夢の中にいさせて~今日からイケメンと添い寝生活始めます!~

sae

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最終話

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 今は何時だろう。

 遮光カーテンがしっかりと閉じられた寝室だと夜とあまり変わらなくて。時計を見ようと思ったけれど寝室はチェストボードに置かれた小さな置き時計しかない。抱きしめられる腕の中では身動きも取れなくて時間を確かめる術がない。 

 (なんか身体に力入らない……)

 骨抜き、腰砕け……あとはどんな言葉があるだろう。とりあえずそういった類の言葉が当てはまる様なクタクタ感はある。だって……。

 あんなエッチ、知らない。ほんとに童貞だったの? そう思わずにはいられないくらい、身体はメロメロ、頭は真っ白。骨抜きとはまさにこのこと。

 初めてを思い返してもウブとか不器用とか、そんな気配は微塵もなかった。回を重ねても毎回ただただ気持ちいいだけのセックスで私はひたすら酔わされてた。
 なのに、実は彼女いたことなくて童貞でした、なんて聞かされて衝撃しかない。

 社内でも高嶺の花、白鹿さんはみんなのもの……そんな風に暗黙ルールだってあるのにさも当たり前みたいに言われたもんだから、衝撃どころの騒ぎではない。

 え、ちょっと待って? あれで初めて? 私の知っている童貞像のイメージを全部覆してくる。この人は一体何者なの。天は二物も三物も与えすぎではなかろうか。いや、でもこれはちょっとズルい。

 完璧な白王子が実は童貞で不器用だった、なんていう可愛いギャップ……やられる。

 (なんだよぉ、この無敵スパダリは! 童貞までハイスペックってどういうこと?)

 優秀なのは知っていた。でもそれがこういう方面にまで遺憾なく発揮されるとは……なんかもう、悔しいくらいに愛しいしかない。

「もう……愛しいなぁ」

 スゥ……と可愛い寝息だって抱きしめたくなる。手の中に包んで大事に大事に育てたいくらい。この吐息を一番そばでずっと聞かせて?

 抱きしめてくれる腕をキュッと掴んでその腕に身を預ける。あたたかくて包まれるこの感覚がもうずっと居心地がいい。ひとりで眠る時間をもう想像できない、いつでもいつまでも一緒に寝てほしい……そんな風に言われた言葉は私だって同じ気持ちだ。

 ずっといつでも、いつまででも私を離さないで抱きしめていて。そんな思いを胸の中で巡らせながら私も瞳をもう一度閉じた。

 ◇

「ん……」

 目覚めたら湊人はもう起きていた。ベッドの横にうつ伏せに、肘で支えながら携帯を片手になにか真剣に読んでいる。

「湊人……?」
「ん? おはよう」

 ああ、イケメンが眩しい。もうこんな光景だって見慣れていたはずなのに、思い通じ合って自分が湊人に思われると自覚した後の笑顔の破壊力……死ぬ。

「おはよぉ。なにみてるの?」
「んー……」

 聞いても歯切れが悪くてそれがより気になってしまう。モゾモゾとシーツを掴みながら湊人のそばに擦り寄って表情を変えない湊人の綺麗な顔を覗き込む。

 (かっこいい……)

 ではなくて。

「どうしたの? 仕事関係?」

 何かトラブルとかだろうか? そんな心配をフッと脳裏によぎらせていたら湊人の口からまた予想外の言葉が降ってくる。

「美憂のね」
「私?」

 私の仕事……とはどういうことか。

「……見てもいい?」

 聞いたけれど返事を聞く前に湊人の手元の携帯を覗き込むと携帯の液晶画面には知った人が映っていた。

「……木野社長だ」
「この木野って起業して五年以内で上場目前。ヘルスケア系で行政案件も取ってるって。まあ……普通に有能だな」

 淡々とそんな客観的評価を言うから一瞬キョトンとしてしまった。何が言いたいのだろう。

「うん……若いのにすごいよね。人当たりもいいしすごくお話ししやすい方だった」
「僕の目になって……だったっけ?」

 (え?)

「パートナーを探してる? あの言い方さ、すげぇ気に入らないんだけど」
「そ、それは秘書としてって意味だし、なんていうのかな……今時の社長って感じだから表現のアップデートをしてるだけじゃない?」
「そう? 口説き文句みたいに聞こえない?」

 どこがだ。
 
「そんな風には聞こえないけど」
「横に並んで僕の目になれ? 普通に考えてもだいぶ主観入ってることない? 仕事の話にしては、ずいぶん踏み込んだ言い回しするなぁ、その社長は」
「……たまたまでしょ。深い意味なんて……」
「あったら困る」

 ピシャリと言うその横顔がなんだか……。

「ねぇ」

 湊人の腕に頭を乗せて下から顔を見上げる私は絶対今ニヤニヤしている。だって……。

「それってヤキモチ?」
「これってヤキモチ?」
「なんで聞き返すの」

 照れたり否定したり、それこそ肯定なんかしちゃう!? とか思って期待したのがバカみたい。キョトンとするのは今度は湊人の方。本当に素直に聞き返してくるから呆れと悔しさで頬を膨らませてしまう。

「わかんないってなによ」
「これがヤキモチ? へぇ」
「……自惚れるなら匂いうんぬんでシャワーぶっかけるのも相当ヤキモチだと思うけど? 湊人ヤキモチ焼きなんだね? 可愛いっ」
「……」

 ここまで揶揄ったら流石に照れるかな、そう思った私は浅はかでした。

「わ、きゃっ!」

 いきなり身体を引っ張りあげられて見上げていたはずの湊人が今度は見下ろす体勢に。一瞬で湊人の上に乗せられた。

「ちょ……なに……」
「へぇ? これがヤキモチ。なら俺しょっちゅうヤキモチ焼くかもな」
「え……」
「美憂はすぐ匂いで焦りがわかるからな。やましいことあったらお仕置きしてやろう」

 (湊人からのお仕置き……)

 それってどんな……? なんて喜ぶ私ももはや変態ではないか。そんな脳内を悟られたのか、湊人がジッと見つめてきて呆れたように微笑む。

「なに? されたいの?」
「ち、ちがうよ!? そんな……」
「わかりやす。美憂に浮気はできないな」

 そんなの……出来るわけない。

「当たり前でしょ?」

 湊人の頬を両手で包み込んでくちびるが触れそうなほど近くまで近づいた。
 息が絡む、お互いの息が飲み込めるほどの近い距離。湊人の瞳には私が映る、それほど近い距離にいる。

「なんでも匂いでわかっちゃう犬並みの嗅覚持ってる人に隠せるわけないでしょ」
「……犬呼ばわりされるのは初めてなんだけど」
「汗の匂いが好きとか変人だし」
「なぁ、ちょっとひどくない?」
「そんなの好きって言う人にこれから先出会えると思えない」

 だから一生私のそばにいて。
 どんな気持ちも感じ取って。

 毎日湊人が好きと言葉にしなくても伝わるくらい私はきっとあなたを好きだから。

「大好きだよ」
「俺も好きだよ」

 言葉にしなくても伝わること、でも言葉にしないと伝わらないことがたくさんある。
 不安な時は抱き合って、立ち止まりそうな日には手を繋いで一緒に歩いていきたい。
 湊人となら、きっとそれができる。ありのままでいれる私たちだから、喧嘩する日があっても寄り添ってやっていける。

 そんな人に出会えるなんて夢のようだ。
 でもこの世界はきっと、夢なんかじゃない。

 end
 
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