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続 2章 新たな日々
12-7. 反省会
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部屋に落ち着いて、アルがあふれの対応について聞いてくれるので、気になっていたことを確認しよう。
「現地で物資を運ぶのにマジックバッグを貸したんだけど、問題なかったと思う?」
初級ダンジョンに逃げ込んだ人がいたこととそのダンジョンの位置、運ぶ依頼は断る代わりにギルドにマジックバッグを貸し出して、ライダーズとリリアンダに運んでもらったこと、彼らと交わした契約を説明する。
あのときどうするのが最善だったのか、次に同じことがあったときのためにも確認しておきたい。
「断ってもよかったと思うが、問題ない。ユウはそういう人を見捨てられないだろ」
「よかった。リリアンダのみんなが、また一緒に飲もうって伝えてって」
「ああ、そういえば帰ってきてから会ってないな」
でも今のアルは気軽に飲みに行ったりできるんだろうか。行くと騒ぎになったりしないんだろうかと心配したけど、ダンジョンの帰りに街中を通っても、最近ではあまり話しかけられたりもしないらしい。
リネの気ままな性格が知れ渡ったせいで、みんな当たり障りなくという感じなんだとか。
「冒険者には、俺はリネの小間使いと言われてるからな」
「そうなの?」
リネに振り回されているアルと獣道には、どちらかというと同情が寄せられているらしい。
自分が戦うと言って戦っていても、飽きた時点でモンスターがまだいてもお構いなしに戦闘をやめてしまう。そうなると、アルと獣道の五人で残りのモンスターを倒すしかないので、リネが戦っているときも気が抜けない。
そんなドタバタを見ている冒険者たちは、大変だなといいながらも、自分たちが巻き込まれないように少し離れて見ているそうだ。
「そういえば、ティガーの奴らに会ったので、機会があったらここを訪ねてほしいと言っておいた」
「え? ティグリス君元気だった?」
僕がティグリス君の話に喰いついたことにアルが苦笑している。
ティガーは、ソント王国のウルドさんの宿でお世話になったパーティーで、ティグリス君はブランが加護を与えた虎の従魔だ。僕が初めて会った現役のテイマーさんのいる冒険者パーティーだ。
ティグリス君は氷の攻撃魔法も使えるようになっていて、僕たちが会ったときはAランクだったけど、今はSランクに昇格しているそうだ。
彼らがカークトゥルス狙いで二年前からモクリークに来ているというのは聞いていたけど、近くにいることが分かって嬉しい。
ところで、加護をもつティグリス君が氷の攻撃魔法を使えるということは、僕も使えるはずなのだ。
けれど僕は攻撃魔法は全般使えなかった。ブランによると、そもそも性格が攻撃魔法に向いてないと言われたんだけど、性格というよりも育った環境だと思う。
ブランがよく使う氷の矢、僕も作ってみたのだ。魔法はイメージだ。魔法の矢はとてもきれいに作ることができた。ブランというお手本があるのだから、イメージはとても簡単だった。
けれど、それが飛んでいくとなると、途端にスピードが落ちる。
僕が刃物全般に対して腰が引けてしまうように、矢がスピードに乗って飛び、対象に突き刺さる、ということ自体に恐れをなしてしまう。ましてや、モンスターと一対一ならともかく、周りにブランやアルがいると思うと、もし万が一あたってしまったらという心配が頭をよぎってしまってスピードがでない。僕の矢はよろよろと飛んで地面に落ちた。
その結果に、お前はもう攻撃をしようと思うな、とブランにため息をつきながら言われてしまった。
こうして僕の、氷の攻撃魔法で攻撃計画は始まる前に終わった。人には向き不向きがあるんだから、悔しくなんかない。
アルは少しだけ休んですぐに獣道がいるダンジョンへと出発していった。いつもは五日ほど一緒にいてくれるけれど、リネにダンジョンで思う存分暴れてもらうために、今回はすぐに休みを切り上げたのだ。
そのリネのことは教会から談話として出す前に、噂が一気に広がったそうだ。
――神獣様にお願いすると、モンスターと一緒に街も焼き払われてしまうので、決してお願いしてはならない。
相手は神だ。人の都合などお構いなしだ。そう分かってはいても頼りたくなるのが神なのだろう。
けれど気軽に頼んだ結果、キバタの街がなくなるところだったというのはかなりの衝撃だったようで、あっという間に国中にその噂が広がった。
人があふれの対応をするときに、植物やその陰にいる小さな虫など気にしない。リネにとってはそういう感覚なのだろう。これで今後頼む人は出ないといいのだけれど。
