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続 4章 この世界の一人として

14-11. 運送屋さん

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 さて、今日は僕の教会の一員としての初めての仕事だ。
 辺境の村に、魔物の襲撃にも耐えられるような頑丈な教会を作る、そのお手伝いだ。僕の役割は、切り出した石をその建設予定地まで運ぶ、運送屋さんである。サネバの街を作るときにも行ったので、要領は分かっている。ただあのときと違うのは、採石場まで石を取りに行くことだ。前は街の近くに集められたものを運んだ。
 教会の場所の選定はすでに終わり、石の切り出しも行われている。

 今回スケジュールに一番影響があるのは、僕の移動時間のはずだった。まずは採石場へ出向き、切り出した石を収納してから建設予定地まで移動する、その時間だ。当初は、王都の中央教会から、担当の司教様や護衛の人と一緒に馬車で移動して、採石場と建設予定地を回る予定になっていた。
 けれど、僕の長時間の移動を心配したアルのお願いで、採石場まではリネに連れていってもらえることになった。採石場の近くのダンジョンに行くことを条件に。
 そのために、今度は石の切り出しの進み具合がボトルネックになってしまい、今急ピッチで作業が進められているらしい。

 まず最初はモクリークの北部、ユラカヒからそう遠くはないセヒカラの採石場で石を収納して、近くの村へと運ぶ。そしてその後、リネとアルがユラカヒのタペラを攻略している間、僕はユラカヒの教会で帰りを待つ。
 僕もタペラに一緒に潜ると言ったけど、それはアルからもブランからも許可が出なかった。ティガーのみんなとのダンジョン攻略の後に熱も出さなかったので、体力的には問題ない。けれど、タペラはかつて僕たちが潜っている最中にあふれたダンジョンだ。そしてそこから他の冒険者と脱出する最中に、マジックバッグを持ち逃げされたところでもある。そういうよくない思い出があるダンジョンなので、僕は近づかせてもらえないらしい。ここで僕が強硬にダンジョン攻略に参加して体調を崩せば、教会に迷惑をかけるし、この運送の仕事自体が頓挫しかねないと言われて諦めた。今回の目的は、あくまでも石の運送で、ダンジョンはオマケだ。

 中央教会で大司教様に見送られ、リネに乗って飛び立ち、海岸線を北上していく。
 ユラカヒの街は海に近いが、今回行く採石場は山の中で、山を越えればノーホーク王国の南部だ。アルがリネに連れていってくれるようにお願いしたのは、多分僕がノーホークに近づくことで不安定にならないか心配してくれたのもあるのだろう。僕が辛い思いをしたカイドはノーホークの北の端でユラカヒからはかなり遠いので、僕は今回のことを不安に感じてはいないけれど、アルの過保護が発動中なのだ。
 まずはユラカヒの教会に降りて、採石場の場所を聞こう。

「ユラカヒまでご足労いただきまして感謝いたします」
『次はどこに行けばいいの? 早くダンジョンに行きたいんだけど』

 リネの言葉に、すぐ近くにあったベンチへと誘導されて、簡単な地図を見せられた。司祭様たちが慌てて走り回っているので、多分一度教会の中でお茶でもしながらこの先の予定を説明してくれるつもりだったんだろう。

「ここが採石場になります。まずここで石を収納してから、この三か所の村に運んでいただきます」
『四回飛んだら、ダンジョンね』
「ユウをここまで連れて帰ってきて、ダンジョンは明日だ」

 リネの心はすでにタペラに飛んでいるけど、アルが必死に宥めている。

「ヴィゾーヴニル様、美味しいお料理を用意してお戻りをお待ちしております」
『ご飯なに?』
「この地の名産の魚料理と、甘い果物を予定しております」
「リネ、ここのお魚は美味しいよ」

 ユラカヒのお魚はブランも気に入っている。僕たちはタペラ脱出後、すぐに王都に戻ってしまったので、この地でお魚を食べるのは初めてだから、楽しみだ。
 リネはダンジョンにすぐに行きたそうにしながらも、僕たちが美味しいと言うお魚を食べてからでもいいかと納得してくれたようだ。

 まずは石を運ぼう。それぞれの場所には目印で、上空からも見える大きな旗が立てられている。現地には担当の司祭様が待っていてくれているそうなので、行って指示に従えばいい。
 再びリネに乗って飛び上がると、地上から大きく手を振る人たちが見えた。ユラカヒはタペラのあふれで街の中まで影響を受けたらしいけど、上空からはその痕跡は見当たらない。順調に復興が進んでいるようで、安心した。

 地図で示された方角へ向かっていくと、山肌がむき出しになっているところが見えてきた。あれが採石場だろう。大きな白い旗が見えたので、リネはそのそばに降りた。
 周りを見回すと、採石場なのに人がいない。石の周りにいるのは、司祭様と、この領の領兵だけのようだ。

「ユウさん、どうしました?」
「人が少ないなと思いまして」
「採石場で働くのは、ほとんどが犯罪奴隷ですので、神獣様のお目に触れぬよう下げています」

 こういうきついところで働くのは、犯罪で奴隷になった人が多いらしい。お給料がいいので、それを目当てに自分から働いている人もいるが、事故で命を落とす可能性も高いので、敬遠されるそうだ。
 でも、ダンジョンには戦闘奴隷もいるし、教会はそういう身分に関係なく接する組織だし、そんなことをリネもブランも気にしなさそうなのに、と考えていて、ある可能性に思い当たった。もしかしたら、僕たちに関わって奴隷にされた人がいるのかもしれない。
 僕がこの国に来てすぐ、ギルドと国は、僕に手を出せば、犯罪奴隷にしてあふれの対応で使うと宣言した。ただ、あふれは常に起きているわけではない。その間にこういう危険なところで働いているのかもしれない。だから、間違っても僕に文句を言えないように、ここにいないのかもしれない。
 そう考えると、アルの過保護に説明がつくのだ。アルを見ると、少し心配そうに僕を見ている。これは、当たりだろうな。
 どうしようか少し悩んだけれど、僕の想像が間違っている可能性もあるし、切り出し方も分からないし、伝えたところで何かが変わるわけでもないので、結局気づかないフリをすることにした。
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