世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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1章 アルとの転機

1-11. 離さないで

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 キリシュくんたちと中級ダンジョンを攻略した後、上級ダンジョンをブランとアルと攻略した。
 上層の人が多いところはさっさと通り抜け、下層の人目がなくなったところでは、鬱憤をためていたらしいブランによる一方的な狩りが繰り広げられた。ブランが楽しそうだったからいいけど。
 そして、ダンジョンを出てギルドに攻略報告に来たら、ハザコアの街にいないはずの人がいた。

「あれ? ニザナのギルドマスターさん?」
「このたびのギルド員によるユウさんの襲撃について、ギルドで事前に抑えられず申し訳ございませんでした」

 ギルドに入ってすぐ、受付カウンターの前で、頭を下げられている。受付カウンターの前なので、昼過ぎの人が少ない時間帯とはいえ、周りに冒険者がいる。そんな中で、ギルドマスターに謝罪されるだけでなく、頭を下げられるという思わぬ状況に、僕だけおろおろしている。アルは動じてないけど、かなりの注目を集めているのだ。

「彼らの処罰は?」
「国の奴隷としてあふれの対応で使うことになりました。甘い処分と思われるかもしれませんが、二百年周期に向け冒険者が必要となりますので、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます」
「今後も同様の対応を?」
「はい。その場で殺して捨て置いていただいて構いませんが、ギルドに引き渡された場合は、身分に関係なく国の奴隷とすると、国とギルドで合意いたしました」
「分かった。謝罪を受け入れる」
「ダンジョン攻略の聞き取りは、明日で構いませんので、今日はどうぞごゆっくりなさってください。明日は私も同席します」

 平然と話をつづける二人を見て、さすがに僕にも分かった。これは周りに向けたパフォーマンスなんだ。僕に手を出すと奴隷にしてあふれで使うという警告だ。しかも、僕たちが殺しちゃっても、ギルドも国も問題にしないと言っている。
 王都ニザナを出た僕たちに、今後あの手この手で近づいてくる人が出てくるかもしれない。その前に再度、僕たちに手を出すなという国とギルドからの警告だ。

 ギルドマスターからも明日でいいと言われたので、宿に戻ってのんびりお風呂に入ってから、明日のためにドロップ品の整理をしている。自分たち用に取っておくもの、買い取りに出すものを分けながら、ギルドマスターの警告を思い出していたら、ここのギルドマスターに会っていないのに気づいた。

「領主をユウに会わせようとしたから、謹慎でもさせられてるんじゃないか?」
「え? それだけで?」
「国は貴族の俺たちへの接触を禁じてる。謝罪だとねじ込まれたのかもしれないが、今後ギルドを通せば会えると思われたら困るからな」

 アルによると、ギルドマスターは止めようとしたけど、領主が押しかけてきたように見えたらしいので、この街のギルドマスターにはちょっと申し訳ない気がする。
 いろいろと僕の身辺に気を遣ってくれているのに、ギルドにも迷惑をかけてしまった。

「次はどこに行くの? もう一つでこの街の上級ダンジョンは終わりでしょう?」
「雪の中の移動は大変だから、冬が終わるまではこの街にいよう。キリシュたちともう一回ダンジョンに行ってもいいしな」
「いいの? ありがとう!」

 次の街はホオカヤチが候補だ。近くに温泉があるらしい。キリシュくんたちともう一度ダンジョンに行けるのも嬉しいし、次が温泉のある街なのも嬉しくて、「おんせん、おんせん♪」とウキウキしている僕に、ブランがため息をついている。一緒に入ろうって言わないから、大目に見てよ。もふもふ。


 翌日、ギルドに行くと、やはりここのギルドマスターはいなくて、前にも聞き取り調査を担当した職員と、ニザナのギルドマスターが待っていた。
 すでに攻略されているダンジョンなので、ギルドの持つ情報と突き合せ、変化がないか、新情報はないかを確かめていく。一通り聞き取りが終わって、買い取りしてもらいたいドロップ品のリストを渡すと、ざっと見たギルドマスターが「これは全てニザナで買い取ります」と決めてしまった。それを聞いて笑顔がひきつっている職員に、アイテムボックスから出したドロップ品を渡す。なんだかいろいろ大変そうだけど、理不尽に負けずに査定頑張ってください。

