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続 4章 この世界の一人として
14-1. 僕の所属
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十五歳のある日、僕はこの剣と魔法の世界に迷い込んだ。最初に着いた街で騙されて辛い思いをしたけど、神獣であるブランと剣士のアルに助けられ、最近はアルと契約した神獣のリネも加わって、この世界で暮らしている。
世界を越える。それは理解の及ばない現象で、この世界の人間でない僕がアルの恋人としてここにいることが許されるのか、ずっと不安だった。けれどブランが、この世界は僕を受け入れたのだと、その証拠としてスキルが与えられたのだと、教えてくれた。それを聞いて、すぐに後ろ向きになって悩んでしまう僕も、前向きに生きていく決心がついた。
与えられたスキルが二つとも希少なのは、神様が親切心でくれたのか、偶然なのかは分からない。でも、今住んでいるモクリーク内だけでなく、他国からもスキル目当てで狙われているので、偶然だと思うことにしている。僕のスキルのせいでアルは大怪我をしてしまったので、そうでないとこの世界の神様に文句を言ってしまいそうだ。
モクリークの軍部に狙われて以来、僕はモクリークの中央教会で衣食住全ての面倒を見てもらっている。それは僕と契約してくれている神獣のブランへの信仰心なのだろうけど、もらっているものが多すぎで心苦しく思っていた。それで、ブランとアルと攻略して回ったダンジョンのドロップ品のうち、ギルドに買い取ってもらえなくてアイテムボックスに眠っていたものを、教会に寄付した。モクリークの教会は、その品々をアルの故郷であるドガイでオークションにかけることにしたので、僕は品物を運ぶためにドガイを訪問し、帰ってきた。リネに乗って空路でモクリークに帰ってきて、コーモの温泉に寄っていた僕たちよりも、陸路を帰ってきた大司教様たちのほうが移動に時間がかかったため、僕たちが中央教会で出迎えるような形になって、ちょっと面白かった。
ドガイへの旅では、将来のことだけでなく、僕の立ち位置についてもいろいろと考えさせられた。アルもブランも僕のダンジョン復帰にあまり乗り気でない現状、僕の仕事は全てにおいて中途半端だ。冒険者としても少ししか活動せず、孤児院のお手伝いも一日のうち一時間程度、付与術師としては一日に付与する数をブランによって制限されている。どこかにちゃんと腰を据えたい。いつまでも教会のお客様でいるわけにはいかない。
ドガイからモクリークに帰ってきた大司教様に、僕は自分の思いを話す機会をもらった。
「僕も教会の一員として、仕事をしていきたいと思っています」
「ユウさん、ブラン様の愛し子である貴方は、働く必要はないのですよ」
「そうかもしれませんが、僕は働きたいです。働かないでいるのは、僕自身が落ち着かなくて」
神学校で学んだわけでもない僕が、教会でできることは限られる。それに、僕を教会の所属としてしまうことには、たくさんの問題があるだろう。けれど、僕が教会に保護されていることはみんな知っている。表向きはお客様なのだとしても、ちゃんと働きたい。衣食住を提供され、心身ともに守られているのだ。それに見合う仕事をしたい。冬のカークトゥルス合宿や、ダンジョン攻略で抜けることがあるから、常に仕事ができるわけではなく迷惑をかけてしまうけど。
「では、避難場所にもなる教会を建てる計画があるのですが、そのときに切り出した石の運搬を手伝っていただけますか?」
「はい!」
それは僕のアイテムボックスが役に立つ仕事だ。ぜひやらせてほしい。
教会の建設には、オークションで調達した費用を充てるそうだ。あふれだけでなく、魔物が襲来した際にも逃げ込める頑丈な教会を建てて、立てこもれるようにする。街は壁で覆われているけれど、村はそこまで頑丈な壁はないことが多い。そういう村は、ダンジョンの近くにはないのであふれの影響を受ける可能性は低いものの、魔物に襲われるとなすすべもない。
ダンジョンのあふれが増える二百年周期に入り、魔物も活発になっているので、避難場所の整備はさしせまって大切なことだ。本当は国や領がやるべきことなのかもしれないけど、魔物の脅威が目の前にある今、そんなことも言っていられない。僕もこのスキルを必要とする人たちのために使おう。
これからは、孤児院のお手伝いを始めとして、教会の一員として、スキルも含めて求められることには応えていく。ブランがいる限り、教会が僕に要求することが過剰になることはないから、心配はない。
副業として、付与スキルでの付与を行い、ときどきダンジョンに潜る。あくまでメインは教会のお手伝いと、決めた。
「僕も修行したら、神官になれますか?」
「興味があるのでしたら、神学校に通ってみますか?」
この世界での神の位置づけには興味がある。だけど、神学校には少し苦い思い出がある。ドガイで王都から逃げ出す際にアルと一緒に助祭の服を借りたけど、そのときに神学校の制服のほうがよかったかもと、ケネス司祭様に言われてしまったのだ。神学校に通うのに神学校の制服を着たら、絶対にからかわれる。
「制服を着なくていいなら……」
