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何かが足りないと思う。
私は考えていた。
確かに今は特に争いもなく、平和である。
資源や魔法は人々が豊かになるために使われているし、食料も水も困っていない。
文化的にも色々と充実している。
うん。じゃあ問題ないと思うでしょ。そうなのかも。けど…。
「おい、またぼーっとしてんのか?」
「あっ。す、すみません…」
最近私に当たりが強いのが私の夫。
どうやら私のことが嫌いなのに親の意向に従って私と結婚することを選んだみたい。
私は、全く愛されていないと思う。
☆ ○ ☆
そんな私は…夫に浮気された。
浮気相手は…私の妹だった。
「ああ。姉の可愛くなさがよくわかるよ。君と比べると」
「ふふ、そう? まあ、お姉ちゃんは出来損ないっていうか…人生で何の成果もあげてないし…ま、そんなに美人でもないし…」
「君の方が何段階も上だね」
「そう言ってくれてうれしいわ」
そして二人は抱き合って、妹は部屋に夫を招き入れた。くそ、あいつ。まあ昔から私のこと嫌いなのは知ってたけどさ!
私はイライラしていた。
その後帰ってきた夫を問い詰めた。
「あんた…もう私と離婚しましょう」
「えっ」
「だって、浮気してるじゃない。あなたも望んでるんじゃないの? 私と離れるのを」
「まあ…そうかな。俺クラスの人間と君は釣り合わなかったかな」
「あっそ」
こうして私は夫と離婚した。
夫は妹と婚約したみたいだ。
くーっ。イライラする。
自分に対しても苛立つ。
何も自分で動けてないから、幸せになれないんだわ。
私は後悔した。
今からなんとかするしかない。
でも何をすればいいんだろう?
私はベッドで苦しんでいた。
そしてベッドでごろんごろん動き回ったのちに…前転。
ん?
今、なんか閃いたわよ。
何を閃いたんだろう。私は。
自分でもよくわからないけど今前転した時に…そうだ。
前転した後に腕を振って…。あれ、身体が勝手に動いている。
すると、なんと、光が放たれ、そこらに散らばっていたものが、勝手に動き出した。ていうか浮き上がった。そして、私の指示を待っているようだった。
私は試しに意思通りに動かせるかやってみた。
びっくり。全然動かせるわ。これってかなり特訓を積んだ専門の魔法使いしかできない芸当じゃなかったかしら。
いきなり専門の魔法使いレベルになって嬉しい私は、行動力が湧いてきた。
なんとかしてこの能力でお金を稼いで幸せになってやるわ。
というわけで、魔法使いがたくさん働く仕事場に押しかけた。
「こんにちは! ここで働きたいです!」
「こ、こんにちは…」
あらあら、受付の人が驚いてるけど、こっからますます驚かせるつもりなんだけど」
「君は魔法使いで食えるレベルなのか? テストをまずは受けてもらうけど、それでいい?」
奥から誰か出てきた。
魔法使いっぽくない、シンプルな服装の男性。
第一印象としては結構カッコいい。
「あなたは…」
「ここの、まあ、会社で言ったら課長みたいな感じ。名前はカショー」
「じゃあほぼ課長ですね。名前的にも」
「はいはい、じゃあ課長についてきてくれ。早速テストするぞ」
「はいっ」
自信満々でついていくことにした私だけど、今更思った。
私の魔法って再現性あるのかな?
