世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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7章 この世界でやりたいこと

7-7. 薬神の贈り物

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 7階層の森を越えて、8階層の入り口に行くと、やっぱり兵士がいた。

「みなさん、無事到着で何よりです」

 ここの攻略担当の兵士らしい。こちらは感じがいいので、4階層で会った人たちとは別部隊のようだ。
 今日中にダンジョンを出たいので、とアルが話す隙を与えず、相手の話を切った。

「ユウ、船を出して。ブラン、ユウを水辺まで連れて行ってくれるか」
『(乗れ。溺れると面倒だ)』
「泳げるよ!」

 水泳の授業好きだったのに、アルもブランもひどい。でも服が濡れるのは嫌だから、ブランに乗って浅いところまで進んで、船を出した。
 おお!とドガイの兵士たちから歓声が上がる。彼らは浜で船を作っているのだ。司祭様に聞いたところ、ここの海の水に船をつけると腐食するそうで、最初に作った船はダメになったそうだ。

「我々も乗せていただくことはできませんか」
「8人乗りだから無理だ」
「この船は」
「モクリークのギルドから借りているので、モクリークに持って帰って返す」
「そうですか……」

 やっぱり船が欲しかったみたいだ。兵士に何か言われる前に、さっさと出発だ。
 アルがマグノリアに乗るように言って、全員乗り込んだ。僕はアルが乗り込んでから、ブランの上から抱いて降ろされるお姫様待遇だった。どれだけどんくさいと思われているんだろう。

 なんとこの船、最新式で、魔石を動力にしてオールを漕いで進むのだ。モクリークは海に面しているので、漁業が盛んで、その中で開発されたものだ。
 初めて見る船に興奮したマグノリアのメンバーが代わる代わる舵を操作して、最下層のボス部屋への扉のある島に着いた。
 何回見ても、島の上に扉だけがあるのは、シュールだ。

「あれが、ボス部屋への扉か?」
「そうだ」
「これは予想外だな。先に降りるからちょっと待ってくれ」

 そう言ってから、マグノリアのみんなが降りて、船を固定してくれた。そこまでダメな子と思われてるんだな。悔しい。
 アルとマグノリアの協力で無事に船からブランに移って、船を収納したら、最下層のボスに挑戦だ。
 でもその前に、小さな島の上にぽつんと扉がある不思議な風景を、扉の後ろに回ったり見ている。

「ここのボスも4階層と同じで弱いのか?」
「ああ、俺ひとりで時間もかからず倒せる。戦うか?」
「いいか?後々聞かれた時のために、戦っておきたい」
「任せた」

 話が着いたようで、マグノリアが戦う。ここまでSランクの実力を発揮するような場面はなかったが、ここのボスも前回アルが瞬殺していたから、多分発揮せずに終わるんだろう。薬草を食べちゃう害虫だからやっつけちゃってください。


 扉を開けて最下層のボス部屋に入ったが、この空間はどこにあるのか、本当に謎だな。まあダンジョン自体が謎だけど。
 戦闘は5人もいれば本当に楽勝だったようで、拍子抜けの戦闘が終わった。
 手ごたえなさ過ぎだろうって言ってるけど、そうだよね。このダンジョン、なんでこんな仕様なんだろう。

 マグノリアのリーダーが開けた宝箱には、虹色の液体、エリクサーが入っていた。ブランによると、前と同じBランクの普通品質のエリクサーだ。
 モクリークでたまにSランクを手に入れる僕たちにはそこまで珍しくもないが、上級ダンジョンが少ないこの国では、滅多にお目にかかれない逸品だ。これがエリクサーか、と感動している。そういえば、エリクサーを初めて見たキリシュくんも興奮して尻尾ぶんぶん振ってたな。珍しいものを見すぎてあんまり感動しなくなったのは、ちょっと寂しいかも。

 そろそろ地上に帰ろう、というアルの言葉で、全員揃って転移陣に乗って、地上に帰還した。


「お帰りなさいませ」
「ずっと待ってたんですか?!」
「いえ、日替わりで来ておりますが、たまたま今日が私の担当だっただけですよ。問題はありませんでしたか?」

 出たら、ケネス司祭様が待っていた。出発した翌日からずっと待っていたんだろうか。

「4階層で第三騎士団が待ち伏せしていました」
「戦闘になりましたか?」
「ユウを捕まえるために他は殺してもいいと言われたので、足元を凍らせてボス部屋に逃げ込みました。その後は知りません」
「その話詳しく聞かせてもらおう」

 司祭様と話していたら、護衛の騎士の中の身分の高そうな人が出てきた。今日は団長さんはいないみたいだ。
 その後のナメクジ退治のほうが大変だったからすっかり忘れていたけど、そんなこともあったね。あの人たち大丈夫だろうか。ブランの氷、いつとけるんだろう。

「4階層ボス部屋の前で10人程度に待ち伏せされて、協力しろと言われたので国からの依頼中だと断ったところ、ユウを拘束しようとしたので、反撃しました。足元を凍らせて動けなくして、ボス部屋に逃げ込みました」
「軍に協力する必要はないと言われていると言ったら、我々は騎士団だと。アレックスはドガイの孤児院出身なんだから協力して当然だろうとも言っていましたよ。国からの依頼なのに騎士に殺されそうになるとは、驚きましたよ」

 アルの話に、マグノリアのリーダーが追撃している。周りで聞き耳を立てている冒険者が、地元のSランクを殺されそうになったという発言にざわついている。

「手違いがあったようだ。調査して連絡する」
「ご連絡は教会へお願いいたします。では、もうよろしいですね。教会へ帰りましょう。マグノリアの皆さん、明日の夕食は教会でご用意いたしますので、ご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
「ドロップ品を預かりたいのだが」
「教会から陛下へ献上いたします。ダンジョン内で襲われたとあっては、ドロップ品が確かに届けられるか不安がありますしね」

