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2章アルとの出会い(過去編)
2-4. 契約とブランの紹介
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Bランク剣士さんと戦闘奴隷契約に関して条件の確認だ。
まずはこちらからやってほしいことや待遇を伝えるように促されたので、さっきの人たちには伝えなかった、具体的なこの先のビジョンを伝えよう。よさそうだからこそ、小さなことでも認識にずれがないようにしておきたい。
「従魔のシルバーウルフ、ブランと旅をしています。これからもいろんな国を見て回りたいと思っています。いずれはどこかに定住も考えています。ずっと冒険者をするかどうかは分かりませんが、ダンジョンにも潜ってみたいです」
ブランと三人でパーティーを組んで、前衛をお願いしたい。僕はFランクで戦えないので、訓練もしてほしい。それから、冒険者ギルドの対応は全て任せたい。何より、世間に疎いので、冒険者のことだけでなくいろいろ教えてほしいし、おかしなことをしていたら止めてほしい。
契約には、僕に関する知り得たことを漏らさない、僕を裏切らない、というのを入れてもらう。
待遇は、衣食住と武器や防具、旅に必要なものなど、基本的なものは僕が支給する。七日に一日は休みにして、やりたいことがあれば、なるべく叶える。
報酬は、ずっと冒険者として活動するかどうか分からないので、戦闘に限らず利益の一割を渡す。
僕からの要望や待遇を伝えた。現状、冒険者が一番お金を稼ぐのに向いているから冒険者でいるけれど、どうしても冒険者でいたいわけではない。
次にBランク剣士さんからの要望と質問だ。
「アレックスです。ドガイ王国で活動するBランクのパーティーで剣士をしていました。私もBランクでした」
依頼中にSランクの魔獣が現れ、パーティーのうち一人が死亡し、剣士さん以外が重傷を負った。そのうちの一人は教会の上級治癒魔法を受ける必要があったので、奴隷になり費用を捻出したそうだ。
武器は剣がメインで、槍も少し使える。火魔法が使えて、剣と火の魔法のスキルがあるらしい。
孤児院の出身で家族はなく、やりたいことは特に思いつかないし、質問もないと、すらすらとよどみなく答えてくれた。
剣士さんの契約期間が長いのは、治癒魔法のために借金の額が大きいからだった。今二十代後半ということは、冒険者として活躍できる期間を全て充てるくらいの長さだ。
ただ戦闘奴隷の場合は、強くなって戦闘の報酬が上がれば、その一部を貯めて自分を買い戻すこともできるので、契約期間を満了する人は少なく、通常は半分くらいで解放になるらしい。戦闘能力の向上心を持ち続けるための措置だ。それでも十年、僕にとっては十分な期間だろう。
話を聞いて一つ気になるのが、やりたいことがないという部分だ。ドガイ国に行きたいとか、元パーティーのメンバーの近況を聞きたいとかないのかなと思うが、複雑な思いがあったりすると余計なお世話になるので、口に出すのはやめた。
お互いに問題ないようなので、契約を結ぶことになった。そのまま待遇を再度確認後、契約の意思の最終確認をし、守るべきことなどの注意事項を伝えられ、全てに了承すれば、契約だ。
「では今の条件で、アレックスはユウの戦闘奴隷となります。奴隷紋を刻みますのでそのまま動かないでください」
イアンさんが魔法を使うと、アレックスさんの首元に赤い紋章が浮かび上がった。
この紋章、主人の命令を破ると徐々に黒くなる機能付きだ。ただ、戦闘奴隷の場合、主人の命を守ることが最優先で、そのためなら主人の命令を守らなくても罰にはならないらしい。そのあたりをどうやって判断しているのかは謎だけど、魔法で何とかなるのだろう。
こうして元Bランクの剣士アレックスさんが僕の戦闘奴隷になった。
このままアレックスさんを引き取って帰ることになったのだが、アレックスさんには荷物がなかった。剣も防具も全て売り払って身一つになったそうだ。服も今着ている奴隷商会の粗末な服のみで、靴はないという。僕のブーツは入らないし、日本のサンダルが入るかなと思ったけどやっぱり無理で、諦めて裸足で歩いてもらうことにした。まず何より、靴と服を買いたい。
