世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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2章アルとの出会い(過去編)

2-3. 僕の希望に沿う奴隷

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 午後は、服を受け取って、奴隷商会だ。
 仕立ての店で、執事のような店員さんに引換証を見せながら、昨日仕立てをお願いした服を引き取りに来たことを伝えると、笑顔で返事をくれた。

「お待ちしておりました。できておりますので、すぐにご試着なさいますか?」

 今日もとてもきれいな所作だ。執事スキルとかあるんだろうか。
 半日で出来上がった服を試着してみると、ピッタリだ。さすが仕立てた服だなあと僕は感心しているのに、多少ずれがあるらしく、担当者によって細かくチェックされて、印がつけられた。店のプライドにかけて、少しのずれも許せないのだろう。
 すぐにお直ししてくれるそうなので一度脱ぎ、ソファに座って待つ。この世界に来て初めてクッションのきいた椅子に座るので、何が入っているのかな、動物の羽根かな、と思いながら手で押して弾力を楽しんでいたら、直しを終えた担当者が帰ってきた。

「ロックバードの羽根が入っているので、柔らかくも弾力のある仕上がりになっています」

 聞いてないのに笑顔で教えてくれた。そんなに夢中になっていたのかと、恥ずかしい。魔物の羽根を使うとは、なかなか高そうだけど、この弾力のクッションが欲しいなあ。ブランのもふもふとクッションの組み合わせは天国に違いない。
 それはさておき、直し終えた服をもう一度着て、最終チェックを受けると、今度は合格だった。これで完成だ。

「このまま着て帰りたいのですが、いいですか?」
「靴のご用意は?」

 そう聞かれて、冒険者用のブーツではドレスコードにひっかかることに今さら気づいた。けれど、こちらの世界に来たときに履いていたサンダル以外、このブーツしかもっていない。靴も取り扱っているということなので、服に合わせた靴もお願いした。全てギルドカードで支払いを済ませると、やっと準備完了である。
 バッグも服に合っていないと思うけれど、指摘されることはなかった。着てきた服やブーツを入れたことからマジックバッグだと思われて見逃されているのかもしれない。

 今日も入り口脇で伏せていたブランを起こして、奴隷商会に向かおう。いよいよ出陣だ。緊張してきた。

『(何と戦うつもりだ。今日決めなくてもいいのだから気楽にしていろ)』
「そうだけど……」

 今日決まらなかったら、次も同じ服で行っていいのか分からないし、ただでさえ敷居高いのだから、奴隷商会に何度も行きたくない。
 ブランは裸でいいなあ、と呟いたら「この素晴らしい毛が見えないのか?!」と反論された。自分で「素晴らしい毛」って言っちゃうんだ。実際素晴らしいし、もちろん好きだ、大好きだ。特に首の周りのもふもふが好きだよ。お腹のふわふわも捨てがたいけどね。
 そんなじゃれあいをしているうちに、奴隷商会に着いた。よし、行くぞ。気合いだ!

 入り口を守っているボディーガード風な人に、内心ちょっと怖いと思いながら、ギルドカードと紹介状を見せながら用件を告げる。

「戦闘奴隷を購入したくてきました。冒険者ギルドからの紹介状があります」

 紹介状をちらりと見ただけで、すんなりと門を開けてくれて、ブランと一緒に通された。ドレスコードは問題なかったようでホッとする。とりあえず第一関門は突破。
 中に入ると、店員さんに応接室のようなところに案内されて、ソファに座るように勧められた。その前にとギルドカードと紹介状を店員さんに渡すと、後程店主が来るので直接渡すようにと返されてしまった。勝手がわからず、ぎこちない動作で座ると、ブランが僕の足に少し触れるように足元に伏せてくれたので、ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。

 待ってる間に知っておくべきことを教えてもらいたい、と店員さんに話しかけると応じてくれた。オモリでは、実際に戦闘奴隷を紹介はしてもらったけど購入には至らず、そのときにはあまり詳しい話を聞いていないのだ。
 店員さんのエッポさんは、ときどき質問を交えながら丁寧に、僕が分かっていなさそうなところをかいつまんで説明してくれた。同じ説明をし慣れているようでわかりやすい。主人として守らなければならない注意事項の中から、先に知っておいたほうが良いことも教えてくれる。全ての注意事項については、契約前に再度確認があり、これは省略できないそうだ。
 奴隷購入の際は即金で支払う必要があるというのを聞いて、お金が足りるかが一番心配になったところで、商会の主人が入ってきた。

「お待たせいたしました。この奴隷商会の主人のイアンと申します。本日はどのような奴隷をお買い求めでしょうか」
「ユウです。冒険者です。戦闘奴隷を探しています」

 戦闘奴隷を一人購入したいことを伝えて、ギルドカードと紹介状を渡した。
 イアンさんは紹介状の中を確認し、ギルドカードを見た後、僕の足元のブランに視線を移し、再度ギルドカードを見た。何か変なのかなあ。それも分からないからそんなところを補ってくれる奴隷が欲しいのだ。
 結局何も言われないままギルドカードを返され、商談が始まったので、問題はなかったんだろう。

 僕が戦闘奴隷に求める条件、してほしいことは何かと聞かれたので、ここに来るまでにブランと一緒に考えてまとめたことを伝える。
 求める条件は、冒険者ギルドのCランク以上で、剣士など前衛の男性、借金奴隷になった理由はお酒とギャンブル以外。従魔のブランと僕と一緒に旅をして、ダンジョンにも一緒に潜ってくれて、世間知らずな僕に常識を教えてほしい。さらに、冒険者ギルドとの交渉を任せたいし、何より、相性がよくて裏切らない人がいい。
 実はオモリの街の戦闘奴隷は、お酒かギャンブルで借金奴隷になった人ばかりだったので、購入をやめたのだ。犯罪じゃないけど、再犯率が高そうだもの。

