ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十三章

清算 9

 連行という形で詰所から連れ出されたはずなのだが。
 気づけば、女教師と兵士1人と俺だけ。
 3人になっていた。
 本部の他の兵士は女教師が適当な理由をつけて帰らせてしまった。
 ちなみに残った兵士は。
 もちろん、中身がノアのフルフェイスである。

 仮にも俺のことを容疑者として認識してるはずなのに。
 いいんか? と思わないでもない。

 独自に捜査するとか。
 強権的に連れ出したのも含め、方便にしか聞こえないけど。
 あまり関わりたくないのは詰所の兵士に限らず。
 こっちも同じだったらしい。

 簡単に解放さてしまった。
 いや、単純に仕事を早く終えたかっただけかもしれないが。
 とにかく、特に気にする様子もなく消えていった。

 まぁ、疑うのは逆にマズいのか。
 俺の存在を誤魔化そうとした隊長が目の前で斬られてて。
 拷問官も殺されているのだ。
 誰だって自分の命は大事だろうし。
 だから、気づいても見ないふりがベターなのかも。

 権力って凄いんだな。

 さて、解放された事ですし……
 詰所にいた時間なんて、ほんの数時間だったはずなのだが。
 色々起こりすぎたせいだろうか。
 無駄に長く感じた。

 そして、詰所から出られたと言いつつノアには相変わらず拘束されたまま。
 おかしい。
 兵士は解散させたのだから、そんな体を取る必要ないのに。
 そう言いたいのだが。
 色々と怖くて。
 今回、盛大にやらかした自覚があるのだ。
 話しかけるどころか、目を合わせることすら躊躇われると言いますか。

 ……希望としては。
 あー、例えば兵士と一緒に俺も帰らせ貰ったりとか?
 一刻も早く酒を入れて忘れたい的な?
 うん。
 ま、無理ですよね。

 とは言え、このまま連行されるのも恐ろしい。
 ってか。
 今はどこに向かってるのだろうか?
 それすら不明である。

 衛兵なら詰所とかその辺りだと大体の検討もつくのだが。
 ノア相手だと、一切不明。
 行き先ぐらい言ってくれても良くね?
 何故に黙ってるん?
 なんだろう。
 状況として、別にピンチでもなんでもないはずなのに。
 考えれば考えるほど、怖くなって来る。

 そ、そうだ!
 今こそ先の策を実行する時なのでは?

 王都は今、暴動で大変なことになってる訳だし。
 俺のせい……って訳ではないが。
 女教師に連れ出されたのも含め。
 ただでさえ足りてなかったであろう人手。
 さらに減らしちゃったからね。

 後手後手に回っちゃってるのは明か。
 だから、そう!
 責任を取らなければ。
 個人的にも。
 冤罪に巻き込まれて迷惑を被ったわけだしね。
 復讐も兼ねて、ぶっ潰してやろうかなって。

 いや、別にここから逃げ出そうって訳じゃなくてね?
 程の良い理由が見つかったとか。
 そんな事、全然思っていない。

 あくまで今からやるのは王都のため。
 俺が学生時代を過ごした都をめちゃくちゃにした犯人を引っ捕える。
 ただ、個人的な話だ。
 ノアたちを巻き込むのは違うよね?

 1人で解決して。
 何とは言わないが、ほとぼりが冷めた頃に合流。
 これなら、別に何の問題ないはず。

「……先輩、どこ行こうとしてるんですか?」

 このまま、真犯人探しに行こうかと。
 そう思って直ぐ。
 ずっと黙っていたノアが突然口を開いた。
 
「い、いや。俺は別に何もして」
「でも、今何かよからぬこと考えてませんでした?」
「えっと……」
「正直に言うなら、許してあげなくもないですけど」
「……はい、分かりました」

 頭の中で軽く考えただけだったのだが。
 何を察したのか、どうやらバレてしまったらしい。

 これ以上怒らせると怖い。
 正直に白状した。
 も、もちろん。
 一瞬頭をよぎっただけで、本気で実行するつもりなんて無かったけどね。
 いや、本当だよ?

「ふーん、この暴動の元凶を潰しにねぇ」
「は、はい」
「ご立派な事で」
「でしょ?」
「で、それは僕たちを放置してって事?」

 俺の言葉に、ノアの反応は大変冷ややか。
 ジトっとした視線を向けられる。

 ま、マズい……

 さっきまでと変わらないはずなのだが。
 何故だろう。
 冷めた瞳に、より強い感情が乗ってる様な気がする。

 腕を掴まれ、と言うかほぼ抱き込まれるような形。
 既に連行のような状態ではあったのだが。
 絶対に逃さないと。
 そんな意気込みすら感じられる。

 いや、別に振り払って逃げられはするけど。
 流石にね。
 さっきの今でそれをやる勇気はない。
 怖いだ何だと言いつつ、別にノアに嫌われたい訳ではないのだ。
 むしろ、嫌われたくないから。
 この場から逃げ出したかったと言いますか。

