世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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7章 この世界でやりたいこと

7-6. フロアボス初討伐

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 薬箱ダンジョンの攻略開始だ。
 僕たちがドガイへ来る条件として、ドガイのSランクパーティー『マグノリア』と一緒に、通称薬箱ダンジョンと呼ばれる『カルデバラ』の攻略をする。
 多分本当は軍と一緒にやってほしかっただろうけど、アルの知り合いのSランクパーティーとになっているのは、モクリークのギルドが頑張ってくれたからだと思う。

 この薬箱ダンジョンは、前回僕たちが攻略して、最下層のドロップ品がエリクサーと分かった。けれどこのダンジョン、とにかく階層が広い上に、道もセーフティーエリアもない。そして最下層はまるまる海だ。
 そのため、僕たちはブランの魔法で押しきったけど、1パーティーでの攻略は難しい。軍の攻略もあまり進んでいないらしい。

 出発前日、中央教会にタゴヤのギルドマスターと、マグノリアのメンバーが来てくれた。
 マグノリアはアルが成人して冒険者登録したときすでにSランクだったパーティーだ。メンバーも入れ替わっておらず、そろそろ引退を考えているらしい。前回来たときはダンジョン攻略中で会えなかったので、僕は初対面だ。アルとカリラスさんは、約10年ぶりの再会に、当時の話とその後の報告で盛り上がっていた。

 今回攻略は20日を予定している。
 カルデバラは8階層あり、歩くと1階層2日はかかる。歩きづらい湿地の4階層、崖が続く6階層、森の7階層はおそらく3日かかる。前回はブランに乗ってさっさと進んだが、今回は歩く。

「舟は持っているのか?なければ国が用意しているが」
「持っているので不要だ」

 ギルドマスターが8階層の船の心配をしてくれるが、モクリークのギルドが準備してくれた8人乗りの船がある。ドガイの国が僕たちにカルデバラの攻略を頼んだのは、あわよくばその船を引き取りたいからだろう、とモクリークのギルドマスターに言われた。渡す必要はないけれど、その場で断るのは難しいかもしれないので、だったら渡せないものにすればいい、と貸してくれた。モクリークのギルドから借りている船を僕たちの判断で渡すことは出来ない。前回はブランの氷の船で進んだけど、ドガイの兵士がいるかもしれないところでブランの力を見せつけるようなことはあまりやりたくない。
 食事などの準備は依頼金から行うが、今回は全員の20日分を教会が手配してくれてすでに届き、僕のアイテムボックスに収納済みだ。
 マグノリアと持ち物の確認をして、明日に備えて早めに休んだ。

 薬箱ダンジョンへは乗合馬車も出ているが、今回は教会が手配してくれた馬車で、周りを騎士に囲まれて向かった。ケネス司祭様も一緒だ。

「お気をつけて行ってらっしゃいませ。タサマラのチーズを使った料理をご用意して、お帰りをお待ちしております」
「ありがとうございます。行ってまいります」
「行ってきます。薬草のお土産持って帰りますね」

 馬車に一緒に乗っていたケネス司祭様が、周りの貴族や冒険者への牽制だろう、わざわざ教会との繋がりを誇示してくれた。
 今回、4階層と8階層のボス部屋で出るポーションやエリクサーは、国が買い取ることに決まっている。けれどその途中で拾ったドロップ品は、マグノリアと僕たちのものだ。ポーションを作成するのは主に薬師の仕事だが、神学校では簡単なポーションを作る授業があるそうで、教会内には薬草畑もあり、学生さんが育てている。彼らが練習に使うと思うと、ドロップ品拾いも頑張れる。

 じゃあ行くか、とマグノリアのリーダーに促されて、ダンジョン内に入った。
 何と今回、僕たちが来るということで、5日前から立ち入り禁止になっている。国が中で何かしてくるつもりなんだろうなと、教会もマグノリアの警戒してくれているが、僕はこのダンジョンが吹き飛ばないかのほうが心配だよ。

 1階層に2日かけて、交代で見張りをしながら夜営して、3階層までは順調に進んだ。マグノリアも今回の話が来てすぐ6階層までは行ってみたそうなので、道もモンスターの傾向も分かっているので、戸惑うところはない。彼らもやはり、4階層のボスの強さとドロップ品の価値が釣り合わないと思ったそうだ。

 4階層は湿地だ。前回は、足が汚れることを嫌がったブランが、フロア全体を凍らせるという大胆な作戦に出たところだ。今回はさすがにそこまでとんでもない実力を見せるつもりはないので、自分の足元だけ凍らせている。それでも十分すごいけど。
 アルとマグノリアは、沼地で作業する人が履く、靴底が広くて沈みにくくなる靴を履いているけど、歩くのが大変そうだ。

 それで、僕が大きい板を出せばいいってことに気付いた。湿地で泊まる時用に、地面に敷く用の軽い大きな板を数枚用意したんだけど、それの上を歩けばいいんだ。
 でも10回くらいやったところで、この案はボツになった。何回も収納したり出したりする僕の体力がもたないと判断されたのだ。最後尾の板を収納して先頭へ持って行くために、ずっと往復を繰り返すことになる。僕がバテてきたのを見て、マグノリアのメンバーが別の提案をした。

「従魔くん、夕食の肉あげるから、俺の足元も凍らせてくれないかなあ」
「俺も頼むよ」
『(いいだろう)』
「いいって」

 それを聞いて、全員肉を献上する約束をして、足元を凍らせてもらっていた。でも凍っているから滑ってこけて、何度かポーションのお世話になったけど。それでも、モンスターが現れたら遅れをとらないのはさすがSランクだ。
 そんな風に湿原を攻略して、なんとか2日間で湿原を抜けられそうだと安堵していた時に、ブランが人の気配に気づいた。

