世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-23. おかえり

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 その日のうちに、アルと獣道がギルドに到着した。僕たちの借りている会議室にアルが入ってくるのを見ると、いても立ってもいられず、飛びつく。

「アル!」
「ユウ、問題はなかったか?」
「ないよ。おかえりなさい。怪我は?」
「ない。心配かけたな」

 心配はしたけど、戦っていたアルのほうが大変だったはずだ。無事で本当によかった。一度身体を離して全身をくまなくチェックしてみるが、怪我はなさそうだ。よかった、本当によかった。安心して、再度抱き着く。

「リネが街に来たと聞いたが」
「うん。モンスターが飛んできたんだけど、リネが倒してくれたよ」

 ゾヤラにモンスターが向かい、リネが倒したという噂は、あふれの現場にも広がったそうだ。家族を街に残している人もいるので、大きな関心事だった。
 アルに抱き着いたまま、リネが飛んできて、領主の館で起きたことを話していると、横やりが入る。

「あー、そろそろ奥に入ってくれるか?」
「ルフェオ、悪い」
「感動の再会を邪魔したいわけじゃないが、忘れられているかと思ってな」

 入り口でアルに抱きついたせいで、獣道が部屋の外で立ち往生している。その後ろには、アルムーザの姿も。みんな、ぱっと見では怪我もしていないし、装備も汚れていない。出発したときと変わらないので、激しい戦闘をしてきたようには見えない。この部屋に入る前に、身ぎれいにしてくれたのだろう。
 招き入れると、部屋の様子に驚かれる。アルムーザは元の部屋を知っているから、余計に。

「ここ、ギルドの会議室だよな?」
「ユウはこういうことには手を抜かないんだ」
「ちょっと模様替えはしましたけど」
「カーテンまでつけて、ちょっとじゃないだろ」

 窓にカーテンがなくて外から丸見えだと落ち着かないから、持っていた布を掛けただけだ。ソファはくつろぐためで、カーペットは僕が靴を脱ぎたいから。ちゃんと全部理由がある。
 全員が座るには足りないので、さらにソファを出すと、いくつ持っているのかと驚かれてしまった。ソファもベッドも、いろんな場面で使えるように、大きさや柔らかさをいろいろ取りそろえている。

「ダンジョンのセーフティーエリアでいかに快適に過ごすかが、ユウにとっては一番大切だからな」
「それでシリウスが接待に借り出されるのか」
「ユウの話し相手だよ。飽きちゃうからね」

 アルムーザのメンバーから、呆れたような視線を感じるけど、僕が行きたくて行くのではないのだ。シリウスの同行は、その間の僕のご機嫌取りのために、獣道が頼んでくれているのであって、僕が頼んだわけではない。来てくれなかったら、僕はボイコットするだろうけど。
 それで思い出した。

「アル、ブロキオン、五周することになっちゃった」
「それはまた、なんで?」
「ティグ君を撫でる代わり」
「だったら仕方ないな。頑張れ」

 アルはブランを見て苦笑いしているけど、獣道は笑いをこらえた微妙な表情だ。魔剣が増えることはうれしいけれど、僕の手前おおっぴらに喜べないのだろう。
 話が一段落したところで、アルムーザが僕の前に進み出た。

「テイマー、魔剣を返す。助かった。ありがとう」
「それはまだ持っていてください。このあと、ダンジョン内の掃討戦がありますよね」

 掃討戦とは、あふれの最中に階層を越えた、本来その階層にいないはずのモンスターを片っ端から狩る戦いのことで、あふれの後に地元のSランクが中心になって合同で攻略に向かう。それが終わる前、ダンジョンは封鎖される。強制依頼ではないけれど、浅い階層にも強いモンスターがいるので、いいドロップ品が期待出来て、参加を希望する冒険者は多い。掃討戦には国軍も参加するはずだから、借りた魔剣を渡すように貴族が言ってきてもなんとかしてくれるはずだ。

 差し出された魔剣を、僕は受け取らなかった。帰ってくるときにアルに渡そうとしたら、「それはユウが貸し出したものだ」と受け取ってもらえなかったそうで、「こっちもかよ」とちょっぴり不満そうだ。高価なものを持っていたくないという気持ちは分かるけど、まだ戦闘は続くのだから、有効活用してほしい。戻されたって、どうせ僕は使えないのだ。

「帰ってくるの、早かったね。帰ってくるのは掃討戦のあとかと思ってた」
「テオと一緒に帰ってきたんだ」

 今回は二つのダンジョンがあふれているから、アルと獣道も参加しなければ、ダンジョンの封鎖が長引いてしまう。アルもそのつもりだったそうだが、国軍がアルに勝手なことをしないように、自分が引き上げるときに移動してほしいと王子様に言われ、いったん引き上げてきたそうだ。
 今回は二つ同時という想定外のことが起きたので、掃討戦は一息ついてから、アルたちも参加して行う予定だという。

「ユウが貴族から無理を言われないように、側近をこの街へ送ったと聞いていたが、問題なかったか?」
「うん。側近の人だけじゃなく、司教様もギルドマスターもいてくれたから、大丈夫だったよ。側近の人は、王子様が避難してくれないって愚痴ってた」
「兵士の士気を落とさないために、避難できなかったらしい」

 王子様が逃げ出せば、国に見捨てられたと思って、兵士や冒険者も逃げ出したかもしれない。アルが前線に行ったのと同じ理由で、王子様も逃げなかった。
 みんな、自分たちの住むところを守るために、最善を尽くしている。
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