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寄り道
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この件も無事に片付いたし、久しぶりに飲みに行くかな…。
「山口、どうだ?ちょっと付き合ってくれるか?」
「 すみません。今日はさすがに早く帰らないと、家を追い出されてしまうので…。」
「わかった。また今度な。」
「はい。では!」
足早に山口は出ていった。そういえば、あいつは婿入りだからなぁ。仕方ない、一人で行くか…。
慣れた通りを夜の盛り場に向かって、歩を進めた。仕事で回っている時とこういう時とでは、見慣れた風景も違って目に入ってくる。いつもは、こんなに良い街なのに、なんであんな事件が起こるのかなぁ。
夜特有のネオンに色どられた看板を見ながら歩いていると、
「ん!こんなところに店が?いつの間にか出来たんだなぁ。ちょっと入ってみるか…。」
細い路地の奥に真新しいエメラルドグリーン色の看板を見つけた。
入り口のドア脇には、開店祝いの花が1鉢と【open】と書かれたパネルが無造作に置かれていた。
「cafe&barカワナカっていうのか…。落ち着いて飲めそうな店だな。寄ってみるか」
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」小気味良い声で40半ばくらいの女性が迎え入れてくれた。店内は、少し暗めでスポットライトが上手い配置で、ある種の演出をしている。心地好い音量でジャズと思わしき音楽が流れており、新しい店でありながら、すでに街に馴染んでいる感じがする。テーブル席に、仕事帰りとおぼしき女性2人組と40代位の夫婦らしきカップルが座っている。カウンター席の一番端に、50代前半位の男が座っており、悲しげな眼でグラスを見つめている。
私は、カウンター席の真ん中に座った。
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けください。」とメニューを渡された。暫し、眺めて、先程の店員を呼んだ。
「グラスビールと自家製ローストバタピーを」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
「マスター!グラスビールお願いします。」
「はいよー。」
不意にカウンターテーブルから頭が出てきたので、思わずのけ反ってしまった。
「お客さま、すみません。驚かせてしまって…」
「ああ、いえ、大丈夫です。」
マスターは、深々とこちらに頭を下げてから、ビールサーバーに向かい、グラスにビールを注いだ。
「お待たせいたしました。」
泡の白と黄金色が程よいバランスのビールが目の前に置かれた。そして、奥からは、ピーナッツとバターの入り交じったなんとも言えない香ばしく、そしてよだれを溢れさせるにおいが漂ってきた。
「マスター。ここはいつ開店したの?」
「月曜日からはじめました。」
「そうなんだ。なかなか良いお店だね。」
「ありがとうございます。」
「ピーナッツは注文を受けてから、作るなんて、なかなかないよ。香りだけでもビールが進みそうだよ。」
「ありがとうございます。祖父が昔、良くおやつに作ってくれたので、それをマネしてみたのですが…。本家には、かないません。」
「へぇーそうなんだ。」
「お待たせいたしました。」
「おっきたきた。では、いただきますね。」
指で2粒つまんで、口に放り込んだ。
「程よいロースト感とバターの風味、そしてこの心地好い歯触り。すばらしいできだ。」
「ありがとうございます。お口にあって良かったです。ごゆっくりどうぞ。」マスターは微笑みながら軽く会釈をして、カウンターの反対側に行き、グラスを磨きはじめた。
あぁっうまい。ひと仕事のあとは、ビールに限るね。とくに、大きなヤマの後は最高な気分だ。それにしても、今回のはよっぽど巧妙に考えられたものだったし、何しろ関わった人数の割り出しに時間がかかったなぁ…。
ビールとピーナッツを交互に口にはこびながら、今回の事件を思い返してニヤニヤしていた。
「山口、どうだ?ちょっと付き合ってくれるか?」
「 すみません。今日はさすがに早く帰らないと、家を追い出されてしまうので…。」
「わかった。また今度な。」
「はい。では!」
足早に山口は出ていった。そういえば、あいつは婿入りだからなぁ。仕方ない、一人で行くか…。
慣れた通りを夜の盛り場に向かって、歩を進めた。仕事で回っている時とこういう時とでは、見慣れた風景も違って目に入ってくる。いつもは、こんなに良い街なのに、なんであんな事件が起こるのかなぁ。
夜特有のネオンに色どられた看板を見ながら歩いていると、
「ん!こんなところに店が?いつの間にか出来たんだなぁ。ちょっと入ってみるか…。」
細い路地の奥に真新しいエメラルドグリーン色の看板を見つけた。
入り口のドア脇には、開店祝いの花が1鉢と【open】と書かれたパネルが無造作に置かれていた。
「cafe&barカワナカっていうのか…。落ち着いて飲めそうな店だな。寄ってみるか」
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」小気味良い声で40半ばくらいの女性が迎え入れてくれた。店内は、少し暗めでスポットライトが上手い配置で、ある種の演出をしている。心地好い音量でジャズと思わしき音楽が流れており、新しい店でありながら、すでに街に馴染んでいる感じがする。テーブル席に、仕事帰りとおぼしき女性2人組と40代位の夫婦らしきカップルが座っている。カウンター席の一番端に、50代前半位の男が座っており、悲しげな眼でグラスを見つめている。
私は、カウンター席の真ん中に座った。
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けください。」とメニューを渡された。暫し、眺めて、先程の店員を呼んだ。
「グラスビールと自家製ローストバタピーを」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
「マスター!グラスビールお願いします。」
「はいよー。」
不意にカウンターテーブルから頭が出てきたので、思わずのけ反ってしまった。
「お客さま、すみません。驚かせてしまって…」
「ああ、いえ、大丈夫です。」
マスターは、深々とこちらに頭を下げてから、ビールサーバーに向かい、グラスにビールを注いだ。
「お待たせいたしました。」
泡の白と黄金色が程よいバランスのビールが目の前に置かれた。そして、奥からは、ピーナッツとバターの入り交じったなんとも言えない香ばしく、そしてよだれを溢れさせるにおいが漂ってきた。
「マスター。ここはいつ開店したの?」
「月曜日からはじめました。」
「そうなんだ。なかなか良いお店だね。」
「ありがとうございます。」
「ピーナッツは注文を受けてから、作るなんて、なかなかないよ。香りだけでもビールが進みそうだよ。」
「ありがとうございます。祖父が昔、良くおやつに作ってくれたので、それをマネしてみたのですが…。本家には、かないません。」
「へぇーそうなんだ。」
「お待たせいたしました。」
「おっきたきた。では、いただきますね。」
指で2粒つまんで、口に放り込んだ。
「程よいロースト感とバターの風味、そしてこの心地好い歯触り。すばらしいできだ。」
「ありがとうございます。お口にあって良かったです。ごゆっくりどうぞ。」マスターは微笑みながら軽く会釈をして、カウンターの反対側に行き、グラスを磨きはじめた。
あぁっうまい。ひと仕事のあとは、ビールに限るね。とくに、大きなヤマの後は最高な気分だ。それにしても、今回のはよっぽど巧妙に考えられたものだったし、何しろ関わった人数の割り出しに時間がかかったなぁ…。
ビールとピーナッツを交互に口にはこびながら、今回の事件を思い返してニヤニヤしていた。
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