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1章 アルとの転機

1-10. 後始末

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 セーフティーエリアに入ると、Bランクのパーティーが休憩していたので、ドライジンが立ち合いを頼んだ。こういう場合、関係者じゃない冒険者に、第三者としての立ち合いを頼むらしい。
 それぞれパーティー名を名乗ってから、話し合いが始まった。

 まず、ことの発端となった、キリシュくんの件だ。
 キリシュくんにモンスターを押し付けたパーティーはBランクになったばかりのパーティーだった。Bランクに昇格して浮かれていたのと、ドロップ品欲しさに無理をして進んだものの、モンスターを倒せず逃げてきたところにキリシュくんが巻き込まれた。キリシュくんに押し付けるつもりはなかったが、結果的にそうなったのは反省している、と非を認めて、申し訳なさそうにしている。
 アルによると、たまたま逃げた先にキリシュくんがいただけで、最初から押し付けようとしていたのではないため、犯罪とまではいかないが、巻き込んだキリシュくんを助けようとしなかったのはアウトらしい。おそらく降格になるだろう、と教えてくれた。
 ちなみにその追いかけてきたモンスターはブランが倒したので、ドロップ品は僕たちのものになるそうだ。

 次に、僕の件だが、僕たちの後をずっとつけてきていた三人がいたが、キリシュくんを助けるためにブランが僕のそばを離れたのを見て、僕に手を出そうと後ろから迫ったものの、ブランによって撃退した、らしい。僕が気づいたのはブランに撃退された後なので、あの怪我はブランの魔法でやられたんだな。

「ずっとつけてきていたから、怪しいとは思っていたが、まさかあのタイミングで手を出されるとはな」
「知ってたの?」
「ユウ以外は全員気づいていたぞ」

 そう言われて、シリウスのみんなを見ると、知っていたと頷いている。僕だけ気づいてないって、本当に冒険者に向いてないんだなあ。

 治療の約束と引き換えに僕を襲おうとした三人から聞き出したところ、僕を捕まえてどこかの貴族か国へ売るつもりで、つけてきていたらしい。アルとブランが僕から離れたあのときがチャンスだと襲い掛かって、ブランに反撃されてしまった。
 だけど、そのときは成功したとしても、どうやってSランクとAランクの追っ手をかわしてこのダンジョンから出るつもりだったのかと、みんな呆れている。
 僕に手を出したことは見過ごせないので、三人はギルドに引き渡すことに決まった。中級ポーションで治療され、「上級じゃないのか! 騙したな!」とか言っているけど、治療するとしか約束してないだろ、とドライジンのリーダーはにべもない。
 問題は誰がここからギルドまで連れて帰るのか、だ。逃げてきたパーティーでは心もとない。ドライジンと道草が戻るならシリウスも戻ることになる。ドライジンか道草のどちらか片方だけ戻るか、そんな議論をしていたら、立ち合いのパーティーが立候補してくれた。

「そこのBランクと俺らで連れていくよ。二パーティーいれば大丈夫だろう。あんたらにもギルドにも恩を売れるチャンスだからな」

 下心を隠しもしないところに、むしろ好感が持てる。戦力的にも任せても問題ないと判断して、キリシュくんにモンスターを押し付けてしまったパーティーと、立ち合いのパーティーで、僕を襲った三人を連れて帰ってもらうことになった。
 すぐに出発しようと準備を始めたので、お礼に人数分のパンと串焼きを出して、アルから渡してもらうと、とても喜んでくれた。

「おおー、ありがとう! 俺ら『野郎ども』ってパーティーなんだ! 覚えておいてくれな!」
「忘れられなさそうな名前だな」

 僕たちだけでなく、ここで活動している高ランクとも繋がりができたのが嬉しいと正直な感想を言いながら、意気揚々と出発していったので、見送るみんながちょっぴり苦笑いしている。なかなか個性的なパーティーだけど、悪い人ではなさそうだから、後はお任せしよう。

