世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 1章 神なる存在

11-13. 神の存在

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 中央教会に着くと同時に、出迎えてくれた司祭様に大司教様への面会をお願いした。
 リネがどこかへ飛んでいかないように抱きかかえ、まずはユウに会いに行こう。今はユウに会って癒されたい。

「アル、お帰り」
「ユウ、ただいま。リネ、ブラン、大司教様が来るまでこの部屋にいてほしい」
『仕方ないなあ』
「どうしたの?」

 リネは部屋の中にとどまっていてくれるようなので、手を放した。すぐに部屋の中にいることに飽きてしまうかもしれないが、しばらくは大丈夫だろう。
 ユウが何かあったのかと心配してくれるが、大司教様が来てから話すからと説明して、とりあえずユウを抱きしめた。俺の腕の中にすっぽりとユウを抱き込むと安心する。
 俺のいつにない様子に心配しながらも、何も聞かずにされるがままになってくれるユウが、愛おしい。泰然としているブランもいるし、大丈夫だと、驚愕と興奮が少しずつ落ち着いていく。

 大司教様が外出用の衣装のまま部屋に入ってきた。至急とお願いしたから、緊急事態だと判断して急いで駆けつけてくれたようだ。ブランとリネ、ユウと俺が揃っているのを見て、少し安堵の表情を見せた。
 すぐに驚かせてしまうので申し訳ないと思いながら、挨拶を飛ばして急に呼び出したことを謝り、リネの作ったエリクサーを見せる。

「ダンジョンの最下層でエリクサーがドロップしたのですが、それを見てリネが、中級ポーションからこれを作りました。エリクサーだと思うのですが」
「ブラン?」
『最上級のエリクサーだ』
「へえ。リネ、すごいね!」

 これは大事件なのに、無邪気な反応をするユウが可愛い。このエリクサーの価値が全く分かってないな。

 俺はSランクのエリクサーを見たことがない。モクリーク全体のダンジョンでも何十年に一度くらいの確率で出るくらいだ。ドガイの薬草ダンジョンの最下層で必ずエリクサーがドロップするとはいえ、あれはBランクだ。ユウがタペラでクルーロに使ったのはBランクで、俺が今持っているものはAランクだ。これだって持っていることが知れたら、襲われる可能性もあるものだ。十年間、ブランがあちこちのダンジョンで暴れまわっても一本だけなのだ。普通の冒険者であれば、きっと一生目にすることはない。
 いつも冷静な大司教様が固まっている。そちらの反応が普通なのだ。

 しばらくして衝撃から立ち直った大司教様が、このことを知っているのは誰かと聞くので、獣道だけだと伝えた。彼らは見なかったことにすると言っていることも。

「アレックス様、これを売り出す気はおありですか?」
「ありません」
「そのほうがよろしいでしょう」

 人の世に混乱を呼んでしまうので、市場には出さない。

『そんなに価値があるなら、宝石たくさんくれたし、作るよ?』
『やめろ』
「グァリネ様、このエリクサーは人には過ぎたるものです。その価値に目のくらんだものが、グァリネ様やアレックス様を狙いかねません」

 何の苦労もなく最上級のエリクサーを作ることができるという価値は、ユウのアイテムボックスとも比較にならないほどのものだ。ユウのアイテムボックスは人のスキル、リネは神獣だからもともと比較にならないのだが。
 こんなことが知れたら、リネ欲しさに他国がモクリークに攻め込みかねない。もちろんモクリークを攻め滅ぼしたところでリネが手に入るわけではないが。
 ブランが止めてくれたのでとりあえず思いとどまってくれたようだが、いつか忘れて作りそうな気がする。

 俺を捕らえてリネにエリクサーを作れと迫るようなことがあったら――。
 想像し、リネは作らないなと思い至った。ユウが悲しむからブランが助けてくれるだろうか。
 ユウが捕らえられたら、企んだ者のいる付近一帯がブランによって破壊されつくされそうだ。それに便乗してリネも暴れそうだな。自分のときとユウのときとの違いを考えて、少し落ち込む。


