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続 4章 この世界の一人として
14-2. 王妃様とお茶会
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ドガイから帰ってきて、しばらくは僕が疲れから熱を出さないかそばで見守ってくれていたアルは、リネと一緒にダンジョンへと出かけていった。ブランの許可が出たので、僕も孤児院のお手伝いに復帰だ。
いつものように補習の授業を手伝い、授業が終わって教室から出ると、小さな子たちにお茶会に誘われた。
「ユウせんせい、おちゃかいいこう」
「おかし、おいしいよ」
子どもたちとのお茶会なら参加しようと思ったところで、ツェルト助祭様に止められた。
「ユウさん、お茶会は、本日孤児院を訪問されている王妃殿下主催になります」
「え? 王妃様がいるの?」
「はい」
どうやら本当に王妃様が今この孤児院にきているそうで、慰問と呼ばれるものなんだろう。王妃様と子どもたちがお茶会って想像できないけど、慰問の際には毎回、王宮の料理人が作ったお菓子が振る舞われるらしい。それで子どもたちが僕も一緒にと誘ってくれたそうだ。言われてみれば、子どもたちがいつもよりは少しおしゃれをしている気がする。
王子様には会ったけど、王妃様はさらにハードルが高くて会いたくない。だけど、子どもたちの誘いを断るのも悪い。決められずにいたら、子どもたちが迷う僕の手を取って、お茶会会場に向けて引っ張り始めた。その視線はブランに向いているから、ブランにお菓子をあげたいのだろう。
「みんな、ちょっと待ってね。ブランをお茶会の会場に入れてもいいか、王妃様に聞いてみないと」
「ユウさん、参加されるのですか?」
「部屋の隅に入れるか、護衛の人に聞いてみてもらえますか?」
きっとあちらも強い従魔だと分かっているブランを王妃様には近づけたくないだろうし、部屋の隅でちょろっとだけ参加すれば、子どもたちの期待も裏切らないはずだ。楽しそうにブランも誘っている子たちをがっかりさせたくない。リネと違ってブランはお菓子が好物ではないけれど、アルのように甘いものが苦手ではないから、食べてくれるはず。
助祭様が確認してくれて部屋に入る許可が出たので、子どもたちと一緒に会場へと向かうと、入り口で護衛が二人、厳しい顔つきで待っていた。
「決して従魔を王妃殿下に近づけないように」
「分かりました」
僕が近寄らなければ、ブランも近寄らないから、問題ない。
そのブランは、一人の子どもが首に抱き着いているので、少し歩きにくそうにしながらも、されるがままになっている。最近、ブランに慣れてきた子どもたちの遠慮がなくなっているけれど、本来従魔はこんなに大人しくない。他の従魔にブランと同じように接したら怪我をする恐れもあるから、このまま注意せずにいるか迷っている。昨日までよかったものを、今日からダメだと言うにはちゃんとした理由が必要だ。けれど、神獣だからという説明は使えない。これは一番最初に、ブランが気にしていないからと止めなかった僕のミスだ。いずれこうなることは予測できたはずなのだ。
そんなことを考えながらお茶会会場に入ると、子どもたちに両手を引かれて、王妃様にとても近い位置にある机に連れていかれてしまった。僕も抵抗しているし、後ろをついてきている護衛も慌てているけれど、ぐいぐいと手を引っ張りながら、机の上のお菓子しか見ていない子どもたちの止め方が分からない。強く引っ張れば肩を痛めそうだし、ちょうど助祭様が僕の参加を知らせに離れたときだったので、子どもの扱いに慣れている人もそばにいない。
「ユウせんせいはここ。ブランはこっち」
「ごめんね。僕とブランは部屋の隅にいるから」
「ブラン、このおかし、どっちがすき?」
僕の言うことなど、全く聞いていない。他の子は王妃様に挨拶をしてから席についているのに、この子はすごくマイペースだな。まだお茶会は始まっていないのにブランにお菓子をあげようとしているので止めたら聞き入れてくれたけど、ブランに抱き着いたまま離れない。どうしようか。
助けを求めようと護衛の人を見ると、その向こうから、王妃様が僕のほうへと近づいてきているのが見えた。護衛の二人は王妃様とブランの間に入って進路をふさいでいる。
「これだけ子どもが懐いているのです。危険はないでしょう」
「ですが」
「下がりなさい。テイマー殿、孤児院のお手伝いをされているとは聞いていましたが、お会いできるとは思っておりませんでした。どうぞお茶会に参加なさってくださいませ」
「あ、ありがとうございます」
王妃様の一声で、護衛の人が僕たちから離れた。納得はしていないけど命令に従うしかない、という表情をしている。心労をかけてしまって申し訳ない。そして、僕もこのままこの席でお茶会に参加することが決まってしまった。僕に声をかけるとすぐに離れていった王妃様は、ドガイで会った王子様に似ているような気もする。
続々と子どもたちが集まり、席が埋まったところで、王妃様が挨拶をしてお茶会が始まった。
王妃様はみんなのテーブルを回って、一言二言話している。見ていると、小さな子とはどのお菓子が好きかという話をしているし、成人が近い女の子とはおしゃれや髪型の話もしている。子どもたちも慣れているようで普通に会話しているので、ときどき訪問しているというのは本当のことのようだ。
僕たちのいるテーブルにきたときは、僕にはにっこりとほほ笑んだだけで、特に何も話しかけてこなかったので、安堵した。
「大きなオオカミですね。動物がすきなのかしら?」