この事態を引き起こしたのは、僕だ。
ブランは人の社会に関わろうとしない。潜っている途中にあふれたタペラでは、その信念を曲げてダンジョン内にいたミランさんたちを助けてくれたけど、それは僕が彼らを助けるために付与をすると言ったからだ。あれはブランが僕を守るためにしてくれたことだ。
リネはそもそも人の社会というものを気にしていない。そんなリネを人の社会に引き込むきっかけは、僕が別行動するようになったアルの安全を気にしていたからだ。
ブランは僕のお願いを何でも聞いてくれる。だから、ブランにアルを守ってほしいと頼んだ。それは正しかったのだろうか。
僕はブランにどこまで甘えていいのか、リネが現れて初めて考えている。
あふれが抑えられたという報告が入ったのは、僕たちが王都に帰ってから十日後のことだった。
王都に近く、軍が駆け付けるのが早かったのと、冒険者が多かったことが功を奏し、街への被害はあまり大きくはないそうだ。
そしてツェルト助祭様と準備した子どもたちの勉強は、とても好評だったので、今後のあふれの対応に取り入れる予定だと教えてもらった。
これは助祭様も僕も予想外だったのだけど、子どもよりも親に好評だったのだ。子どもを連れて避難してきた親がその勉強の時間だけはゆっくり休みたいという、臨時の託児所のような目的で利用されていた。孤児院を管轄する教会には子どもの扱いに慣れた人も多いので、親も安心して預けられるのだろう。
ところで、僕は今回のあふれの対応で一つ思いついたことがある。
「あふれの物資は、事前に僕が収納しておけば、大急ぎで準備してもらわなくてもいいと思うんです」
「時間が停止しているアイテムボックスでしたら可能ですね」
「物資の準備を待っている時間が短縮できるんじゃないでしょうか」
「ポーション類も余裕をもって準備できますね。薬師ギルドにお願いしておきましょう」
あふれの後に、減った物資を補充しておけば、いつでもすぐに現地へ向かえる。防災大国に育ったはずなのに、なんで今まで思いつかなかったんだろう。
教会の倉庫に置いているのも、僕のアイテムボックスの中に入っているのも、どちらも変わらない。むしろ、アイテムボックスの中のほうが時間が止まっているので悪くならない。僕がその物資を横流ししたりする危険性もあるけど、教会に住んでいる時点で、そのチャンスは皆無だ。もちろんそんなことやらないけど。
「現地で物資を運ぶのにマジックバッグを貸したんだけど、問題なかったと思う?」
初級ダンジョンに逃げ込んだ人がいたこととそのダンジョンの位置、運ぶ依頼は断る代わりにギルドにマジックバッグを貸し出して、ライダーズとリリアンダに運んでもらったこと、彼らと交わした契約を説明する。
あのときどうするのが最善だったのか、次に同じことがあったときのためにも確認しておきたい。
「断ってもよかったと思うが、問題ない。ユウはそういう人を見捨てられないだろ」
「よかった。リリアンダのみんなが、また一緒に飲もうって伝えてって」
「ああ、そういえば帰ってきてから会ってないな」
でも今のアルは気軽に飲みに行ったりできるんだろうか。行くと騒ぎになったりしないんだろうかと心配したけど、ダンジョンの帰りに街中を通っても、最近ではあまり話しかけられたりもしないらしい。
リネの気ままな性格が知れ渡ったせいで、みんな当たり障りなくという感じなんだとか。
「冒険者には、俺はリネの小間使いと言われてるからな」
「そうなの?」
リネに振り回されているアルと獣道には、どちらかというと同情が寄せられているらしい。
自分が戦うと言って戦っていても、飽きた時点でモンスターがまだいてもお構いなしに戦闘をやめてしまう。そうなると、アルと獣道の五人で残りのモンスターを倒すしかないので、リネが戦っているときも気が抜けない。
そんなドタバタを見ている冒険者たちは、大変だなといいながらも、自分たちが巻き込まれないように少し離れて見ているそうだ。
「そういえば、ティガーの奴らに会ったので、機会があったらここを訪ねてほしいと言っておいた」
「え? ティグリス君元気だった?」
僕がティグリス君の話に喰いついたことにアルが苦笑している。
ティガーは、ソント王国のウルドさんの宿でお世話になったパーティーで、ティグリス君はブランが加護を与えた虎の従魔だ。僕が初めて会った現役のテイマーさんのいる冒険者パーティーだ。
ティグリス君は氷の攻撃魔法も使えるようになっていて、僕たちが会ったときはAランクだったけど、今はSランクに昇格しているそうだ。