「ユウくん、ごめん、俺のせいで危険な目にあって」
「僕は大丈夫だよ。むしろ僕が狙われちゃったから、なんか大変なことになっちゃったよね。そっちのほうが申し訳ないよ」
「キリシュ、今回のことは、お前には落ち度はない。ブランが助けに行ったことなら、護衛を依頼しているドライジンと道草の落ち度だが、あの状況は仕方がなかった。そもそもユウは危険な目にはあってない」
「そうだ。俺たちが護衛を請け負っているのに。俺たちの責任だ」
「でもユウくんが狙われて、間に合ったからよかったけど」
「ユウに危険が及ぶなら、ブランはユウに頼まれてもお前を助けには行かなかった。行ったのはブランがユウの安全を確保していたからだ」

 アルも僕も言わないけど、あのとき僕の周りにはブランの見えない結界が張られていた。多分。見えないから分からないけど。でもブランが何の守りもなく僕のそばを離れるとは思えない。あの怪我がブランの直接の攻撃なのか、結界に仕掛けられた反撃なのかは聞いてないけど、僕に手を出すのは、そもそも無理だ。
 キリシュくんは責任を感じて、ここまでで引き返すつもりみたいだけど、できればこのまま一緒に行きたいなあ。と思っていたら、アルがフォローしてくれた。

「責任を感じるなら、このままユウに付き合ってくれ。ここで帰られるとユウが落ち込む」
「一緒に行こうよ」
「でもこれ以上は、俺たちでは歯が立たないから」
「ここから先は、ユウと一緒に見学だな」

 渋々だけど納得してくれたので、この先も一緒だ。よかった。

 僕を襲った人たちを連れて二パーティーが出ていったので、セーフティーエリアには僕たちだけしかいない。今日はまだ早いけど、このままここで休もう。早めの夕食にして、その後はのんびり休憩だ。十日近く毎日戦闘してきているから、休みも必要だ。
 ご飯を食べて片付けを終えるころには、騒動の興奮も落ち着いて、セーフティーエリアにものんびりとした雰囲気がただよい始めた。
 僕もぼんやりとみんなのおしゃべりを眺めていると、「ユウのお説教だ」と突然アルが切り出した。僕何かしたっけ?

「俺は目を閉じろ、見るなと言ったよな。どうして聞かなかったんだ」
「えっと、よく分からなくて」
「ダンジョンの中では、分からなくてもとりあえず言うことを聞いてくれ。今回はあの程度だったが、もしブランの手元が狂って、あいつらの頭が飛んでいたらどうするんだ。今ごろ食事もできなかったぞ」

 そんなヘマはしない、とブランがプリプリしてるけど、アルの言いたいことは分かる。あのとき、アルは僕に迫る冒険者を見て、ブランが撃退することを予想して見るなと言ったのに、僕は音がしたから振り返ってしまった。
 もし同じことが起きたら、次は僕の心を守るためにブランは助けに行かないかもしれない。いつも血生臭い場面からも守られて油断していた。気をつけなきゃ。
 次はちゃんと言われたことを聞くと約束させられて、お説教は終わった。


 翌日からは、シリウスのみんなも一緒に見学だ。
 ドライジンと道草から一人ずつ交代で僕たちの護衛についている。といっても、僕の護衛はブランがいるので、シリウスの護衛だ。あの一件で、僕のことはブランに任せておけば問題ないという認識になっているようだ。あのとき戦っていたモンスターの集団は、キルシュくんを助けに行ったときにブランがついでに全部倒したので、ブランの実力がバレたようだ。

 下層も真ん中あたりになると、モンスターもかなり強くなってくる。
 シリウスの三人は戦闘を見ながら、あのモンスター相手ならどう戦うか、どこが弱点かなどと話し合っていて、護衛の二人もそれに意見を述べている。僕はへえーって感じでその話を聞くだけだ。

