ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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蛇足

春風 13

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「おじさん、お待たせしました」

 すぐギルド出るのに、待ち時間にもう一杯飲むのもどうかと思い。
 席を立ったまま。
 出入り口の近くでボケーっと待ちぼうけ。

 数分もしない内に受付嬢が戻ってきた。
 ワンチャン、ギルド長に捕まって戻ってこないかと思ったが。
 そんな事はなく。
 ただ、息がちょっと荒い。
 走ったのか?
 別に急かしたつもりはなかったんだけど。

「にしても、ちゃんと待っててくれたんですね」
「いや、置いてく訳ないだろ」
「どうでしょうか」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「……」
「俺があの状況で人のこと置いてく様な人間に見えるか?」
「それは、もちろんです!」

 当然かのように肯定されてしまった。

 もしかしてだけど。
 急いで戻ってきたのって、それが理由?
 だとしたら不本意極まりない。

 頭をよぎらなかったとは言わないが。
 選択肢として。
 無いと即断する程度には、実態から離れているのだ。
 不当な評価である。
 即刻、イメージの改善を求めたい所。

「そんな目で見られましても、自分の行動を振り返ってください」

 が、俺のこの無言の訴えは。
 無情にもあっさり切り捨てられてしまった。
 信用が無い。

 過去の行い……ねぇ。
 正直、抗議出来るほどの自信は無い。

 まぁ、お互い様か。
 俺も受付嬢の事は信頼しているが信用はしてないからね。
 だからこそ。
 関係が長くもってるところもあるのだろうな。

 そんなこんなで、チクチクと言葉のナイフで刺されつつ。
 行く気満々。
 準備も万端といった様子。
 このままボロボロにはなりたくないし。

「んじゃ、行くか」
「はい!」

 ギルドを出て、大通りを少し進み。
 そこから裏路地へと入る。
 本来、受付嬢みたいな人間が来るところではないのだが。
 ついてくるって言うんだから仕方がない。

 個人経営の飲み屋が何軒か並ぶ。
 他は、おそらく連れ込み用であろう宿屋もいくつか。
 沈みかけで薄暗くなったそらも相まって。
 ギルド周辺とは一転。
 かなりアンダーグラウンドな色が強い。

 そのまま通りを進み、奥まった所。
 既にいくつか過ぎたのとほぼほぼ同じような宿が一つ。
 ここだ。
 一見、何の変哲もない。
 地味な店構え。
 俺が日頃お世話になっている娼館である。

「やってる?」
「いらっしゃいませ」

 見慣れた扉をくぐり。
 店内へ。
 娼館に女連れで入るのもどうかと思うが。
 今更。
 別に初めてって訳でもないのだ。

 中に入ると、いつも通り黒服が出迎え。
 にしても相変わらずだな。
 外観と内装は本当にただの宿屋って感じなのに。
 黒服の格好だけ。
 やたらと良い生地の服着てやがる。

「いつものでよろしいでしょうか?」
「あぁ。ただ、連れが1人……」
「はい?」

 俺の言葉に黒服が首を傾げる。
 まぁ、普段の俺ならいつも通りとだけ言って。
 そのまま。
 鍵受け受け取って、部屋行っちゃうからね。

 常連で、指名も基本固定だし。
 他に話す事もないのだ。

「私とおじさん、2名の利用でお願いします」

 後ろから、ひょっこりと顔を出す受付嬢。
 おそらく黒服からは見えてなかったのだろう。
 少しばかり驚き。
 そして、顔を見て苦笑いである。

 まぁ、何も言ってはこないのだが。
 複数人プレイ。
 ちゃんとそういうオプション自体はあるからね。
 いや、基本はNGだし。
 嬢も俺相手以外にはNG出しているらしいけど。
 受付嬢のため。
 ってか、元はノアの為だろうな。
 ともかくその分金払うし。
 メニューにある以上特に問題もない。

 苦笑いは俺のせいだろうな。
 ほら、常連だから。
 いつものとか言われるぐらいだし。
 顔も覚えられているのだ。

 今までずっと1人で来てたのに。
 それが、ノアやら受付嬢やら連れてくるようになって。
 そりゃ困惑もするだろう。

 ノアから数えれば、それなりの回数になる気もするが。
 なんだかんだ1人で来ることも多いから。
 間が開くせいもあってか、黒服はまだあまり慣れていないらしい。
 初めは違和感も覚えるだろうけど。
 そのうち慣れるさ。
 まだこの反応なのは受付嬢ほど図太く無いからか。
 いやまぁ、ここまで図太い人間もそう滅多にいないだろうし。
 期待するのは酷だな。
 とりあえず、ちゃんと接客はしてくれるし文句はない。

「えっと、ご指名の嬢は」
「勿論お姉様で!」

 おい、受付嬢よ。
 黒服相手に身内の略称を使うんじゃない。
 しかもだ。
 まだ数回しか来てない店で。

「いつもの娘です」
「……あ、はい。承知致しました」

 混乱していたのか若干のタイムラグがあったものの。
 無事処理された様子。

 ちなみに、娼館の代金だが。
 奢りはしない。
 受付嬢に風俗奢るとか、ねぇ。
 意味分からないし。

 以前まで飲みの誘いをこれ理由に断ってた気もするが。
 まぁ、風俗に受付嬢連れてきてる時点でお察し。
 そもそもノアとの噂広まった時点で手遅れだった気もするけど。
 ともかく。
 今の俺に守るようなメンツなんて存在しないのだ。

 後は、金理由に断ってくれるならね。
 それで良かったんだけど。
 残念。
 受付嬢、そこそこ貰ってるから。
 あまり負担には思ってなさそうな様子。
 それに、割り勘じゃないしね。
 いや、流石に。
 俺が行きたくて着いてきてるって形だから。
 増える分だけ。
 追加料金だけ払ってもらってる。

 ヒモになりたい訳じゃないのだ。
 着いてくるのは良いけど、その分だけは負担してね。
 今の所そんな感じで落ち着いている。

「迷惑かけてすいません」
「いえ、代金は頂いてますので」
「あはは」

 この店には日頃お世話になっていて。
 常連である。
 いい関係築けてるのだ。
 オプションに有る、メニュー通りの物とはいえ。
 多少はイレギュラー。
 別に迷惑をかけたい訳ではない。

「それに……」
「?」
「あの子も楽しみにしてるみたいで」
「なら、良かったです」

 ま、お姉様とか呼んでるぐらいだしな。
 仲は良好なのだろう。

 こう言うお店って。
 女の子のメンタル管理が一番重要だったりするし。
 仲良い内は。
 そこまで邪険にされる事もないか。
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