世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-10. リネの遊び

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 朝食後、商会へと戻るソマロさんを見送ってから、僕たちは教会へ向かう。

「まだ街中は普通だね」
「遊んでいる子どもがいないから、いつもどおりではないな」

 きっと大人たちの緊張を感じ取って、家で大人しくしているのだ。
 それでも、二つのあふれが重なったという事態にしては、落ち着いていると言える。

「キリシュ、商会が避難するかどうか、ソマロさんは言ってたか?」
「今のところは避難しないが、希望する家族の避難は支援するらしい」

 王都側から来る馬車の戻りは荷物がないから、いつもはそこに避難する人を乗せるそうだ。あふれたダンジョンから離れたところに当てがあるなら、早めに避難したほうが安心できる。

 教会に着くと、すでに避難民と思われる人が集まっていた。まだ中には入れないようで、広場に集められている。

「念のため、裏に回ろう」
「そうだな。気づかれると厄介だ」

 裏口へ回り、ギルドカードを見せると、内部に招き入れられた。すぐに昨日の司祭様が駆けつけてくれた。

「おはようございます。えっと、その、従魔は……?」
「目立つので、小さくなってもらいました」

 バッグのフタを開けて、ブランを見せると、司祭様が目を丸くしている。神様の扱いとしては許されないのかもしれないけど、非常事態だから見逃してほしい。
 ブランを連れて街中を歩くのは、目立ちすぎる。一人でいる僕を、僕と認識できる住民は、あまりいないはずだが、そこに大きな白いオオカミを連れていれば別だ。だから、帽子を被って黒髪を隠し、子犬サイズになったブランに肩掛けバッグの中に入ってもらったのだ。
 司祭様はしばらく目をパチパチとしばたかせていたものの、教会内でもこのままのほうが目立たなくていいのかもしれないと頷いているので、納得してくれたに違いない。

 司祭様の案内で、まずはこの教会の代表である司教様に挨拶だ。ブランはバッグから出して、胸に抱えておこう。

「ユウさん、このたびはご協力いただきましてありがとうございます」
「僕も教会の一員のつもりですから、出来ることはなんでもします」
「心強いです。アレックス様はあふれたダンジョンへ向かわれたと聞きましたが、ヴィゾーブニル様もですか?」

 アルと別行動しているときにリネが何をしているのかは、アルも僕も知らない。ブランに聞けば分かるだろうけど、ブランもリネの行動には興味がないので気にしていない。
 けれど教会としては、リネの居場所が気になるのだろう。リネに助けてもらえるのかも、気になるはずだ。

「リネは、アルがあふれの対応にあたると聞いて、どこかに遊びにいきました。どこにいるのかは、僕にも分かりません」
『(あふれたダンジョンに入った)』
「え? どういうこと?」
『(ダンジョンの中にいる)』
「なんで? アルを助けに?」
『(知らん)』

 ブランと話し始めた僕に、注目が集まっている。ブランの声は聞こえないから、僕が何に驚いているのかといぶかしがっている。

「ユウさん? マーナ、いえ、従魔が何か?」
「リネがあふれているダンジョンに入ったそうです」
「神獣様が? なぜですか?」

 司教様にも予想外だったようで、驚きながらなぜなのかと聞かれたけれど、誰にも分からない。いつもの遊びの延長なのか、それともアルを助けるためなのか。

「それいつの話?」
『(少し前だ)』
「なんで教えてくれないの!」
『(聞いてどうするんだ)』
「そ、それは、なにも出来ないけど、でも……。アルは?」
『(もうすぐ野営地に着く)』

 アルの近くにリネがいてくれれば、心強い。ダンジョンの中にいても、リネならきっとアルの元まで高速で飛んでくれるだろう。リネにアルを助ける気があればだけど。
 ブランから聞いたことを司教様に説明するが、リネがダンジョンには入ったということ以外は、結局何も分かっていない。

「なあ、ダンジョンの周りの冒険者たちに危険はないのか? 神獣様は、その、前に街ごとモンスターを倒そうとされただろう?」
「あ……。ブラン、大丈夫かな?」
『(アルを巻きこむことはしないだろう)』
「そうだよね。アルがいるから、たぶん平気」

 最近は信頼関係も出来ているリネとアルだから、アルがどこにいるかは気にしてくれると、思いたい。リネがアルの居場所をいつも把握しているのか、ちょっと不安だけど。うっかり忘れてた、なんて言いそうだけど。

「ギルドに使いを出しましょう」
「司教様、ギルドも知っているはずです。あふれているダンジョン前には冒険者や兵士がたくさんいますから」
「そうでしたね。後ほど大司教に報告します」

 コーチェロくんの言うとおり、ギルドどころか、王子様から王様にも伝わる。
 予想外のことが起きてみんな慌てているけど、ここはリネを信じよう。きっとモンスターを減らしてくれて、結果的に街への被害は少なるなるはずだ。かなり希望的な予想だけど。

「ユウさん、ヴィゾーブニル様が、あふれの被害にあう住民を救うためにダンジョンに入られた、という可能性はありますか……?」
「あー、えーっと……」

 ない。それはない。そう言い切りたいけれど、言えない。言っていいのか分からない。ブランを見ると、フンッと鼻息で返事をされてしまった。これは、そんなわけないだろう、という答えだろうな。
 司教様はそれを見ると、少し苦笑いの表情で「住民たちに過度の期待をさせないよう、司祭たちに言っておきましょう」と誰にともなく言った。きっと最初からリネにそんなつもりがないことは分かっていたのだろう。だけど、この地域の住民たちはリネに期待を寄せてしまう。災禍の中の一筋の光。信じたくなるのが人の節理だ。
 リネが途中で飽きて、あふれが終わる前にこの地を離れたとしても、文句は言えない。そうなっても、住民たちからリネへの負の感情が向かわないように、司教様たちには頑張ってほしい。
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