 周囲からめっちゃ視線を感じる。
 フルフェイスを被ってる以上、Aランク冒険者だとバレてるわけではないだろうが。
 ってか、向こうよりノアの知名度も低いだろうし。
 ノームじゃ地元の英雄だったからな。
 王都でもAランク冒険者は珍しい存在ではありつつ。
 居ない訳ではないのだ。

 とは言え、今は今で本部の兵士の格好をしている。
 それが俺みたいなのに抱きついていれば。
 そりゃ注目もされるって物だ。

「僕たち、リスクを冒して先輩の事助けに行ったんだけどなぁ~」

 耳に息かがかるくらいの距離。
 そう囁く。
 フルフェイス越しとはいえ、息が漏れない訳ではない。
 そんな構造じゃ兵士が窒息してしまうし。

 生暖かい空気が、耳をくすぐり。
 これ、ゾワゾワして変な気分になるからやめて欲しい。
 2人っきりの時ならともかく。
 人通りも多い。
 俺はノアとは違うのだ。
 周囲の視線が気になってしゃーない。

 そして、振り返って比較的大きな声で。

「ねぇ、フィオナ先生?」
「え? あ、はい。ノアさんの言うとおりです」

 ……貴女、それ言わされてない?
 今の会話ちゃんとそっちまで聞こえてました?

 まぁ、言ってることはそのとおりだ。
 かなりのリスク。
 実際に行動に移せるだけの権力があるのと、それを実行するのは全くの別物。
 強権の発動は隙を見せることにもなるし。
 ノアとしても。
 兵士になりすますとか、かなりグレーな事をしたのは間違いない。

 正直嬉しくもある。
 俺が余計な事していたせいで面倒なことになってしまったが。
 それは、それ。
 わざわざ助けに来てくれて、嫌な気はしない。

「もちろん、本当に感謝してる」
「ふーん。それで、僕たちに感謝してる先輩はどうするのかな?」
「頼みがあれば何なりと」
「な、なんでも?」
「……俺に出来る事なら」
「よろしい。じゃ、じゃあさっきの続きしよっか」

 へ?

 続き、続きってそういうこと?
 見返すと。
 なぜか視線を逸らされた。
 そっちから言っておいて照れるんじゃねぇ。

 突然すぎてびっくりしたが。
 別にやぶさかでもない。
 暴動の犯人なんて、後回しでもいいしな。

 ってか、最早放置でも良い気がして来た。
 急ぐ理由は皆無。
 ホテル行く直前で声かけられて。
 お預けにされ。
 衛兵に逮捕されて。
 正直、ちょっと溜まっているのだ。

 なんか嫌な予感がしなくもないけど。
 関係あるまい。

 裏路地に入りノアが防具を脱ぐ。
 このままそっち方面の店に入るのは違和感しか無いだろう。
 しかし、信用されてないのか腕を抱かれたまま。
 歩きにくい。
 が、まぁ仕方ないな。

 それに、行き先がわかると不安も吹き飛ぶと言いますか。
 悪くない。
 現金?
 おっさんが現金で何が悪い。

 ホテルに行くのかと思ったけど。
 そっちの方向じゃないな。
 貴族街。
 まぁ、貴族街にも宿はあるかもしれないが。
 住宅地の方だ。
 こんなところにそんな店あるのか?
 そう疑問に思ったのも束の間。

「ここです」

 連れてこられたのは、明らかにただの一軒家。

「もしかして?」
「流石先輩、僕の家です」

 なるほど、ノアの自宅か。
 ま、学園で講師やってるわけだし。
 家ぐらい借りるわな。

 この家、学園側が用意してくれたのかもしれない。
 あんま見栄とか気にしないだろうし。
 わざわざこっちに借りたりしないだろうから。
 ただの予想だけど。

 ホテル街とか行くよりは、トラブルも少ないか。
 今どこかの衛兵に話しかけられたら。
 俺がどうこうではなく。
 ノアが相手の首とか切り飛ばしかねない予感がする。
 流石に、それは不本意だ。

「あ、ノア先生! フィオナ先生も」

 家に入る直前で声を掛けられた。
 玄関先、誰かが待ち構えていたらしい。
 また面倒ごとかと。
 一瞬身構えたが。
 どこか、聞き覚えのある声……

 あれ?

 メスガキがいた。
 例の、ノアの教え子の学園生だ。
 何故こんな所に。

 てか、俺は無視かい。
 嬉しそうに先生達の名前だけ呼びやがって。

 ……まぁ、関わり深いかと言えばそんなことはないし。
 せいぜいちょっと教えた程度。
 しかも1日だけ。
 その後好感度も爆下がりしただろうからな。
 仕方ないと言えばそうだが。

 一拍遅れて、目が合った。
 向こうも俺がいたのは予想外だったのだろう。
 そして、会いたくなかったらしい。
 見るからに表情が歪む。
 いくらなんでも顔に出過ぎでは?

 ただ、ノアの手前。
 俺と愛しの先生の関係は知っているのだ。
 そう邪険にする訳にもいかず。

「……と、間男」

 苦々しい表情。
 いや、誰が間男だよ。
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