もしあのとき一度だけなら、テストがボロボロでめっちゃ恥ずかしい思いをすることになる。
そうなったら嫌すぎる。
普通にこの課長とか「いやー、君全然ダメでしたね~」とか言いそう。
「はい、ここがテスト会場だ」
「なんかいっぱいオブジェとかがありますね」
「ああ。これを自由自在に動かせるかのテストをする」
「あの時の同じパフォーマンスならできるはず…」
「ん? まあとにかく、まずはその竜のオブジェを、天井付近まで上げた後で、元の位置に戻してみてほしい」
「はい」
私は腕を振った。
竜が浮かびあがる。天井付近までそのまま上昇させ、また降ろして元の位置に静かに着地。
「すごいな」
「ふふふ」
私はその後のテストもしっかりとクリアした。
いや、自分でも満点って感じね」
「92点だな、まあ合格だ」
「あれ、満点じゃない…」
「そりゃそうだ。オブジェの移動が少し雑なところがあった。そんなんではお客様の荷物を傷めてしまう可能性もある」
「もしかして、ここ、荷物運びの仕事なんですか?」
「そうだ。船で運ぶ荷物を仕分ける場所。ちなみに船で運ぶほど遠くまで魔法の力で荷物を移動させるのは無理だからな。…なんの仕事かも知らなかったのか」
「はい、なんか魔法使いが働いてる場所を探してた感じで、あんまり仕事の中身を見てなくて…」
「あ、そう…まあとにかく、雇用契約を結ぼう」
やった。これで魔法使いデビューだ! 能力が開花するって気持ちいいわね!
さて、どんどん働いてお金を稼ぐわよ。
私は気合いを入れたのだが、
一週間一生懸命働いたのちに、ベッドで寝ていた。
なんで?
「はあ。魔法のスタミナは全然ないみたいだね」
「魔法って体力使うものだと初めて知りました」
そう、無意識にどんどん体力を消耗していた私は、課長に看病される事態に。
「あの、課長もお仕事あると思うので…なんとか私は元気になりますから」
「いやいや、俺が仕事してないと思ったらそれは間違いだ。今も魔法を使ってるよ」
「え、まさか遠隔で…」
「そう。細かい荷物の状況まではわからないから、大雑把な移動だけ俺の魔法で今この瞬間もやっていて、細かいところは現場の人たちがやってくれているんだ」
「すごい…」
自分の魔法はまだまだレベルが低かったということだ。
まあ何も特訓せずに前転して開花したんだから仕方ない。
スタミナがないのだって、これまた仕方ない。
だけど、私はこれをきっかけに魔法でお金を稼ぐと決めた。
なら、ここからは努力しないとね。
「私、頑張りますよ、課長」
「期待しとくよ」
課長はそう言って、私のおでこに手を当てて熱を確かめてくれた。
優しい上司すぎる。
そして無事体調が良くなって復帰してから、私は体力をつけつつ調整しつつ、バリバリ働いた。
どんどんお金を稼いだ。やはり特殊な能力が必要なだけあって、お給料が高いぞ。
余裕が出てきたので、私は妹と元夫がどうしてるのか気になった。
社交パーティーに久々に参加してみると、なんと妹と元夫が密輸に関わっていると噂が。
「そりゃ面白い噂だね」
課長にそのことを話したら課長はそう言った。
「私、あいつらムカつくから、稼いだお金を使って悪事を暴いてやろうかと思いまして」
「それは、どうやるんだ?」
「単純に探偵を雇うんですよ。そういう仕事をしている人ってひっそりいるんでしょう?」
「そりゃいるが…俺の魔法使いの知り合いによくいるな。副業でしてる人もいるぞ」
「やっぱり魔法使いって探偵向いてるんだ…」
「そりゃね。物を自由に動かして、そこにカメラを仕込んどけば…」
「なるほど! え、てことはもしかして私でも探偵ってできます?」
「なんだかんだでまだ魔法初心者だからやめといた方がいいと思う」
「はーい。でしたらお金をバリバリ使って探偵に依頼しますね」
私はそう返事をした。
うん。なんとしても妹と元夫に痛い目に遭ってもらわないと。
悪いことしたんだから当たり前だよねえ。
楽しみだなあ。悪事の証拠を手に入れて、それを大々的にバラすのが。
それから一週間後。
探偵から集まった証拠を並べて眺めるのって楽しい!
