綺麗な傘が。
見て居るようで、見ていないような虚ろな眼差しで、昨日の夜を思い出す。
と、言うか、少しづつ記憶が甦る。パズルのピースがひとつずつはまって行くかのように。
幾度となく同じ過ちを繰り返して居るにもかかわらず、酒に関しては未だに学習しない。
そして、蘇る記憶はそのまま忘れていた方が幸せだったなんて事が多い。
思い出すにつれ、とんでもない自己嫌悪が襲ってくるのが明らかだから。
「自己嫌悪は神様からのプレゼント」
なんて言ってた人が居るが、どんだけポジティブなんだよ。
焦点の定まらぬ視界の中、目の前の綺麗なお姉さんは本を読んでる。
こんな時は本を読んで、物語の世界に没頭するに限るが、今日は持って来てない。
駅に着く。ドアが開く。冷たい風がびゅうっと吹き込む。
俺が降りる駅はまだ先。退屈。
慌てたように読んでいた本を閉じ、ドアへと向かって走っていくお姉さんが視界を横切る。
さよなら、お姉さん。束の間だったな。
再び電車が動き出す。
降りる奴も乗って来るやつもたいして動きがないのに、駅につく度に
冷たい空気を取り込んで車内が暖かいのは椅子の下だけ。
相変わらずガラガラの電車は、採算が取れるのか心配になる乗車率。
もう少し混んでた方が暖かいかも知れないなと、どうでもいいことを思う。
ふと目の前で傘が揺れているのに気付く。
あれ?お姉さん傘、忘れてますよ。
1
しかし、電車は走り出してしまってもう、どうしようもない。
もっと早く気づいてたら追いかけたかも知れない・・・いや、無いか。
流石にこの怠さでは声を掛けるのが精一杯か・・・いや、無いか。
この忘れ去られた傘は、一体何処で、誰にピックアップされるのだろう。
終点で駅員って辺りが妥当かと思うが、途中で乗ってきた悪い奴が持ち去るかも知れない。
でも、大抵は見て見ぬふりですかね。
はたまた他人の傘に興味湧かないのは自分だけか。
程なくして、電車は地下に滑り込んでいく。
トンネル内の明かりが右から左へとびゅんびゅん動く。
今のコンディションには意外と気持ち悪かったりするのに見てしまう。
なんとか視線を上げ、車内広告に逃げる。
全く知らない専門学校や、仏壇、不動産系の広告が目立つが、どれも俺には不要なものばかり。
大手ならともかく、そもそもこの広告見て仏壇買うか?
中吊り広告に至っては下品な週刊誌ばかり。
芸能人が何しようが俺には全く関係ないし、どうでもいい。
あれで飯を食ってる奴がいる訳だが、他人の不幸話で食う飯は美味いのか?
他人の不幸は蜜の味と言うが、ちょっとこれは違うんじゃないかと思う。
あれこれくだらない事考えてる間に目的地の駅に着いた。
目の前のお姉さんの綺麗な傘はそのまま同じところにある。
こりゃぁ終点までそのままか、そのまま折り返して偶然お姉さんと出会ったりしてなんて考えながら、
ケツと背中がシートに張り付いてるんじゃないか?と思う程重い身体を動かし、電車を降りる。
降りたホームの売店でビールを見つける。
あれを飲めばすぐにコンディションは戻るどころか、無敵になれるのだが、
実はただ、怠さを先送りしているに過ぎないことも知っている。
危険な誘惑を断ち切り、改札を抜け地上への出口を探し階段を登る。
しかし、地下駅ってのはどうしてこう、風がびゅうびゅう吹くのか。
夏はまだしも、この季節は厄介な寒さだ。
地上に近くなるにつれ、雨音が大きくなっていく。
どうやら地下に入ってる間に本降りになったみたいだ。
出口に辿り着くと、なかなかハードな雨が降っている。
こんな中、デートだと?