『(人がいるぞ)』
「どこに?」
『(ボス部屋の前だ)』
「ボス部屋の前に人がいるって」

 マグノリアとアルが一気に警戒を強めた。これだけ進んでいるということは、立ち入り禁止になる前に入っている人か、兵士だ。
 しばらくして、遠くに集団が見えた。

「兵士だな」
「アレックス、どうする?」
「避けたいが他のルートがないから行くしかない」

 僕たちから数メートルのところまで来た集団が声をかけてきた。

「我々はドガイ王国第三騎士団だ。現在はこのダンジョンの攻略を任務としている。我々に協力しろ」
「私たちは国からの依頼を受けて、ダンジョン攻略に来ていますので、協力はできません」
「我々も攻略が任務だ。同じことだろう」
「いえ。ダンジョン内では軍に協力する必要はないと、確認を取っています。道を開けてください」
「無礼だぞ。我々は軍ではない。騎士団だ。聞けばドガイの孤児院出身らしいではないか。協力して当然だろう」
「協力はしません。これが最後です。道を開けてください」
「貴様!構わん。アイテムボックス持ちを確保しろ。他は殺して構わん」

 その言葉に、アルとマグノリアのメンバーが臨戦体制になったけど、その前に騎士が胸まで凍りついた。
 ブランが足止めしてくれたので、今のうちに行こうとみんなを誘って、ボス部屋に入る。

「なんだよ今の」
「とりあえずは、目の前のボスだ。誰が倒す?」
「アレックス、やれ。大した手間じゃないだろう」
「ユウ、槍を出して」
「え?僕?」
『(お前でも倒せる。やってみろ)』

 ブランにまで言われたので、へっぴり腰で初心者用の槍を構えると、光が集まって、大きなナメクジになった。
 そう、ここのダンジョン、モンスターは薬草園にいる害虫なのだ。こいつは母さんがせっかく育てた花の葉っぱ食べられたって怒ってたやつだ。

「やっぱり無理!気持ち悪い!」
「ユウ、じゃあ弓を構えて。しっかり狙って」

 そんなこと言われても、しっかり見たくないので、でたらめに弓を打っていく。
 ぬめぬめ気持ち悪いから、こっち来るなー!
 結局、後ろからアルに腕ごと弓を支えられて、何回か矢を射たら、目に当たったようで、光になって消えた。きっとアルが狙いを定めて、ブランがブーストかけてくれたんだろうなあ。塩かけたらすぐに倒せそうなのに。

「初めてのフロアボス討伐、おめでとう」
「もう二度としない」

 マグノリアのメンバーが笑ってるけど、僕の実力は見習いレベルなのは自分でも気づいてるから。
 ちなみに、ドロップ品は「上級ポーション2本セット」だった。

 やっと湿地を抜けられたので、5階層の入り口で今日は休むことになった。
 ここのボス部屋は、一度入ると、次は半日くらい開かない。つまり、ブランが凍らせた騎士たちは、早くても半日後にならないと、5階層へは進めない。
 先にボス部屋に入ってから僕たちを襲えば、僕たちの逃げ場も限られたのに、作戦もお粗末だな。

「あいつらって国の命令受けてたんかな」
「多分違うだろう。モクリークのギルドに聞いたが、今回俺たちを無事に返さなかったら、ドガイへのダンジョンドロップ品の輸出を止めると脅したらしいからな」
「すげえな。モクリーク本気だな」
「ああ。冒険者にも貴族にも俺たちに何かしたら追放すると圧力をかけてくれているから、追いかけまわされたりすることはない」
「あわよくば取り込めたらと、国が見逃した可能性はあるかもしれないから、この先も気をつけよう」


 それから、乾燥した草原は僕のアイテムボックスに入っている水があれば他に困ることもなく越えて、次は6階層の断崖絶壁だ。
 ここの薬草が希少らしいので、ドロップ品を集めたい。前回のドロップ品を売ったら、わざわざ薬師ギルドからお礼の手紙が届くくらいに感謝されたのだ。マグノリアには別行動で階段がある方へ向かってもらい、アルと僕はブランに乗ってモンスターを探して回った。

「どうした、疲れてないか?」
「ブランに乗って崖を上り下りしたので、刺激が強かったらしい」
「もしかして、あれってやっぱり悲鳴だったんだ。なんか叫んでるの聞こえてたけど」

 僕はジェットコースターが苦手なことを忘れていた。ここのドロップ品を集めようと思った数時間前に自分にやめておけと言いたい。でも薬草はたくさん集められたから、是非とも役に立ててほしい。

 セーフティーエリアのないこのダンジョン、けれどモンスターが強くないので、交代で複数人の見張りを立てていれば、夜もやり過ごせる。生き物が触っているものは、ダンジョンに吸収されない。だからテントを置いたまま長く離れたりしなければ大丈夫だ。

 ここではダンジョンの中なのに、夜が来る。普通ダンジョンはずっと明るいので、時間を気にして休憩を取らないと動きすぎて疲れてしまうということが起きるけれど、このダンジョンでは外と同じ時間が流れて、日が暮れる。
 夜は暗いので、僕が練習で付与したライトの魔石が大活躍だ。無駄にモンスターを呼んでしまわないように布をかけておいて、モンスターが近寄ったら布をとって周囲を明るくする。1000個以上の中から厳選した特別明るい魔石をゴロゴロ転がしてある。明るすぎて目が痛くなるのはご愛嬌ということで。

 ブランの結界はバレた時に説明が大変なので、僕たちのテントにのみ張られている。
 食事も、必ず2人は見張りをしながら、順番で食べるので、あまりくつろぐ空気はない。
 早くダンジョンから出たいなあ。
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