止まらないにやつき。
いやー、探偵にお金をたくさん払った甲斐があったね。
これで妹と元夫を懲らしめられる。
あ、ちなみにがっつり密輸に関わっていました。
そのことを課長に話しに行ったら、
「狙い通りでよかったねー」
と言われた。
ちょっと興味なさそう。まあそりゃそうか。
でも私はめちゃくちゃ興味ありますのよ。
元夫と妹が落ちぶれるのが。
というわけで私は、証拠を各所に大々的に公開してやった。
妹と元夫は即牢獄へ。
私と話す暇もなかったわ。
貯金は減ったけど本当にスッキリした。
妹と元夫が牢獄に送られた次の日、私は気持ちよく出勤した。
「すっきりしたのかな?」
「はい!」
私がそう返すと、課長は、
「君は単純だね」
と穏やかに笑った。
その意味が全然わからなかったけど、一週間くらい経つと、なんとなく意味がわかってきた。
妹と元夫が牢獄に送られても、私としてはなんの変化もない。
お金が減ったという変化だけで、
もう満足感はどこかに飛んでいってなくなってしまったのだ。
なるほど…。
私は考えた。
課長が言ってたのはこういうことか。
出勤すると、心が読めるのかよと言いたくなるくらいのタイミングで、課長が話しかけてきた。
「もう熱が冷めたでしょ」
「はい…お金の無駄使いでしたかね…」
「いやいや、いいんじゃない?」
「課長は優しいですね」
「…君と同じ目に遭ってたら、君と同じことをしたかなとも思う。まあ、とにかく今日は、魔法使い御用達のお店に連れて行ってあげるよ。もっとも、君は行きなれた系統のお店かも知れないけど」
「え、あの…いいんですか?」
「もちろん。上司の奢りってことでね」
そして私たちはこぢんまりとしたお店にやってきた。
「ここの肉料理とワインは美味しいんだ」
「私ワイン大好きです」
「それはよかった」
前菜とワインが運ばれてきたら、私たちは早速乾杯。
うん。ここの赤ワインは心を落ち着けてくれるなと思う。
「どう? 美味しいだろ?」
「はい。ありがとうございます。なんか自分が本当に嬉しくなることを思い出した気がします」
「よかった。やっぱり美味しいご飯だよな。もっと広く言えば、衣食住だね」
「ですね」
「だからまずは新しい洋服を買って…新しい家具も買っちゃうとか」
「うんうん。私、どっちもやっちゃいます」
課長にそう宣言した私。
やっと本当に前向きになれた気がする。
そしてそれから、私はまず可愛い家具を買った。
その後、洋服も色々と新しいのを買って…。
「どうですか? これ新しいワンピースなんですけど」
「綺麗だな…似合いすぎてるよ」
課長にも褒めてもらった。
というか、課長はその日以降、私の新しい洋服全部絶賛だった。
「あの…課長は褒め上手なんですね」
「いや、ほんとに褒めたくて褒めてるんだ…」
「えっ。そうなんですか?」
「初めて見た時、君は確かに素敵だったが、どこか怖い雰囲気を漂わせていて、魅力的ではなかった。けど、今は毎日見るたびに…」
「魅力的になってるってことですかね?」
「ああ。そう思うよ」
そんな課長は私を優しく見つめてきた。
もしかして…。
って思ったら私の勘は当たっていて。
「俺は、君が好きになってしまったよ」
そう言われたんだ。
私は…。
「悪いことしたら容赦しないけど、いいの?」
と少し意地悪さを出して聞いてみる。
「もちろん大丈夫。だって悪いことをしなければいいだけだからね。それに、やっぱり大事なのは…衣食住に加えて…」
「愛ってことね」
「…だと思う」
