あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

sae

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本編

28話・流れ落ちた涙(燈子)

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 迷惑にはなりたくない、それだけを思って過ごしていた気がする。だからそれを聞いてスッと胸に落ちる気持ちもあった。なのにどうしてか……。

 聞きたくない言葉を聞いてしまった……そう思ってしまった。わかってたことに傷つく自分が嫌になる。
 なんでもない顔をしてコンビニを出たけれど、階段を降りだしたら足が駆けるように降りて更衣室まで走ってしまった。


「美山さん!」
 掴まれてハッとした。

「待って」
 そう言って追いかけてきたのは彼――なわけがない。


「菱田さん……」
「大丈夫ですか?」
 大丈夫の意味がわからない。

「だ、いじょうぶ……「なわけないでしょ?とりあえずこっち」
 そう言って更衣室の扉を開けて背中を押してくれた。


「はい」
 差し出されたハンドタオルに顔をあげた。何も言わずに優しく微笑まれて鼻の奥がツンときた。あ、まずい――そう思った。


「使ってください」
 そう言ってくれる菱田さんの顔が揺れていて、自分が泣いていることにやっと気づいた。誰かの前で泣くのなんか本当に久しぶりで、ハンドタオルに素直に手を伸ばした。


「……すみませ……ありがとう」
 なんとかそう言うと腕を何度も何度もさすってくれた。何も言わずに撫でられる熱がこんなに温かいのに初めて気づいて、こんなに人の熱はホッとするのかと思った。
 あの夜、彼の背中をさすっていた時もこんな風に彼の気持ちを少しでも和らげられたのだろうか。だったらいい、あの瞬間だけでも私が彼の心を安らげられたのだったらそれだけでもう充分な気持ちになった。


 泣いたら少し落ち着いて。それも菱田さんが傍にずっとついていてくれたおかげかもしれない。彼女は特に何も聞かず静かに傍にいてくれた。涙がなんとか止まったら可愛い笑顔で言った。

「お昼、食べましょ!ご飯大事!美味しいもの食べて元気出しましょ!」
 そして食べながら菱田さんがいきなり告げた言葉に驚愕して自分でも驚くような声が出た。

「え!?……え?あの、え?久世さんって――あの久世さんですか!?」
「あの久世さんです。私の直属の上司で氷の様に冷たくて怖い久世さんです」
 氷の様に冷たい、と表現したのは何を隠そう私なんだけれど。

「え?!ほん――えええ!!」
 さっきまで泣いていたのが嘘の様に叫んでしまった。

「……全然公にしてないので。内緒にしてもらえると助かります」
 指を口の前でシィ―とするポーズをして菱田さんがそう言った。

「はい……それは、もちろん。でもそんな極秘なことを私に言って良かったんですか?」
「極秘って……美山さんでしょ?問題ないじゃないですか。むしろ聞かされて迷惑でした?」
「いえ、そんなトップシークレットを教えていただけて恐縮です」
「そんな大層な!」
 菱田さんがケラケラとおかしそうに笑っているが、私は正直笑えなかった。


(し、知らなかった……)


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