 僕の希望に加えて、予算などいくつか質問に答えると、僕の希望に合う人を選んで連れてくるからしばらく待っていてほしい、と言ってイアンさんとエッポさんは出ていった。実際に会って、相性なども確認できるらしい。
 ふう。人を売り買いするということにはやはり馴染めないからか、希望を伝えるだけでも疲れる。
 ブ
ランが、奴隷契約で縛られるのだから奴隷が裏切ることはないと、僕の不安を払拭しようとしてくれるけれど、契約で無理やり従っているというのが分かったら、僕の心がぽっきり折れる。

『合わないと思ったら次を待てばいい。焦るな。良いと思える者が見つかるまで妥協はするな』
「うん。そうする」

 自分で条件を言っていて、そんな都合のいい人がいるわけがないと思ってしまったくらいだから、気に入る人を探すためには根気が必要なのかもしれない。
 右手でブランをもふもふして、左手でソファの弾力を楽しむ。このソファもなかなかの弾力だ。ロックバードの羽根でクッションが作りたいので、ブランにロックバードを見つけたら狩ってほしいなあ、とおねだりしてみると、好感触だった。お肉が美味しくてブランのお気に入りの獲物らしいので、クッションができる日は遠くないかもしれない。

 しばらくすると、イアンさんがひとりで部屋に入ってきた。

「ユウ様お待たせいたしました。奴隷の準備ができましたので、ご案内します」

 奴隷の面接は別の部屋でやるようだ。ついていくと、部屋にはエッポさんのほかに、四人の男性が並んで立っていた。みんな体格が良いし、健康そうだ。

「この四名がユウ様のご希望に合う奴隷になります。借金奴隷になる原因を限定しますと、どうしても人数が減ってしまいまして」

 やはりお酒とギャンブルで身を持ち崩す冒険者が多いのか。
 イアンさんがひとりずつ、戦闘スタイルと奴隷になった原因を説明するように指示すると、端から順番に自己紹介を始めた。奴隷になった原因は、三人が依頼失敗の違約金が払えないからで、一人は親の借金の肩代わりだそうだ。でもこの肩代わりの人は、なんか胡散臭い。違約金のうちの二人も、そもそも無謀な依頼を受けたのではと思うような、計画性のなさが垣間見える。この三人は候補から外そう。
 最後の一人は少し毛色が異なり、Bランクで受け答えもしっかりしている。愛用の剣を売れば違約金は払えたのだが、剣を売るよりも借金奴隷を選んだそうだ。Bランクの割に金額が安いのは、そもそも借金の額が高額ではないからで、そのため契約期間も短く三年だそうだ。人は悪くなさそうなのだが、三年というのは僕には短い気がする。
 悩んでいると、ブランが「悩むならやめておけ」と念話で伝えてきた。この先長く付き合っていくことになるのだから、少しでも合わないと感じるなら、やめたほうがお互いのためだ。

「今回はごめんなさい」

 本人たちの目の前で、不合格を通知するのは少し勇気が必要だったが、断った。
 四人の奴隷を下がらせると、イアンさんから、Bランクの人が良いと思ったが、どこが気に入らなかったのかと質問された。今後他の人を紹介するためにも、理由を知っておきたいそうだ。
 契約期間の短さがネックだったことを伝えると、戦闘奴隷の場合、奴隷契約の終了後にそのままパーティーを組むということもよくあるので、期間は気にせず契約してみてはどうかと、アドバイスされた。確かにそうなればいいと思うが、今はそういう選択の余地がある状態を避けるために奴隷を探しているのだ。
 やっぱり自分に都合のいいように契約で縛って、というのがダメなのか。そもそも僕の感覚では、奴隷という制度に理解はできても納得はできないのだが、必要に駆られているからこそ葛藤を抑え込んでいるのだ。また同じ作業を、いい人が見つかるまで続けるのかと思うと、ため息を吐きそうになる。
 僕の気分が沈んだことに気づいたブランが、僕の手に頭をこすりつけて励ましてくれた。

「ありがとね、ブラン」

 イアンさんに失礼だと思いながらも、耐え切れずにしゃがんでブランに抱き着く。僕の落ち込み具合に気を遣ってくれたのか、イアンさんがもうひとり紹介できるのですが、と切りだした。

「現在当商会にいる奴隷の中で、ユウ様のご希望に一番沿っていると思うのですが、ご予定よりも高額になります。契約期間は二十年になります。それでもよければご紹介しますが」

 金額を確認すると少し予算を超えているが、払えなくはない。僕の希望どおりというイアンさんのお墨付きと、二十年という契約の長さに、とりあえず会ってみることにした。
 あらたに連れられてこられたのは、背の高い若い男性で、イケメンである。背が高くてイケメン。これ重要。どうせ僕はちんちくりんですよ。さっきまでとは別の理由で落ち込みそうになる。悔しくなんかない。

「Bランクの剣士でした。重傷を負ったパーティーの仲間の治療費のために奴隷になりました。パーティーではサブリーダーをしていたので交渉事も慣れています」

 丁寧な言葉づかいで、すらすらとこちらの望むことのみを答える姿勢に好感が持てる。さっきの人たちの中には、聞いてないのに自己PRを始める人もいたのだ。
 いいかも。イケメンってことで下がった好感度が急上昇する。ブランもよさそうだと念話で伝えてきた。ギルドカード内のお金がほとんどなくなるが、それならまた魔物を売ればいいと言われ、決意した。
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