「そういうことなら、ぜひお付き合いしましょう。ゆくゆくは婚約も」
私はそう笑顔で伝えた。
こうして私は、魔法使いとして、幸せな結婚生活を送ることになる。
しばらくすれば、もう元夫や妹のことなんか、完全に忘れたも同然の状態に。
これこそがゴールなんだな、と私は実感したのだった。
私は考えていた。
確かに今は特に争いもなく、平和である。
資源や魔法は人々が豊かになるために使われているし、食料も水も困っていない。
文化的にも色々と充実している。
うん。じゃあ問題ないと思うでしょ。そうなのかも。けど…。
「おい、またぼーっとしてんのか?」
「あっ。す、すみません…」
最近私に当たりが強いのが私の夫。
どうやら私のことが嫌いなのに親の意向に従って私と結婚することを選んだみたい。
私は、全く愛されていないと思う。
☆ ○ ☆
そんな私は…夫に浮気された。
浮気相手は…私の妹だった。
「ああ。姉の可愛くなさがよくわかるよ。君と比べると」
「ふふ、そう? まあ、お姉ちゃんは出来損ないっていうか…人生で何の成果もあげてないし…ま、そんなに美人でもないし…」
「君の方が何段階も上だね」
「そう言ってくれてうれしいわ」
そして二人は抱き合って、妹は部屋に夫を招き入れた。くそ、あいつ。まあ昔から私のこと嫌いなのは知ってたけどさ!
私はイライラしていた。
その後帰ってきた夫を問い詰めた。
「あんた…もう私と離婚しましょう」
「えっ」
「だって、浮気してるじゃない。あなたも望んでるんじゃないの? 私と離れるのを」
「まあ…そうかな。俺クラスの人間と君は釣り合わなかったかな」
「あっそ」
こうして私は夫と離婚した。
夫は妹と婚約したみたいだ。
くーっ。イライラする。
自分に対しても苛立つ。
何も自分で動けてないから、幸せになれないんだわ。
私は後悔した。
今からなんとかするしかない。
でも何をすればいいんだろう?
私はベッドで苦しんでいた。
そしてベッドでごろんごろん動き回ったのちに…前転。
ん?
今、なんか閃いたわよ。
何を閃いたんだろう。私は。
自分でもよくわからないけど今前転した時に…そうだ。
前転した後に腕を振って…。あれ、身体が勝手に動いている。
すると、なんと、光が放たれ、そこらに散らばっていたものが、勝手に動き出した。ていうか浮き上がった。そして、私の指示を待っているようだった。
私は試しに意思通りに動かせるかやってみた。
びっくり。全然動かせるわ。これってかなり特訓を積んだ専門の魔法使いしかできない芸当じゃなかったかしら。
いきなり専門の魔法使いレベルになって嬉しい私は、行動力が湧いてきた。
なんとかしてこの能力でお金を稼いで幸せになってやるわ。
というわけで、魔法使いがたくさん働く仕事場に押しかけた。
「こんにちは! ここで働きたいです!」
「こ、こんにちは…」
あらあら、受付の人が驚いてるけど、こっからますます驚かせるつもりなんだけど」
「君は魔法使いで食えるレベルなのか? テストをまずは受けてもらうけど、それでいい?」
奥から誰か出てきた。
魔法使いっぽくない、シンプルな服装の男性。
第一印象としては結構カッコいい。
「あなたは…」
「ここの、まあ、会社で言ったら課長みたいな感じ。名前はカショー」
「じゃあほぼ課長ですね。名前的にも」
「はいはい、じゃあ課長についてきてくれ。早速テストするぞ」
「はいっ」
自信満々でついていくことにした私だけど、今更思った。
私の魔法って再現性あるのかな?