「うん」
「大きくなったら好きな動物と暮らせるといいですね」
ブランに抱き着いていた子にも、目線を合わせて、にこやかに話しかけている。子どもたちに同じ質問にならないように話題を振っていて、王子様のときも思ったけど、王族は話が上手だなと感心した。
いつものように補習の授業を手伝い、授業が終わって教室から出ると、小さな子たちにお茶会に誘われた。
「ユウせんせい、おちゃかいいこう」
「おかし、おいしいよ」
子どもたちとのお茶会なら参加しようと思ったところで、ツェルト助祭様に止められた。
「ユウさん、お茶会は、本日孤児院を訪問されている王妃殿下主催になります」
「え? 王妃様がいるの?」
「はい」
どうやら本当に王妃様が今この孤児院にきているそうで、慰問と呼ばれるものなんだろう。王妃様と子どもたちがお茶会って想像できないけど、慰問の際には毎回、王宮の料理人が作ったお菓子が振る舞われるらしい。それで子どもたちが僕も一緒にと誘ってくれたそうだ。言われてみれば、子どもたちがいつもよりは少しおしゃれをしている気がする。
王子様には会ったけど、王妃様はさらにハードルが高くて会いたくない。だけど、子どもたちの誘いを断るのも悪い。決められずにいたら、子どもたちが迷う僕の手を取って、お茶会会場に向けて引っ張り始めた。その視線はブランに向いているから、ブランにお菓子をあげたいのだろう。
「みんな、ちょっと待ってね。ブランをお茶会の会場に入れてもいいか、王妃様に聞いてみないと」
「ユウさん、参加されるのですか?」
「部屋の隅に入れるか、護衛の人に聞いてみてもらえますか?」
きっとあちらも強い従魔だと分かっているブランを王妃様には近づけたくないだろうし、部屋の隅でちょろっとだけ参加すれば、子どもたちの期待も裏切らないはずだ。楽しそうにブランも誘っている子たちをがっかりさせたくない。リネと違ってブランはお菓子が好物ではないけれど、アルのように甘いものが苦手ではないから、食べてくれるはず。
助祭様が確認してくれて部屋に入る許可が出たので、子どもたちと一緒に会場へと向かうと、入り口で護衛が二人、厳しい顔つきで待っていた。
「決して従魔を王妃殿下に近づけないように」
「分かりました」
僕が近寄らなければ、ブランも近寄らないから、問題ない。
そのブランは、一人の子どもが首に抱き着いているので、少し歩きにくそうにしながらも、されるがままになっている。最近、ブランに慣れてきた子どもたちの遠慮がなくなっているけれど、本来従魔はこんなに大人しくない。他の従魔にブランと同じように接したら怪我をする恐れもあるから、このまま注意せずにいるか迷っている。昨日までよかったものを、今日からダメだと言うにはちゃんとした理由が必要だ。けれど、神獣だからという説明は使えない。これは一番最初に、ブランが気にしていないからと止めなかった僕のミスだ。いずれこうなることは予測できたはずなのだ。
そんなことを考えながらお茶会会場に入ると、子どもたちに両手を引かれて、王妃様にとても近い位置にある机に連れていかれてしまった。僕も抵抗しているし、後ろをついてきている護衛も慌てているけれど、ぐいぐいと手を引っ張りながら、机の上のお菓子しか見ていない子どもたちの止め方が分からない。強く引っ張れば肩を痛めそうだし、ちょうど助祭様が僕の参加を知らせに離れたときだったので、子どもの扱いに慣れている人もそばにいない。
「ユウせんせいはここ。ブランはこっち」
「ごめんね。僕とブランは部屋の隅にいるから」
「ブラン、このおかし、どっちがすき?」
僕の言うことなど、全く聞いていない。他の子は王妃様に挨拶をしてから席についているのに、この子はすごくマイペースだな。まだお茶会は始まっていないのにブランにお菓子をあげようとしているので止めたら聞き入れてくれたけど、ブランに抱き着いたまま離れない。どうしようか。
助けを求めようと護衛の人を見ると、その向こうから、王妃様が僕のほうへと近づいてきているのが見えた。護衛の二人は王妃様とブランの間に入って進路をふさいでいる。
「これだけ子どもが懐いているのです。危険はないでしょう」
「ですが」
「下がりなさい。テイマー殿、孤児院のお手伝いをされているとは聞いていましたが、お会いできるとは思っておりませんでした。どうぞお茶会に参加なさってくださいませ」
「あ、ありがとうございます」
王妃様の一声で、護衛の人が僕たちから離れた。納得はしていないけど命令に従うしかない、という表情をしている。心労をかけてしまって申し訳ない。そして、僕もこのままこの席でお茶会に参加することが決まってしまった。僕に声をかけるとすぐに離れていった王妃様は、ドガイで会った王子様に似ているような気もする。
続々と子どもたちが集まり、席が埋まったところで、王妃様が挨拶をしてお茶会が始まった。
王妃様はみんなのテーブルを回って、一言二言話している。見ていると、小さな子とはどのお菓子が好きかという話をしているし、成人が近い女の子とはおしゃれや髪型の話もしている。子どもたちも慣れているようで普通に会話しているので、ときどき訪問しているというのは本当のことのようだ。
僕たちのいるテーブルにきたときは、僕にはにっこりとほほ笑んだだけで、特に何も話しかけてこなかったので、安堵した。
「大きなオオカミですね。動物がすきなのかしら?」
「うん」
「大きくなったら好きな動物と暮らせるといいですね」
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