彼らがカークトゥルス狙いで二年前からモクリークに来ているというのは聞いていたけど、近くにいることが分かって嬉しい。
ところで、加護をもつティグリス君が氷の攻撃魔法を使えるということは、僕も使えるはずなのだ。
けれど僕は攻撃魔法は全般使えなかった。ブランによると、そもそも性格が攻撃魔法に向いてないと言われたんだけど、性格というよりも育った環境だと思う。
ブランがよく使う氷の矢、僕も作ってみたのだ。魔法はイメージだ。魔法の矢はとてもきれいに作ることができた。ブランというお手本があるのだから、イメージはとても簡単だった。
けれど、それが飛んでいくとなると、途端にスピードが落ちる。
僕が刃物全般に対して腰が引けてしまうように、矢がスピードに乗って飛び、対象に突き刺さる、ということ自体に恐れをなしてしまう。ましてや、モンスターと一対一ならともかく、周りにブランやアルがいると思うと、もし万が一あたってしまったらという心配が頭をよぎってしまってスピードがでない。僕の矢はよろよろと飛んで地面に落ちた。
その結果に、お前はもう攻撃をしようと思うな、とブランにため息をつきながら言われてしまった。
こうして僕の、氷の攻撃魔法で攻撃計画は始まる前に終わった。人には向き不向きがあるんだから、悔しくなんかない。
アルは少しだけ休んですぐに獣道がいるダンジョンへと出発していった。いつもは五日ほど一緒にいてくれるけれど、リネにダンジョンで思う存分暴れてもらうために、今回はすぐに休みを切り上げたのだ。
そのリネのことは教会から談話として出す前に、噂が一気に広がったそうだ。
――神獣様にお願いすると、モンスターと一緒に街も焼き払われてしまうので、決してお願いしてはならない。
相手は神だ。人の都合などお構いなしだ。そう分かってはいても頼りたくなるのが神なのだろう。
けれど気軽に頼んだ結果、キバタの街がなくなるところだったというのはかなりの衝撃だったようで、あっという間に国中にその噂が広がった。
人があふれの対応をするときに、植物やその陰にいる小さな虫など気にしない。リネにとってはそういう感覚なのだろう。これで今後頼む人は出ないといいのだけれど。
この事態を引き起こしたのは、僕だ。
ブランは人の社会に関わろうとしない。潜っている途中にあふれたタペラでは、その信念を曲げてダンジョン内にいたミランさんたちを助けてくれたけど、それは僕が彼らを助けるために付与をすると言ったからだ。あれはブランが僕を守るためにしてくれたことだ。
リネはそもそも人の社会というものを気にしていない。そんなリネを人の社会に引き込むきっかけは、僕が別行動するようになったアルの安全を気にしていたからだ。
ブランは僕のお願いを何でも聞いてくれる。だから、ブランにアルを守ってほしいと頼んだ。それは正しかったのだろうか。
僕はブランにどこまで甘えていいのか、リネが現れて初めて考えている。
あふれが抑えられたという報告が入ったのは、僕たちが王都に帰ってから十日後のことだった。
王都に近く、軍が駆け付けるのが早かったのと、冒険者が多かったことが功を奏し、街への被害はあまり大きくはないそうだ。
そしてツェルト助祭様と準備した子どもたちの勉強は、とても好評だったので、今後のあふれの対応に取り入れる予定だと教えてもらった。
これは助祭様も僕も予想外だったのだけど、子どもよりも親に好評だったのだ。子どもを連れて避難してきた親がその勉強の時間だけはゆっくり休みたいという、臨時の託児所のような目的で利用されていた。孤児院を管轄する教会には子どもの扱いに慣れた人も多いので、親も安心して預けられるのだろう。
ところで、僕は今回のあふれの対応で一つ思いついたことがある。
「あふれの物資は、事前に僕が収納しておけば、大急ぎで準備してもらわなくてもいいと思うんです」
「時間が停止しているアイテムボックスでしたら可能ですね」
「物資の準備を待っている時間が短縮できるんじゃないでしょうか」
「ポーション類も余裕をもって準備できますね。薬師ギルドにお願いしておきましょう」
あふれの後に、減った物資を補充しておけば、いつでもすぐに現地へ向かえる。防災大国に育ったはずなのに、なんで今まで思いつかなかったんだろう。
教会の倉庫に置いているのも、僕のアイテムボックスの中に入っているのも、どちらも変わらない。むしろ、アイテムボックスの中のほうが時間が止まっているので悪くならない。僕がその物資を横流ししたりする危険性もあるけど、教会に住んでいる時点で、そのチャンスは皆無だ。もちろんそんなことやらないけど。
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