もしあのとき一度だけなら、テストがボロボロでめっちゃ恥ずかしい思いをすることになる。
そうなったら嫌すぎる。
普通にこの課長とか「いやー、君全然ダメでしたね~」とか言いそう。
「はい、ここがテスト会場だ」
「なんかいっぱいオブジェとかがありますね」
「ああ。これを自由自在に動かせるかのテストをする」
「あの時の同じパフォーマンスならできるはず…」
「ん? まあとにかく、まずはその竜のオブジェを、天井付近まで上げた後で、元の位置に戻してみてほしい」
「はい」
私は腕を振った。
竜が浮かびあがる。天井付近までそのまま上昇させ、また降ろして元の位置に静かに着地。
「すごいな」
「ふふふ」
私はその後のテストもしっかりとクリアした。
いや、自分でも満点って感じね」
「92点だな、まあ合格だ」
「あれ、満点じゃない…」
「そりゃそうだ。オブジェの移動が少し雑なところがあった。そんなんではお客様の荷物を傷めてしまう可能性もある」
「もしかして、ここ、荷物運びの仕事なんですか?」
「そうだ。船で運ぶ荷物を仕分ける場所。ちなみに船で運ぶほど遠くまで魔法の力で荷物を移動させるのは無理だからな。…なんの仕事かも知らなかったのか」
「はい、なんか魔法使いが働いてる場所を探してた感じで、あんまり仕事の中身を見てなくて…」
「あ、そう…まあとにかく、雇用契約を結ぼう」
やった。これで魔法使いデビューだ! 能力が開花するって気持ちいいわね!
さて、どんどん働いてお金を稼ぐわよ。
私は気合いを入れたのだが、
一週間一生懸命働いたのちに、ベッドで寝ていた。
なんで?
「はあ。魔法のスタミナは全然ないみたいだね」
「魔法って体力使うものだと初めて知りました」
そう、無意識にどんどん体力を消耗していた私は、課長に看病される事態に。
「あの、課長もお仕事あると思うので…なんとか私は元気になりますから」
「いやいや、俺が仕事してないと思ったらそれは間違いだ。今も魔法を使ってるよ」
「え、まさか遠隔で…」
「そう。細かい荷物の状況まではわからないから、大雑把な移動だけ俺の魔法で今この瞬間もやっていて、細かいところは現場の人たちがやってくれているんだ」
「すごい…」
自分の魔法はまだまだレベルが低かったということだ。
まあ何も特訓せずに前転して開花したんだから仕方ない。
スタミナがないのだって、これまた仕方ない。
だけど、私はこれをきっかけに魔法でお金を稼ぐと決めた。
なら、ここからは努力しないとね。
「私、頑張りますよ、課長」
「期待しとくよ」
課長はそう言って、私のおでこに手を当てて熱を確かめてくれた。
優しい上司すぎる。
そして無事体調が良くなって復帰してから、私は体力をつけつつ調整しつつ、バリバリ働いた。
どんどんお金を稼いだ。やはり特殊な能力が必要なだけあって、お給料が高いぞ。
余裕が出てきたので、私は妹と元夫がどうしてるのか気になった。
社交パーティーに久々に参加してみると、なんと妹と元夫が密輸に関わっていると噂が。
「そりゃ面白い噂だね」
課長にそのことを話したら課長はそう言った。
「私、あいつらムカつくから、稼いだお金を使って悪事を暴いてやろうかと思いまして」
「それは、どうやるんだ?」
「単純に探偵を雇うんですよ。そういう仕事をしている人ってひっそりいるんでしょう?」
「そりゃいるが…俺の魔法使いの知り合いによくいるな。副業でしてる人もいるぞ」
「やっぱり魔法使いって探偵向いてるんだ…」
「そりゃね。物を自由に動かして、そこにカメラを仕込んどけば…」
「なるほど! え、てことはもしかして私でも探偵ってできます?」
「なんだかんだでまだ魔法初心者だからやめといた方がいいと思う」
「はーい。でしたらお金をバリバリ使って探偵に依頼しますね」
私はそう返事をした。
うん。なんとしても妹と元夫に痛い目に遭ってもらわないと。
悪いことしたんだから当たり前だよねえ。
楽しみだなあ。悪事の証拠を手に入れて、それを大々的にバラすのが。
それから一週間後。
探偵から集まった証拠を並べて眺めるのって楽しい!
