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9章 魔石と魔剣

9-3. 魔石祭り

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 ブランがトレインする日、僕たちは開けたところで、ブランがモンスターを連れてくるのを待っている。
 どこから来てもいいように、みんなが円になっている中心に僕とアルは立っている。まあね、このメンバーで戦えないのは僕だけだ。しかもブランがそばにいないということで、周りの人たちの警戒度がMAXになっている。
 ブランが出発してからしばらくしても、僕たちのところへ向かってくるモンスターは1匹もいないし、ブランは帰ってこないし、少しずつみんなが困惑し始めた。

「従魔はどこまで行ったんだ?」
「どうでしょう。呼べば帰ってくると思いますけど」
「というかここに全くモンスターが来ないのはなんでだ?」
「ユウに危険が及ばないようにブランが倒したんだと思う」

 ブランが僕のそばを離れたってことは、この近くのモンスターはすでに全部狩ったか、離れていても倒せると踏んでいるかどっちかだ。例えそばにアルがいるからと言って、ブランはそのあたりは手を抜かない。
 暇だなあとぼーっとしていたら、狐の獣人のオラジェさんが「来るよ」とみんなに低く呼びかけた。

 耳の良い獣人が警戒していることに、ユラカヒの2パーティーも警戒し始めた。やがて、ブランが走ってくるのが目に入った。後ろを気にしながらも跳ねるように走っていて楽しそうだなあと思ったところで、周りから悲鳴が上がった。

「おい、ちょっと待て。どれだけ連れてきてるんだ」
「多すぎだろ!」
「主従そろって、限度ってものを知らないのか!」

 ブランからだいぶ離れて、追いかけてきたのはモンスターの団体様だった。何匹?何体?いるんだろう。
 足がそこまで早くないモンスターには、ブランが時々氷の矢を飛ばして挑発している。

「もしかして、このフロアのモンスター全部連れてきた?」
「かもな」

 アルも苦笑しているけど、僕だってまさかここまでやると思ってなかったんだよ。
 僕たちを囲む冒険者の輪をすり抜けて、ブランが僕の足元に帰ってきた。連れてきてやったぞって得意そうに言うけど、ちょっと多すぎませんか、ブランさん。

「よーし、あふれの再現だ。頑張るぞー」
「やるしかないよねー、おー」

 クルーロさんがやけっぱちに宣言して、パーティーメンバーが投げやりに返している。なんかごめんなさい。
 ブランによると、一気に来られると対応できないので、一部は結界で足止めしてこのメンバーなら倒せる量に調整しているらしい。これは本当にあふれの再現になりそうだ。
 アルが魔剣を使うから、あまり近くに来ないでほしいと伝えながら、すでにモンスターに向けて態勢を整えている他のパーティーに合流していった。僕はブランと後ろで魔石拾いの準備だ。

 そこからは、倒しても倒しても現れるモンスターをみんなが魔石に変えて、足元で邪魔になる魔石をこちらに蹴ってくるので、僕はマジックハンドでひたすら魔石を拾い続けた。僕から遠く離れたところに行ってしまった魔石は、ブランが咥えて取ってきてくれるし、僕の周りのどこを見ても魔石が転がっている。拾うのに忙しくて、みんながどんなふうに戦っているのかも見る余裕がない。
 文字通り魔石祭りだな。嬉しくも楽しくもないけど。

 朝ご飯の後から始めた魔石集めは、昼ご飯の時間を少し過ぎたころまで続いた。もちろん昼ご飯なんて食べる余裕もなく戦い続けている。その時間になって、やっとモンスターが来なくなった。

「終わった?本当に終わった?これあふれと何が違うんだ?!」
「つうか何時間戦ったんだよ」
「もう今日はこれで終わりでいいよな?ノルマ達成したよな?」

 本当にごめんなさい。ブランによると、再度沸き始めてはいるものの、今このフロアにモンスターはほとんどいないらしいので、全部連れてきちゃったんだな。でも誰も大きな怪我はしていないので、みんなの実力を見極めて対応できるギリギリで調整しているのは間違いない。
 明日はできれば半分ずつで午前と午後がいいなあ、とオラジェさんがブランにお願いしているけど、スパルタは見ている方の心臓に悪いからやめてほしい。


 翌日からは、半分の量で、午前の部と午後の部に分けて連れてきてくれた。1日たつとフロアのモンスターは完全復活しているらしいので、ブランが楽しそうにちょっかいをかけて連れてきている。
 最初は戸惑っていたみんなも、だんだん流れ作業になり、そのうちチーム構成を変えて挑戦してみたりと、飽きないように工夫して戦っているようだった。
 僕は魔石拾いに飽きたけど、戦えないのだから仕方がない。ここのモンスターには僕のへなちょこ槍も矢も傷一つ付けられないのだ。悲しくなんかない。