そう思って外に出ると、すでに陽が落ちていて、服や靴を売っている店は閉まっていた。明日の朝、服や靴を用意したうえで契約すればよかったんじゃないかと思うものの、後の祭りである。他人の計画性のなさに文句言ってる場合じゃなかった。
「アレックスさん、ごめんなさい。服と靴を買いたいのですが、もうお店は開いていないので、明日買いに行きましょう」
「ご主人様、奴隷は呼び捨てになさってください。丁寧な言葉も必要ありません」
定番のご主人様呼び来た! と思ったけど、男に言われても全く嬉しくないな。
ご主人様はやめて、ユウと名前で呼んでほしいと伝えると、少し渋られたものの受け入れてくれた。アレックスさんからは、アレックスでもアルでも呼びやすいほうでと呼び捨てにしてほしい言われたので、アルと呼ぶことに決めた。年上の人の名前の呼び捨てはなんとなく慣れない。あだ名なら何とか呼べそうだ。
今日も宿の夕食は頼んでいないので、屋台でご飯を買って宿で食べようと提案し、食べたいものや好き嫌いを聞いたが、特になかった。本当にないのか、言わないのかは分からない。遠慮しているように思えるけど、初日から戦闘奴隷が主人に気安く接することはできないだろうし、そのあたりは少しずつ歩み寄るしかない。
ブランから『肉が食べたい』と要望があったので、今日もお肉だ。野菜も食べないと健康に悪いよ。あれ、オオカミって肉食、雑食どっちだっけ。
屋台が立ち並ぶ広場へ行くと、ブランだけでも目立つのに、奴隷と分かる服で裸足のアルを連れている、ちょっといい服を着た僕は、無駄に視線を集めてしまっている。早く宿に帰りたいので、ブランが鼻で選んだ肉を五人前、隣で売っていたピタパンのような野菜を詰めたパンも五人前買って、すぐに広場を離れた。アルの食べる量が分からないけど、ブランとアルに二人前ずつあれば大丈夫だろう。
購入したものをバッグにぽいぽい入れる僕を見て、アルが広場から離れたところで「それはマジックバッグですか?」と聞いてきたけど、ここでは話せない。「宿に帰ってからね」と返事をにごして足早に戻ると、宿の入り口でばったり会ったウルドさんに驚かれた。ついでに一階の食堂でご飯を食べている客の注目も集めてしまった。
「さっき契約したんですけど、服も靴も店が閉まってて。明日買いに行きます。それで、一部屋追加したいのですが空いていますか?」
「ユウ様、奴隷に一部屋使わせることはありません。私はユウ様のお部屋の床でも寝られます」
アルが自分用に部屋を借りることはないと止めてくるけど、戦闘奴隷って戦闘をするんだから体調管理も仕事のうちじゃないのかな。床じゃ疲れが取れないし、そもそも僕の部屋の床にはブランがいるから場所がない。
もしかして、奴隷だけで使っちゃいけないとかあるのかウルドさんに確認すると、そういう宿もあるが、ここは大丈夫とのこと。一人部屋が空いているそうなので一泊朝食付きでお願いした。アルは納得していないが、今は言い合いをしている時間も惜しいので、強引に決めてしまい、部屋に向かうことにした。
その前にウルドさんにお願いがあったんだ。ブランのために、解体した魔物の肉を料理してほしい。ブラン用のブラシが買えたお礼を述べ、明日の夕食にお願いできないか聞くと、料理については奥さんの担当なので、明日の朝食後に直接相談することになった。
僕の部屋でご飯を食べて、アルと話をしよう。アルの部屋は三階だから、先に荷物を置いてきて、と言おうとして、荷物がないことを思い出した。買うもののリストアップも必要だな。
部屋に入ってすぐ、僕はまず着替えた。せっかく仕立てた服を汚したくない。次に使う機会があるかは分からないけど、きれいにたたんでアイテムボックスにしまっておこう。
椅子がないので、アルにはベッドに腰かけるように言ったけど、アルが床に座ると譲らなかったので、僕が折れた。こういうところも話し合って変えていきたいが、今日は時間がもったいない。
アイテムボックスから屋台で買った肉とピタパンもどき、水とコップとボウルを出す。コップに水を注いでアルに渡し、ボウルに注いでブランの前に置く。
「まずはご飯を食べて、その後に話そう。アルがどれくらい食べるのかわからなかったから二人前にしたけど、多かったら残していいよ」
『残すなら俺がもらう』
横から口を出してきたブランを見て、アルが驚いている。ブランに遮音結界がはってあるか聞くと、部屋に入ったときに展開済みだというので、ブランについては先に話しておこう。
