世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 3章 ドロップ品のオークション

13-17. 仲直りの朝

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 次の朝、朝食を一緒にとろうとカリラスさんが部屋に来たので、ダイニングテーブルに向かおうとしたところで、アルに抱き上げられて運ばれてしまった。しばらく触れられなかったからと、アルが放してくれない。それを見て、カリラスさんがニヤニヤしている。
 ここ数日お互いに触れるのをためらっていた反動なのかアルに触れていたくて、恥ずかしいと抵抗しながら、僕も実はまんざらではない。心は久しぶりに穏やかで満たされている。
 やっぱり僕にはアルが必要なんだと思って、前回もこの部屋で同じように思ったことを思い出した。僕はあれからまったく成長できていないらしい。

「仲直りしたみたいで、よかったよ」
「カリラスには感謝してる」

 自分で思うよりもずっと大きく僕の心に影を差していた心配事が一つ解決して、心は澄みきって穏やかだ。この世界に来て初めて、ちゃんと地面に立っていると感じる。
 足元が定まると、アルと一緒に生きていくという未来が、色をもって現実のこととして考えられるようになった。まだ自信はないけど、それでもアルと一緒なら乗り越えていける、そう思えた。

 アルが僕を椅子に座らせて、頭のてっぺんにチュッとしてから隣の席に座るのを見て、ツェルト助祭様が耳をピンと立ててから満面の笑みを浮かべた。ここ数日ギクシャクしていたから、たくさん心配をかけてしまったんだろうけど、そこまで喜ばれると面映ゆい。

 僕だけ果物中心の軽めの朝食を終えて、カリラスさんも含めてゆっくりと話をしている。僕の体調も回復したので、そろそろモクリークに帰ることになるけれど、リネは僕の流行り病の治療のために中断した薬箱ダンジョンに行きたそうにしているから、それを待ってから帰るか相談だ。

「ユウ、今日は一緒にオークションを見に行かないか?」
「え?」
「ユウと一緒にいるところを見せれば、あんなことも少なくなるはずだ」
「……人前には出たくない」
「分かっている。でも、少しだけでいいから、考えてみてくれないか? カリラスもどうだ?」
「オークションは見てみたいけど、アレックスと一緒にいると目立つから、遠慮しておく」

 オークションにはいろんな国から人が集まっているから、きっとアルと僕が一緒に出れば、僕たちの仲をアピールできる。アルの襲撃以降、別行動していることで、僕たちの仲があまり上手くいっていないんじゃないかと思われてしまっているので、それを払拭するチャンスではあるんだろう。
 でも僕は人前に出るのが苦手だ。裏からこっそり見るのならいいけど、今回は目立つことこそが目的だ。
 嫌だと言えば、アルは無理強いしない。でもそうすると、アルだけが矢面に立たされ続ける。そして、僕の知らないところであんなことが繰り返されるのだろう。
 そもそも、それは僕の立場のはずだったのだ。僕は目立ちたくなくてブランとのことを公表しないでいたのに、そのブランがアルのために連れてきてくれたリネとの契約で、アルは否応なく表に出ることになった。

「少しでいいなら、出るよ」
「ユウ、ありがとう」

 きっとアルだって僕を表に出したいわけじゃないはずだ。でもそうすることが最善だと判断したのだ。だったら、少しだけ頑張ってみよう。
 きっと今踏み出さなければ、二度と踏み出せない。この世界に受け入れられたのだと知った今、この世界で生きていくための一歩を踏み出そう。


 僕たちの決定をツェルト助祭様が伝えてくれて、オークションの責任者である司教様も部屋にきてくれた。土壇場で参加者を増やすことになって、申し訳ない。

「お二人で参加されますか?」
「はい」
「マーナガルム様とヴィゾーヴニル様は?」
「ブランはユウのそばに。リネは来ないと思います」
「承知いたしました」

 リネは張り切って薬箱ダンジョンに出かけていったので、しばらく帰ってこないはずだ。
 オークション会場はいくつかあって、そのどれに参加するのか、落札する気はあるのかなど、いろいろ聞かれて答えると、司教様は慌ただしく部屋を出ていった。これから会場のレイアウト変更も必要になるから、時間との勝負らしい。なるべく周りからの視線は遮るような配置にすると言ってくれたから、お昼過ぎの開始までに準備が間に合うように祈っておこう。
 カリラスさんは、マジックバッグを持ってモクリークとドガイを往復しているその役目からも、あまり顔を知られないほうがいいということで、助祭の服を着て、お付きの人として紛れることになった。僕もそっちがよかったなあ。

「そういえば、僕たちは何を着ればいいんだろう」
「お二人の正装は、ユウさんが持っていらっしゃった荷物に入っていますよ」
「え、そうなの?」

 今回の旅の間の服として、サジェルが用意してくれた衣装ケースをアイテムボックスに収納して、ここに着いたときに出したけど、その中に正装も入っているらしい。こういう事態を見越していたということか。

「じゃあブランも」
『断る』

 お揃いでおしゃれしようよ、と最後まで言う前に、ブランに断られてしまった。残念だ。マントをつけたブラン、かっこよかったのになあ。

 ツェルト助祭様が荷物の中から出してきた僕たちの正装は、とても気合が入ったペアルックだった。アルは黒を基調として、そこに赤やオレンジの暖色の刺しゅう、僕は薄い緑を基調として銀の刺しゅうが入っている。お互いの目の色に、それぞれの神獣の色を差し色として入れている。着るかどうかも分からない服が用意されているだけでも驚きなのに、今回のアピールのためにあるような色遣いだなんて、用意したサジェルには予知能力もあるのかもしれない。ベテラン執事、恐るべし。
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