 予定の合間に駆けつけてくれたのだろう大司教様はすぐに部屋から出ていったが、大司教様からエリクサーについてユウに説明をするように言付かったというチルダム司教様が、説明のために部屋に来てくれた。
 よく分かっていないユウと一緒に、リネもブランに言われて聞いている。

「我々には、エリクサーの作り方が伝わっていません。材料も分かっていません。現在我々が手に入れられるエリクサーは、ダンジョンのドロップ品のみです。それもBランクがほとんど、たまにAランクで、Sランクは私が知る限りは四十年以上前です」
「作り方が分かれば、作れるのですか?」
「それも分かっていません」

 説明されてもユウはエリクサーの希少さとリネの作ったエリクサーの特異性があまり理解できていないようだ。リネに作り方を聞いている。

『作り方? えいってやればできるよ』
「材料は?」
『何もないところから作れるよ。今作ると床にこぼれちゃうけど』
「人には作れないの?」
『さあ? 知らない』

 リネってすごいんだね、というユウの言葉にリネが胸を張っている。
 ユウにとって神という存在は、俺たちにとっての存在とは違うのだろう。どこか愛玩動物の延長のように思っているのではないかと感じることがある。リネもウィズも、使える魔法が異なるだけの同じ存在として捉えているように見えるのだ。
 ブランとの付き合いが長いからだと思っていたが、そもそもの神の捉え方が根本から異なるのかもしれない。

 リネの作ったエリクサーはユウのアイテムボックスに入れてもらった。
 心配性のユウが俺に持っていてほしいと言ったが、実際に使ってしまえば欲が湧く。このエリクサーは決して使ってはならないものだ。


 チルダム司教様が部屋を出てから、ユウに聞いてみた。ユウにとって神とはどういう存在なのか、と。

「いるかいないか分からないけど、困ったときには助けてくださいってお願いする相手?」

 ユウの世界には神が存在しないのか? それなのに助けを請うというのもよく分からない。
 それに、ブランは神獣だ。「いるかいないか分からない」ではなく、すぐそばに神がいる。ユウの世界にいたときの話だろうか。

「ユウは今も神の存在を信じていないのか?」
「……どんなに願っても元の世界に返してくれなかったし」

 この世界に迷い込み、絶望の底で救いを求め、けれど奇跡は起きなかったから、神の存在が信じられないのか。すぐそばに神がいるのに。
 昔を思い出して少し沈んでしまったユウを心配し、ブランは足元に寄り添い、リネは肩に止まって頬ずりをしている。

 神の存在を否定した人間を、神なる者たちが慈しむ。

 驚く状況だ。神獣の契約者になりたくて仕方がない人間が見れば発狂しそうな状況だな、とどこか冷静な自分が判断する。
 ブランやリネがユウに惹かれるのはこういうところなのかもしれない。
 十年以上そばにいるのに、ユウがこの世界の人ではないのだと、外なる世界の存在なのだと、こんなにもはっきりと突き付けられたのは初めてだ。

 ユウがあまり周りの冒険者と話をしたがらなかったのは、感覚のずれを感じていたからなんだろうと、今更ながらに思い当たった。「変なことを言うのが怖い」という言葉に込められた孤独に、今ごろ気付いた。ユウはどれだけ疎外感を味わってきたのだろう。俺は今までユウの寂しさに寄り添えていただろうか。

 過去のユウの孤独に思いをはせていると、そのユウは神獣たちを撫でながら、的の外れた発言をした。

「この世界では、神様が実体化してるから、身近なのかな」
「身近ではないだろう。神獣も数百年に一度くらいで目撃の噂が流れるが、人が神獣だと言っているだけで、本当にそうかは確かめようがない」

 そう考えると、今目の前に神獣が二柱いることは奇跡だ。

 ブランはこの世界に落ちたユウのために遣わされたのかもしれない。
 そのブランが連れてきたリネが俺と契約してくれたのもまたユウのためだ。
 神々が気にかけるユウが幸せであるように、最愛の人が笑っていられるように、俺も力を尽くそう。




――――――――――――
 次話からユウの視点に戻ります。
 「世界を越えてもその手は 裏話」を更新しています。この章は3話あります。
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