「えっと、守ってほしい秘密の一つがこれなんだけど、ブランは神獣マーナガルムなんだ。今はシルバーウルフのふりをして小さくなってるんだけど、本当はこの部屋くらいの大きさ。それで人の言葉もしゃべれて、とても強い」
初めて会ったときは本当に驚いた。バスみたいな大きさの銀色のオオカミって、ちょっと意味が分からなかった。でも月に照らされてキラキラしている毛がとてもきれいで、不思議と怖いとは思わなかった。
精神的に追い詰められて少しおかしくなっていたのかもしれない僕は、ふらふらとブランに近づいて、胸のふさふさの毛に埋まりにいった。自分の行動ながら思い返してもかなり謎だ。そんな僕をブランは攻撃することもなく、したいままにさせてくれた。
僕の告白にアルが驚いたまま固まっている。ブランによると、神獣が人前に現れるのは何百年ぶりってくらいらしいから、驚くのも仕方がないのかもしれない。
突然アルがブランに向けて姿勢を正して頭を下げたので、今度は僕が驚いたけど、ブランは平然としている。
『そういうのは不要だ。俺はユウの従魔としてここにいる』
なんだかブランが偉そうだ。神獣だから実際偉いのか。アルにも「ブラン」という名で呼べと伝え、アルは「ブラン様」と呼びかけたものの、その後の言葉が出てこないでいる。
とりあえずご飯を食べようと思ってブランを見たら、すでに一人前食べ終わっていた。食いしん坊め、早いな。
僕も食べ始めたけど、いろいろあって疲れたのかあまり食欲がない。ピタパンもどきだけで満腹になりそうなので、お肉はブランにあげた。
アルは半分魂が抜けたような状態で食事をしているから、神獣の衝撃は僕の予想以上に大きかったようだ。これでは話は明日のほうが良いかもしれない。
アルがなんとか食べ終わったところで、身体を拭くための布を取り出してアルに渡して、自分の部屋で休むように送り出した。着替えはないが、せめてさっぱりしてほしい。
部屋から出ていくアルを見送って、僕も寝る準備だ。食べたばかりだが精神的に疲れたので横になりたい。
身体を拭いてベッドに上がったところで、限界がきた。
「ブラッシングは明日するね。ごめん。おやす、み……」
『ああ。いい夢を』
床に丸まっているブランに声をかけて、目を閉じた。
まずはこちらからやってほしいことや待遇を伝えるように促されたので、さっきの人たちには伝えなかった、具体的なこの先のビジョンを伝えよう。よさそうだからこそ、小さなことでも認識にずれがないようにしておきたい。
「従魔のシルバーウルフ、ブランと旅をしています。これからもいろんな国を見て回りたいと思っています。いずれはどこかに定住も考えています。ずっと冒険者をするかどうかは分かりませんが、ダンジョンにも潜ってみたいです」
ブランと三人でパーティーを組んで、前衛をお願いしたい。僕はFランクで戦えないので、訓練もしてほしい。それから、冒険者ギルドの対応は全て任せたい。何より、世間に疎いので、冒険者のことだけでなくいろいろ教えてほしいし、おかしなことをしていたら止めてほしい。
契約には、僕に関する知り得たことを漏らさない、僕を裏切らない、というのを入れてもらう。
待遇は、衣食住と武器や防具、旅に必要なものなど、基本的なものは僕が支給する。七日に一日は休みにして、やりたいことがあれば、なるべく叶える。
報酬は、ずっと冒険者として活動するかどうか分からないので、戦闘に限らず利益の一割を渡す。
僕からの要望や待遇を伝えた。現状、冒険者が一番お金を稼ぐのに向いているから冒険者でいるけれど、どうしても冒険者でいたいわけではない。
次にBランク剣士さんからの要望と質問だ。
「アレックスです。ドガイ王国で活動するBランクのパーティーで剣士をしていました。私もBランクでした」
依頼中にSランクの魔獣が現れ、パーティーのうち一人が死亡し、剣士さん以外が重傷を負った。そのうちの一人は教会の上級治癒魔法を受ける必要があったので、奴隷になり費用を捻出したそうだ。
武器は剣がメインで、槍も少し使える。火魔法が使えて、剣と火の魔法のスキルがあるらしい。
孤児院の出身で家族はなく、やりたいことは特に思いつかないし、質問もないと、すらすらとよどみなく答えてくれた。
