ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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蛇足

春風 15

 絶妙に気まずい空気が流れる。
 受付嬢とは一応、体を重ねた関係ではあるものの。
 それ以前の。
 腐れ縁の様な状態が長かったからね。

 そんな表情をされてしまうと。
 こう、何と言うか。
 その対応に困るのだ。

 娼館に入っての待ち時間。
 別に普段も大してリラックスしてる訳でもないし。
 嬢が来るまでの間。
 どこか、そわそわしつつ待つのが通例ではある。
 変わらないと言えばそうなのだけど。

 今日は俺の定位置であるベッド。
 そこが受付嬢に占領されてしまっている。
 流石にね。
 この状態で腰掛けるわけにもいかず。
 かと言って、ソファーでくつろぐ気にもなれず。
 結果。
 所なさ気に突っ立ったまま……

 どうしたものかと考えていた所。
 不意に、ドアがノックされ。

 これ幸いと。
 受付嬢の視界から逃れるように、そそくさと動き。
 部屋の扉を開けた。

 そこには一目見て綺麗な女の子。
 嬢だ。
 いつも通り、胸元が大胆に開いた服装をしていて。
 当然の様に視線が持っていかれる。

 さっきの受付嬢みたいな。
 ギリギリ見えないぐらいの絶対領域もいいけど。
 ストレートに、男の欲を刺激してくるこの格好も嫌いじゃない。
 むしろ、めちゃくちゃ好みだ。

「ロルフさん、いらっしゃい!」

 部屋に入るなり自然と抱きついて来た。
 歓迎の意を全身で示す様に。
 まぁ、娼婦達の一種の営業活動も兼ねた挨拶みたいなものだ。
 常連相手なら。
 よほど嫌ってでもない限りしてくれる行為ではある。
 そうわかっていても。
 胸が押しつけられ。
 嬉しくないやつはいないだろう。

 毎回、これ以上のことをしているのだが。
 こういうどちらかと言えば健全寄りのスキンシップも。
 案外悪くない。
 抱きしめられる感覚は好きだ。
 なんの隔たりもなく。
 生まれたままの姿で抱き合うのも、それはそれでいいものではある。
 しっとりと肌を押しつけられるのはたまらないし。
 幸福感に全身を包まれ、とかされる様な感覚を覚える。
 ただ、布の硬さ。
 その内側にある柔らかさ。
 これを感じるのもまた別の良さがあるのだ。

「こないだぶりだな」

 最近はずっとこの街にいるからか。
 ほら、なんだかんだでお金使いすぎちゃったからね。
 現在節約中である。
 そんな事情もあり。
 ほぼ間を空けることなく嬢と会ってる気がする。

 いやまぁ、浪費の影響で娼館通いの頻度が増えるってのも。
 それはどうなのって感じで。
 我ながら意味不明な現象だとは思うが。
 仕方ない。
 俺のルーティーンなのだ。
 仕事終わりに毎回の様に来てるからね。
 旅を減らして薬草採取を増やせば、当然こうなるわな。

 後は、普通に冬だったし。
 浪費関係なく。
 馬車が基本使い物にならない季節だからね。
 自然と遠出が減る時期ではある。

「えっと、一昨日ぶりだったっけ?」
「……あれ?」

 かなりの頻度で通ってる自覚はあるけど。
 そんな直近だったか?

 俺の勤務体系は一労働二休日制。
 で、その労働日に毎回嬢の事買ってるんだから。
 3日ぶりのはず。

 あ、でもそっか。
 大体一晩丸々買って、朝まで一緒にいるし。
 次の日も会うこと多いわな。
 なるほどね。

 この計算だと確かに一昨日ぶりか。
 中1日しか空いてないじゃん。
 しかも、この3日周期のルーティーンで中1日って。
 2/3で嬢と一緒にいる計算では?

「私、覚え違えちゃってたかも」
「いや間違えてないよ」
「ならよかった」
「うん」
「なんでロルフさんがショック受けてるの?」
「何でもない」
「そう?」

 間違えてて欲しかったけど。
 そう俺に都合良くはいかないらしい。

 いや、だってねぇ。

 恐ろしい事実に気づいてしまった。
 働いてる日数より娼婦買ってる日数の方が多いのである。
 これは酷い。
 しかし、気付いた所で何かを変える気にはならない。
 ただびっくりしただけ。
 我ながら手遅れな自覚はあるが、そう言う人間なのだから仕方がない。
 うん。
 知らないふりをしよう。
 純度100パーセントの現実逃避である。

「お姉様ー、私も来ましたよ!」

 俺が知りたくもない真実に打ちひしがれていると。
 受付嬢がひょっこりと顔を覗かせた。

 ついさっきまで、ベッドに女の子座りして。
 顔真っ赤にして固まっていたのだが。
 いつの間にか再起動したらしい。
 そして、そのままの勢いで嬢へと正面から抱きついた。

 さっきまで恥ずかしがってたのはどこへやら。
 胸元に顔を埋め。
 本当に懐いてるんだな。

 にしても、この受付嬢。
 どうも豊満なのが好みらしい。
 母性の塊を前に、男女は関係ないからね。
 明らかに顔が緩んでいる。

「ギルドでのお仕事お疲れ様」
「私、頑張った!」
「おー、よしよし。偉いね」

 本人もそこそこの物を持っているのだが。
 他人のと自分のは違うのだろう。

 褒めてと言わんばかり。
 頭を撫でられて、偉いと言葉をかけられて。
 ご満悦だ。

 幼児退行してないか?
 ま、赤ちゃんプレイとか聞くしな。
 お姉ちゃんに甘えるぐらい。
 健全な方か。

「ロルフさんも、お疲れ様」

 2人の絡みを微笑ましく見ていた所。
 仲間外れは良くないとでも思ったのだろうか。
 俺も嬢に抱き寄せられる。

 2つのクッションに、1人ずつ。
 顔を埋めて。
 甘い言葉を耳元で囁き頭を撫でて、疲れを癒してくれる。
 最高か?
 ASMRで妄想するしかなかった理想。
 今、現実になっているのだ。

 仕事の疲れを女の子で癒すの。
 良いよね。
 ストレスを溜めちゃ仕事にならない。

 俺と違って、受付嬢はちゃんと働いてるわけで。
 俺以上に実感してる事だろう。

「んっ……」

 急に嬢が艶かしい声をあげた。

 横を見ると。
 受付嬢が甘えるついでにハムハムしてる。
 何をとは言わないが。
 2人してクッションに顔を埋めてるわけで。
 そりゃね。

「こら、イタズラ禁止」
「ごめんなさい」
「まったく、悪い子ね」

 しゅんとした声こそ出しているが。
 表情は笑顔だ。
 いたずらっ子。
 ザ、悪ガキって感じ。

 本当に仲良いよな。
 今の所俺についてくるって形だけど。
 俺いなくても1人で通ってる説あるな。
 うん。

 ……これがお姉様の魔力。
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