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エピソード1

とまどいの一カ月⑦

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スゥスゥと寝息を立てる千夏の目元がうっすらと腫れている。

あんなに泣かせるつもりはなかったが、タガが外れた。セックスが久々というのももちろんあるけれどそれ以上に可愛すぎた。

感じる声も乱れる声も喘ぐ声もどれだけ聞いても興奮しかなかった。



「もうだめっ、まって」



泣きながら訴えてきたけど全然聞いてやれなくて。



「あンっ!やっぁっあ!あ、もやぁぁん!」



全身を震わせて抵抗しようとする腕は対して強さもなくて、何回か背中に爪を立てられたけど余計に煽られるだけだった。



「千夏……もう少し力ぬいて」



「や、っあぁっ、むりっむりぃ……もう、それやぁ、あぁんん――」



感じやすいのか、腰を反らせて跳ね上がる。



「うごいちゃ、やだぁ、ぅっんんン」



「ん、わかった、動かないから。ゆっくり息して?」



「ン、はっ、あ……はぁふぅふぅうっふ」



言われるがまま幼い子のように必死で息を整えようとするその息づかいがバカみたいに可愛い。

小さく開いた口の中に舌を滑り込ませてゆっくりキスするとまた身体が反応する。



「ん、んん」



「千夏……」名前を呼ぶとうっすら開けたその瞳がトロンと蕩けるように茹って潤んでいる。





(やばいな。こんなにガッつくタイプじゃなかったはずなのに)





白くて柔らかくて弾力のある身体は、どこを触っても可愛く反応してくれる。



「……ん、な、に?」潤んだ瞳が戸惑うように見つめてくる。



「ちょっと体起こせる?」



「えっ」



返事を聞く前に背中に腕を回して体全体を持ち上げると千夏は小さく悲鳴を上げた。



「やっ!あっ!まってっ!」正面から抱き合って座らせる、もちろんまだ繋がったまま。



「あっ、ぁん!あっ……う、あん!それっ、だっだめっあっあ――っ」



目の前で乱れる千夏が最高にエロくて可愛い。

こんな風に乱れる姿を仕事している時に想像できるはずもなく。



「やーっああーーっもう、ダッあンぁっあ――っ」



すがるように抱きついてくるから揺さぶりが勝手に強まってしまう。



「はぁ、気持ちいい?」



涙を流して首を横に振る。それは俺の問いかけに返事をしてるのか?





(気持ちよくないってこと?嘘だろ)





こんなに乱れて善がってるのに、俺はこれ以上ないほど感じている。



「千夏……」



ギュッと抱きしめると千夏が息を呑むのがわかる、同時に中をギュッと締め付けてきた。



「あっ、はっあ……あ……んンン」





(あー、やばい。もうイキそう)





頭の中でそう思った瞬間……「はっ、あ……っもち、ぃいっ」耳元で囁かれて軽くイキそうになった。

一旦息を整えてから、頭を無心にさせる。





(今のタイミングはやばい、あぶねー)





「ぁ……」

声が掠れて、息も荒くぐったりした千夏の身体を抱きかかえた。



「……ン」



張り付いた髪の毛をかきあげてやると色っぽい吐息を吐き、熱をはらんだ瞳をうっすらと開けた。



「大丈夫?」



聞くと首を横に振る。それがまたおかしくて可愛い。



「水飲む?」



今度は首を縦に振った。

ベットサイドに置いた水を手に取り、ひとくち口に含んでそのまま千夏に口付けると生き返ったようにその水を喉元に流し込んだ。軽くくちびるを離すとまだ欲しいのか吸い付いてくる。



「まだ飲む?」



相変わらず潤んだ瞳で見つめながら掠れた声で「……ほしぃ」とか言うからまた興奮してしまった。

ペットボトルを自分で持たせると欲したように水を飲んだ。汗ばんだ喉元がコクコクと規則正しく動いていく。力が入らないのか手元がブレて口元から水がこぼれ落ちる。それを手で拭う姿だけでまた下半身に熱が戻る。



「大丈夫?」もう一度問いかけると水を飲みながら恥ずかしそうに言う。



「なんか、変じゃないですか、わたし。声いっぱいでて……はずかしぃ」



そこで照れるとかなんだ、可愛すぎか。



「もっと出していいけど」



「出さないように、努力したいんですけど」



「いらん努力だな、それ」そう言い返すとムッとした顔をした。



「人が、努力しようとしてるのをそう返すのはどうかと思います」



「努力する方向性の問題。出させたくてやってんの、素直に声出しとけ」



まだ何か言いたげな口をそのまま塞いでやった。





―――――――――――――――――――――





白いカーテンからの日差しが銀色に光って眩しい。



目覚めた私はまだボーッとしていた。

体の節々に軽い痛みやにぶさがあるけれど不思議と辛いことはなかった。大した性経験もない私からしたら昨夜のセックスはかなり上級者向けだったと思うのだけど、半分以上記憶がないとか言ったら怒られるだろうか。記憶がないのは行為自体の話で感覚だけはしっかりと覚えてはいる。