剣士さんの契約期間が長いのは、治癒魔法のために借金の額が大きいからだった。今二十代後半ということは、冒険者として活躍できる期間を全て充てるくらいの長さだ。
ただ戦闘奴隷の場合は、強くなって戦闘の報酬が上がれば、その一部を貯めて自分を買い戻すこともできるので、契約期間を満了する人は少なく、通常は半分くらいで解放になるらしい。戦闘能力の向上心を持ち続けるための措置だ。それでも十年、僕にとっては十分な期間だろう。
話を聞いて一つ気になるのが、やりたいことがないという部分だ。ドガイ国に行きたいとか、元パーティーのメンバーの近況を聞きたいとかないのかなと思うが、複雑な思いがあったりすると余計なお世話になるので、口に出すのはやめた。
お互いに問題ないようなので、契約を結ぶことになった。そのまま待遇を再度確認後、契約の意思の最終確認をし、守るべきことなどの注意事項を伝えられ、全てに了承すれば、契約だ。
「では今の条件で、アレックスはユウの戦闘奴隷となります。奴隷紋を刻みますのでそのまま動かないでください」
イアンさんが魔法を使うと、アレックスさんの首元に赤い紋章が浮かび上がった。
この紋章、主人の命令を破ると徐々に黒くなる機能付きだ。ただ、戦闘奴隷の場合、主人の命を守ることが最優先で、そのためなら主人の命令を守らなくても罰にはならないらしい。そのあたりをどうやって判断しているのかは謎だけど、魔法で何とかなるのだろう。
こうして元Bランクの剣士アレックスさんが僕の戦闘奴隷になった。
このままアレックスさんを引き取って帰ることになったのだが、アレックスさんには荷物がなかった。剣も防具も全て売り払って身一つになったそうだ。服も今着ている奴隷商会の粗末な服のみで、靴はないという。僕のブーツは入らないし、日本のサンダルが入るかなと思ったけどやっぱり無理で、諦めて裸足で歩いてもらうことにした。まず何より、靴と服を買いたい。
そう思って外に出ると、すでに陽が落ちていて、服や靴を売っている店は閉まっていた。明日の朝、服や靴を用意したうえで契約すればよかったんじゃないかと思うものの、後の祭りである。他人の計画性のなさに文句言ってる場合じゃなかった。
「アレックスさん、ごめんなさい。服と靴を買いたいのですが、もうお店は開いていないので、明日買いに行きましょう」
「ご主人様、奴隷は呼び捨てになさってください。丁寧な言葉も必要ありません」
定番のご主人様呼び来た! と思ったけど、男に言われても全く嬉しくないな。
ご主人様はやめて、ユウと名前で呼んでほしいと伝えると、少し渋られたものの受け入れてくれた。アレックスさんからは、アレックスでもアルでも呼びやすいほうでと呼び捨てにしてほしい言われたので、アルと呼ぶことに決めた。年上の人の名前の呼び捨てはなんとなく慣れない。あだ名なら何とか呼べそうだ。
今日も宿の夕食は頼んでいないので、屋台でご飯を買って宿で食べようと提案し、食べたいものや好き嫌いを聞いたが、特になかった。本当にないのか、言わないのかは分からない。遠慮しているように思えるけど、初日から戦闘奴隷が主人に気安く接することはできないだろうし、そのあたりは少しずつ歩み寄るしかない。
ブランから『肉が食べたい』と要望があったので、今日もお肉だ。野菜も食べないと健康に悪いよ。あれ、オオカミって肉食、雑食どっちだっけ。
屋台が立ち並ぶ広場へ行くと、ブランだけでも目立つのに、奴隷と分かる服で裸足のアルを連れている、ちょっといい服を着た僕は、無駄に視線を集めてしまっている。早く宿に帰りたいので、ブランが鼻で選んだ肉を五人前、隣で売っていたピタパンのような野菜を詰めたパンも五人前買って、すぐに広場を離れた。アルの食べる量が分からないけど、ブランとアルに二人前ずつあれば大丈夫だろう。
購入したものをバッグにぽいぽい入れる僕を見て、アルが広場から離れたところで「それはマジックバッグですか?」と聞いてきたけど、ここでは話せない。「宿に帰ってからね」と返事をにごして足早に戻ると、宿の入り口でばったり会ったウルドさんに驚かれた。ついでに一階の食堂でご飯を食べている客の注目も集めてしまった。
「さっき契約したんですけど、服も靴も店が閉まってて。明日買いに行きます。それで、一部屋追加したいのですが空いていますか?」
「ユウ様、奴隷に一部屋使わせることはありません。私はユウ様のお部屋の床でも寝られます」