 おお、ケネス司祭様が騎士に対して挑発的だ。
 でも、受け取ってないからもう1回行って来いって言われても困るから、ケネス司祭様を応援するよ。


 馬車に乗って、教会に戻り、また豪華なお部屋のソファに腰を下ろしている。
 こんな豪華なお部屋に帰って来たって思う、自分の図太さにちょっと呆れる。
 はあ。今回はセーフティーエリアがないし、マグノリアの目もあるからか、すごく気疲れしたので、のんびりしよう。

 マグノリアは冒険者ギルドに寄ってドロップ品を買い取りに出すというので、そこで分かれた。
 ドロップ品は、出発前に半分ずつにすると取り決めた通り、崖の階層で僕たちが集めたもの以外は半分を渡した。

「司祭様、取ってきた薬草は全て教会に寄付しますので、使ってください」
「ありがとうございます。薬師ギルドと使わせていただきます」
「この崖で採れるっていう薬草が、前回モクリークの薬師ギルドからとても感謝されたので、これは半分モクリークに回したいです」
「ああ、これはとても貴重な薬草ですね。治癒術が効かない、体内に魔力を留めておけない人のためのポーションに使われるものです」

 人は常時魔力を作っていて、それを一定量まで体内に留めている。簡単に言えば、魔力を貯めておく器があって、その器を満たすまで貯めて、容量を超えた分は自然に体外に放出される。
 けれど、子どものころにそれがうまく出来ない子がごくまれにいるらしく、そういう子の症状には治癒魔法は効かない。うまく留めることができない子は常時魔力欠乏の状態にあって、治癒魔法を使ったときだけは解消されるが、根本の理由が解消していないので、すぐにまた欠乏してしまう。器に穴が開いているような状態だから、注いだところですぐ抜けてしまうのだ。成長していく過程で治るが、それまでずっと辛い症状が続いて活動できないので、治っても病弱なことが多い。
 この薬草で作るポーションを飲むと、しばらく体内に魔力を留めておけるらしい。器の穴を応急処置で塞ぐ感じだろう。
 それを聞くと、大変な思いをしたけど、採ってきてよかった思う。

「これを見ますと、あのダンジョンは、薬神からの贈り物のように思えますね」
「贈り物、ですか?」
「ええ、貴重な薬草に、ポーションに、エリクサーですから」
「ブラン、ダンジョンって、いろんな神様が作ってるの?」
『……』

 それは非公開情報なのね。
 ケネス司祭様によると、教会の解釈ではダンジョンは『神の遊び場』だそうだ。へえ、謎空間だし納得するなあ。

 お風呂の準備が出来ましたよ、と呼ばれたので、僕はドロップ品を全て出して、お風呂に向かった。
 僕がのんびり長風呂をしている間に、アルがダンジョン内でのことを細かく説明していたようだ。長風呂をして出たのに、まだケネス司祭様と、途中から加わったんだろう大司教様とグザビエ司教様と、やじ馬でカリラスさんも一緒に話を聞いていた。

「ユウさんは、本当にお風呂がお好きなんですね」
「はい。大好きです」

 嘘をついても仕方がないので、ここは素直に認める。

「先日おっしゃってくださった聖堂へのクリーンの付与ですが、天井にお願いできますでしょうか」
「天井だけでいいですか?それだと床まで範囲に入らないかもしれませんが」
「はい。掃除も修行の一つですから。それから、さっきアレックスさんから聞いたのですが、付与の店を作って孤児院の子どもを雇うというお話、もし可能でしたら、ドガイにも作りませんか?」

 ドガイでも、孤児院の子どもたちの就職先は問題になっているらしい。実力主義のモクリークでも大変なんだから、ここはもっと大変なのかもしれない。
 モクリークでは付与魔法スキルを持っていると貴族のお抱えとなることが多いが、身分差のあるこの国ではお抱えとは名ばかりの不利な条件で契約を結ばされてそのまま安く使い続けられることが多いらしい。この国に付与魔法スキル持ちが少ないのは、貴族を恐れて報告しないからだと教会では思っているそうだ。
 付与した魔石なら、重さはあるがかさばらないので、馬車で引くなら運搬も楽だ。教会の中にお店を作ってもいいし、商会を立ち上げてもいいが、必要なら教会は全面的に協力すると言われた。
 なんだか話が大事になっている。

「ブラン様のことを置いておいても、モクリークの教会も協力すると思いますよ。モクリークの教会と距離を置かれているようですが、何かありましたか?」
「いえ、ユウと国の関係に、教会を巻き込まないよう距離を置いているだけです」
「僕たちのせいで、国と対立するようなことにはなって欲しくないので」
「おふたりが気にされることではありません。我々は神の僕です。困ったときは頼ってくださいね」
「ありがとうございます」

 お店の話は、モクリークのほうもまだちゃんと進んでないので、また連絡することにした。
 ところで、カリラスさん、この部屋入るの嫌がってなかったっけ?と聞いたら、エリクサーを見たい思いの方が勝ったそうだ。
 そのエリクサーは、上級ポーション2本と一緒に桐箱のような箱に収められている。後日王様に直接渡してくれるそうだ。
 なんかいろいろあったけど、でも護衛の騎士さんつけてもらったりしたから、お礼は言っておこう。

「王様に、便宜を図ってもらってありがとうございましたと伝えてください」
「かしこまりました」
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