もう既にお天道様が反対しているみたいじゃねぇか。
さっきから、まだ着かないのかとか何時に着くのかとLINEが来まくってるが、それすら鬱陶しい。
とりあえず今駅に着いたと、シンプルなLINEを送って気づいた。
傘がない。
仕方ない。
踵を返し、地下への階段を降り売店へ向かう。
無性に喉が乾く。
眼鏡を手探りで見つけ、痺れた脳を無理やり動かして記憶を探る。
ああ、 ここは、漫喫か。
昨晩、20年ぶりに再会した友人と横浜で語り明かしそうだったのを理性で抑えたはずが、
終電を逃して仕方なく漫喫に飛び込んだんだっけ。
しかし、怠い。
酒とタバコのコラボに果てはなく、翌日のダメージと来たらもう、病気レベル。
身の回りの物をチェック。
財布をはじめ、無くなったものは無いようだ。
いくら酒を呑んでも、こういった所に集中力を欠かない辺りが昨日の酔っ払いの俺、ナイス。
スマホの画面で時間を確認。午前8時半。
こりゃぁ、マズイ。
今日は、9時から気乗りしない女とデートだったか。
そもそも9時からデートという時間設定に魅力を感じない。
まぁ、何かしらのメリットがありそうなんで約束したが、怠い。
間に合わないと判ると、じたばたしても仕方ない。
とりあえず電話して遅れることを伝える。
電話の向こうでぎゃぁぎゃぁ騒いでたが、そのまま電話を切る。
タバコを探して、吸いたくも無いのに火を点ける。
不味い。
怠い。
身体が欲して居るのか、脳は拒絶してるのに無駄にタバコに火を点ける自分に疑問符を付けながら、
取り敢えずコーヒーか。
ドリンクバーからコーヒーをピックアップして、部屋に戻る。
このまま横になりたい衝動を抑え、立て続けにタバコに火を点ける。
この怠さは、時間経過でしか解決しないことを経験上、知っている。
時間を決める。9時。そして、9時きっかりに店を出る。
外は、傘をさすべきか迷うほどの雨。
駅までの道のりを、この痺れた脳を冷ますべく、右手に傘を持ったまま歩く。
冷たい雨と風が、火照った顔を冷やすのに丁度いい。
休日の朝。あいにくの天気も手伝ってか、電車内はガラガラだった。
角の席に座ると、もう二度と立ち上がりたくない程、怠さが押し寄せる。
反対側の窓の外に流れる景色を、見ているようで見ていないような、焦点の定まらない目で
右から左へ流れていく景色を、その奥にある建物はなんだっけ?
なんて思いつつも、それがなんなのか分からないまま通り過ぎていく。って、どうでも良いくらい怠い。
流れる景色は次第にゆっくりと、手前のクソ民家の窓越しに、あんなことやこんなことなど
くだらない映像が見えてしまうくらいに…なんてこともどうでもいい。
行くはずもない、なんちゃら外科の看板を意識の片隅に確認しながら、その向こうを
想像して居る自分に、ぷしゅーっと電車のドアの開く音に気付かされた。
あ、駅か。
しかし、一体いつ回復するんだ?俺の身体は…と思いつつ、まだ起床してから一時間も経ってない
から仕方ないかと思いつつ、寧ろ、昨日の俺を恨みつつある。
ナイス俺!とは程遠い。
がくんっ、と左に身体が傾いた瞬間に、電車が走り出す。
ふと、目の前の窓の手前に綺麗なお姉さんが座って居る事に気付く。
まるで鏡越しに自分を見て居るように、左のなんつーの?手摺?