「お似合いになると思いますが」
アルだけじゃなく、大司教様も、後ろに控えているツェルト助祭様も、笑っている。やっぱり神学校には通わないほうが、僕の精神衛生上よさそうだ。
世界を越える。それは理解の及ばない現象で、この世界の人間でない僕がアルの恋人としてここにいることが許されるのか、ずっと不安だった。けれどブランが、この世界は僕を受け入れたのだと、その証拠としてスキルが与えられたのだと、教えてくれた。それを聞いて、すぐに後ろ向きになって悩んでしまう僕も、前向きに生きていく決心がついた。
与えられたスキルが二つとも希少なのは、神様が親切心でくれたのか、偶然なのかは分からない。でも、今住んでいるモクリーク内だけでなく、他国からもスキル目当てで狙われているので、偶然だと思うことにしている。僕のスキルのせいでアルは大怪我をしてしまったので、そうでないとこの世界の神様に文句を言ってしまいそうだ。
モクリークの軍部に狙われて以来、僕はモクリークの中央教会で衣食住全ての面倒を見てもらっている。それは僕と契約してくれている神獣のブランへの信仰心なのだろうけど、もらっているものが多すぎで心苦しく思っていた。それで、ブランとアルと攻略して回ったダンジョンのドロップ品のうち、ギルドに買い取ってもらえなくてアイテムボックスに眠っていたものを、教会に寄付した。モクリークの教会は、その品々をアルの故郷であるドガイでオークションにかけることにしたので、僕は品物を運ぶためにドガイを訪問し、帰ってきた。リネに乗って空路でモクリークに帰ってきて、コーモの温泉に寄っていた僕たちよりも、陸路を帰ってきた大司教様たちのほうが移動に時間がかかったため、僕たちが中央教会で出迎えるような形になって、ちょっと面白かった。
ドガイへの旅では、将来のことだけでなく、僕の立ち位置についてもいろいろと考えさせられた。アルもブランも僕のダンジョン復帰にあまり乗り気でない現状、僕の仕事は全てにおいて中途半端だ。冒険者としても少ししか活動せず、孤児院のお手伝いも一日のうち一時間程度、付与術師としては一日に付与する数をブランによって制限されている。どこかにちゃんと腰を据えたい。いつまでも教会のお客様でいるわけにはいかない。
ドガイからモクリークに帰ってきた大司教様に、僕は自分の思いを話す機会をもらった。
「僕も教会の一員として、仕事をしていきたいと思っています」
「ユウさん、ブラン様の愛し子である貴方は、働く必要はないのですよ」
「そうかもしれませんが、僕は働きたいです。働かないでいるのは、僕自身が落ち着かなくて」
神学校で学んだわけでもない僕が、教会でできることは限られる。それに、僕を教会の所属としてしまうことには、たくさんの問題があるだろう。けれど、僕が教会に保護されていることはみんな知っている。表向きはお客様なのだとしても、ちゃんと働きたい。衣食住を提供され、心身ともに守られているのだ。それに見合う仕事をしたい。冬のカークトゥルス合宿や、ダンジョン攻略で抜けることがあるから、常に仕事ができるわけではなく迷惑をかけてしまうけど。
「では、避難場所にもなる教会を建てる計画があるのですが、そのときに切り出した石の運搬を手伝っていただけますか?」
「はい!」
それは僕のアイテムボックスが役に立つ仕事だ。ぜひやらせてほしい。
教会の建設には、オークションで調達した費用を充てるそうだ。あふれだけでなく、魔物が襲来した際にも逃げ込める頑丈な教会を建てて、立てこもれるようにする。街は壁で覆われているけれど、村はそこまで頑丈な壁はないことが多い。そういう村は、ダンジョンの近くにはないのであふれの影響を受ける可能性は低いものの、魔物に襲われるとなすすべもない。
ダンジョンのあふれが増える二百年周期に入り、魔物も活発になっているので、避難場所の整備はさしせまって大切なことだ。本当は国や領がやるべきことなのかもしれないけど、魔物の脅威が目の前にある今、そんなことも言っていられない。僕もこのスキルを必要とする人たちのために使おう。
これからは、孤児院のお手伝いを始めとして、教会の一員として、スキルも含めて求められることには応えていく。ブランがいる限り、教会が僕に要求することが過剰になることはないから、心配はない。
副業として、付与スキルでの付与を行い、ときどきダンジョンに潜る。あくまでメインは教会のお手伝いと、決めた。
「僕も修行したら、神官になれますか?」
「興味があるのでしたら、神学校に通ってみますか?」
この世界での神の位置づけには興味がある。だけど、神学校には少し苦い思い出がある。ドガイで王都から逃げ出す際にアルと一緒に助祭の服を借りたけど、そのときに神学校の制服のほうがよかったかもと、ケネス司祭様に言われてしまったのだ。神学校に通うのに神学校の制服を着たら、絶対にからかわれる。
「制服を着なくていいなら……」
「お似合いになると思いますが」
アルだけじゃなく、大司教様も、後ろに控えているツェルト助祭様も、笑っている。やっぱり神学校には通わないほうが、僕の精神衛生上よさそうだ。
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