夢の中にいさせて~今日からイケメンと添い寝生活始めます!~

sae

文字の大きさ
55 / 71

白鹿視点①

しおりを挟む
 (ダメだ、無理)

 好きだと思いを伝えられたとしても、その思いを受け止める以前に放たれる香りで受け入れられないと身体が否定する。目の前にいるこの子と心地よく一緒にいられる自分が想像できない。そんな相手と何を育んでいけるのか。

 嫌味みたいな言い方だけれど、恵まれた容姿で昔からチヤホヤされてきた。けれどこの特異体質のせいで人との距離感の詰め方が下手くそで、自己コントロールを身につけられるまでは離れるという選択しか取れなかった。

「湊人くんはひとりを好むみたいで……もっとみんなと遊んだり輪の中に入ったらって誘うんですけどね」

 小学校の頃の担任はこぞってそれを親に相談していた。

「湊人はどうしてそんなにお友達と距離を取るの。学校は人と人が過ごす生活や関係を学ぶ場所でもあるのよ? 勉強ばかりして……それも大事だけどね、もっと小さいうちに学んで失敗して大人になることも大事なことなのよ?」

 あの時は母親の言葉が俺には辛く響いて……わかってくれない、俺がなぜ人と離れて暮らしているのか。それほどに辛いのだと理解はしてもらえないのかと諦める方に気持ちが偏って結果心を閉ざす方にシフトされた。

 ああ、今ならわかる。

 人との距離感のはかりかたを学んでこなかった俺を日に日に狂わせていく。

 それでもどうしてかな。
 彼女……斑鳩さんは俺を受け入れて許してくれるのではないか。初めて彼女の身体を受け止めて同じベッドで眠る彼女を見つめていた時に思ったのだ。

 彼女の何かしら抱えている苦しみと葛藤と……その中で縋りたいのにひとり耐えようとする姿がまるで自分を見ている様だったから。

 ◇

 目の前で倒れ込んできた彼女はいきなりイビキをかいたから「ん?」と、思った。

 (え、まさか寝てんの? まさかな)

「斑鳩さん? 大丈夫ですか?」

 小さな身体を揺すっても軽く叩いても、一切反応しないから意識がやはりないのかも……そんなことを思ってもやはりそれはすぐに裏切られる。

「ぐう……」
「……」

 いつも笑顔で受付に座る彼女は、見た目小動物のような可愛らしさを持つ姿で同じ部署の若いヤツらにはよく噂なんかもされていた。「守ってやりたくなるような感じ」そんなことを言っているのを小耳に挟んで俺もなんとなくそんなイメージをつけてしまった。

 受付嬢という仕事はなかなかハードな仕事だと認識している。接客対応もそうだが、会社の顔。記憶力も大事だ。常に笑顔、嫌な顔ひとつせずどんな相手にも頭を下げている彼女たちを偉いなと単純に思っていた。同じ場所にずっと座りいろんな来客の相手をこなさないといけない。変なヤツもいるだろう。大手企業だから警備員はもちろんいるが、担当の部署に電話し担当者が来るまでは彼女たちが逃げることなく対応をしないとならない。
 周りの目、企業の立場、色んな方面から配慮を考えるプロ意識。どんな仕事をしていても頭に来ることや逃げ出したい日だってある。普段なら軽くスルー出来ても受け止められない日だってあるように、仕事がではなく自分がダメな日。

 (そんな日もきっとあるだろうにな……)

 受付にはいろんな人間が訪れる。仕事は前提でも、私情を挟む大人げない人間や下心ばかりの低俗なヤツだって。

「なんかさ、黙ってなんでも言うこと聞いてくれそうじゃんな」

 客観的に映る男の目には彼女はそんな風に見えている女の子だった。


「おはようございます」
「おはようございます。今日アポが一件あるんですけど、朝イチに時間が変更になったので口頭でお伝えしておきます」
「かしこまりました。何時のお客様でしょうか」

 そんなある日のやり取り。
 パソコンでスケジュール管理されているから変更があれば更新させるのだが、それをするのにタイムロスがありそうで受付に座る彼女に直接声をかけた。

「Aコーポレーションの〇〇様ですね……十三時のアポイントが九時に変更……お間違えないですか?」
「はい、よろしくお願いします。あと会議室の予約も出来ていないんですけど、一室空きはありますか? 会議室を使わせてほしくて……」
「かしこまりました。空きの会議室でしたら三階の第一会議室なら大丈夫です。そちらでご予約お取りしておきます」
「ああ、良かった。ありがとうございます」
「とんでもございません」

 綺麗なお辞儀で頭を下げられてゆっくり上げてきた顔をジッと見つめて思った。匂いの好みは大前提であるけれど、容姿の好みだって人並みにはある。ただそれを主張するほど大きな問題でもないだけで。

 (可愛いけどな、別にタイプな顔じゃない)

 ニコリと微笑んで立ち去った時、フト過った違和感にその時の俺は気づいていなかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 今好きな人がいます。 相手は殿上人の千秋柾哉先生。 仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。 それなのに千秋先生からまさかの告白…?! 「俺と付き合ってくれませんか」    どうしよう。うそ。え?本当に? 「結構はじめから可愛いなあって思ってた」 「なんとか自分のものにできないかなって」 「果穂。名前で呼んで」 「今日から俺のもの、ね?」 福原果穂26歳:OL:人事労務部 × 千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

処理中です...