ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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六章

奴隷 9

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「ご主人様は娼館を経営なされてたので?」
「いや、冒険者だ」
「?? じゃあなんで」
「まぁまぁ、とりあえず娼館の人と話しだけでもしてみようよ」
「えっと」
「もしかしたら気にいるかもしれないし」
「……はぁ」

 俺の言葉に少し混乱気味な様子の獣っ娘。
 頭にハテナを浮かべたまま。
 渋々了承したって感じ。
 少なくとも、納得は行ってなさそうではある。

 ぼかしはしたが、薄々どうなるか察してはいるのだろう。
 でも、何故にこの反応?
 いやね。
 見知らぬおっさんとやりたくない。
 それは理解できる。
 非常に常識的な反応だし、俺が逆の立場でもそう思う気がする。
 ただ、その点に関しては俺相手でも同じわけで。
 奴隷になった時点で行為は避けられない。
 ここは受け入れてる風だった。
 俺とは嫌じゃないんだろ?
 会って1時間も経ってない。
 ただのおっさん相手に拒否しなかったのに、何故。

 買ってくれた恩ってのはあるかもしれないけど。
 環境が環境だったしね。
 救世主に見えたのかもしれない。
 求められて、必要とされて嬉しかったって言っていた。
 でも、娼館の客も金は払うし。
 俺は奴隷として人生そのものを買ったわけだが、時間を買うみたいなことだ。
 行為としては似ている。
 お客さんも女の子を求めてお店に来るからね。
 必要とされてるって事だ。
 初対面が嫌って言っても。
 行為に入る前に体洗ったり雑談したり。
 なんだかんだ今までぐらいの時間はあるのだが。

 まぁ、いいや。
 それでも嫌だって言うならまた考えるけど。
 ひとまず娼館の方と話をしてからだな。
 そもそも雇ってもらえると決まった訳でもないし。
 ここで話してても仕方ない。

 どっちみち自分じゃ面倒見れないのだ。
 なら、プロに面倒を見てもらおうと言うのが発想の根本である。
 人間の面倒を見るプロに。
 そういう意味じゃ奴隷商も同じなのかもしれないが。
 あそこに置いとくと売られちゃうからね。
 それ以前に死にそうだったし。
 どちらにしても、2度と会えなくなってしまう。
 人間自体が商品だし当然の話だけど。

 その点、娼館なら商品は体だから本人が売られる事はない。
 比喩で売るなんて表現を使うこともあるが。
 究極他のサービス業と変わらないしね。
 ただ時間を売ってるだけだ。
 その上で商品だからその品質維持の為に生活の保護も結構手厚い。
 少なくとも売れてる間は。
 後は、テクニックも向上するし。
 良いことづくめ。
 獣っ娘の世話を任せる相手としてはほぼ完璧に近い。

 着いた、この街の娼館である。
 まだ昼間だからか。
 黒服を着た店員が店の前を掃除していた。

「ちょっといいか?」
「はい……あれ? ロルフ様、いらっしゃいませ」

 知り合いだったらしい。
 揃いも揃って同じ服着てるから。
 あんまり区別がつかない。

「よく覚えてんな」
「お得意様ですから。あぁ、そういえばもう冬ですもんね。今年も温泉に?」
「まぁな」
「そういえば、ロルフ様に伝えなければならないことが」
「ん?」
「以前から指名して頂いていた娘、実は少し前にお店を辞めてしまって」
「ありゃ、俺のせい?」
「そんなまさか。よくしてもらったって感謝してましたよ」
「大した事してないけどな」
「毎回朝まで指名してくれますから。女の子にも纏まったお金が入るんです」
「あぁ、なるほど」

 確かに長時間の指名は嬉しいか。
 その間ずっと行為に付き合わされるならともかく。
 俺、普通に寝るしな。
 単純な労働時間だけで言えばかなり割りがいいかもしれない。
 まぁ、それで感謝してもらえるなら安いもんだ。
 こっちもたっぷり楽しませてもらってるし。
 人肌を感じながら眠るってのはそれだけ価値あることだから。
 実にWin-Win。
 健全な関係である。
 いや、やってることは不健全極まりないけど。

「それで辞めた理由ですけど。どうも店やるのに必要なお金が貯まったみたいで」
「へぇ、金貯めてたのか」
「もうこの街も出て、今は王都の方で1から頑張ってる頃かと」
「女性じゃ何かと大変だろうけど、上手く行くといいな」
「そんなこと言って。本当は戻ってきてほしいんじゃないですか?」
「ま、仮に失敗して帰ってきたら。その時はまたたっぷり楽しませて貰おうかな」

 本当にいなくなったのか。
 ちょっと寂しいな。
 ま、一生続ける仕事じゃないからね。
 むしろ夢に向かったならよかった。
 行方不明とか。
 それこそ自殺とか。
 普通にある仕事だからね。

 と言うか、夢があって働いてた方に驚いた。
 大抵借金とか、生活のためだからね。
 金は稼げるんだけど。
 そう気軽にできる仕事でもないし。
 やりたいことがあって、お金を貯めて王都にか。
 応援したいな。
 全く無関係の間柄って事でもないし。

 ま、だからって何かしたりは無いんだけど。
 とりあえず頑張れ。
 それだけ? って感じだが。
 俺の願掛けは結構馬鹿にならない。
 転生した身だからね。
 もしかしたら、神様が見てるかもしれないし。

 って、俺は雑談をしにきた訳ではないのだ。
 本題に入らないと。

「にしても、昼間からとは珍しいですね」
「いや、今日は別件で」
「別件ですか」
「この娘をここで働かせようかと思って」
「……へ??」
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