世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-19. 火の玉

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 街の上空を旋回しているモンスターは、まるで群れで獲物を追い込んでいるように見える。

「モンスターって群れるの?」
「そういう話は聞いたことがないけど」
「モンスターは協力し合わないと言われている。あふれだと違うのかもしれんが、初めて見る」

 隣のコーチェロくんと小さな声で話していたはずなのに、ギルドマスターが教えてくれた。僕たちを守るためにすぐ近くにいたので、聞こえたようだ。
 いつもと違うことが起きているというのなら、ブランが街に降りてこられないようにしてくれているのかもしれない。だけど、入れないようにするだけでは、倒せない。どうするつもりなのだろう。聞きたいけれど、周りに人がいる状況では、うかつに尋ねることもできない。
 領兵が空に向かって魔法を撃ってみたものの、やはり届かない。

「地上で迎え撃つ。街の中心部に迎え!」
「はい!」

 空に向かって攻撃するのは無駄だ。モンスターが下りてこないいまのうちに、迎撃の準備を整えるようにという王子様の側近の命令に、周りが一気に慌ただしくなる。王子様とともに軍に所属しているだけあって、こういう状況にも動揺せずに堂々としていて、領兵も異を唱えず従っている。

「ギルドマスター、冒険者も協力を」
「ギルドに残っている者がすでに指示を出しています。司教様の護衛はお任せください」
「教会も、避難誘導をしているでしょう」

 自分たちがいなくても問題ないと、ギルドマスターも司教様も言い切った。どちらもあふれに慣れている組織だから、トップの不在時にどうするかは事前に決まっているのだろう。そして、ギルドマスターが司教様の護衛を買って出て、僕たちの周りから領兵を追い払った。

 周りが慌ただしく走り回っている中で、僕はただ空を見上げることしかできない。
 側近の人が、次々と指示を出しているのを目の端に捉えながら、どんよりと立ち込める低い雲の下、飛び回るモンスターをみていると、いきなり空に炎が上がった。

「な、なに?」
「今度はなんだ!?」

 急に現れた火の玉が、モンスターを焼き尽くす。その火は、街の上空にある見えない壁にぶつかると広がり、バチバチと火花を散らしている。きっとあの見えない壁が、街を覆うように張られたブランの結界なのだろう。炎によってそこに壁があることが見えるようになっている。
 みなが足を止めて空を見上げる中、次々と火の玉が現れては、見えない壁にぶつかり広がって火花を散らす。こんな映像を見たことがある気がするけど、太陽のフレアだっけ、それとも何かのアニメかな、と状況も忘れて見入ってしまう。

 しばらくしてバチバチと散っていた火花が消えると、そこにはモンスターがいた形跡もなく、曇り空が広がるだけだ。
 モンスターがいなくなったことに気づいたのか、近くにいたギルドマスターが、ふっと息を吐いた。一方、司教様はじっと空を見上げている。

「ブラン、ありがとう」
『(違う)』
「え? ブランじゃないの?」

 周りに聞こえないようにささやくような声で、ブランにお礼を言うと、否定された。ブランにしては珍しく、派手な倒し方だと感じていたが、ブランではなかったらしい。となると、可能性は一つ。

『(まったく、あやつは……。無駄に目立つことをしおって)』
「やっぱり、リネ?」

 ブランは返事をしなかったけれど、どうやら正解らしい。バチバチと上がった火花は、リネがモンスターを倒すついでに、ブランの結界に炎をぶつけていたからなのかもしれない。呼び出された腹いせかな。

 突然の炎にモンスターの消失という事態に、現実が飲み込めないのか、みな空を見上げたまま固まっている。
 そんな空気を切り裂いて猛スピードで飛んでくる存在に、気づいた一部の人が行動に移るよりも早く、小さな鳥が僕の肩にとまった。

『ユウ、無事? 怪我はないよね?』
「うん。リネ、モンスターを倒してくれてありがとう」

 ダンジョンでのモンスターとの戦いを中断し、この街に迫ったモンスターを倒しに来てくれて、本当に感謝だ。
 リネの存在に気づいた人が、神獣様が助けに来てくれたと、歓声をあげる。

「神獣様だ!」
「神獣様が助けてくださった!」

 つられて、勝どきを上げる人、拝む人、それぞれだけど、領主の館全体に喜びの声が広がっていく。
 僕の近くでは、とっさに身構えたギルドマスターとシリウスのみんなが警戒を解いてホッとしているのとは対照的に、司教様や司祭様が飛び上がって喜びたいのをなんとか抑えているという表情でリネを見つめている。
 そんな騒ぎの中、当のリネは不満げだ。

『オレのこと、こき使いすぎじゃない? あれくらい、自分で倒せばいいのに』
「リ、リネ、何か食べる?」
『うん!』

 リネのブランへの文句に被せるように、おやつの提案をすると、とってもいい返事があった。
 ダンジョン内で楽しんでいたところを呼び出されたからか、リネは機嫌が悪い。ブランでも倒せるのに呼び寄せられたのだから、不平を抱くのは当然だ。それでも助けに来てくれたのだから、感謝も込めて、食べものでごまかそう。
 いまのリネの発言はきっと、神獣の降臨への歓声でかき消され、ほとんどの人には聞こえなかったはずだ。近くにいた司教様とギルドマスターには聞こえたかもしれないけど、ブランの正体を知っている、あるいは感づいている人だから、問題にはならないだろう。
 アイテムボックスからいろいろな種類のデザートを一つずつ取り出す。置く場所がないので、シリウスのみんなに持ってもらい、両手が塞がったところで、司教様やお付きの司祭様にもお願いする。

「好きなのを選んで」
『どれにしようかなー』
「プリンもあるし、ゼリーも新作があったはず。えーっと、どれだっけ?」
「テイマー殿、こちらの机を使ってください」

 王子様の側近によって用意された机に、ありったけのデザートを一種類ずつ出すと、司教様たちが綺麗に並べてくれた。料理長さんの力作で、机の上がカラフルでにぎやかだ。甘い香りに、張りつめていた気持ちが和らぐ。
 机も僕のアイテムボックスから出せばよかったのだと気づいたけれど、後の祭りだ。この騒動に、自分で思う以上に僕も動揺していたらしい。
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