アルが自分用に部屋を借りることはないと止めてくるけど、戦闘奴隷って戦闘をするんだから体調管理も仕事のうちじゃないのかな。床じゃ疲れが取れないし、そもそも僕の部屋の床にはブランがいるから場所がない。
もしかして、奴隷だけで使っちゃいけないとかあるのかウルドさんに確認すると、そういう宿もあるが、ここは大丈夫とのこと。一人部屋が空いているそうなので一泊朝食付きでお願いした。アルは納得していないが、今は言い合いをしている時間も惜しいので、強引に決めてしまい、部屋に向かうことにした。
その前にウルドさんにお願いがあったんだ。ブランのために、解体した魔物の肉を料理してほしい。ブラン用のブラシが買えたお礼を述べ、明日の夕食にお願いできないか聞くと、料理については奥さんの担当なので、明日の朝食後に直接相談することになった。
僕の部屋でご飯を食べて、アルと話をしよう。アルの部屋は三階だから、先に荷物を置いてきて、と言おうとして、荷物がないことを思い出した。買うもののリストアップも必要だな。
部屋に入ってすぐ、僕はまず着替えた。せっかく仕立てた服を汚したくない。次に使う機会があるかは分からないけど、きれいにたたんでアイテムボックスにしまっておこう。
椅子がないので、アルにはベッドに腰かけるように言ったけど、アルが床に座ると譲らなかったので、僕が折れた。こういうところも話し合って変えていきたいが、今日は時間がもったいない。
アイテムボックスから屋台で買った肉とピタパンもどき、水とコップとボウルを出す。コップに水を注いでアルに渡し、ボウルに注いでブランの前に置く。
「まずはご飯を食べて、その後に話そう。アルがどれくらい食べるのかわからなかったから二人前にしたけど、多かったら残していいよ」
『残すなら俺がもらう』
横から口を出してきたブランを見て、アルが驚いている。ブランに遮音結界がはってあるか聞くと、部屋に入ったときに展開済みだというので、ブランについては先に話しておこう。
「えっと、守ってほしい秘密の一つがこれなんだけど、ブランは神獣マーナガルムなんだ。今はシルバーウルフのふりをして小さくなってるんだけど、本当はこの部屋くらいの大きさ。それで人の言葉もしゃべれて、とても強い」
初めて会ったときは本当に驚いた。バスみたいな大きさの銀色のオオカミって、ちょっと意味が分からなかった。でも月に照らされてキラキラしている毛がとてもきれいで、不思議と怖いとは思わなかった。
精神的に追い詰められて少しおかしくなっていたのかもしれない僕は、ふらふらとブランに近づいて、胸のふさふさの毛に埋まりにいった。自分の行動ながら思い返してもかなり謎だ。そんな僕をブランは攻撃することもなく、したいままにさせてくれた。
僕の告白にアルが驚いたまま固まっている。ブランによると、神獣が人前に現れるのは何百年ぶりってくらいらしいから、驚くのも仕方がないのかもしれない。
突然アルがブランに向けて姿勢を正して頭を下げたので、今度は僕が驚いたけど、ブランは平然としている。
『そういうのは不要だ。俺はユウの従魔としてここにいる』
なんだかブランが偉そうだ。神獣だから実際偉いのか。アルにも「ブラン」という名で呼べと伝え、アルは「ブラン様」と呼びかけたものの、その後の言葉が出てこないでいる。
とりあえずご飯を食べようと思ってブランを見たら、すでに一人前食べ終わっていた。食いしん坊め、早いな。
僕も食べ始めたけど、いろいろあって疲れたのかあまり食欲がない。ピタパンもどきだけで満腹になりそうなので、お肉はブランにあげた。
アルは半分魂が抜けたような状態で食事をしているから、神獣の衝撃は僕の予想以上に大きかったようだ。これでは話は明日のほうが良いかもしれない。
アルがなんとか食べ終わったところで、身体を拭くための布を取り出してアルに渡して、自分の部屋で休むように送り出した。着替えはないが、せめてさっぱりしてほしい。
部屋から出ていくアルを見送って、僕も寝る準備だ。食べたばかりだが精神的に疲れたので横になりたい。
身体を拭いてベッドに上がったところで、限界がきた。
「ブラッシングは明日するね。ごめん。おやす、み……」
『ああ。いい夢を』
床に丸まっているブランに声をかけて、目を閉じた。
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