世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-21. もふもふの代償

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 リネがこの街に飛んできたモンスターを倒したことで、僕はギルドの建物から外に出ることを禁止されてしまった。僕を助けるためにリネが街に戻ってきたと、うわさが流れてしまったからだ。流したのは、あそこにいて僕たちの会話を聞いていた、領主の関係者や領兵だろう。王子様の側近が口止めしていたのに、こんな事態になって、静かにキレていそうだ。

「退屈だねえ」
「仕方ないよ」

 物資提供のために、僕はこの街から離れられない。けれど、リネへの伝手ほしさに突撃してくる人がいるかもしれないので、外には出られない。結果、僕たちにあてがわれた会議室でおしゃべりすることしか出来ない。
 そこに、救世主が現れた。

「ティグ君!」
「にぎゃ」

 ノックの後、部屋に入ってきたのは、一緒にブロキオンに潜る予定だったティガーの三人と、もふもふでつるつるのトラの魔獣だ。

「あふれが起きたって聞いて、急いで帰ってきたんだが、俺たちはテイマーの護衛になった。よろしく」
「交代ですか?」
「シリウスはそのままで、俺たちは神獣様目当てにギルドに人が押しかけてきたときの撃退要員だ」

 ギルドの警戒が最高レベルに引き上げられたらしい。ティガーのみんなは、訓練場に泊まって、もしもに備えるそうだ。どうせなら会議室に一緒に泊まろうと誘ってみたけど、入り口へのアクセスのよさから、訓練場にいると断られた。
 そんな状況だが、挨拶と状況把握も終わったので、僕のやることは一つ。

「ティグ君、元気だった?」
「キューン」
「ほら、ブラン、ティグ君に挨拶してよ。ティグ君が遠慮してるじゃない」

 ブランが知らんぷりを決め込んでいるから、おいでと呼んだのに遠慮してきてくれない。猫のようなかわいい声で、とても悲しそうに鳴いている。
 ティグ君に申し訳なさ過ぎて、ブランをなだめすかしてなんとか挨拶してもらったけれど、大人げなさ過ぎる。どうしてそんなにネコ科が気に入らないのだろう。ティガーのみんなが苦笑いしている。

「ヴィゾーブニル様が、この街に飛んできたモンスターを倒してくださったというのは、本当なのか?」
「内緒にしてほしいんですけど、本当です。どんなうわさになってるんですか?」
「テイマーを助けるために飛んできたと」
「だいたい合ってます」

 自発的な行動ではないけど、間違いではない。なんとなくぼかした返事に、チラッとブランを見てうなずいてくれた。

「それで、テイマーに頼めば神獣様に助けてもらえる、と思って強硬な手段に出るやつらがいるんじゃないかと、ギルドが警戒して、俺たちも護衛になったんだよ」
「それは、ちょっと無理かなあ」

 頼んだところで、僕に危険がなければブランは動いてくれないだろう。今回だって、モンスターが近づいた街に僕がいなければ、ブランは何もしてくれなかったはずだ。リネを呼んだのは、ブランの正体を知られずに、僕の安全を守るためだ。

「みんな信じていますか?」
「ダンジョンで神獣様を見ている冒険者たちは信じてないな」
「飛ぶモンスターに興味をひかれたんじゃないかって声が大半だな」
「だが、貴族や街の人は分からん。人は信じたいものを信じる。気をつけるに越したことはないさ」

 僕が口添えすればリネに助けてもらえると、信じたいのだろう。神様がそんなに都合よく助けてくれるはずなんてないと、頭では分かっているとしても。しばらくは、出歩かないほうがよさそう。

 けれど、そんなことより、大切なことがある。ティグ君だ。ダンジョンから急いできたからか、毛がぼさぼさなのだ。一大事だ。

「ブラン、ティグ君のブラッシングしていい?」
『(ダメと言っても聞かないだろう)』
「それは……、そうかも」
『(仕方ない。ブロキオン五周で手を打ってやる)』
「五周もしないよ!」

 一回でも嫌なのに、五回も首なし騎士に会うなんて耐えられない。
 突然始まった自分が原因での言い合いに、ティグ君がオロオロしている。

「ユウくん、ウルフはなんて?」
「ブロキオン五周するなら許すって。人の足下を見て、ひどいよ……」

 僕が断れないと分かって、条件を出しているのだ。
 そんなことかと苦笑いしながら、シリウスのみんなが付き合うと言ってくれている。前回が四周だったから、それくらいはするだろうと思っていたそうだ。けれど、僕が頑張れる気がしない。

「なんで、五周なんだ?」
「獣道とアルの予備の魔剣を揃えると言いだして」
「魔剣か。正直うらやましい」
『(よし、もう三本必要だな)』
「いらない! 八周なんて絶対ヤダ!」

 うらやましいと言ったティガーの三人分も追加するなんて。このままでは、どんどん回数が増えてしまう。僕に甘いブランも、ブロキオンに関してだけは譲ってくれない。
 泣く泣く五周で合意した。もうこうなったら、ブロキオンの中でもティグ君のブラッシングをさせてもらうしかない。まずは、ティグ君に慰めてもらおう。

「テイマーさん、ティグ君に触れてもいいですか?」
「構わないが……」
「ティグ君、抱き着くけど、ちょっとだけ我慢して。ごめんね」
「お、おい」
「ブランがひどいんだよ。僕はブロキオンが嫌いなのに」

 ティグ君の首にぎゅっと抱きつき、つるつるの毛に顔を埋め、愚痴を聞いてもらう。大胆な行動にティグ君もテイマーさんも戸惑っているけれど、これくらいしないと僕の傷ついた心が癒されない。猫吸い、ならぬ、虎吸いだ。
 背中をブランの尻尾に攻撃されているけど、無視。今夜からブランの食事は野菜中心にしよう。これは意地悪ではなく、ブランの健康のためだ。
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