ドア近くに仕方なく立った時にもたれ掛かる、あれ。
そこに、傘がかけられている。そう、綺麗な傘が。
見て居るようで、見ていないような虚ろな眼差しで、昨日の夜を思い出す。
と、言うか、少しづつ記憶が甦る。パズルのピースがひとつずつはまって行くかのように。
幾度となく同じ過ちを繰り返して居るにもかかわらず、酒に関しては未だに学習しない。
そして、蘇る記憶はそのまま忘れていた方が幸せだったなんて事が多い。
思い出すにつれ、とんでもない自己嫌悪が襲ってくるのが明らかだから。
「自己嫌悪は神様からのプレゼント」
なんて言ってた人が居るが、どんだけポジティブなんだよ。
焦点の定まらぬ視界の中、目の前の綺麗なお姉さんは本を読んでる。
こんな時は本を読んで、物語の世界に没頭するに限るが、今日は持って来てない。
駅に着く。ドアが開く。冷たい風がびゅうっと吹き込む。
俺が降りる駅はまだ先。退屈。
慌てたように読んでいた本を閉じ、ドアへと向かって走っていくお姉さんが視界を横切る。
さよなら、お姉さん。束の間だったな。
再び電車が動き出す。
降りる奴も乗って来るやつもたいして動きがないのに、駅につく度に
冷たい空気を取り込んで車内が暖かいのは椅子の下だけ。
相変わらずガラガラの電車は、採算が取れるのか心配になる乗車率。
もう少し混んでた方が暖かいかも知れないなと、どうでもいいことを思う。
ふと目の前で傘が揺れているのに気付く。
あれ?お姉さん傘、忘れてますよ。
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しかし、電車は走り出してしまってもう、どうしようもない。
もっと早く気づいてたら追いかけたかも知れない・・・いや、無いか。
流石にこの怠さでは声を掛けるのが精一杯か・・・いや、無いか。
この忘れ去られた傘は、一体何処で、誰にピックアップされるのだろう。
終点で駅員って辺りが妥当かと思うが、途中で乗ってきた悪い奴が持ち去るかも知れない。
でも、大抵は見て見ぬふりですかね。
はたまた他人の傘に興味湧かないのは自分だけか。
程なくして、電車は地下に滑り込んでいく。
トンネル内の明かりが右から左へとびゅんびゅん動く。
今のコンディションには意外と気持ち悪かったりするのに見てしまう。
なんとか視線を上げ、車内広告に逃げる。
全く知らない専門学校や、仏壇、不動産系の広告が目立つが、どれも俺には不要なものばかり。
大手ならともかく、そもそもこの広告見て仏壇買うか?
中吊り広告に至っては下品な週刊誌ばかり。
芸能人が何しようが俺には全く関係ないし、どうでもいい。
あれで飯を食ってる奴がいる訳だが、他人の不幸話で食う飯は美味いのか?
他人の不幸は蜜の味と言うが、ちょっとこれは違うんじゃないかと思う。
あれこれくだらない事考えてる間に目的地の駅に着いた。
目の前のお姉さんの綺麗な傘はそのまま同じところにある。
こりゃぁ終点までそのままか、そのまま折り返して偶然お姉さんと出会ったりしてなんて考えながら、
ケツと背中がシートに張り付いてるんじゃないか?と思う程重い身体を動かし、電車を降りる。
降りたホームの売店でビールを見つける。
あれを飲めばすぐにコンディションは戻るどころか、無敵になれるのだが、
実はただ、怠さを先送りしているに過ぎないことも知っている。
危険な誘惑を断ち切り、改札を抜け地上への出口を探し階段を登る。
しかし、地下駅ってのはどうしてこう、風がびゅうびゅう吹くのか。
夏はまだしも、この季節は厄介な寒さだ。
地上に近くなるにつれ、雨音が大きくなっていく。
どうやら地下に入ってる間に本降りになったみたいだ。
出口に辿り着くと、なかなかハードな雨が降っている。
こんな中、デートだと?
もう既にお天道様が反対しているみたいじゃねぇか。
さっきから、まだ着かないのかとか何時に着くのかとLINEが来まくってるが、それすら鬱陶しい。
とりあえず今駅に着いたと、シンプルなLINEを送って気づいた。
傘がない。
仕方ない。
踵を返し、地下への階段を降り売店へ向かう。
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