 そうして、ギルドに決められた10日間、魔石を集め続けた。
 多分すごい量になってるけど、数えてない。アイテムボックスに収納してしまうと、そこから持ち帰り用のマジックバッグに移し替える手間がかかるので、籠からマジックバッグに直接入れたからだ。多い分には文句は言われないだろう。

「じゃあ、俺たちはこのままユラカヒに帰るが、気をつけてな」
「ユラカヒに来たら、一緒にタペラを攻略しようぜ」

 ここでユラカヒの2パーティーは地上に戻って、ユラカヒへと帰る。僕たちは、彼らに集めた魔石を預けて、下層を目指す。
 街の復興が落ち着くころにユラカヒに行くことを約束して、あっさりと別れた。

「なあ、アル、その従魔がいなかったら生き残れたか?」
「無理だな」

 ミランさんたちと十分に離れてから、ルフェオさんが質問してきた。獣道のみんなは、多分ブランの正体に気付いているんだろう。ただ、僕たちがはっきり言わないから確認しないだけで。
 ギルドも、災害級であるブランがいたから、あれだけ多くのパーティーが上級ダンジョンのあふれから生還できたと思っているらしい。はっきりとは言われなかったけど、ニザナのギルドマスターからの聞き取り調査で、アルはそう感じたそうだ。
 上級ダンジョンのあふれから生き延びることは難しいだろう。けれど、希望は必要だ。だからきっとギルドは発表しないし、僕たちもブランの実力を知る人以外には言わない。獣道もそれ以上は聞いてこなかった。


 前回と同様、下層2つ目のフロアボスで修行するために、中層のフロアボスも下層1つ目のフロアボスもとばす。
 中層には長期滞在しているパーティーがいた。去年獣道が長期滞在についてアドバイスしたパーティーらしい。
 最初は何度か潜って自分たちが使うためのマジックバッグを集め、十分に揃えたところで大量の食料とポーションを準備して長期間潜り、一度にたくさんのマジックバッグを手に入れて売りに出しているらしい。その準備に半年かかったけど、その後の半年はマジックバッグを売って、かなりの報酬を得たそうだ。
 真似するパーティーも出てきたし、同じボスに挑戦し続けると戦闘が単調になって強さも頭打ちになるからと、春になったら拠点を移すと、獣道に感謝を伝えて報告していた。
 そういうパーティーが出てきたってことは、マジックバッグのギルドの買取も増えているのだろう。少しずつでも値段が下がっていくといいな。

 さて、僕たちの合宿地、下層2つ目のフロアボス部屋だ。
 前回は、獣道がここのボスを単独パーティーで倒せるまでと粘って、ギルドに伝えていた予定日程を半月もオーバーしてしまい、心配をかけてしまった。だから今回はざっくりと、春までには帰ってくるとしか伝えていない。ただ前回は結果的に大量のマジックバッグを買取に出したので、ギルドは今回、無事に帰ってきてくれるなら何日でも、とむしろ長期合宿を期待しているようだった。
 移動と魔石祭りで、すでに潜り始めてから1か月を過ぎている。今回も2か月半コースかな。お風呂が恋しい。

「前回と同じ順番でいいよな」
「いいが、魔剣が3本あるんだ。使ってくれ」

ああ、そうだ、ブランのおかげで集まった魔剣が3本あるのだ。魔剣を使えば獣道なら1人でここのボスも倒せるだろうし、処分先がないので使ってください。

「いやいやいやいや、こんなの貰えるか」

 思わず受け取った鷲の獣人であるタムジェントさんに突っ込まれた。
 こんなの貰えない、と言っている獣道に、アルが自分の一言でこうなったから引き取ってほしいと説明している。魔剣をどうするかという話をしていたときに、アルが「獣道に渡すか」と言ってしまったがために、ブランが4本揃えるという口実で再度挑戦することになったのだ。人数には1本足りないけど、ぜひ使ってください。

「今回手に入れるマジックバッグと相殺って考えれば……いいのか?いやでも時間停止の容量大が出たら欲しいぞ」
「最下層以外は全部ユウたちの物で、さらに今後ユウたちが望む時には無報酬で手を貸すってことでどう?正直魔剣の買取価格なんてよく分からないし」

 それで手を打とうと、引き取ってくれた。はあ、よかった。
 どこかに炎の神獣はいないのかな。いたら、ダンジョンごと首無し騎士を火葬してほしい。
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