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本編
29話・資格(燈子)
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菱田さんの思いがけない告白にただ驚いているだけの私。まだ気持ちが追い付かないところにさらに菱田さんは告げてくる。
「このことは高宮さんも知ってるんです」
「え?」
予想外の名前に反応してしまう。
「同期なんですって、二人。ご存知でしたか?」
そういう情報には疎い、首を横に振る。
彼とは実習で絡んだりで多少面識があったけど、久世さんに至ってはほぼ何も知り得ない。本社から移動してきたというのもあるが、仕事がやたらできてとにかく厳しくて冷たいとだけ聞いていた。それもほとんど菱田さんからだ。実際、一度だけデータを見せて欲しいと頼まれて書類を持って行った時に愛想のカケラもなくて氷の様に(以下略)を菱田さんに愚痴ったことがある。
「――待って。もしかして何か聞いてるのかな……」
思わずつぶやくと菱田さんは「さぁ……」とおにぎりを頬張りながら天を仰いでいた。
「基本鉄仮面ですし、表情とかではもう何考えてるかさっぱり。探ろうとしてもそれを察知するような先回りしてくるタイプだから私が主導権握れることってないんですよね。ただ、高宮さんと飲みに行ってる日が最近増えたなぁってぼんやりと感じていました」
(ええ……もしかして久世さんは知っているのか?高宮さんと私に何があったのか)
「菱田さんは……その、やっぱりなにか察していたんですね」
「はい。以前に美山さんの様子が変だったので。なんとなく……接点があるのかなぁって野次馬精神は多少……」
猫目の大きな瞳が申しわけなさげに上目遣いで見つめてくるから笑ってしまった。
「そうでしたか……」
「ごめんなさい」
「菱田さんが謝ることはなにもないでしょ?」
すべては私のバカな態度が招いた結果だ。
「あ、でもでも何があったかとかそんなことは何も知りませんよ?」
「ふふ……大丈夫。ごめんなさい、変な気を使わせて……」
(人に気ばかり使わせて……ダメだな、私は)
どうすればもっと人とうまくやっていけるのだろう。関わらずにいてるはずなのに、どうして……。そんなことを思いながら項垂れていると菱田さんが優しい声で聞いてくる。
「好き……なんですよね?高宮さんのこと」
「……」
――好きなんて……簡単に言えない。もう私にそんな資格もない。
「もう……済んだ話なんです」
「本当にそうなんですか?」
菱田さんの迷いのない澄んだ瞳が射るように見つめてきた。
「高宮さんはそう思ってないんじゃないですか?私にはそんな風には見えなかったけどなぁ」
そういう菱田さんの言葉に息を呑んだ。
そんなわけない、彼の中ではきっと終わった話だ。そもそも何も始まっていない、さっき聞いたあの言葉がすべてじゃないか。だから私は彼に忘れてくれと頼んだのだ。
それが彼が一番望むことだと思ったから――。
「このことは高宮さんも知ってるんです」
「え?」
予想外の名前に反応してしまう。
「同期なんですって、二人。ご存知でしたか?」
そういう情報には疎い、首を横に振る。
彼とは実習で絡んだりで多少面識があったけど、久世さんに至ってはほぼ何も知り得ない。本社から移動してきたというのもあるが、仕事がやたらできてとにかく厳しくて冷たいとだけ聞いていた。それもほとんど菱田さんからだ。実際、一度だけデータを見せて欲しいと頼まれて書類を持って行った時に愛想のカケラもなくて氷の様に(以下略)を菱田さんに愚痴ったことがある。
「――待って。もしかして何か聞いてるのかな……」
思わずつぶやくと菱田さんは「さぁ……」とおにぎりを頬張りながら天を仰いでいた。
「基本鉄仮面ですし、表情とかではもう何考えてるかさっぱり。探ろうとしてもそれを察知するような先回りしてくるタイプだから私が主導権握れることってないんですよね。ただ、高宮さんと飲みに行ってる日が最近増えたなぁってぼんやりと感じていました」
(ええ……もしかして久世さんは知っているのか?高宮さんと私に何があったのか)
「菱田さんは……その、やっぱりなにか察していたんですね」
「はい。以前に美山さんの様子が変だったので。なんとなく……接点があるのかなぁって野次馬精神は多少……」
猫目の大きな瞳が申しわけなさげに上目遣いで見つめてくるから笑ってしまった。
「そうでしたか……」
「ごめんなさい」
「菱田さんが謝ることはなにもないでしょ?」
すべては私のバカな態度が招いた結果だ。
「あ、でもでも何があったかとかそんなことは何も知りませんよ?」
「ふふ……大丈夫。ごめんなさい、変な気を使わせて……」
(人に気ばかり使わせて……ダメだな、私は)
どうすればもっと人とうまくやっていけるのだろう。関わらずにいてるはずなのに、どうして……。そんなことを思いながら項垂れていると菱田さんが優しい声で聞いてくる。
「好き……なんですよね?高宮さんのこと」
「……」
――好きなんて……簡単に言えない。もう私にそんな資格もない。
「もう……済んだ話なんです」
「本当にそうなんですか?」
菱田さんの迷いのない澄んだ瞳が射るように見つめてきた。
「高宮さんはそう思ってないんじゃないですか?私にはそんな風には見えなかったけどなぁ」
そういう菱田さんの言葉に息を呑んだ。
そんなわけない、彼の中ではきっと終わった話だ。そもそも何も始まっていない、さっき聞いたあの言葉がすべてじゃないか。だから私は彼に忘れてくれと頼んだのだ。
それが彼が一番望むことだと思ったから――。
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