世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-24. 寝坊

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 宴会よりも、ひとまずぐっすり寝たいという前線に行ったアルたちの要望で、その日は僕のアイテムボックスから出した食事を食べるとすぐに、アルムーザも一緒に会議室にテントを張って眠った。おそらく宿はとれないだろうし、探しに行くのも面倒だったのだ。テントでプライベートスペースは一応確保できる。ベッドの代わりに、毛布をたくさん提供した。

 疲れていたのだろう、すぐに眠ってしまったアルの横に並んで、アルを眺める。なんの心配事もなさそうなリラックスした表情でぐっすりと眠り、呼吸に伴い胸が穏やかに上下している。無事にアルが帰ってきてくれたのだと実感して、自然と笑みが浮かぶ。アルがあふれの対応に行くと言ってから、ずっと胸の中にあった不安の塊がとけていくと、覚悟を持って現場に出向いたアルが誇らしいという思いが湧いてくる。
 起こさないようにそっとアルに寄り添うと、僕もすぐに眠りに落ちた。

 そして翌日。

「アル、ユウ、起きて。お客さんだよ」
「ユウ、起きろ」
「ん」

 アルに起こされても、まだ頭がうまく回らない。なんとなく外が騒がしい気がするけど、なんだろう。

「おはよ」
「おはよう。ユウ、着替えて、顔を洗え」
「んー」
「後でな。テオが来ているそうだ」
「まだ寝ていたい」

 久しぶりにアルとゆっくりできるのだから、誰であっても邪魔しないでほしい。あふれの対応を頑張ったのだから、それくらいのわがまま、許されるはずだ。
 二度寝を決め込んで横になり、隣にいるはずアルにもう一度抱き着くと、そのまま睡魔に身を任せる。寝入りそうになると外から聞こえる騒がしさに意識が浮上する、ということを繰り返すうちに、だんだん意識がはっきりしてくる。隣のアルに触れると、もふもふしている。これは、大きな犬だ。僕の願望が現実になったのかな。

「アルがもふもふ。ふふっ」
『アルは王子に会いに行ったぞ。ユウはいいのか?』
「え?」

 王子様? どういうこと? 慌てて起き上がると、テント内にはブランと僕しかいない。アルだと思って抱き着いていたのは、ブランだ。それはもふもふのはずだ。
 急いでテントを出ると、アルムーザとシリウスがあきれた顔でこちらを見ている。

「やっと起きた」
「えっと、アルは? 王子様ってどういうこと?」
「王子が訪ねてきて、アルさんと獣道は面会に行ってる」
「なんで僕も起こしてくれなかったの!」
「まだ寝ているって、二度寝したらしいよ。アルさんがしばらく寝かせておいてくれって言ったから」

 ギルド内が騒がしいのは、王子様が突然来たから、らしい。貴族でも大騒動なのに、王子様。会議室にまで聞こえてくるくらいの騒ぎになるのも当然だ。
 王子様はアルたちに会いに来たそうで、別の会議室で会談中。前線から帰ってきたアルたちが起きているのに、戦闘もしていない僕が寝坊なんて、いくらアルが心配で浅い眠りにしかつけなかったとしても情けない。
 僕は権力者とは会わないけれど、王子様とは何度か会っているし、今回は側近をこの街に寄こして、貴族から僕への接触を防いでくれたのだから、会ってお礼を言うべきだ。
 急いで身支度をして、王子様がいるという部屋に向かうと、部屋の外に立っている王子様の護衛だろう兵士が、扉を開けてくれる。ブランをチラッと見たので、止められるかと思ったけど、何も言われなかったのでそのまま通っていいのだろう。部屋まで案内してくれたコーチェロくんにお礼を言って、部屋に足を踏み入れた。

「遅くなってすみません」
「ユウ、起きたか。髪がはねてるぞ」

 部屋の中では、王子様とギルドマスターと向かい合わせでアルが座り、獣道は横側のソファに座っている。
 アルが立ち上がって僕に近寄り、寝癖を手でなでて直してくれるけど、今日は王子様だけでなく、側近や護衛の兵士もいるので恥ずかしい。しかも、寝坊だとバラされてしまった。なんとなく王子様と側近の視線が生暖かい気がする。
 アルに手を引かれて、隣に座ると、王子様が軽く頭を下げた。

「テイマー殿、今回の協力、心より感謝する」
「えっと……」
「テオ、ユウは軍に協力したわけではない。そこは間違えないでほしい」
「分かっている」

 寝起きで頭の回らない僕の代わりに、アルが答えてくれる。うっかり変なことを言いそうだから、僕は黙っていよう。

「今回提供してもらった物資については、王宮から教会へ払う。貴族が何かを言ってきたら、すべて王宮に回してくれ」
「分かった」

 僕が来たことで中断していた、今回提供した物資の清算に話が戻った。僕が来る前にほとんど決まっていたようで、かいつまんで僕にも説明してくれた。周りの領から派遣された兵士への提供分も、いったん国が支払って、領から徴収するらしい。それをネタに僕に直接交渉する貴族を警戒しての対策だそうだ。詳しくは、王都のギルドと中央教会と王宮で話をつけることに決まっていた。

「ユウを守ってくれて、助かった」
「ティボルトからは特に問題なかったと聞いているが、テイマー殿も相違ないかな?」
「はい。ありがとうございました」

 裏でどんなやり取りがあったのかは知らないけれど、僕にあいさつ以外で直接話しかけてきたのは、モンスターがこの街に来たときにブランに討伐を依頼した領兵だけだ。貴族が押しかけてくることはなかったし、リネがモンスターを倒してからは外出を禁止されたので、貴族と接触するような機会もなかった。

「ギルドのガードが固すぎて、特にやることはなかったと聞いているよ」
「冒険者を守るのは、冒険者ギルドの仕事ですので」

 当然のことだと答えているけれど、ギルドマスターは貴族から僕を守ろうとしたのではなく、ブランやリネからこの街を守ろうとしたのではないかという気がしている。ギルドに軟禁状態になったときに、貴族が僕に迷惑をかけることではなく、その結果ブランが暴れることを警戒している気がしたのだ。おそらくその勘は間違っていない。

「それで、このあとの掃討戦に、アレックスは参加するのか?」
「そのつもりだが」
「ならば、ダンジョン内は冒険者に任せたい。国軍と領兵には外を担当させよう」
「魔剣部隊は?」
「もうすぐ到着するはずだ」

 被害が甚大になると予想して、魔剣部隊を呼び寄せていたそうだが、あふれ自体も想定より早く終わり、リネのおかげで地上への影響も少なかった。いまさら来なくていいと言うわけにもいかないので、掃討戦には参加する予定だ。移動が大変だっただろうけど、予想がいいほうに外れたのだから、良しとしてほしい。
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