世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-18. 空に迫る影

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 あふれが始まって八日目。それだけアルと会っていない。アルがダンジョンに潜りに行くともっと長い間会えないけれど、それでもリネがそばにいて守ってくれるという安心感があった。今回はすぐ近くにいるのだから何かあれば助けてくれるとは思うけれど、もし間に合わなかったらと嫌な想像をしては、ブランに大丈夫だとなだめられている。

 三度目の物資の追加のために、領主の館を訪れた。もう十分にアピールしたから、貴族の突撃はないだろうということで、今日は側近の人は迎えに来なかった。そのほうが僕も気が楽でいい。けれど、冒険者ギルドマスターが同行し、到着すると司教様に出迎えられたので、過保護は継続中だ。
 物資を積むための馬車が並ぶところへと歩いていると、ブランが立ち止まった。釣られて僕も立ち止まり、ブランを見ると、遠くを見たまま動かないでいる。

「ブラン? 何かあった? もしかして、アルに何か……?」
『(違う。モンスターがこっちに向かっている)』

 それだけ言うと、また歩きだした。アルに何かあったのかと早くなった脈を落ち着かせるように深呼吸をしてから、ブランの言葉を思い返す。

「え? モンスター? この街に?」
『(そうだ)』
「行って!」
『(無理だな)』

 僕の側から離れることはできないと、断られてしまった。ギルド内ならこっそり行ってくれたかもしれないが、周りに知らない人がたくさんいるこの場所では、どんなに頼んでも、シリウスがいるから大丈夫だと言っても、ブランは行かないだろう。
 突然始まったブランと僕の会話に、周りの人たちが戸惑っている。

「どうしました? 何かその従魔が気づいたのですか?」
「あの、モンスターがこの街に向かっているそうです」

 僕の返事に、ざわめきが広がる。あふれたダンジョンがある方向を見るものの、何も見えない。「なにも来ていないぞ?」という声が聞こえるけど、ブランが言うなら間違いはない。

「それは、確かなのか? 不確かな情報で混乱させることは許されないぞ?」

 少し離れていたところに並んでいた領兵の中の偉そうな人が詰め寄ってきたので、思わず一歩下がると、キリシュくんが僕を庇うように、目の前に立ち、スリナザルくんが剣に手をかけた。一触即発の雰囲気に、緊張が走る。
 そこに、王子様の側近がゆったりと、けれど有無を言わせず割って入った。

「下がれ。混乱させて、テイマー殿に何の得がある?」
「ですが、もし嘘だったら」
「テイマー殿、どのようなモンスターか分かりますか?」

 領兵の言葉に被せて、側近が質問してきたけれど、僕には分からない。ブランに聞こうとしたところで、領兵の一人が声をあげた。

「タオガガのほうから、何かが来ます!」

 その声にみなが同じ方向を見る。僕も視線を追うと、空に複数の小さな点が見える。

「ブラン、もしかしてあれがモンスター?」
『(そうだ)』
「全部?」

 遠くに見えていたたくさんの黒い点が、どんどんと近づいてくる。思った以上に速い。そして、多い。

「迎撃準備!」
「テイマー殿、司教様ととともに建物の中へ!」

 その言葉よりも早く建物へと走りだしたキリシュくんに腕を取られて、僕も引きずられるように移動する。ブランは僕のすぐ横を走っているが、緊張した様子もない。ブランにとっては手ごわい相手ではないのだろうけれど、街の人に被害が出てしまうのは、避けたい。

「ブラン、お願い」
『(ならん)』

 僕を置いてはいけないと言われると、どうにもできない。これだけ周りの目がある中で、ブランの正体がバレるようなことはできない。街に降りてくるのを黙って見ているしかないのだろうか。
 建物の入り口についたところで、キリシュくんの腕を振り払って立ち止まり、モンスターの飛んでいる空を見上げる。

「ユウくん、建物の中に入って!」
「外が見えないほうが不安だから、ここにいたい。降りてきたら中に入るから」
「だけど」
「ブランがいるから大丈夫」

 ブランが警戒していないのだから、僕に危険はない。きっと何の苦労もなく倒せる程度の強さなのだ。けれど、街の人たちは別だ。あのモンスターが街に降りてくれば、被害は避けられない。
 どうするともできず空を見上げていると、街の上空にモンスターたちがたどり着いた。そして降りてこようとはせずに、街の上空を大きく旋回している。きっと街の中のどこからでも見えるだろうから、人々が逃げ回っているだろう。

「降りてくる前に、倒せ!」
「無理です! あの高さでは魔法も届きません!」
「このままでは、街の者がパニックになる。なんとかしろ!」

 領兵たちが武器を構えて上空を見つめ、右往左往している。大部分があふれの対応に行っているため、残っている兵は最低限しかいない。高台にあるこの館が一番モンスターに近いはずだが、攻撃しようにも手段がない。そのとき、辺りを見回していた領兵と目が合う。

「テイマー、その従魔は強いんだろう? だったらあのモンスターを倒してくれ!」
「やめろ!」
「なりません!」

 懇願にも近いその依頼に対して僕が何か言うよりも先に、兵士の近くにいる王子様の側近、そして僕の側にいた司教様が否を叫んだ。二人の早い返答に、領兵たちが驚いている。

「ギルドとしても抗議する。この状況で、戦闘のできないテイマーから、従魔を離すことはできない」
「そんな……」

 ギルドマスターまで、反対を唱えた。
 領兵たちはやっと見つけた打開策を奪われ、自分たちでやるしかないと倒し方を相談しているが、いい案が見つからないようだ。
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