世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 2章 新たな日々

12-10. 第二王子と初対面

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 チルダム司教様が現れたのは、リネに会うためではなかった。

「アレックス様、ユウさん、第二王子殿下がいらっしゃいました」
「え? 王子様?」
「はい。ドガイへは殿下が陛下の名代として向かわれるため、ドロップ品の視察にいらっしゃったのですが、お会いになりますか? それともお待ちいただきますか?」

 もともと視察に来る予定だったところに僕たちが来ちゃったから、鉢合わせになったらしい。それで、ここに通していいのか聞きに来てくれたのだ。

「えっと、僕は部屋の隅にいていいなら……」
「ユウ、そんなに怯えなくても大丈夫だから」

 いやいや、王子様とか、心の準備ができてないから。でも予定にないのに来たのは僕たちのほうだから、待ってもらうのは悪い。
 王様に会うときは、この日と決まっているから戦闘モードで行けるけど、今日はそんな予定もなかったから、できれば壁の一部になりたい。ブラン、僕のこと見えなくしてよ。
 チルダム司教様が王子様を呼びに行っている間に、僕はリリアンダの後ろに移動した。アルも苦笑しながら、リリアンダに僕の壁になってくれと言ってくれたので、僕はここで気配を消していよう。ブランも人の壁で見えないはずだ。

 チルダム司教様に案内されて、アルと同年代のキラキラした王子様が入ってきた。
 僕は、リリアンダと一緒に軽く頭を下げている。作業中の視察だからそれでいいそうで、事前に司教様が教えてくれた通りにしている。

「神獣様がいらっしゃるとは知らず、突然の訪問をお許しくださいませ」

 その王子様は、リネに対して膝をついて挨拶をした後、立ち上がった。正式な対面じゃないし、リネが王子様に注意を払っていないから、もう立ち上がっていいだろうと話しているのが聞こえた。偉い人が集まると、いろいろとお作法が大変だ。

「アレックス、邪魔してごめんね。いると思わなくて」
「テオ、久しぶりだ。突然来たのはこっちだ。リネ、ちょっと来い」

 前に会って友達になってほしいと言われたと聞いているけど、アルは王族に対してではなく友達として接している。リリアンダの壁の間から覗いてみているけど、王子様は新しい軍のトップには見えない柔和な感じの人だ。

『この剣とこっちの剣、どっちがいいと思う?』
「使うのか?」
『違うよ。あの魔剣と一緒に飾るの。ユウ、どっちがいいかなあ?』

 アルの呼ぶ声を完全に無視して剣を選んでいたリネが、突然僕に話しかけてきた。僕を巻き込まないでよ。隠れていたのに気づかれちゃったじゃない。
 僕を探す王子様に、リリアンダのみんなが気を利かせて前を開けてくれたから、王子様から丸見えになってしまった。

「テイマー殿、これは気付かずに失礼した。第二王子のテオリウスだ。この国への貢献、感謝する」
「は、初めまして。ユウです。お目にかかれて……嬉しいです」

 嬉しいじゃなくて何だっけ。お決まりの文句があったよね。緊張して、言葉が出てこない。みんなから見られて落ち着かない。だからなんで毎回そんなにお付きの人がたくさんいるの。
 前にサジェルに下を向いてはダメだと言われたのは覚えているので、なんとか俯かないでいるけど、握りしめた手に力が入ってしまう。ブランが僕を守るように、僕の前に移動したので、王子様のお付きが緊張している。

「テオ、悪いな。ユウはこういうのは苦手なんだ。ユウ、リネの剣を選ぶのを手伝ってやってくれ」

 アルはそう言って、王子様を部屋から出るように促してくれた。別の装飾品とかがある部屋を案内するらしい。よかった。何でアルはあんなに堂々と偉い人の相手ができるんだろうか。アルにばかり任せないで自分で頑張ろうと思っていても、突然で心の準備ができていないと、どうしていいのか分からなくて立ち尽くしてしまう。

 王子様とお付きの人が出て行って、僕は崩れるように座り込んでしまった。
 ブランが慰めてくれるので、抱きついて心を落ち着かせよう。

「緊張したー」
『ねえユウ、どっちがいいと思う?』
「両方飾ればいいんじゃない?」

 ちょっと投げやりで悪いけど、今はそれどころじゃないの。立ち直るのにもう少し時間がかかるので、待ってほしい。足が震えて立ち上がれないから、許してよ。
 リリアンダのみんなが僕のリネに対するぞんざいな態度に驚いているけど、いつもは違うんです、と心の中だけで弁解した。


 その日の夕食は、リリアンダの五人も招いて飲み会になった。
 こういうときに使える小さな会議室というか宴会場のような部屋があって、そこでの食事だ。シリウスや獣道、それにカリラスさんは僕たちの部屋の客間に入ってもらうので、ここでの食事会は初めてだ。
 リネが来てから訪問者が増えているけど、新たに来る人たちがブランの正体を知らない場合は、僕たちの部屋に入れないことに決めた。

「至れりつくせりだな。さすが神獣様の契約者様だ」
「アレックスのお陰で、知らない世界を覗けたよ。王子にも会えたしな」
「テイマー、なんで王子に緊張してるんだよ。王子とか予想外過ぎるけど、神獣様のほうがもっと予想外だろ」
「だって、王子様だし、不意打ちだったから……」

 ブランがいるからかリネには緊張しないけど、王子様は緊張するのだ。身分から言えば、僕が失礼なことをしてしまっても大丈夫だというのは、アルからも司教様からも聞いているんだけど、そういう問題じゃない。
 答えになっていない答えだけど、そこは流してくれた。

「アレックス、なんで神獣様と契約することになったんだ?」
「まあ、いろいろあってな」

 ブランが連れてきたからって言えないから、アルが言葉を濁すと、それ以上は突っ込まれなかった。アルに選択権はなかったから、アルも答えようがないよね。

 その連れてきた張本人はお肉を食べて満足して、僕の足元に伏せている。連れてこられたほうはどこにいるのか分からない。ここにいるとリリアンダのみんなが緊張しそうだから、夕食は大司教様と一緒に食べることになっていたので、今頃大司教様に甘えているのか、どこかを飛んでいるのか。

 アルはリリアンダから知り合いの冒険者の情報や、神獣に関する冒険者のうわさを聞き、リリアンダはアルからリネのダンジョン攻略について聞きながら、和やかに飲んでいる。場所が教会だから、街の居酒屋でわいわいって感じではないけど、アルがリラックスしているのが分かって嬉しい。
 リネが来てから、というよりも、アルが襲撃されてからこういう時間はなかったから、なんだか以前に戻ったようで、ちょっぴり安心するような温かい気持ちになった。

「ユウ、楽しそうだな」
「うん。アルが楽しそうだから」
「のろけかよ。相変わらず仲が良さそうでよかったよ」

 冷やかされてしまったけど、そんな遠慮のない感じがなんだか懐かしくて、余計ににこにこしてしまった。

 ちなみにリネは悩んで悩んで、片方の剣だけを部屋に飾ることにした。けれど教会がもう片方の剣もオークションに出さないように避けたのは見ていた。今後リネの好みが変わるかもしれないから、教会で保管しておくのだろう。
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