「ユウくんとアルさんだけのときって、どうやって戦うの?」

 暇そうにしている僕に気づいて、話を振ってくれた。優しいな。

「アルが戦ってることが多いよ。一人で危なそうなときは、ブランが助ける。ブランだけで戦うこともあるよ」
「剣士がSランクまで一気に昇格したのは、そのおかげか」

 ブランはアルに戦わせてサポートに回ることが多い。アルが一気にランクアップしたのは、ブランがアルの実力のギリギリを見極めて戦わせてきたからだ。一度アルが大怪我をしたときに僕が泣いてブランを責めたので、エリクサーが必要になるんじゃないかというようなギリギリに挑戦するのはやめてくれたけど、上級ポーションが必要になることは、まれにある。ブランを信用しているし、アルも強くなりたいと受け入れてるけど、僕の心臓に悪いので、せめて中級ポーションにしてほしいと常々思っている。
 ちなみにブランが暴れるときは、アルも僕も少し離れた場所のブランの結界の中から、怪獣大戦争みたいな戦いを眺めることになる。3D映画真っ青の大迫力だ。

「その従魔のランクは? Sか?」
「どうなんだろう。ソント王国でテイマーとしてランク試験受けたんだけど、試合が成立しなくて、昇格できなかったんだ」
「あー、あのスキル公表やらかしたギルドか」

 間違いなくSランクだけど、正直に話す必要もないだろう。
 そんな話をしているうちに、アルたちの戦闘が終わった。シリウスの三人は、戦いを見ていて疑問に思ったことなどを質問し、それを受けて、ドライジンと道草のメンバーも次の戦闘ではシリウスの三人と同じようなメンバー構成で戦って見せたりと、いろいろ教えてあげている。先輩後輩って感じでいいな。

 中級ダンジョンということもあって、キリシュくんの一件以外は危ない場面もなく、シリウスのみんなと会話しながら観戦し、最下層のボスモンスターもアルたちが難なく倒して、ダンジョン攻略は終わった。


「無事に帰ったか。申し訳なかった。野郎どもからテイマーが襲われた件は聞いている。襲った奴らはいま領主のところの牢屋だ。処罰を国と相談しているらしい。ギルドとしては、モクリークからの追放が決まっている。狼の坊主がモンスターを押し付けられた件は、Cランクへの降格にした。あいつらは反省してるし、これで二人がこの街を出ていったらどうしようとビビっていたので、許してやってほしい」

 ダンジョンを攻略して、みんなでギルドに戻ってきたら、そのままギルドマスターの部屋に通されて、いきなり謝罪を受けている。

「襲った三人は適切に処罰してほしい。キリシュの件は、俺たちに思うところはない」

 キリシュくんの件は、僕たちとは関係のないトラブルだから、ギルドとキリシュくんが納得する形で収めてもらえればいい。アルの返事を聞いて、ギルドマスターがホッとした顔をした。
 トラブル解決のめどがついたところで、このまま攻略報告をしてほしいと言われたけれど、僕だけ先に帰ることになった。「風呂に入りたいだろう?」とアルに言われたんだけど、僕がいないほうがいい何かがあるのかな。アイテムボックスに預かっていたドロップ品を渡して、言われるままにギルドを出た。

 借りたままにしている宿までドライジンの一人に送ってもらって戻り、まず最初にすることはお風呂だ。ダンジョンはお風呂に入れないのが一番の不満だ。湯船につかって疲れをとろう。
 のんびりとお風呂を一人で楽しんで上がっても、アルはまだ戻ってきていなかった。ブランのブラッシングをしながら、うとうとしていたころ、アルがやっと帰ってきた。

「お帰り。何かあった?」
「領主が謝りに来た」
「え? 僕はいなくてよかったの?」
「勝手に来たんだから構わない。ユウは会いたかったか?」

 会いたくありません。だからアルが僕を先に帰したんだな。
 ダンジョンの後は、五日くらいはゆっくりすることにしてるけど、関わるとのんびりできなさそうだから、会いたくない。
 僕の理想は、土曜日の午後と日曜日はお休みっていう学校と同じスケジュールだけど、五日で往復できるのはダンジョンのごく浅いところだけなので難しい。その代わりに戻ってきたら、まとめて休みたい。ブラックバイトはお断りだ。
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