 ニザナのギルドマスターからは、ブランがニザナでお気に入りだったお肉を、今回のお詫びとしてもらった。わざわざ時間停止のマジックバッグで運んできたらしい。お詫びがブラン宛てというのが、僕たちのことをよく理解しているし、ギルドマスターはもふらーなんじゃないかと、密かに思っている。
 お詫びの品をもらった後、今回の件とは別で、とアイテムボックスについての質問を受けた。

「アイテムボックスについて、二つ質問をさせていただきたいのですが」
「構わない」
「水を、容器に入れずに収納することは可能ですか?」
「それが湖の水をそのまま収納できるか、という質問なら、答えは分からない、だ」
「容器に入っている水を、同じ容器へ移動するというのはどうでしょう?」
「分からない。容器の大きさによってはユウの安全が保証できない」
「分かりました。もう一つの質問ですが、砦を別の場所で作成しておいて、それを収納し、現地で設置するというのは可能でしょうか?」
「その質問には答えない。ユウ一人に責任を負わせるつもりか?」
「申し訳ございません。こちらからの質問は以上です。ありがとうございます」

 砦かあ、すごいこと考えるなあ。でも多分できない。
 地面に固定されているものを僕は収納できない。地面に固定されていないハリボテの砦なんて、意味がないだろう。石の重さだけでは、モンスターに弾き飛ばされると思う。それとも土魔法とかで固定できるんだろうか?
 それよりも、僕一人に責任って何だろう? と思ったら、後でアルが教えてくれた。もし持ち運び砦が実用化された場合、僕が遠くにいて砦を運ばなかったから街が潰れた、と言われかねない。そんな作戦を立てるなということらしい。全く気づかなかった。アルがこうしてフォローしてくれなかったら、いいように使われてしまうんだろうなあ。これから似たようなことを言われる可能性があるというのは、憂鬱だな。

「こちらからも提案がある。ギルドが窓口になり、便宜を図ってもらっていることには感謝している。何かしてほしいことがあれば可能な範囲で受ける。ギルドと冒険者とはこれからも良好な関係でいたい」

 これは、昨日アルと話して決めたことだ。ギルドが間に入って国とも交渉してくれている現状、ギルドの負担はかなり大きい。そのお礼を何かの形でしたい。
 これから各地を回っていけば、今までなかった問題が起き、それもギルドに解決してもらうことになるだろう。もちろん感謝しているというのもあるが、やってもらってばかりではいつか借りを取り立てられそうで怖い。貸しが少し勝っているくらいで行きたいのだ。

 春になったらホオカヤチへ移動する予定だと伝えて、ギルドを出た。


「ブラン、今日は隣の部屋で寝てくれる?」
『分かった』

 僕のお願いに、ブランが部屋を出ていくのを見て、アルが戸惑っている。

 あの日から、アルは僕に触れない。そのことを寂しいと思っている自分がいる。
 認めるのは怖いけど、僕にとってアルは特別だ。

 アルはいつでも僕の気持ちを優先してくれる。アルの希望を聞いても、特にないからと、いつだって僕の希望が通る。
 僕はこの世界で、スキル以外に何も持っていない。家族もなく、帰る場所もない。ブランがいてくれるからお金に困らずに済んでいる。アルがいてくれるからギルドや国との協力関係を築けている。王都を出て、あらためて思い知らされた。
 僕はアルから貰ってばかりで、何も返せていない。こんなことではいつか見捨てられてしまうのではないかと不安になる。ギルドだけじゃない。アルに対してだって、借りばかりでいるのは怖い。

 アルの隣に座り、唇にキスを贈る。僕からしたのは初めてだ。

「ユウ、この間のことを気にしているのなら、こんなことしなくていいんだ、俺は」
「アル、好きだよ。アルの気持ちと同じなのかは分からないけど、アルは僕にとって特別だよ」
「ユウ……」
「いつだって僕を守ってくれる。僕の心も。日本に帰るのは諦められないけど、でも、好きだよ」

 僕はずるい。どちらも選べないのに、どちらも失いたくない。

 そっと僕の頬に触れたアルの手に、僕も手を重ねる。
 僕をずっと支えてくれた、そして今も背中を押してくれる手。

「離さないで」

 もし、帰り道が見つかったら、世界を越えても、この手がつながっていればいいのに。
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