止まらないにやつき。
いやー、探偵にお金をたくさん払った甲斐があったね。
これで妹と元夫を懲らしめられる。
あ、ちなみにがっつり密輸に関わっていました。
そのことを課長に話しに行ったら、
「狙い通りでよかったねー」
と言われた。
ちょっと興味なさそう。まあそりゃそうか。
でも私はめちゃくちゃ興味ありますのよ。
元夫と妹が落ちぶれるのが。
というわけで私は、証拠を各所に大々的に公開してやった。
妹と元夫は即牢獄へ。
私と話す暇もなかったわ。
貯金は減ったけど本当にスッキリした。
妹と元夫が牢獄に送られた次の日、私は気持ちよく出勤した。
「すっきりしたのかな?」
「はい!」
私がそう返すと、課長は、
「君は単純だね」
と穏やかに笑った。
その意味が全然わからなかったけど、一週間くらい経つと、なんとなく意味がわかってきた。
妹と元夫が牢獄に送られても、私としてはなんの変化もない。
お金が減ったという変化だけで、
もう満足感はどこかに飛んでいってなくなってしまったのだ。
なるほど…。
私は考えた。
課長が言ってたのはこういうことか。
出勤すると、心が読めるのかよと言いたくなるくらいのタイミングで、課長が話しかけてきた。
「もう熱が冷めたでしょ」
「はい…お金の無駄使いでしたかね…」
「いやいや、いいんじゃない?」
「課長は優しいですね」
「…君と同じ目に遭ってたら、君と同じことをしたかなとも思う。まあ、とにかく今日は、魔法使い御用達のお店に連れて行ってあげるよ。もっとも、君は行きなれた系統のお店かも知れないけど」
「え、あの…いいんですか?」
「もちろん。上司の奢りってことでね」
そして私たちはこぢんまりとしたお店にやってきた。
「ここの肉料理とワインは美味しいんだ」
「私ワイン大好きです」
「それはよかった」
前菜とワインが運ばれてきたら、私たちは早速乾杯。
うん。ここの赤ワインは心を落ち着けてくれるなと思う。
「どう? 美味しいだろ?」
「はい。ありがとうございます。なんか自分が本当に嬉しくなることを思い出した気がします」
「よかった。やっぱり美味しいご飯だよな。もっと広く言えば、衣食住だね」
「ですね」
「だからまずは新しい洋服を買って…新しい家具も買っちゃうとか」
「うんうん。私、どっちもやっちゃいます」
課長にそう宣言した私。
やっと本当に前向きになれた気がする。
そしてそれから、私はまず可愛い家具を買った。
その後、洋服も色々と新しいのを買って…。
「どうですか? これ新しいワンピースなんですけど」
「綺麗だな…似合いすぎてるよ」
課長にも褒めてもらった。
というか、課長はその日以降、私の新しい洋服全部絶賛だった。
「あの…課長は褒め上手なんですね」
「いや、ほんとに褒めたくて褒めてるんだ…」
「えっ。そうなんですか?」
「初めて見た時、君は確かに素敵だったが、どこか怖い雰囲気を漂わせていて、魅力的ではなかった。けど、今は毎日見るたびに…」
「魅力的になってるってことですかね?」
「ああ。そう思うよ」
そんな課長は私を優しく見つめてきた。
もしかして…。
って思ったら私の勘は当たっていて。
「俺は、君が好きになってしまったよ」
そう言われたんだ。
私は…。
「悪いことしたら容赦しないけど、いいの?」
と少し意地悪さを出して聞いてみる。
「もちろん大丈夫。だって悪いことをしなければいいだけだからね。それに、やっぱり大事なのは…衣食住に加えて…」
「愛ってことね」
「…だと思う」
「そういうことなら、ぜひお付き合いしましょう。ゆくゆくは婚約も」
私はそう笑顔で伝えた。
こうして私は、魔法使いとして、幸せな結婚生活を送ることになる。
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