看護師になるあなたへ

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 患者は50代男性で早期胃癌でした。
 その日私は深夜勤務をしていました。何とか朝の巡回を終えようとしていた七時前、大部屋の患者さんの一人を訪室した時、急に
「私は手術を受けた方がいいんでしょうか」
と尋ねられました。私はその言葉を聞いて、今その問ですかと思ったのを覚えています。七時は朝食準備が始まるため深夜勤務で一番忙しくなる時間だったからです。私は焦る気持ちを抑えながら患者さんのベッドサイドに座りました。患者さんにとって今がその時だったからです。
患者は胃癌患者で明後日手術予定の患者さんでした。その患者さんは舞踊をされていました。
「今、手術を受けるとオーストラリアの舞台に立つことができなくなるんです。オーストラリアの舞台は私の夢で次立てるかどうか分からないんです。今しかないんです・・手術を受けた方がいいのでしょうか」
と言われました。その時の私の頭の中には『手術をしない』という選択肢がなかったため
「今手術を受けないと病状が進行してしまいます」
と言いました。
「舞台に立ってから手術したのでは遅いでしょうか」
「そうですねぇ。舞台に立ってからとなると病状が進行している可能性があるので今受けるのと同じ手術が受けられるかどうかはわかりません。今、手術を受けてからもう一度オーストラリアの舞台に立てるように頑張ってみてもいいのではないでしょうか」
私がそう提案すると患者さんは俯きながら
「そんなに簡単に立てるものではないんです」
と呟かれました。
「今、手術を受けるとまた機会はありますが、今手術を受けないと病状は進行してしまします」
私は重ねて言葉を続けました。
「そうですね、わかりました」
患者はそう言われました。
その次の日、勤務するとその患者さんは退院されていました。私はその事実を知って患者さんは自分の命を懸けてオーストラリアの舞台に立たれたんだと思うと同時にそんな選択肢もあるのかと思ったのを覚えています。
 この時の私は経験が少なく手術を受けないという選択肢が全くなかったため、いかに手術を受けるように持っていくかばかりを考えていました。この患者の行動を通して最後の意思決定をされるのは患者さんで看護師は患者が様々な選択ができるよう情報を提供する必要があると思いました。
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