夢の中にいさせて~今日からイケメンと添い寝生活始めます!~

sae

文字の大きさ
49 / 71

第49話、わたしのしたいことは?

しおりを挟む
 紹介されたユニコーン企業をネットで見ながらぼんやりと秘書の仕事をする自分を想像する。夢だった、憧れていた。その為に今の仕事だって経験を積んでいる。

 ――秘書になりたい子は山ほどいるんだ。みんなそのチャンスを手に入れたくて必死になってる。

 篠原さんに言われた言葉が未だに胸を突いてくる。あの人の言葉にまだ縛られるみたいでため息を溢した。

「なんかあった?」
「え」
「受付座っててもなんか考え事してるね」
「あ……うそ、そんなに顔に出してた?」
 
 仕事場では常に笑顔を心がけているはずなのに。そんなにも表情に出していたのかと今日の自分を反省した。

「なにか心配事?」
「えっと……」
 
 何から話そうか、そんな思いで言葉に詰まっただけだけど、言いにくいことなのかと危惧されたのか。白鹿さんは私の言葉を待たずに逆に告げて来た。

「例のストーカー男……元カレだけど。もう近づいてこないと思うよ」

 いきなり飛び込んできた言葉に目を見張ると、白鹿さんは、淡々とはしているがひどく穏やかな表情だ。でもその中に含まれた冷たい視線に一瞬だけ身震いがする。

「……なんで? なに、どうしたの?」

 恐る恐る問いかけると、白鹿さんは少しだけ黙ったが軽く息を吐くとまた淡々と話し始める。

「あの何度も自宅周辺をうろついていた行動、直接的な接触がなくてもつきまとい行為に該当する可能性がある。だから、警察に相談した。ストーカー規制法に基づいてまずは警告を出してもらった」
「警告……?」
「そう、正式な申出書を出してこれまでの行動や経緯を資料にまとめた。SNSでの監視や、無言電話の履歴、過去の交際中の言動からそれを匂わせるようなあのメモも含めて。あと、引っ越したマンション。近隣の防犯カメラの映像も確認してくれて何度か立ち入りがあったのを警察も把握した」
「え」

 やはり引っ越し先にもあれから篠原さんは出入りをしていたのか。それを思うとゾッとして、今ここで暮らさせてもらえていたことに心から感謝しかない。

「今は禁止命令の手前。だけど、それでも十分抑止になるはずだよ」
「……知らなかった、そんなの」
「ストーカー被害は案件として多いからな。すぐに警察も動いてくれないし下手に期待したり不安になる方が大きいと思ったからそれなりの結果が出るまでは言う気はなかった。最近は眠れるようにもなってるし、ストーカー男のこともさほど考えなくても平気になってきたかなって。思い出す方が嫌だろうって思ったしね」

 ひどく淡々とした物言いだけど、その会話の節々に見える優しさが胸をきゅうっと締め付けてくる。理不尽な恐怖に晒されていた私のことを本当に怒ってくれていたのか、私が出来ない代わりに、腹を立て動いてくれたのだと思うとそれだけで胸が熱くなる。

「相手にはこれ以上接触すれば刑事罰の対象になるって直接警察から伝えられてるはず。もしまた何かあれば、今度はすぐに禁止命令を出せる。そこから先は……逮捕も視野に入る」
「……」
「だから、もう怖がらなくていいよ」
「……私、なにも知らなくて……ずっと呑気に……」
「別に呑気じゃないだろ。外ではいつも気を張って暮らしてるじゃんか。眠れてはいるけどな、夜中にまだうなされてる日だってあるぞ」

(え……)

「傷つけられて、恐怖心まで植え付けられて……そんな簡単に気持ちを切り替えるなんか人間出来ないだろ」 
「……」
「ここに来ることもないだろう。家族で引っ越すって聞いたよ」
「え、だ、誰に……」
「いろいろね? 情報網はそれなりにあるしそこそこ顔は広いんだ」

 にこりと微笑む笑顔はどこか黒くて怖いほど。それでもやっぱり破壊的にかっこいい。

「営業してるとね、いろんなところでいろんな人と繋がってさ。うまくやっていけば割と情報が入る。うちの企業とやり取りもしてるんだし繋がりさえ引っ張り出せれば個人情報だって簡単に入手できる」
「そんな……」
「怖い? でも同じことされてたじゃないか。知らないところで自分のモノ扱いされて土足で居場所を踏み荒らされた。社会的制裁を受けたらいい」
 
 ストーカーなんか犯罪だしな、そう冷たく白鹿さんがこぼす。自分の知らないところで白鹿さんが元カレのことを調べて自分の安心する材料を目の前に提示してくれた。それだけで泣きそうな気持になった。

「ありがとう……」
「今すぐ、はまだ安心できないかもだけど。そのうち帰れるよ」

(え)

「心配や不安がなくなれば、ちゃんとぐっすり眠れるよ」
「……」

 そうだ。やっぱり自分は白鹿さんに守られながら元の暮らしを取り戻すためのソフレ関係なだけだった。そしてその関係の終止符は自分が打つのだ。

 ――白鹿さん、ありがとう。私はもう大丈夫。

 そう言って、この部屋を出て行くんだ。私はそうして元のありふれた日常に帰って、夢だった秘書の道を手にするの?

(じゃあ……白鹿さんは?)

 白鹿さんは、私がいなくなって……また張りつめる神経を閉ざしながら理解されない悩みを抱えてひとりで暮らすの?

 私は本当に……甘えるだけの存在でしかいられないのか。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

敏腕SEの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

処理中です...