終始気持ちがよかった、ただそれだけ。

セックスはこんなに気持ちがいいものなのだと初めて知った。



「あ、起きた?」



黒のTシャツにグレーのスウェットというシンプルな部屋着で現れた彼は職場で見る雰囲気よりずっと若く見えた。まだベッドの上で起き上がっただけの私のそばまできて腰掛ける。髪の毛をそっとなでられて優しく微笑まれた。



「めちゃくちゃ寝てたな、もう昼前」そう言われながら引き寄せられて抱き締められる。



「身体、平気?」



問われてコクリと頷く。彼の手がゆっくりと背中をなでるからビクリと身体が揺れる。



「すべすべ」



耳元で囁かれて息が止まる。止めてたはずなのに声が漏れてしまった。



「ンっ」

「昨日も思ったけど、感じやすいよな」



(それってなんかやだ)



そう思って恥ずかしさのあまり抱きついた。



「え、なに?」ぶんぶんと胸の中で首を振る。



「なに、なんか言ってよ」



面白そうに笑われて余計恥ずかしくなる。



「千夏」



名前で呼ばれて胸がときめく。

昨夜も何度も呼ばれたけど、夢の中みたいで実感がなかったから。



「だって、恥ずかしいから。その、感じやすいとか、なんか……痴女みたい」



慣れてないのに体が感じるのはいやらしい女みたいじゃないのか。



「……痴女」頭の上で噛み締めるように笑う声。





(絶対馬鹿にしてる)





「ほんとにおもしろいよな、昨日の千夏みて痴女とか思うわけないし」



ギュッと強く抱き締められて胸がまた苦しくなる。なのにこの苦しさの心地よさはなんなんだろう。



「めちゃくちゃ可愛かったけどなー」





(可愛い!久世さんからそんな言葉を聞く日がくるなんて!)





「起きれる?」抱き締められていた腕が緩まり覗き込むようにして問われ、小さく頷いた。



「コーヒーいれてくるよ、俺の服でよかったら使っていいよ」



そう言ってリビングへ戻った久世さん。





(やばい。甘い久世さんやばい。かっこよすぎてやばい、心臓やばい)





語彙力のなさに嫌になるが、普段の塩対応に慣れてる手前いきなりのデレはもうなんというか許容範囲超えである。

二人になるといきなり甘くなる気がしていたけど、抱かれたらさらに糖度が増した感じがする。このままでは心臓が何個あっても足りない。



とりあえずパンツを履いてキャミソールを着てから、久世さんが置いていってくれた白いロンTを着てみた。





(身長差もあるし当たり前にわかってたけど、これが世に言う彼シャツ……)





襟元はそこそこ詰まったデザインだったからデコルテが派手に見えることはなかったが、袖口は萌え袖、裾は太ももの間くらいでミニワンピースみたいな丈感だ。

袖だけちょっと織り込んで下はこのままでもいいだろうか、と少し考えたけど昨日の服がワンピースだから結局捌けるものもないしそのままでリビングへ足を運んだ。



「ミルクと砂糖いる?」リビングは香ばしいコーヒーの香りに包まれている。



「あ、ブラックで大丈夫です」



差し出されたマグカップを受け取りお礼を言う。

あったかい湯気が心地よい。テーブルにはノートパソコンと書類が散らばっていた。





「お仕事、してたんですか?」



「んー、確認しときたいことがあったからそれ見てただけ」



髪の毛をくしゃくしゃとしながらコーヒーを飲む姿にまた胸がドキドキする。脳内がお花畑状態になってしまっている。





(ダメだ、何しても何見てもときめく。ときめき症候群だ、これは)





「こっち」



そう言って手を引かれてソファまで連れられた。



「ん、おいで」

「……」気づくと久世さんの足の間に座らされる。



「あの」

とまどいつつ声を発した瞬間。



「きゃあ!!」



久世さんの手がいきなりシャツの中に入り込んできて胸元までたくし上げられる。



「あれ?下着てるの?」



「き、着てます!着るに決まってるし!というか、手がっ!!」



「なんで着るの?めっちゃ邪魔」





(邪魔って何!!なんなの!?しかも腰に手を回すのもやめてーー!)





「待って、なんか手が変なところ触ってるんですけどぉ!!ちょ、やだぁ!!」



逃げようとする私の反応が幼稚すぎたのか吹き出された。



「変なところってどこ?ここ?」



「ひゃぁ!」両胸が久世さんの手の中に包みこまれる。やわやわと揉まれて身がよじれた。



「だめーー!触っちゃやだ!」



「だめとかやだとか可愛いだけなんだけど」久世さんの手の動きは止まらない。



「男の脳みそなんか単純だからさ。基本触りたいって思ってるって」



「いや、おも、思ってないでしょ!?むしろ久世さんがそんなことを思ってるとか信じられないんですけど!」



「なんで?めちゃくちゃ思ってるよ。しかも俺の服ダボっと着てるの可愛いしさー。触ったらいちいち反応するのも可愛いし」



「か、かわいいかわいいも言いすぎ……どうしちゃったんですか!ていうか、そう言って胸揉むのもうやめてくださいー!!」



「でもさぁ、感じてるじゃん。ここもこんなに……」



「そ、そういうこと言わない!!」必死で言い返すと笑われた。



「逃げられるわけないんだし、諦めようか」



笑いながら腰を抱えなおした久世さんに見つめ合うような形で抱きかかえられて、完全に逃げ場を失った。



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